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映画「サブマリン爆撃隊」〜第一次世界大戦駆潜艇

2022-05-10 | 映画

古い戦争映画ばかりを集めたDVDセットから、今回選んだのは
1939年作品「サブマリン爆撃隊」Submarine Patrolという海軍もの。

てっきり潜水艦映画だと思ったら、「潜水艦を爆撃する隊」のことで、
第一次世界大戦時の駆潜艇に乗る主人公の話でした。

これは戦争映画としても極めて珍しいジャンルです。
しかも監督はあのジョン・フォードですからちょっと期待できそうですね。


それでは早速始めましょう。

「錨を揚げて」がロマンチックなワルツに変わり、
錨のシルエットをバックにしたタイトルロールが浮かび上がります。

海軍を扱っていますが、メインが恋愛ドラマなので、
こんなアレンジになったのだろうと思われます。



ここはかつてニューヨークにあったブルックリン海軍工廠。

1801年に創設され、南北戦争時に拡張された海軍工廠で、
第二次世界大戦時は稼働のピークでしたが、1966年に廃止されました。

戦艦「アイオワ」もここで建造されています。



一台のロールスロイスがゲートに突っ込んできて警衛を突き飛ばしました。
この乱暴なドライバーが主人公のペリー・タウンゼント3世

タウンゼント姓はアイルランド系で「3世」となるといかにも金持ち風です。



工廠司令のジョセフ・マイトランド少将に面会にきたと、
金持ちらしい尊大な態度で名乗ります。

警衛の海兵隊軍曹はいかにも金持ち風の彼にちょっとムカついたのか、

「そうか、私はジョー・ダッフィー・ザ・ホイスト(ホイスト1世)だ」



この海軍士官はジョン・C・ドレイク中尉

ドレイク中尉は任務上のミスを上官に報告するために、
マイトランド少将の執務室の前で面会の順番を待っていました。

そこに足取りも軽やかに登場したタウンゼント3世、
順番を全く無視して、来るなり副官(士官)に向かって気易く
「やあセイラー!」と許可証を叩きつけ、少将の部屋に入っていきました。

ドレイク中尉も他の並んでいる人も、おいおい、と呆れ顔。



少将も少将で、タウンゼントを見るなり、父上はお元気かね、
などと愛想したついでにドレイク中尉に悪びれる様子もなく、

「すまんが君の時間はなくなった。
報告は明朝『フィッツジェラルド』のウィルソン艦長にしたまえ」



彼がここにやってきたのは「ふと海軍に入りたくなったから」。
すでにパパに頼んで海軍長官に話を通してあるから、とふんぞりかえって、

「下っ端で使われたくないから”長”のつくポジションをお願いしますよ」

おい、海軍なめとんのか。



「ボートレースが得意で機械に詳しい・・・と。
よし、それなら機関長として新しい駆潜艇に乗ってもらおう」

「それは面白そうだ。それに”チーフ”なら僕にふさわしい」



彼が戻ってくると、ホイスト1世が絶賛婚約者を口説き中でした。
戻ってきたペリーに彼女はウキウキと、

「あなたも少将に任命されたの?」

「似たような感じかな!機関長に任命されたよ」

こいつら馬鹿ップル丸出し。



ご機嫌で工廠を出ようとすると、立ち往生している車が道を塞いでいます。
ブーブークラクションを鳴らしても動かないので、文句を言いに行くと、
運転手はなんとびっくり、俺好みの美女ではありませんか。



機械に強いタウンゼント三世、クランクの問題を瞬時に解決してやって、
彼女に恩を売りつつ、しっかり自己アピールするのを忘れません。



さて、富豪のプレイボーイ、タウンゼントが海軍入隊したことは
早速新聞のゴシップになっております。

「社交界からその姿が消えるのを惜しむ声もある」



さて、入隊のためにトランクを持ってトコトコ工廠にやってきたペリーは、
偶然先日の美女運転手、スーザン・リーズに遭遇しました。

彼女は父親が船長をしている武器弾薬補給船、「マライア・アン」号乗員で
生まれてこの方船に乗ってきた、筋金入りの「海の女」でした。

「そうか、君の船は僕の駆潜艇(サブ・チェイサー)が守るよ」

モノを知らない彼の言葉に彼女は噴き出します。

「なぜ笑う?駆潜艇は勝敗の鍵を握る戦艦(バトルワゴン)だぞ」

「ぷっ・・・あなた、もしかして駆潜艇見たことないの?」



はい、見たことありませんでした。

駆潜艇、「Submarine Chaser」は、対潜水艦戦を目的とした小型艦艇で、
第一次世界大戦ではUボートと戦うために特別に設計されました。

SC-1級駆潜艇は全長34m、区分のSCはSubmarine Chaserを表しており、
主力武器は爆雷で、機関銃や対空砲を搭載します。

ちなみに日本海軍も第二次世界大戦中、約250隻の潜水艦追跡機を保有し、
このうち一部は生き残って戦後、海上自衛隊で活躍しています。

さて、実際の駆潜艇を初めてその目で見たペリーは、

「嘘だろ?親父のヨットより小さいじゃないか」

言うことがいちいちムカつくなこのドラ息子は。


彼が赴任してきた駆潜艇の乗員たちは、基本気のいい連中ですが、
惜しむらくはほとんどが新兵で、全く兵隊の自覚に欠けています。

大学の研究(ネズミ)材料を船に持ち込んでいる「教授」こと
ラザフォード・デイビス・プラット水兵や、
タクシー運転手を兼業しているハガーティ、
すぐ職場を離れてどこかに行ってしまうコックのスパッズ。
年齢をサバ読んで16歳で入隊した少年、
友達に誘われてぶっちゃけノリで来たヤツなど、
はっきり言ってどいつもこいつも意識低すぎ。



会ったばかりの人間にいきなり金を借りようとする奴もいます。

「ねえ、2ドル貸してくれない?」

「細かいのがないから5ドルでいいかい」

かるーく5ドル札をハガーティに渡すペリーに、皆が顔色を変えます。
1939年当時の5ドルは現在の日本円で2万6千円ほどの価値なので、
1万円貸して、と言ったらその2倍以上くれたという感じですかね。

「ナイスガイだな!」

現金な彼らはすっかり気前のいい機関長を気に入りました。



ペリーは口にしようともしない不味いシチューを食べながら一人が、

「ところでこれなんの肉なんだ」

コックはまたしてもフラフラとどこかに行ってしまい、不在です。

「ラムだと言ってたけど」

「ラクダの味がする」


その時教授が、

「アビー(実験用マウス)がいない・・・ストーブで温めてたのに」

皆ギョッとしてシチューを食べるのをやめますが、
アビーは無事に生きて誰かの水兵帽から出てきました。



不機嫌なペリー、取り敢えずここを出て飲みに行くことにしました。



その辺の水兵を誘ったところ、皆大喜びでお供に着いてきました。
全く厳禁な奴らです。



大盤振る舞いしてくれる金持ちの上司は誰もが大歓迎。

「機関長、今日は誕生日っすか?」

「かもね」(適当)

「それ、みんなで、ハッピバースデーツーユー♩」


と大騒ぎ。


同じ酒場に、偶然先ほどのスーザンと彼女の同僚マカリソンが来ていました。

ペリーは早速彼女を発見して下心満々でダンスに誘いますが、
父親から娘のお目つけ役を仰せつかっているマカリソンが断固阻止。

マカリソン、ちょっと彼女に気があるようですし。

そこでペリーはその辺の水兵に小銭をやって、
マカリソンを呼び出し、電話ボックスに閉じ込めてしまいます。



そして金持ちパワーを見せつけるべく、彼女をホテルリッツに誘うのでした。



新聞で見て憧れていたリッツのディナー、ハンサムで金持ちの男。
彼女の警戒心はもうゆるゆるです。

うーん・・・これ、なんだかね。



ここまで漕ぎ着けたら、プレイボーイの異名は伊達じゃない。
船で生まれ、世界各地を転々としてきたと語る彼女に、
各国語で「アイラブユー」を言わせて悦に入るペリー。

船上育ちのウブな娘を落とすのは赤子の手をひねるようなものです。



彼らがダンスしていると、すぐ横で先日警衛にいた海兵隊軍曹が
タウンゼントの婚約者?と踊っているではありませんか。

なぜ軍曹がリッツホテルに?
そしていつの間にペリーの彼女は軍曹の誘いに応じたのでしょうか。

この辺の謎は最後まで解き明かされません。



楽しい「踊るリッツの夜」が終わり、ペリーは彼女の住居兼職場である
「マライア・アン」まで女性を送ってきました。

「ではおやすみのキスを」(ワクワク)



「朝の4時よ」
「じゃおはようのキスを」


すると彼女はため息をついて、

「あなたもその辺の水兵と一緒ね」

ムッとしたペリーがそりゃ悪かったねと踵を返すと、彼女が取り縋って、



「ペリー!」

なんかよくわからない女心である。
どうすれば正解だったのか。

まあ男にとってみればどっちでも結果よければ全てよし。



彼女を船室に見送ると、ペリーは父親である船長に呼び止められました。

おもむろに船長室に呼ばれ、

「君のような男は今まで何人も見てきたが、
全く信用できないからもう娘に近づくな!」

と釘を刺されてしまいます。
わたしが親でもきっとこう言うね。



さて、この大佐は何艦かわかりませんが「フィッツジェラルド」の艦長です。
ペリーのせいで少将に約束をすっぽかされたドレイク中尉に
「御沙汰」を言い渡す役目の偉い人と思ってください。



実はこのドレイク中尉、見張り中に駆逐艦を座礁させるというミスを犯し、
処分を待っているという辛い立場だったのです。

「情状酌量の余地はなかったのか」

大佐はこんなことを聞いてくれるのですが、
ドレイク中尉は潔く、ありません、とだけ答えました。

大佐はドレイク中尉を降格処分とし、駆潜艇599号の艇長に任命します。
駆逐艦の見張り士官から駆潜艇の艇長は、降格ということでよろしいか。

新兵ばかりの駆潜艇乗員を、4人のベテランの力を借りて鍛えられれば、
先のチャンスはあるというところで、これも「温情判決」なのでしょう。



さて、そういうわけでドレイク中尉が駆潜艇に着任してきました。

水兵たちは、ドレイク中尉に尋ねられても、船の最先任が誰かも知らず、
しかも、船長らしき士官がきたのに、誰一人敬礼せずぼーっとしています。



新艇長は、早速総員を後甲板に集め、配属命令を読み上げるや否や、
ビシバシとまず艇内清掃の徹底から取り掛かりました。

やる気と厳しさを叩き込むにはまず掃除から。
アメリカ海軍でもこういう精神が基本となっていたようです。



頻繁にいなくなるコックのスパッズですが、なんと彼は
海軍と兼業で街に自分のレストランを経営していました。
流石にオーナーが店の様子を見に行かないわけにいかないので、
駆潜艇のキッチンの仕事の合間に抜け出していたというわけです。

ドレイク中尉はまだそのことは全く知りませんが、
船に帰ってきた彼をいきなり捕まえて、
ゴミ入れに溢れたゴミを捨てろ!と叱責しました。

このゴミ捨てはとりあえず後の伏線となっています。

それから機関長、タウンゼント3世とやらを呼びに行かせるのですが、



機関長はその時、高価なジュエリーを餌に女を口説いていました。



「こんなの高価すぎる。受け取れないわ」

「じゃあ捨てて魚の餌にするぞ」

「だめよ!」


女も女。しっかり受け取ってしまい、ペリーの思う壺です。



呼ばれて艇に駆けつけたペリー、新艇長というから来てみたら、
先日少将の部屋の前で会ったしょぼい士官じゃないですか。

すっかり甘くみて、

「やあ、また会ったね」

もちろん色んな意味で彼のことをよく思っていない艇長は、

「私が呼んだらすぐ来るんだ!私のことはサーと呼べ!」

「なんだその服は!」

「仕立て屋に作らせてて明日の昼間にできるんですが」

「海軍工廠の支給品を着るんだ!」



ムカついてペリーは例の少将にねじ込みます。

「ぼかあ、あんな木製の風呂桶に乗るために海軍に入ったんじゃありません!
あの艇長、ワシントンに言い付けてやる!」

「そもそもあのドレイクとかいう奴、僕にこんな酷い軍服を押しつけて・・
帽子も見てくださいよ。まるで猫みたいだ・・・ほら!」



しかし、少将、今回は打って変わって厳しい態度で、

「海軍は権力には屈しないし君を贔屓もしない。
タウンゼントの名前はここでは通用しない。
駆潜艇に戻るか、一水兵として軍艦に乗るかどちらか選べ!」



(´・ω・`)「・・・・」

外にいた下士官兵にザマーミロとニヤニヤ笑われ揶揄われながら退場。


駆潜艇では、新艇長の厳しい指導のもと、艇内清掃が着々と進んでいました。
ペリーも仕方なく機関室を磨き上げます。



続いて少将が送り込んだ新兵を鍛えるためのベテラン4名が着任しました。
その中の一人はドレイクの父親にも仕えたことのあるクィンキャノン


洗濯板のような袖章を舐めていちゃもんをつける怖いもの知らずの新兵を
一撃で転がし、睨みを効かせる流石の超ベテランCWOです。



総員を甲板に整列させ、ドレイク艇長は出航準備を命じました。
なぜか慌てるスパッズ。
(その心は自分のレストランの種火の始末をしていない)


ペリーは急いで抜け出し、スーザンと別れを惜しみました。
彼女の船も出航を予定しています。



出航を控えた駆潜艇599号は、岸壁での体操や、持ち物検査が行われます。
さて、後1時間で降る極秘命令とは。



そこにスーザンの父親がカッカと怒りながらペリーを訪ねてきました。

父はスーザンにやった高価なジュエリーを突き返しにきたのですが、
ペリーが彼女に言ったように、返すくらいなら捨てろというと、
彼は秒の躊躇いもなく海に放り込んでしまいます。

しかも激昂して殴りかかったペリーを床に打ちのめして行ってしまいました。


そして出航。

殴られたペリーも機関長としてそれなりに仕事を果たしました。
全く海軍未経験の彼には実際なら絶対無理だったでしょうけど、
これは映画なので多少はね?

自由の女神に見送られ、荒波に漕ぎ出した小さな30メートルの船のゆれは、
船に慣れていない船員たちを全員船酔いにします。


「お前が海軍に誘ったからだ。殺してやりたい」



平気なのはチーフと給養長のスパッズ二人だけ。



と思ったら、もう一人全く元気な人がいました。
我らがペリー・タウンゼント3世は、ヨットの達人なのです。

倒れた部下に水をかけ、汚いモップで顔を拭き、外に空気を吸いにいかせて、
となかなかの「長」ぶりを発揮しているではありませんか。


その時、通信士が本部からの通達を受けました。
通達の内容は「命令書を開封せよ」。

この頃の艦艇では、艦内の金庫に命令書が入っていて、
指令が降りてきたとき、初めてそれを開封して読む慣例でした。

なんで最初から読んでおかないの、と思いますが、
まあ当時の海軍のいろいろな事情を勘案した結果でしょう。

知らんけど。


甲板に総員集合がかけられ、目的地と任務が通達されました。

イタリア行きの船団の警護、つまり、愛するスーザンと、
その憎き父親の乗る「マライア・アン」を護衛するという任務でした。

「僕が駆潜艇に乗って君の船を守るよ」

この最初の彼の言葉通りになったのです。


続く。