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マングースとスーパーフォックス TA-4Jスカイホーク〜フライング・レザーネック航空博物館

2022-01-26 | 航空機

FLAMにはA-4スカイホークが3機あります。
前回、A-4Fという最初のバージョンをご紹介したわけですが、
現地では少なくとも形に少しの違いも見分けることができませんでした。

そして今日ご紹介するスカイホークには頭に「T」が付いています。
それはこれが訓練機であることを表しています。

しかし、アメリカ軍の軍用機に詳しい人なら、
この機体を見ただけでこれが訓練用だとわかるのだそうです。
そのポイントはペイント。(お、韻を踏んでる)
オレンジと白のマーキングがどうやら訓練機を表しているらしい。


■ マクドネル-ダグラス TA-4Jスカイホーク Skyhawk

【そのミッションと訓練機の色々】

海軍及び海兵隊の学生飛行士のための高度な艦載ベースの
ストライク(打撃)ジェット訓練機です。

今更ですが、ジェット練習機とは、
基本的な飛行訓練や高度な飛行訓練を行うためのジェット機のことです。
通常それは専用に設計されるか、あるいは既存の航空機を改造して作られます。

軍用ジェットエンジン搭載機が導入され、同時に
専用の操縦訓練機が必要となりました。

1940年代、つまり最初の訓練機は、グロスター・メテオ(英)
ロッキード・T-33などの既存の設計に手を加えたものでしたが、
その後、エアロL-29デルフィンBACジェット・プロボスト(英)など、
最初から訓練機として設計されたものが登場しました。


ロッキード T-33

一般的に軍航空の訓練では、基礎訓練にピストン機やターボプロップ機を使い、
訓練が段階的に進むと、ジェット練習機の過程に入ります。

しかし、アメリカでは、セスナT-37ツィートのようなジェット練習機が、
訓練の初期段階にも使われるようになってきました。

さらに、イギリスでは、戦闘機や攻撃機のパイロットに選ばれたパイロットは、
フォーランド・ナット(Folland Gnat)のような、高度な訓練機を使いました。

RAF飛行訓練学校の訓練機フォーランド・ナット

アメリカ軍の練習機としては以下のようなものがあります。

ロッキードT2V シースター Sea Star(退役)
テムコTTピントPinto(退役)
マクドネル・ダグラスのT-45ゴスホークGoshawk(現役)
ノースアメリカンのT-2バックアイBuckeye(現役)
ノースロップT-38タロンTalon(現役)



T-38タロン

ちなみに我が自衛隊では、1962年からなんと2006年までの長きにわたり、
富士重工のT-1を使用してきました。


T-1

その後置き換えられたのは1975年から2006年までのT-2で、
生産は三菱重工業です。


T-2

現段階での空自での訓練パイロットの中等練習機は、
川崎重工のT-4であるのは皆様ご存知の通り。


T-4(ドルフィン)
TA-4J Skyhawk Documentary

【TA-4Jスカイホークのヒストリー】

1965年、スカイホークの最初のタンデム(縦列)二人乗り、
デュアルコントロールのトレーナー(訓練)バージョンが海軍用に開発されました。

その際、胴体は2フィート4インチ延長され、それに対し
胴体の燃料タンクは100ガロンの大きさにまで縮小されています。

T-4には、訓練機ではない方のA-4Fに利用可能であれば、
あらゆる種類の武器を搭載するだけの能力がありました。


【計器飛行訓練機】

A-4スカイホークの訓練機バージョンTA-4Jは二人乗りで、
T-9Jクーガーに代わって訓練の役割を担うようになりました。

そしてその後T-45ゴスホークに取って代わられるまでの数十年間、
白とオレンジのマーキングを施した上級ジェット練習機として活躍しました。

さらにTA-4Jは、すべての海軍マスタージェット基地で、
計器訓練RAGに割り当てられました。

RAGって何かしら、とアメリカ人でも思うと思うのですが、
ここには全く説明がありません。

RAGとは、
「Replacement Air Groups」
とかつて呼ばれていた海軍と海兵隊の部隊のことで、
現在はFRS「Fleet Replacement Squadron」ですが、
「RAG」という呼称はそのまま残っており、普通に使われています。

FRSは飛行士、飛行士官(NFO)、および下士官の乗組員を、
彼らが飛行を割り当てられた特定の最前線の航空機で訓練する部隊です。

リプレースメント(代替)・パイロット
リプレースメント(代替)兵器システム士官

は、

(カテゴリーI)新たにウィングマークを取得した飛行士
(カテゴリーII)航空機を別のタイプに変更する飛行士
(カテゴリーIII)空白期間を経てコックピットに戻る飛行士


のことをいいます。

訓練を終えた卒業生は、艦隊飛行隊に配属されます。
また、FRSは航空機の整備士を育成し、飛行隊の減少に備えて代替機を提供し、
整備と航空機の運用を標準化する役割を担っています。

回り道をしましたが、TA-4Jは、この部隊における
計器飛行の訓練機として使用されていたということです。


また、TA-4Jは、海軍航空隊がまだ多くのプロペラ機を保有していた時期に、
ジェット機への移行のための訓練に利用されましたし、また、
海軍航空隊員の年次計器訓練、チェックライドに使われていました。

年次訓練というのは、現役を降りたあとのパイロットが
技量維持のために行う飛行訓練のことです。
英語では「チェックライド」と呼んでいるようです。


計器飛行というのは、前にも説明したことがありますが、
視界が天候等で不良となっても、目視なしで計器を頼りに操縦を行うことです。

もちろん平常の操縦では行われることはありませんが、
(それどころか、航空法によって有視界飛行が可能な場合は禁止されている)
どんなコンピュータ搭載の最新艦の乗組員でも、天測を行い、
海図に定規で線が引けるように、いざというときに備えて行われる
マニュアルモードでの訓練と考えていただくといいかと思います。

この事態は通常気象条件により起こってきますが、
これも航空法によって決められたところによると、
この条件が揃った状態のことを、

計器気象状態
 Instrument Meteorological Conditions ;
IMC

と称します。

計器飛行訓練に割り当てられたTA-4Jは、
外界の情報を遮断するために、フードが折りたためるようになっていました。

INSTRUMENT FLIGHT IN THE T-38A TALON TRAINING AIRCRAFT U.S. AIR FORCE FILM 84344

このアメリカ空軍編纂の計器飛行訓練の映像は、Tー38タロンで行われております。
7:30くらいから乗り込んで、8:30にキャノピーを下ろしますが、
後ろの訓練パイロットだけが、その後ゴソゴソと(笑)
手動でフードを引っ張って外界を遮断しています。

その後、

計器に従って離陸が行われ、(10:00~)
高度の維持、コースの入力に続いて、アプローチ(22:00~)
タッチダウン寸前からの再離陸(25:00~)
マニュアルモードに切り替えての着陸

と全てが一本で見られます。
なんか、見てるだけなら簡単で誰にでもできそうに思えますが、
ここに来ることができる時点で一握りの「エリート」なんだろうなあ。

ちなみにアメリカ海兵隊の計器飛行が行える部隊は、

VF-126(カリフォルニア州NASミラマー)
VA-127(ネバダ州NASファロン)
VF-43(バージニア州NASオセアナ)
VA-45(フロリダ州NASセシルフィールド、後にキーウェストに移転)

でした。

  【アドバーザリー(アグレッサー)】

さらに、単座のA-4スカイホークが世界各地の飛行隊(VC)に割り当てられ、
そこで訓練などに使用されました。

1969年にあの海軍戦闘機兵器学校(TOPGUN)が設立されます。
空戦機動(ACM)訓練が新たに重視されるようになったことで、
A-4スカイホークが機器RAG部隊とマスタージェット基地の複合飛行隊、
両方で利用できるようになりました。

軽快なA-4は、TOPGUNが好んで「MiG-17役」として使用します。

F-4ファントムももう誕生していましたが、
こちらはまだ戦闘機としての能力を最大限に発揮し始めたばかりで、
小型の北ベトナムのMiG-17やMiG-21相手には
期待したほどの性能を発揮できなかったのが正直なところでした。

TOPGUNでは、改造したA-4E/Fを使って行う、
異種格闘技戦訓練(DACT)を導入しました。

「マングース」(Mongoose)と呼ばれた改造機は、背骨のハンプ、
20ミリ砲とその弾薬システム、外部の貯蔵庫をなくしており、
スラットは固定されていました。

USN F-14A Tomcats vs. A-4 "Mongoose" & F-16N Air Combat Training

このビデオで0:14に映るのが改造されたA-4「マングース」です。
(マングースのスペルがMongooseだと初めて知ったわたし)

トムキャットは何の因果か、マングースとF-16を同時に相手にしている模様。

スカイホークは小型で、よく訓練された飛行士の手にかかれば
低速での優れた操縦性を発揮するため、艦隊乗組の飛行士に
DACTの細かいポイントを教えるのに理想的な機体だったと言われています。

中隊はやがて、アドバーザリー訓練という主要な役割に移行したことを示す、
鮮やかな「脅威タイプ」の塗装を施すようになりました。
(航空自衛隊でもアグレッサー部隊の塗装は派手でしたよね)

これらの訓練をより効果的に行うために、単座のA-4Eなどが導入されましたが、
「究極のスカイホーク」は、改良型のJ52-P-408エンジンを搭載した
「スーパーフォックス」SuperFox Agressorだったとされます。


画像はハセガワさんにお借りしております


ファロン基地のアドバーザリー部隊

この機種は、1974年のUSS「ハンコック」最終巡航時に艦載されたもので、
また、1973年にブルーエンジェルスが選択した機種でもあります。


旧USMCスカイホークが余ってきたこともあって、
A-4MバージョンはVF-126とTOPGUNの両方で使用されることになりました。

A-4は、F-5E、F-21(Kfir)、F-16、F/A-18によって
アドバーザリーの役割が強化されたにもかかわらず、
1993年にVF-43が退役し、その後まもなくVFC-12が退役するまで、
「仮想敵国の脅威の代用」機の役を果たし続けました。

2003年、スカイホークは退役、最後に運用したのはVC-8でした。

A-4Mをアドバーザリーの役割で運用していた部隊は他にもあります。
テキサス州ダラスにある海軍航空予備軍の
オペレーション・メンテナンス・デタッチメント(OMD)です。

ここに配備された4機のジェット機を操縦した飛行士の多くは、
空軍基地の司令官を含めてNASダラスに所属していました。

そしてF-4ファントムIIや後にグラマンF-14トムキャットの
仮想敵機としてその訓練と開発に貢献しました。

その他の任務は、カリフォルニア州ミラマー、
ネバダ州ファロンへの目標曳航などです。

それにしても、アグレッサーとなってから「究極の機体」が登場するとは、
何とも息の長い名機だったんだなと感嘆せずにはいられません。

【FLAMのTA-4J】

機体ナンバー158467は、地中海のNAS基地に展開していた
VT-7が海軍の学生パイロットの訓練に運用していた機体です。

1992年、MCASエルトロでクロスカントリー訓練を行っていたところ、
離陸事故が発生しましたが、学生とインストラクターに怪我はありませんでした。

機体はその後経済的に修理が不可能であると判断されたため、
1995年5月にこの博物館に運ばれて展示されています。

海兵隊の航空事故履歴を当たってみましたが、
事故と言えるほどの重大事故ではなかったのか、調べてみたところ、
どこをみてもその日(7月19日)にエルトロでの事故報告はありませんでした。

見た目は特にわたしには事故の形跡は全くわかりませんが、
見る人が見たら、なにか足りない部分があったりするのかもしれません。


続く。



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2 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
米空海軍練習機 (お節介船屋)
2022-01-27 13:46:19
ジェット化されても初級のパイロットの適正をみるのはやはりプロペラ機でした。
自衛隊の初級練習機のT-5、T-7の元となったホーカー・ビーチクラフトT-34Cターボメンターが米海軍で使用されました。空軍はT-37(T-33)、T-38のコースとされましたが、空軍でもパイロット適正判断から初歩用のT-41現在はT-3を使用しているようです。

海軍の初級練習機はT-34Cの後継機を空軍と共同JPATSとしてビーチ・ピラタスT-6AテキサンⅡを採用しました。海軍328機、空軍454機

米海軍の艦載機の訓練用はT-2バックアイ、スカイホークの練習機TA-4Jの老朽で英国のホーカーシドレーが開発したホークをボーイングがこれをベースで開発したボーイングT-45Aゴスホークが1992年から使用されグラスコックピットとされたT-45Cが1997年から使用されています。

米空軍は高等練習機としてノースロップ・グラマンT-38タロンを50年以上使用してきましたがスエーデンのサーブとボーイングの共同開発のT-7Aレッドホークに換装しています。

参照せきれい社「世界航空機」
返信する
どうなる天測! (Unknown)
2022-01-27 12:59:49
ちょっと横ですが

>どんなコンピュータ搭載の最新艦の乗組員でも、天測を行い

のはずだったのですが、今後は難しくなります。というのは、天測による航法計算の基礎データを刊行していた海上保安庁が、その刊行物(天測歴)の発行を令和4年度で止めるという発表がありました。

https://www1.kaiho.mlit.go.jp/KOHO/announce.html

今後はイギリスで発行されている天測歴(Almanac)を参照せよとのことです。どうなる天測!
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