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日記に…なるかしらん

全国城めぐり宣言 第50回 「武蔵国 石神井城」資料編

2024年12月08日 20時58分35秒 | 全国城めぐり宣言
武蔵国 石神井城とは
 石神井城(しゃくじいじょう)は、現在の東京都練馬区石神井台にあった城。東京都指定文化財史跡。
 平安~室町時代に石神井川流域を支配していた豊島家の室町時代の居城だった。

 石神井城の築城時期は定かではないが室町時代中期であったと考えられている。鎌倉期以降に宇多家や宮城家らの館が構えられていた場所に、彼らと婚姻関係を結びつつ石神井川流域の開発領主として勢力を伸ばした豊島家が築いた城で、以後この地は豊島家の本拠地となった。豊島家は貞和五(1349)年に石神井郷の支配を開始したものの、応安元(1368)年に関東管領上杉家に所領を一時没収されており、その後応永二(1395)年に返却されている。石神井城内に鎮守として祀られている氷川神社、城内に創建された三宝寺のいずれも応永年間の建立と伝えられていることから、石神井城もこの応永二年の返却後に築城されたとする説が有力である。

 平安時代以来、武蔵国の豪族として名を馳せていた豊島家は室町時代中期、新興勢力の扇谷上杉家の家宰の太田家と対立を深め、文明九(1477)年の長尾景春の乱で太田道灌資長(1432~86年)に攻められ落城した。この合戦において、当時の豊島家当主の豊島勘解由左衛門尉(泰経?)は石神井城、その弟の豊島平右衛門尉(泰明?)は練馬城に籠城して太田道灌と対峙したが、同年四月十三日に練馬城を攻撃された後に江古田原合戦で惨敗を喫して平右衛門尉は討死し、勘解由左衛門尉は石神井城に帰還した。
 翌十四日に道灌は、石神井城と石神井川をはさんで約700m の距離にある小高い丘の愛宕山(現在の早稲田大学高等学院中学部周辺)に陣を張り石神井城と対峙し、十八日に和平交渉が開始されたが、豊島家が和平条件の石神井城の破却に応じなかったことから二十一日に道灌は攻撃を再開し、勘解由左衛門尉はその夜に城を捨てて逃亡した。勘解由左衛門尉は翌年一月に平塚城(現在の東京都北区上中里)で再起を図るが、道灌の再攻撃により戦わずして足立方面に逃亡し、以後は行方不明となっている。なお、「石神井城の落城時に城主の娘の照姫が三宝寺池に身を投げた」と伝えられているが、これは明治二十九(1896)年に作家の遅塚麗水が著した小説『照日松』の内容が流布したものであり、照姫は全くの架空の人物である。

 石神井城は、石神井川と三宝寺池(現在の石神井公園)を起点に延びる谷との間に挟まれた舌状台地上に位置する。ただし、同時期に築城された他城郭と異なり、台地の先端ではなく基部に占地し、堀切を用いて東西の両端を遮断している。
 現在、城域一帯は開発が進み旧態は失われているが、土塁と空堀を廻らせた内郭(本丸)の跡がわずかに残っており、発掘の結果、屈折した堀と土塁によって城内が複数の郭に区画されていた「連郭式平山城」の構造であったことが判っている。天守構造はない。
 この城の最終形が完成したのは、太田道灌との緊張関係が高まった15世紀半ばで道灌の江戸城に対抗する城として大掛かりな改修が行われた可能性が高い。

 城は東西に約1km 延びる舌状台地の西端から中央部にかけて築かれており、内郭の規模は南北約100〜300m・東西約350m で、面積は約3万坪。北は三宝寺池、南・東は石神井川という天然の水堀によって守られていた。内郭が台地の先端ではなく中央部付近に築かれたのは、豊富な水量を持つ三宝寺池に接した方が生活面においても防衛面においても優れていたためであったと考えられる。なお、人工の防御構造は全て西向きに造られており、これは北・南・東からの侵入が物理的に不可能であったことを示している。台地の西側の付け根部分は、幅約9m、深さ約3.5m(土塁頂部との高低差推定7m)、延長約300m にも及ぶ大規模な水堀によって断ち切られており、その先は小規模な空堀と土塁が内郭まで続く構造となっていた。
 江戸時代の文化・文政年間(1804~29年)に編まれた地誌『新編武蔵風土記稿』には、「櫓のありし跡にや、所々築山残れり」とあるが、現在もその名残りとして水堀跡の内側に若干の高まりが見られる。また、水堀の西と内郭の東にも何らかの付属施設があったと考えられている(東側に「大門」の地名がある)。

 1998~2003年に実施された発掘調査では、内郭の空堀が「箱堀」で、深さ約6m・上幅約12m・下幅約3m であることが判明し、人為的に一部が埋められた跡も確認されたが、これは道灌に降伏した際の処置とする説が有力である。土塁の基底部幅は16.3m、高さ約3m(城が存在していた当時の高さは推定約6m )。また、内郭の土塁内側からは1間×1間の掘立柱建築物、3間以上の総柱または庇付き建物の可能性がうかがえる柱穴が検出された。そのほかには直径約4m、深さ約3m の巨大な地下式坑が検出され、これは食料貯蔵庫の跡と推定されている。内郭への出入りは西側に「折(おり 真横から矢を射掛けるための構造)」が存在することから、木橋によって行われていたとみられる。また、土塁中からは道灌との合戦時期に近い15世紀頃の常滑焼片が出土しており、内郭は戦闘に備えて急遽増築されたものとも考えられている。内郭からは遺物として12世紀以降の陶磁器、かわらけ、瓦、小刀、砥石などが出土したが、陶磁器は日常品が少なく白磁四耳壷・青白磁梅瓶・褐釉四耳壷などの威信材が目立った。これについては戦闘前に貴重品を内郭に運び込んでいたためとする説もあるが全体的に生活痕が乏しく、そのため近年では、内郭は生活の場ではなく非常時の籠城用施設であったとする見方が有力となっており、城主である豊島家の平時の居館の位置については、内郭に隣接し土塁や空堀が配置されていた「三宝寺裏山付近」と推測されている。なお、土塁の南側に切れ込みが観察されるが、これは虎口ではなく近世に入ってから造られた通路である。
 現在、内郭は遺構保護のためにフェンスが設けられており、無許可で立ち入ることはできない。

 石神井城跡から発掘された考古資料は現在、石神井公園近くの「石神井公園ふるさと文化館」で出土品を見ることができる(入館無料)。
 石神井城の遺構としては現在、内郭の空堀と土塁が石神井公園内に残っている。また、三宝寺池の西南端付近に空堀跡、その南側の住宅地内に物見櫓の痕跡(円形の高まり)が認められる。
 アクセスは、西武池袋線・石神井公園駅から徒歩15分。
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この血みどろ感、東映だねェ~!幕末残酷物語 ~映画『十一人の賊軍』~

2024年11月26日 14時55分23秒 | 日本史みたいな
 みなさま、どもどもこんにちは! そうだいでございます~。
 いや~、気づけばもう、11月もおしまいでございます。今年も終わりが見えてきちゃったよ!
 だいたい、今年の大仕事もあらかた過ぎまして、残るは年末のバタバタのみとなってまいりましたよ。個人的なことを申せば、今年で今まで続けてきたある生活スタイルが区切りを迎えまして、来年からは全く経験したことのない新たなるフェイズに突入する予定でございます。仕事自体は大して変わらないですけど。
 まぁ、できればその辺のスタイルが一刻も早く「生活の安定」につながってくれると良いのですが……世の中そんなにうまくはいかねぇか! いろいろ挫折も苦労もするでしょうが、めげずに頑張っていきたいものであります。

 さぁ、そんな感じでどうにかこうにか今年2024年も完走できそうな気配が見えてきたわたくしなのですが、先日、たぶん今年最後の映画鑑賞になりそうな作品を観てまいりました。ほんとはこの前の『八犬伝』がラストになる予定だったのですが、周囲での評判が結構よかったので、遅ればせながらこちらも観に行こうと思い立ったのでありました。
 来月12月はねぇ、なんか観に行く気のおきるラインナップじゃなくて及び腰なんですよね。ま、東京に毎年恒例の城山羊の会さんの演劇公演を観に行く予定なので、映画はもういいかな~と。


映画『十一人の賊軍』(2024年11月1日公開 155分 東映)
 『十一人の賊軍』は日本の映画作品。PG12指定。
 江戸幕末の慶応四(1868)年一月に勃発した戊辰戦争のさなかで、新政府軍と対立する幕府方の奥羽越列藩同盟にしぶしぶ加担していた新発田藩の新政府軍への寝返り事件をもとに、たった十一人の罪人が新発田藩の命令により砦を守る壮絶な戦いに身を投じていく群像模様を描く。
 本作の撮影は新潟県新発田市(新発田城、市島邸)、南魚沼市(雲洞庵)、宮城県白石市(白石城)、千葉県鋸南町などで行われた。

 もともと本作のプロットと脚本は、映画『仁義なき戦い』初期四部作(1973~74年)や『大日本帝国』(1982年)などの脚本で知られる笠原和夫(1927~2002年)が1964年に執筆したものであったが、主人公側である賊軍が全員死んでしまう結末が当時の東映京都撮影所所長だった岡田茂(1924~2011年)の意にそぐわず却下され、企画はいったん打ち切りとなった。当時、激怒した笠原は原稿用紙350枚分もの脚本(ホン読み・検討会議用の第1稿)を破り捨ててしまい、プロットだけが残されていたという。
 後年、笠原のインタビュー本『昭和の劇 映画脚本家・笠原和夫』(2002年 太田出版)でそのエピソードを知った映画監督の白石和彌は、笠原が描こうとした本作のドラマこそが現代の日本が抱える社会問題とシンクロすると確信し、東映での映画化が決定した。
 また白石は、「物語のラストについてはプロットから改変しています。時代が変わるときに、誰が生き残って未来を見ていくのか。この作品のヒロイックさ、物語の強さは笠原さんにしか思い付かなかったものがある。僕らはそれを信じて、今の時代へのメッセージを込めました。」と語っている。
 生前の笠原が遺した本作のシノプシス(物語のあらすじ)は、『笠原和夫 人とシナリオ』(2003年 シナリオ作家協会)に収録されている。


あらすじ
 慶応四(1868)年七月。
 江戸幕府の重要港である新潟を守る越後国新発田藩の城代家老・溝口内匠頭は進退窮まっていた。
 江戸幕府方の奥羽越列藩同盟と新政府軍との日本を二分する戊辰戦争が激化する中、新発田藩は密かに奥羽越列藩同盟から新政府軍への寝返りを画策するが、新発田城には奥羽越列藩同盟の軍勢が出兵を求めて押しかけていた。そんな折、ついに新政府軍の到来が迫る。新発田城を出ない同盟軍と新政府軍とが鉢合わせしてしまっては、新発田は戦火を免れない。
 絶体絶命の状況に一刻の猶予も無くなった内匠頭は一計を案じ、新政府軍の進撃を食い止める起死回生の一手として、新発田藩境にある砦への籠城作戦を命じる。集められたのは殺人、賭博、火付け、密航、姦通など人道を外れた罪で死罪を申し渡された十名の罪人たち。彼、彼女らに課された圧倒的に不利な命懸けの作戦とは、「新政府軍が砦を突破して新発田領内に侵攻することを防ぐこと」、ただそれだけだった。
 死を覚悟していた罪人たちに見えた、「生き残る」という一筋の希望。勝てば無罪放免という約束を信じ、罪人たちは己のために突き進む。新発田藩、新政府軍、同盟軍、三者の思惑が交錯する中、それぞれの執念が渦巻く十一人の壮絶な戦争が始まる。


おもなキャスティング
侍殺しの政(まさ)…… 山田 孝之(41歳)
 駕籠かき人足。妻さだを手籠めにした新発田藩士の善右衛門を殺害して死罪を言い渡されるが、新発田藩境の砦を守り抜けば無罪放免だと言われ、不本意ながらも決死隊とともに戦場に駆り出される。

鷲尾 兵士郎  ……仲野 太賀(31歳)
 新発田藩の剣術道場の道場主で直心影流の使い手。城代家老・溝口内匠頭の命により砦を守る決死隊に参加する。

博奕打ちの赤丹(あかに)…… 二世 尾上 右近(32歳)
 武士から金を巻き上げていたイカサマ博徒。

火付けのおなつ …… 鞘師 里保(26歳)
 新発田の女郎。子を堕胎させられた恨みで男の家に放火した。

花火屋のノロ  …… 佐久本 宝(26歳)
 新発田の花火師の息子。捕らえられた政を死んだ兄と思い込み脱獄を助けた。

女犯の引導   …… 千原 せいじ(54歳)
 檀家の娘を手籠めにするなど、数多くの女犯に及んでいた坊主。

医者のおろしや …… 岡山 天音(30歳)
 医師の息子。医学を学ぶためにロシア帝国へ密航しようとした。

死にぞこないの三途 …… 松浦 祐也(43歳)
 貧乏百姓。⼀家心中を図るが自分だけ死ねなかった。

二枚目     …… 一ノ瀬 颯(27歳)
 新発田随一の色男。武家の女房と恋仲になり姦通で捕らえられた。

辻斬り     …… 小柳 亮太(元・大相撲前頭筆頭豊山 31歳)
 新発田藩内の村で大人数の村人を無差別に殺害した浪人。

爺っつぁん   …… 本山 力(55歳)
 新発田で名主の強盗殺人を犯した剣術家。

入江 数馬   …… 野村 周平(31歳)
 罪人たちとともに砦を守る命を受けた決死隊の隊長。城代家老・溝口内匠頭の重臣で溝口の娘・加奈の婚約者。

溝口 内匠頭 清端 …… 阿部 サダヲ(54歳)
 新発田藩城代家老。藩の実権を掌握し、領地が戦火に見舞われぬよう画策する。

溝口 加奈   …… 木竜 麻生(30歳)
 溝口内匠頭の娘。入江数馬の許嫁。

さだ      …… 長井 恵里(28歳)
 政の女房。耳が不自由である。

溝口 伯耆守 直正 …… 柴崎 楓雅(16歳)
 新発田藩第十二代藩主。

山県 狂介(のちの有朋)…… 玉木 宏(44歳)
 新政府軍先鋒総督府参謀。新発田藩を新政府方に取り込もうと画策する。

岩村 精一郎 高俊 …… 浅香 航大(32歳)
 土佐藩士。新政府軍先鋒総督府軍監。山県の右腕として働く。

色部 長門守 久長  …… 松角 洋平(47歳)
 米沢藩国家老。奥羽越列藩同盟新潟港総督。新発田藩に新政府軍との決戦を迫る。

斎藤 主計頭 作兵衛 …… 駿河 太郎(46歳)
 米沢藩士で色部の側近。奥羽越列藩同盟参謀。

荒井 万之助  …… 田中 俊介(34歳)
小暮 総七   …… 松尾 諭(48歳)
杉山 荘一郎  …… 佐野 和真(35歳)
水本 正虎   …… 佐野 岳(32歳)
水本 正鷹   …… ナダル(39歳)
寺田 惣次郎  …… 吉沢 悠(46歳)
里村 官治   …… 佐藤 五郎(45歳)
溝口 みね   …… 西田 尚美(54歳)
世良 荘一郎  …… 安藤 ヒロキオ(42歳)
仙石 善右衛門 …… 音尾 琢真(48歳)

おもなスタッフ
監督 …… 白石 和彌(49歳)
脚本 …… 池上 純哉(54歳)
音楽 …… 松隈 ケンタ(45歳)
録音 …… 浦田 和治(75歳)
音響 …… 柴崎 憲治(69歳)
特撮 …… 神谷 誠(59歳)
制作 …… ドラゴンフライエンタテインメント
配給 …… 東映


 これですよ! この作品を観に行ってきました。
 白石監督の作品を観るの、けっこう久しぶりなんですよね。なんと『凶悪』(2013年)いらい11年ぶりなんですよ! 池脇千鶴さんサイコー!!
 ……ここで「あれ?」って思った特撮ファンの方、いらっしゃいますか? そうなんです。実はわたくし、特撮ファンとしてはあるまじきことに、白石監督のアマゾンプライム配信ドラマシリーズ『仮面ライダー BLACK SUN 』(2022年 全10話)を、まだ観てないのよぉ!
 我ながらまことにひどい話であります。だって私、正真正銘『仮面ライダー BLACK 』(1987~88年放送)にリアルタイムで夢中になった少年だったのよ!? 全身漆黒の仮面ライダーと全身シルバーガッチャガチャのシャドームーンとの宿命の対決にハラハラドキドキして、ゴルゴム大神官のビシュムさまにメロメロになって、北海道の夕張ってそんなにものすごい理想郷なのかと騙されまくってたのよ~!?

 でも、ど~か勘弁してほしいのは、『 BLACK SUN』って、なんかめちゃくちゃ敷居が高くないですか……? アマプラ入ってないし、なんか人種差別問題や政治問題にからめたテーマになってるらしいし……激重な物語はもう私、『仮面ライダーアマゾンズ』でむこう半世紀はノーサンキュー状態になってますんで……ちょっと、そうとう覚悟を決めないと観始められそうにないんだよなぁ。
 当然、いつまでも観ないで済む話でもないとは思いますので、いつか必ずひもとくことになるとは思うのですが……ルー大柴さんの演技が最高らしいっていうのもムチャクチャ気になるし。

 ただまぁ、そちらの話はひとまずさておきまして、今回はそんな白石監督の劇場最新作なのであります!

 本作ですが、現在の日本映画界でもひときわ存在感のある白石監督の作品であると同時に、あの伝説の脚本家・笠原和夫が1964年に執筆していながらも、その在世中にはついに撮影されなかったという悲運の脚本の、満を持しての映画化という売り文句も前面に押し出されております。

 ここで、今回鑑賞した作品の内容に入る前に、この「笠原和夫の幻の脚本の映画化」というポイントについて確認していきたいのですが、上の Wikipedia記事を読んでもわかるように、本作は厳密に言えば「笠原和夫の脚本」を映画化したものではありません。笠原和夫が遺した「プロット」もしくは「シノプシス」を元に脚本が制作された映画、ということになります。アウト?セーフ?ギリギリなラインの売り方!!

 ここで簡単に「脚本」と「プロット」と「シノプシス」、この3つの違いに触れておきたいのですが、「脚本」というのは、そらもう実際に映画なり TVドラマなりラジオドラマなりアニメ作品なりを制作するスタッフさんや出演俳優の皆さんが手に持っている台本に書かれたストーリーのことで、具体的に撮影されるやり取りや登場人物のセリフがかっちり決まっている、作品の最終完成形のことです。
 それに対して、「プロット」というのは映像化したい物語の「材料と設計図」をざっと羅列したものであり、「シノプシス」というのは物語の「あらすじ」ということになります。
 つまり、昔話の『ももたろう』を例に挙げれば、「桃太郎:川から流れてきた桃の中から生まれた男の子で、成長して鬼どもを討伐する。」、「イヌ、サル、キジ;桃太郎に同道して鬼討伐を助ける。」といったキャラクター紹介や、「おばあさんが川で桃を拾う。」→「桃の中から桃太郎が生まれる。」という感じでざっくりした話の流れをリストアップした設定資料集みたいなものがプロットで、「昔々あるところにおじいさんとおばあさんが……(略)……宝物を持ち帰り、幸せに暮らしましたとさ。」といった話の流れを簡単に説明したものがシノプシスということになるのです。

 そして、上の記事を見ても気になるのが、果たして笠原氏が遺したものが『十一人の賊軍』のプロットなのかシノプシスなのか、どっちなんだい!?というところで、笠原氏が脚本をビリビリに破り捨てた時に残したものはプロットだったはずなのに、笠原氏の死後に出版された書籍『人とシナリオ』の中に収録されているのはシノプシスということらしいのです。え、どっちも残ってんの?それとも、プロットとシノプシスを混同してるのか? まぁ、これは『人とシナリオ』を購入して読めばいい話なのですが、残念ながら本が高額なので私は買ってないのです。ぎゃふん!
 そうなもんで、映画のパンフレットを買って、白石監督と脚本を担当した池上純哉さんの対談記事も読んでみたのですが、白石監督が最初に入手したのは「16ページのプロット」で、そこには「主要な登場人物が全員犬死にする」という結末まで書かれていたのだそうです。しかし、その一方で池上さんは同じ話をしていながら「最初にシノプシスを読んだ時」とも語っているので、おそらくはプロットとシノプシスがごっちゃになったような笠原氏のメモが残っていたんじゃないかな~という雰囲気なんですよね。

 前置きが長くなりましたが、要するに私が言いたいのは、今回の作品が、あの『仁義なき戦い』シリーズで有名な笠原氏の脚本作品であると意気込んで観るのはちと間違いということです。具体的に登場人物がどうしゃべって、あの藩境の砦でどういった攻防戦が繰り広げられたのかを考えたのは白石監督であり池上脚本の仕事なので、別にこの作品だけを「伝説の作品!」と持ち上げるのはいかがなものか、ということなのです。ましてや、本作の結末は笠原氏の構想とはあえてちょっと違うものにしていると白石監督が公言しているので、あくまでも本作に対する笠原氏の貢献度は、平成・令和の『仮面ライダー』シリーズでの「原作・石ノ森章太郎」とか、「スーパー戦隊シリーズ」での「原作・八手三郎」くらいのものととらえてよろしいのではないでしょうか。根柢の魂は継承しているとしても。

 あと、私が気にしたいのは、笠原氏が本作の構想を練り第1稿を執筆したのが「1964年」であるというところで、それはつまり、笠原氏がプロの脚本家となって8年目、彼にとって最初のヒットシリーズと言ってよい『日本侠客伝』(主演・高倉健、監督・マキノ雅弘 東映)の第1作を世に出した頃なのです。あの伝説の脚本家にも、こんな雌伏の時代があったのね!
 要するに、そんな時期に映画化できなかった『十一人の賊軍』で笠原氏が伝えたかったテーマは、その後の『仁義なき戦い』を筆頭とする数多くの名作の形をとって映像化されていったはずなので、『十一人の賊軍』が何か特別の理由で封印されたというわけでもないし、笠原氏だっていつまでもこの作品の映像化を悲願にしていたわけでもなかったんじゃないの~?ということなのです。むしろ、初期の作品を掘り起こされて恥ずかしがっておられるのでは……

 そして、この作品を観た多くの方が連想したでしょうが、本作は『七人の侍』(1954年)や『隠し砦の三悪人』(1958年)といった、普通の時代劇ではスポットライトの当てられない無名の人々を主人公にした黒澤明監督の時代劇映画にかなり似通った種類の作品になっています。もちろんパクリではないのですが、そういった、同じ土俵に立つことを想像するだけで手足がガクガク震え、目がくらんで鼻血が噴出して失禁ビシャーとなってしまうような無茶無茶な強敵を向こうに回すことを覚悟しなければ、今回の60年ぶりの映画化はできなかったことでしょう。白石監督も、どえらい仕事にチャレンジしたものです……

 そして、世界のクロサワ映画もさることながら、今回の作品と非常に似た時代設定の時代劇映画として、私が強く想起してしまったのは、まぁけっこう多くの人がピンときたかとは思うのですが、この作品なんですよね。超傑作!!

岡本喜八・監督 『赤毛』(脚本・岡本喜八&広沢栄 1969年 東宝)

 これこれ~! 主演・三船敏郎!!

 観てない人は、絶対観て!! 最高なんですよ。
 この作品は、『十一人の賊軍』とほぼ同じ時期、薩長新政府軍の東日本進軍の際に信州で起こった「赤報隊」の悲劇を描くアクション時代劇です。新政府軍が民衆の支持を得るためにわざと流したデマ「年貢半減」を広めた部隊「赤報隊」が、都合の悪くなった新政府軍に賊軍扱いされて捕縛・処刑されたという事件を元に、赤報隊の残党となってしまった農民あがりの兵士・権三が宿場町に立てこもって新政府軍と宿場の代官所と三つ巴の死闘を繰り広げるという物語なのですが、名も無い民衆を虫けらのように押しつぶそうとする権力と、それに必死に抵抗する宿場町の人々の熱いエネルギーをみごとにエンタメにまで昇華させた大名作です。三船敏郎の泥臭い情熱もカッコいいし、寺田みのりん(合掌……!)や高橋悦史の若さもまぶしい。そして当時28歳の岩下志麻姐さん(松竹)の神々しさときたら~!! あと、岸田森サマに草野大悟に砂塚秀夫、天本英世に花沢徳衛、あげくのはてにゃ伊藤雄之助と、地球上の生きとし生ける岡本喜八ファンが狂喜乱舞する、とんでもない奇跡の一作なのです。

 いや~、これ、『十一人の賊軍』の第1稿が書かれて5年後に映画化された作品なんでしょ? しかも、笠原氏がいた東映のライバル会社である東宝で。う~ん……笠原氏が『十一人の賊軍』の企画を蒸し返さなかったのも、わかる気がするような。相手が悪すぎるというか、もうよそでやっちゃったし、みたいな。

 はっきり申しまして、ここで『十一人の賊軍』と『赤毛』を似ていると比較するのはわたくしの妄想でしかないわけなのですが、共通しているのは、どちらも結果だけで言えば無惨きわまりないバッドエンドではありながらも、それぞれの形で最後の最後にある種の「救い」というか、「未来への希望」を明確に描いているという点なのです。これは、他の作品で言えばあの『ローグ・ワン』(2013年)に通じるものがある味わいですよね。血はとめどなく流れましたが、新しい時代を切り開く「芽」は確実に生き残った!みたいな。

 その点、笠原氏の構想をそのまま映画化しただけで「主要メンバー全員死亡」にしなかった白石監督の判断は非常に素晴らしく、光り輝くほうへと走り出していく姿で終幕する『十一人の賊軍』は、このラストカットで大いに救われるものがあったのではないでしょうか。

 でもまぁ~、そこにいくまでの路程は残酷そのものといいますか、観ていて痛々しい展開や描写の連続ですよね。キッツイなぁ~!

 ここまでくどくどと申してきたのですが、私自身の本作に対する印象というか感想は、決して高いものではありません。
 なんでかっちゅうと~……私、残酷な展開自体は別にどうでもよろしいのですが、爆発に巻き込まれて焼けただれた顔とか、大砲が直撃して爆散した死体の肉片だとか、皮一枚でつながってるだけでブラ~ンとなってる二の腕だとかを、お金をかけてリアルに映像化して何がたのしいの?って思っちゃうんですよね。

 この映画は、そんな残酷描写で一体なにを伝えたいのか……それは当然、戦争や憎しみ合いの醜悪さなのでしょうが、そこを直接描かずに、俳優の演技や間接的な映像演出で観客に想像させるのが、プロとしての腕の見せ所なんじゃないかな~、と強く思ってしまうのです。

 もちろん、私は特殊撮影技術としての残酷描写を全部キライだと言うつもりなど毛頭ありませんし、大御所になってしまいますがトム=サヴィーニやスクリーミング・マッド・ジョージといった天才たちによる、実生活でいっさい役に立たない特殊すぎる技術効果の数々は本当に大好きです。
 でもそれらは、ホラー映画という「うその世界」に立脚するイリュージョンのあらわれなのであって、実際に世界各地の戦争・紛争地帯で起こっている惨劇を逐一再現することを目的にはしていないはずです。それじゃドキュメンタリーに見せかけた「ただのうそ」ですよね。

 この、『十一人の賊軍』という物語を、白石監督は「荒唐無稽で夢のあるフィクション作品」にしたいのか、それとも「戊辰戦争の敗者側の様子をリアルに再現したえせドキュメンタリー」にしたいのか?
 おそらく白石監督には、ああいった希望あるラストをより効果的にするために、そこにいくまでの悲劇を徹底的に残酷に描くという意図があったのでしょうが、なんかそういう作品って、何十年たっても繰り返し観られるようになるんですかね……さっきに例に挙げたホラー映画の描写って、一周まわって笑っちゃうような100% ウソっぽい勢いがあるので何度も観られるのですが、本作で松尾諭さんが木っ端ミジンコになるくだりを観て爽快な気分になったり笑ったりする人はいないと思うんだよなぁ……それ、エンタメかぁ!? 松尾さんじゃなくて『仮面ライダー V3』のドクバリグモだったら大爆笑ものなんだけどなぁ。不思議なもんです。

 とにもかくにも、文章がいつも以上に回りくどくなってしまったのでかいつまんで感想を言いますと、「残酷すぎてヤダ!」と、この一言になります。残酷なのは別にいいんですが、描き方が問題なんですよね……
 あれですか、白石監督は『仁義なき戦い』の笠原和夫というイメージを逆輸入させちゃって、この作品をこんなに必要以上に残酷無比な描写だらけにしちゃったのかな!? いや、いらんて、そんなの!

 あと、本作でもう一つ「う~ん」と思ってしまったのは、主人公たちが直接守る砦と、敵方(新政府軍)が狙っている標的(新発田城)が別の場所にあるものなので、物語の目指す方向性が「砦を守りきること」と「新発田藩を無血開城すること」とで微妙にズレているため、映画の途中で砦の戦いが終わっても物語は終わらず続くというスッキリしなささです。新発田城からのろしが上がったら終了、っていうゴール設定もな~んかドラマチックじゃないですよね。そんなん溝口内匠のさじ加減ひとつやんけという釈然としないものが、隠しきれずに最初から露呈しているのです。それじゃ、あんなじゃじゃ馬だらけの集団の心がまとまるはずがありませんよね。そんなトカゲのしっぽ切りルートまっしぐらな作戦に参加するなんて、どんだけ純真無垢な奴らなんだという話ですよ。ふつう、砦に行く途中で鷲尾たち侍勢をぶっ殺して即解散しますよね。別に藩に人質とられてるわけでもないんだし、その藩だって今日明日存続してるかどうかも怪しいもんなんだし!

 しかも、新政府軍を率いる参謀の山県は、新発田藩に侵攻するためのルート上にある砦が難攻不落であることを知ると、けっこうあっさりと「じゃ別ルートで。」みたいな感じで、砦と関係ない道から新発田城に入ってしまうのです。いやいや、それじゃ犬死にすぎやしないかい!? 主人公チームどころか、必死こいて砦の攻略に血道を上げていた鎧武&ナダル兄弟の努力もアホみたいじゃないですか!
 そりゃね、「狂介」なんていう昨今の DQNネームも裸足で逃げ出す名前こそ名乗ってはいますが、今作のラスボスである新政府軍の山県は、のちに内閣総理大臣&明治の元勲になる大物なんですから、その彼が主人公たちに殺されるなんて展開にはならなそうなことはよくわかっております。だから、主人公たちも完全勝利のハッピーエンドを迎えられそうにないことは容易に想像もつくのですが、だからといって、そんなにやることなすこと全てを「意味なし。」とおとしめることもないじゃないですか! そりゃないっすよぉ~、少しくらい努力の甲斐があってもいいじゃないっすかぁ!

 ちなみに、ここらへんは映画ではいっさい語られていないのですが、史実では新発田城下すぐ近くの新潟港付近は新政府軍の艦隊6隻(うち軍艦2隻)による砲撃と四日間にわたる上陸戦でがっつり焦土と化しているので、エピローグで溝口内匠を囲んで新発田の民衆があんなにニコニコできるほど平和で済んではいないと思います。ちなみに、映画にも出ていた米沢藩の色部長門と斉藤主計(史実の斎藤作兵衛?)は新潟港の合戦で壮烈な討死を遂げており、地元の山形県米沢市で色部は「米沢藩上杉家の戦犯責任を一身に引き受けた偉人」として顕彰され、新潟市の討死した場所は現在、戊辰公園として整備されて石碑が建っているそうです。だりが、こっつ視点の映画も作ってけろず!!


 とまぁ、いろいろと重箱の隅をつつくような小言を申し立ててはきたのですが、やっぱり「戊辰戦争と言えば北陸戦争、北陸戦争と言えば越後長岡藩の河合継之助!!」というイメージの固定化がはげしかった昨今において、長岡藩陥落後の新発田藩における一挿話にクローズアップした本作の意義は非常に大きいものがあったと思います。ガトリング砲だけが北陸戦争じゃねぇぞと!
 あと細かいところでいうと、先込め式なのでリロードが難しいゲベール銃かミニエー銃を何丁もかついで、撃つたびにガチャッと捨てて次の銃を持つといった所作をちゃんとしていたミリタリー描写も良かったですよね。効率は最悪だけど……

 そしてこれだけは言っておきたいのですが、この映画、ちゃらちゃらした遊び人ふうの尾上右近さんがほんとに良かった!
 言動は軽率なのですが、一瞬先には全員玉砕しかねない砦の中において、空元気でも場を明るくしようとふるまう生命力みなぎる役柄を、右近さんは目をキラッキラ輝かせて好演していたと思います。なにかと斜に構えて集団から距離を置いていた主人公の政よりもよっぽど魅力的でしたよね。なんかそれこそ、岡本喜八作品での米倉斉加年(まさかね)さんを彷彿とさせる陽気と色気がありました。しぇんしぇ~い♡

 いや~、やっぱ歌舞伎界はすごいですね。こんなフレッシュな才能がゴロゴロしてるんだもんなぁ。そういえば、あの『八犬伝』にも右近さんは出ていたのですが、お岩さん役だったのか! 気づかなかった……いろんな仕事してるなぁ。

 あと、現在の日本女優界における「和顔」ジャンルの隠れた才能として、限りない伸びしろを持つ秘密兵器・鞘師さんを抜擢したキャスティングセンスにも感服つかまつりました。蒼井優さん、黒木華さんに続く次世代の平安顔覇者は、鞘師さんで決まったな……嗚呼、日本武道館で熱狂していたあの頃がなつかしい……


 いろいろ言いましたが、この『十一人の賊軍』は、今現在の日本映画界の潮流をみる上で非常に重要な指標となる作品であると感じました。正直、好きな作品とは思えなかったのですが、いろんなことを考えるきっかけになるコストパフォーマンスは十二分にありましたよ!

 でも、まぁ……白石監督の『BLACK SUN 』を観る気持ちはまた遠のいちゃったかも……いや、いつかは観ますよ! いつかはね……
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名探偵・金田一耕助、はじまりの特異点 ~映画『三本指の男』(本陣殺人事件1947)~

2024年11月14日 20時52分21秒 | ミステリーまわり
 ハイみなさまどうもこんばんは! そうだいでございますよっと。
 いよいよ今年も、もうあとひとコーナーを曲がればゴールが見えてくるといった残りペースになってまいりました。寒くなってくると何かと流行り病がハバをきかせてきてしまいますが、みなさんは風邪もひかずお元気にやってますか? 私はもう全然平気! なぜか哀しくなるくらいに身体が頑丈です。もちっとこの、「かよわいはかなさ」みたいな風情はないもんなのかと……

 それはさておき本題なのでございますが、今回はなんと、77年も前に公開された、ある歴史的映画作品についてのあれこれでございます。最近、映画館や TVで観たばっかりの作品についてあーだこーだ言ってきましたが、今度はいきなり昔の作品へと時間をひとっとび! ムチャクチャですね~。


映画『三本指の男』(1947年12月公開 モノクロ72分 東映)
・横溝正史による金田一耕助もの推理小説第1作『本陣殺人事件』(1946年4~12月連載)の初映像化作品。
・白木静子は原作小説にも登場する人物だが、金田一耕助の助手となって活躍するのは東映(初公開当時は東横映画)版「金田一耕助シリーズ」(全7作)に共通するオリジナル設定である。
・本作の題名が原作小説通りの『本陣殺人事件』でないのは、検閲をしたアメリカ占領軍が「殺人」という言葉の使用を許可しなかったためである。
・時代設定が原作小説の昭和十二(1937)年から、映画公開当時の太平洋戦争後に変更されている。
・犯人の設定と動機、「三本指の男」の正体が、原作小説から大幅に変更されている。

おもなキャスティング(年齢は映画初公開当時のもの)
初代・金田一耕助   …… 片岡 千恵蔵(44歳)
初代・磯川常次郎警部 …… 宮口 精二(34歳)
初代・白木静子    …… 原 節子(27歳)
久保 銀造 …… 三津田 健(45歳)
久保 春子 …… 風見 章子(26歳)
久保 お徳 …… 松浦 築枝(40歳)
一柳 賢造 …… 小堀 明男(27歳)
一柳 糸子 …… 杉村 春子(41歳)
一柳 隆二 …… 水原 洋一(38歳)
一柳 鈴子 …… 八汐路 恵子(23歳)
一柳 良介 …… 上代 勇吉(?歳)
一柳 秋子 …… 賀原 夏子(26歳)
一柳 三郎 …… 花柳 武始(21歳)
小森 周吉 …… 村田 宏寿(48歳)
高田村長  …… 水野 浩(48歳)
藤田医師  …… 椿 三四郎(40歳)

おもなスタッフ(年齢は映画初公開当時のもの)
監督  …… 松田 定次(41歳)、渡辺実(28歳)
脚本  …… 比佐 芳武(43歳)
製作・企画 …… マキノ 光雄(38歳)
撮影  …… 石本 秀雄(41歳)
照明  …… 西川 鶴三(37歳)
音楽  …… 大久保 徳二郎(39歳)
琴演奏 …… 古川 太郎(36歳)

あらすじ
 私立探偵の金田一耕助は、かつてアメリカ滞在時代に世話になった財産家・久保銀造の姪の春子が、岡山県の旧家である一柳家の当主・賢造と結婚することを知り、結婚式に出席するために一柳家を訪れた。往きの列車の中で金田一は偶然、同じく結婚式に参加する春子の女工時代の親友の白木静子に出会うが、眼鏡をかけたインテリ女史の静子は金田一に冷淡な態度をとる。一柳家は由緒正しい家柄で、賢造の家族や親戚の中には、春子との結婚に反対し妨害しようとする封建的な考えの人々もおり、一柳家と久保家の双方に結婚を妨げる怪文書が送られ、さらに一柳家には謎の「三本指の男」が現れていた。春子から結婚への不安を聞かされた金田一は独自に調査を始めるが、結婚式の翌朝未明、密室状態の離れで春子と賢蔵の死体が発見される。岡山県警の磯川警部は三本指の男が犯人ではないかと考えるが、金田一は静子の協力のもと捜査を進めていく。


 はいきたどっこいしょ! ミステリ好き、わけても横溝正史大先生の「金田一耕助シリーズ」が大大大好きと標榜する我が『長岡京エイリアン』といたしましては、ぜ~ったいに避けては通ることのできない、「映像化された金田一ものの元祖も元祖、正真正銘の第1作」のご登場でございます。

 まず、なんでまたこのタイミングでこの作品を取り上げるのかということについてなのですが、実は私、今年の6~7月に募集が行われていたクラウドファンディング企画「映画『悪魔が来りて笛を吹く』1954年エディションをデジタル修復&復刻上映しよう」というプロジェクトに些少ながら参加させていただいていたんです。そいで、その最終募集金額がなんと目標金額の3倍を超えたということで、ストレッチゴール特典としてつい先日に限定配信されたこの『三本指の男』を、ありがたくじっくりと鑑賞させていただいたわけだったのでした。もともとお目当ての『悪魔が来りて』のほうの修復上映は来年の1月で、限定配信は2月になるとのことです。たんのすみだなやぁ~オイ!

 そもそもの関係を説明させていただきますと、今回の『三本指の男』は上の情報にもある通り、映像化作品の歴史における初代・金田一耕助こと片岡千恵蔵が主演する全7作の「東映(東横)金田一シリーズ」の記念すべき第1作にあたり、『悪魔が来りて笛を吹く』は、その第4作にあたります。現在、このシリーズで映画のフィルムが現存しているのは第1作『三本指の男』と最終第7作『三つ首塔』(1956年)、そして第2作と3作とで2部構成になっていた『獄門島』を1本に編集した『獄門島 総集篇』(1950年)の3作のみで、これに今年めでたくフィルムが発見された『悪魔が来りて』が加わることがアナウンスされているというわけなのです。よかったよかった!

 こんな状況ですので、現行、最新の第34代・金田一耕助こと吉岡秀隆による『犬神家の一族』(2023年放送)にいたるまで連綿と続く、悠久なる映像化金田一作品の歴史の「はじまりの特異点」となるこの『三本指の男』がちゃんと鑑賞できるという幸せは、もう奇跡としか言いようがありません。同じ名探偵でも、明智小五郎先輩はそうはいきませんものね! でも、あれは映像化第1作が戦前の映画になっちゃうから生存確率がさらに絶望的で……もう100年近く前のモノクロサイレント映画なんだぜ!?

 っていうか、そうか~、映像化金田一も、いま1年半ブランクがあいてるのか……いかんいかん! 来年2025年こそはお願いしますよ!!

 それで話は『三本指の男』でして、この作品、現在視聴できる内容の本編時間は「72分」なのですが、Wikipedia などのネット上の情報では「84分」とか「82分」と解説されているものがほとんどです。あれ? 10~12分はどこいった?

 これ、実際に鑑賞してみるとよくわかるのですが、現在観られる72分バージョンは、特に前半部分の事件関係者がどんどん登場してくるくだりで、露骨にカットされている形跡が至る所で見られるんですよね。
 例えば、火の点いていないタバコを口にくわえた金田一が次のカットではぷはーと煙を吐いてるとか、一柳糸子が明らかに何かを言おうとしているのにブツッと次のカットになるとか、座っていたはずの登場人物が次のカットで部屋から立ち去りかけているとか。
 このように、かなり乱雑にフィルムを切り貼りしている部分があって、そういえば一柳家の人間も、自己紹介をしたり名前を呼ばれたりしないまま話が進んでいくような不親切設計になっているのです。ずっと当たり前みたいに一柳屋敷にいるけど、あなただれ?みたいな。
 そしてさらに不可思議なのは、72分バージョンのオープニングの社名クレジットが「東映」になってるってことなんですよね! 東映が発足するのは1951年ですから、その4年前に制作された『三本指の男』で東映がクレジットされるはずはないのです。当時は、その東映の前身会社の一つの「東横映画」ですから。
 つまりこれ、本来『三本指の男』の完全バージョンは84分か82分だったのですが、後年に上映権を継承した東映が何かの都合で「72分の東映映画」にリサイズしちゃったということではないのでしょうか。う~ん、いけず!

 ただ、不幸中の幸いと申しますか、この約10分間のカットによって確かに見づらいとかキャラがよくわかんないとかいうマイナスは発生してしまったのですが、パッと見る限り後半に無理なカットは無いので、映画のテーマやミステリ作品としてのトリックが伝わらないという致命的な事態には陥っていないようです。いずれにせよ、2020年代に鑑賞できるのはすばらしいことに変わりなし。

 ほいで、この作品をワクワクしながら観た私の感想なのですが、


あらゆる意味でアグレッシブ! フレッシュ! 若さと軽快さがみなぎるスーパールーキー的野心作!!


 こういう印象を持ちました。攻めてますねぇ!

 あの、今回も例によって、具体的に鑑賞していて気になったポイントは記事の最後にまとめておきますので、細かいところに関してはそちらを読んでいただくとしまして、要点だけ申します。本作は原作小説『本陣殺人事件』とは事件の真相がまるで違ったものになっているのですが、その「変えた理由」というのが、ちょっと他のミステリ作品とは違うような気がするんですよね。

 だいたい、原作小説と結末(犯人)が違う映像化ミステリ作品というものは、「本と同じ結末にしても面白くないでしょ」という、ちょっと今現在の価値観とは微妙にずれた制作者側のサービス精神のあらわれであることが多く、実際に、原作はもう読んだんだけどマルチエンディングも観たいという観客を映画館に集める効果もあったかとは思います。まぁたいてい、その場合は「ミステリ作品としてのクオリティ」が犠牲になってしまうわけなのですが……

 でも、今回の『三本指の男』の改変に関しては、そういった興行的な事情もあるのかも知れませんが、それ以上のねらいとして、「古い慣習こそが諸悪の根源」というテーマを明瞭に打ち出したいがために、あのような強引ともとれる「真の結末」を用意したのではないでしょうか。久保春子と一柳賢造の悲劇の死という物語だけでなく、ひとつのフィクション作品として「どうしてもお前だけは許しておけない」という、とてつもないルサンチマンに血をたぎらせた手が、むんずとあの「真犯人」の肩をつかんで地獄に引きずり込むようなイメージが、この『三本指の男』オリジナルの結末には濃厚にただよっているのです。
 新しい価値観による、古い社会通念の徹底的な破壊! だからこそ、本作の時代設定は原作通りの戦前ではなくリアルタイムの戦後となり、白木静子と久保春子も、当時最先端のヘアスタイルやファッションセンスを身にまとった容姿になっているのでしょう。

 ものすごい情念です……そしてそのエネルギーはおそらく、誰あろう、古巣の歌舞伎界に絶望した果てに映画界にたどり着き、泥水をすする思いで底辺から大スターへと昇りつめていった片岡千恵蔵が、古い因習に囚われた旧家に起きた残忍無比な犯罪を糾弾するという構図にそのまま転換されているのです。こと、この『本陣殺人事件』を映画化する以上、別にお客さんを呼べるスターだったら誰が金田一になってもよいという話では絶対になく、古い世界をぶち壊す思いを胸に秘め、新しい世界を代表する旗手となる柔軟さ、軽妙さを持った千恵蔵でなければいけないという確信的なキャスティングがあったのではないでしょうか。

 そのようなことを強く思わせるほどに、このシリーズ第1作における千恵蔵金田一は妙にフワフワしたフットワークの軽さを持ちながらも、同時に古い世界を憎む情熱を心の奥底にみなぎらせており、その二面性の魅力は、はっきり言ってそれ以降の33名いる金田一耕助を演じた俳優の誰にも負けないオンリーワンな輝きを持っていると思うのです。さすが、初代はすごい! 原作に沿っているのどうかはまた別の話なのですが、歴代のどの金田一よりも「正義の使徒」を標榜した金田一なのではないでしょうか。それでいて、普段はへにゃへにゃしているというギャップがたまんな~い♡

 いろいろ申しましたが、この『三本指の男』は、確かにひとつのミステリ作品としてはやや無理がある展開もありますし、原作小説以上に「金田一が事前に惨劇を防げたのでは……?」と思えなくもないアラが目立つ異色作となっております。あと、やはり前半の編集の雑さや、おそらくはフィルムの状態のせいで全体的に画面が小刻みに揺れていて酔っちゃうという、内容以前の問題も散見されます。
 でも! 単に仕事でやってるだけとはとても思えないパワーの入れようで軽妙 / 重厚の両面を使い分ける金田一耕助を演じる片岡千恵蔵の勇姿は、金田一ファンならずとも一見の価値はあるのではないでしょうか。いやほんと、千恵蔵さんの演技は昭和の俳優さんのそれじゃないんですよ! 令和でも全然通用する複雑な起伏を持った造形ですよね。
 もちろんそこには、シリーズ第1作という手探り感もあるのでしょうが、それだけに、そこから経験値も増した第4作『悪魔が来りて笛を吹く』では、千恵蔵さんはさらにどんな金田一を見せてくれるのか!? 画質のきれいさにも期待しつつ、来年の公開を心待ちにしたいと思います!

 それにしても、この作品であそこまでに完璧なツンデレ助手・白木静子を演じてくださった原節子さんが、この1作のみで降板してしまうというのは、いかにも惜しい……ああいう「名探偵の異性バディ」設定って、脚本の比佐芳武さんが、海外ミステリのクリスティやクイーンあたりにヒントを得て導入したんですかね? 実にうまかったなぁ~。

 千恵蔵金田一はほんと、女性へのアプローチもスマートで現代的! ちったぁ原作の金田一先生も見習わねば……いや~ん『女怪』のトラウマ~!!


≪まさに歴史の1ページ目! 『三本指の男』鑑賞メモ~≫
・謎の男のシルエットが露骨にアピールされたオープニング。そして配役クレジットの最後には「三本指の男 ?」というしゃれた表示がでかでかと打ち出される。う~ん、わかりやすい! あの宮城道雄の高弟だという古川太郎による琴の調べも非常に流麗である。わくわく!
・岡山の山中を走る蒸気機関車から物語は始まるのだが、本シリーズの顔である、洗練されたスーツを着た千恵蔵金田一のイメージに合わせるかのように、かなり軽快でジャジーな映画音楽が流れる。のちの石坂金田一や古谷金田一の描く、タバコの煙やら咳こむ親子連れ客やらでごみごみした印象の列車内とはまるで違う、かなり開明的な1940年代である。明るいね~!
・走行中の列車が鳴らす汽笛の音を聞いて、金田一と向かいの白木静子が立ち上がって窓を閉めようとするのだが、この行動の意味が分かる人も、2020年代じゃあどんどん少なくなってるんだろうな……だって、1980年代生まれの私ですら、それを実際にやったことはないんだもんね、蒸気機関車に乗ったことないから。まず、隣に別の乗客がいるのにスパスパとタバコを吸ってる人がいる時点で驚きますよね。
・行動の習慣自体は古いのだが、閉めようと窓に手をかけた金田一と静子とが、指が触れあってはっとするという出会いの描写は2020年代でも充分すぎるほどに通じる描写ですよね! いいよな~、こういうベタさ。
・スキのないスーツ姿にキリっとした二枚目フェイスということで、見た目こそ原作小説の金田一耕助とはまるで正反対な片岡千恵蔵なのだが、いざしゃべり出すと意外なほどにひょろひょろっとした高音で、ところどころでどもる癖があるのも、中身は原作にかなり準拠している感じがして実に面白い。全然別のキャラというわけでもないのが、いいね!
・亀……? 千恵蔵金田一、なぜ荷物に生きた亀を入れてんの? 私立探偵っていう職業でも説明のつかない、「荷物に亀」問題……これは冒頭から難問だぜ!
・列車で向かいの席に座った、荷物に亀を入れてるわけのわかんない男が、田舎行きのバスでも向かいに座って意味ありげな視線を投げかけてくるのだから、静子が大いに警戒するのも当然である。こわっ!
・バスを降りて、私有地であるはずの久保果樹園に入っても静子を追いかけてくる金田一! ここで流れる音楽こそコメディタッチなメロディなのだが、静子の側からしてみればそうとうな恐怖である。なにコイツ~!?
・金田一から逃げて息をゼーハーさせながらやって来た静子を笑顔で歓待する久保春子。のちの悲劇をおもうと非常にいたたまれなくなるほどにまぶしい笑顔が印象的な女性なのだが、前髪とサイドをこれでもかと言うほどにアップさせた髪型がもう「100% サザエさん」である。あれって、戦後から1950年代半ばくらいまで大流行した「モガ(モダンガール)ヘアー」っていうんですって。なるほど~、じゃ、陽キャな春子がやってても全然ぴったしなのか。
・春子のヘアスタイルの影に隠れているようでいて、実はよくよく見てみると、肩パットバリバリのコンサバスーツにリーゼントすれすれのポンパドゥールをきめた静子のスタイルもなかなかに先鋭的である。『ブレードランナー』のレイチェルじゃん! おいおい、原節子が岡山のど田舎で2019年モデルのレプリカントになってるよ!! なんて攻めた映画なんだ……
・久保邸でくつろぎ、荷物に亀を入れてきた理由を笑いながら説明する金田一なのだが、それを聞いて不機嫌そうに「ぷいっ!」と顔をそむける静子……ていうか原節子さんが非常にかわいい。これまさに、70年の時を経てもいささかも衰えぬ「萌えキャラ」の祖なり!!
・別に一言もセリフをしゃべってないのに、ただ一柳鈴子の琴を聴いているだけで「あぁ、このおばさんヤな感じだな~。」と即座に観客に思わせる杉村春子の無言の演技がすばらしい。もうこれ、大女優のオーラどころかフォースのレベルですよ! ダークサイドのほうの。
・久保春子と一柳賢造とのめでたい婚礼の直前というタイミングで、春子を「裏切者」とののしる田谷照三なる人物からの脅迫文が。しかも、その照三に実際にあったという静子の言うことには、照三は戦争から復員して「三本指」になっているのだという……いやがおうにも不穏な緊迫感がみなぎる物語の進み方が実にスリリングである。さすが上映時間が短いだけあり、テンポが小気味いい!
・そして婚礼の日になり、一柳家の周辺には白昼堂々、これ見よがしに怪しい風体の、顔にどえらい傷を負って三本指になった復員服の男が出没! この男がやって来た、その意図とは……? ドキドキするなぁ!
・春子の男性遍歴を告発するていの脅迫文や、婚礼当日に三本指の男が現れたという情報を聞いてかなり動揺しながらも、冷静なふりをして「今夜の婚礼は規定事実だ!」と押し切ろうとする一柳賢造の神経質な感じが非常に良い。盛り上がってまいりました。
・一柳家に顔を出したついでのように、もう一方の久保家の方にも現れて、窓越しに偶然目が合った静子を驚かせる三本指の男。ここ、一見なんの脈絡もない、原作小説でも描写されない映画ならではの単なるショック演出のように見えるのだが、のちのちに判明する真相から見るとけっこう意味のあるくだりになっているのが興味深い。特に、彼を目撃した静子が銀造に、「顔に傷跡のある怪しい男が……」と報告しているのは非常に重要なポイントである。あれ、静子がそう言うってことは……?という、かなりのサービスヒント。うまい!
・婚礼の準備を整えて、車に乗って一柳本陣にやって来る春子と銀造を、村中の人々が総出で見物するというくだりがけっこう新鮮に見える。旧家の婚礼は、村をあげてお祝いする明るい大ニュースだったのね。めでてぇな!
・一柳本陣で古式にのっとった婚礼の儀が重々しく行われるいっぽう、主のいない久保家では、「メガネ取った方がかわいいよ。」「うっさいわね!」という、金田一と静子との恋のツンツンゲームが! 金田一、かなり攻めますね~! ここら辺のアグレッシブさは原作の金田一とはまるで別人で、どっちかというと「孫」と言い張っているあの少年のシルエットが浮かんでくる……そっちかい!
・単純だが、久保家でピアノを弾く静子から、一柳家で琴をつまびく鈴子に切り替わるカットセンスが面白い。市川崑みたい。
・モノクロ映画なだけに、真夜中に聞こえてくる人間のうめき声と琴糸の切れる音が非常に怖い! カラー映画には出せない夜の闇の深さ。
・密室トリックであることは原作と同じなのだが、凶器が日本刀でなく「柄の長い刺身包丁」になっているのが非常に興味深い。やはり軍刀を連想させる日本刀は出せなかったのね。
・のちに、『生きる』(1952年)や『七人の侍』(1954年)といった黒澤映画でかなりインパクトのある役を演じることとなる宮口精二が、本作ではほんとに毒にも薬にもならないまじめな磯川警部を物静かに演じているのが逆に珍しい。印象うっすいなぁ~!
・磯川警部に対して金田一が「白木静子。只今は僕の助手を務めています。」と紹介した時に、静子が一瞬むっとしただけで即座にその設定にノッてしまうのが少々不可解である。でも、そう言わなきゃ静子も事件現場を見ることができなかったろうし、まずは逆らわずに従ったのだろうか。内心、「あとでこ〇す!!」とはらわたが煮えくり返っていたのかも。
・親友の春子の変わり果てた姿を目の当たりにして取り乱す静子。しかしそれを制して「この場合必要なのは、冷静な頭脳と判断です。感情は有害ですよ……」と厳かに語る金田一がかなりかっこいい。それまでのへらへらした印象とはまるで違う変貌である。う~ん、やっぱ千恵蔵金田一って、はじめちゃんっぽいぞ!
・金田一が磯川警部に「どうぞ調査を続けてください、僕は勝手にやりますから。」と声をかけるあたりから始まる、えんえん2分間にわたるほぼ無言のトリック捜査シーンが圧巻である。BGM いっさいなしでもみなぎりまくる緊張感は、千恵蔵金田一の眼光のたまものですよね。そういや、ジェレミー=ブレットの『シャーロック・ホームズの冒険』でも、『入院患者』とかでこういう沈黙の捜査シーンがあったなぁ。実力ある名探偵俳優だからこそできる濃密な時間だ!
・そうは言いながらも、捜査の合間にいきなり静子(原節子よ!?)のおみあしを抱き上げて「ちょっと、その竹を覗いてみてください!」と言い出したりして、クスッとしてしまうやり取りを差し込むのも上手なもの。それに対する静子も静子で、いつの間にか金田一を「耕助さん」と下の名前で呼び出すので、異性バディ物としても本作はかなりいい感じの滑り出しを見せてくれるんですよね。いいぞ!
・金田一と会見する時に、一柳糸子が「この事件の下手人は、田谷照三です!」と言い出すあたり、事件の行方よりもフツーに「下手人」って言ってるところが気になってしまう。何時代……?
・原作では金田一が単独で事件を解決していくのだが、本作では「数学の素養があって古文書の解読にも興味がある」という驚異のスペックを備えた静子の試行錯誤からヒントをもらって真相にたどり着くという流れになっている。静子が助手でいる意味があるのはいいんですが、ちょっと静子が超人すぎやしないかい!?
・金田一が磯川警部にトリック解明への立ち合いをお願いする時に、待ち合わせ時間について「3時ちょうど」という意味で「正(しょう)3時です。」と言うのも、もはや21世紀の日本人は使わない言い方なので時の流れを強く感じさせる。言葉は変わってくんだなぁ。
・本作が一番すごいのは、本編終了15分前くらいまでほぼ原作通りの推理を淡々と語っていた金田一が、いきなり「……という結論で終わらせたかったんでしょうけどね、真犯人は!」と言い出してニヤリと笑い、映画オリジナルの「さらなる真相」を暴露していくという衝撃の展開なのである! なんつう力技……
・事件関係者が一堂に会する中で、金田一にうながされて『一柳家古文書』の中の「破り捨てられた一節」を想像で語り始める静子! なんかいきなりオカルトじみてきましたよ!? あんたは『カリオストロの城』のクラリスか? 『ラピュタ』のシータか!? まいっか! 原節子だし!!
・金田一のこの一言「この事件の心理的原因は、古き者の新しき者に対する憎悪、封建思想の自由に対する絶望的抵抗です。」は、本作の最初から最後までさまざまに言い方を変えて繰り返されるのだが、これこそが、終戦直後の1947年に『本陣殺人事件』が、歌舞伎界から映画界に進出して大スターとなった片岡千恵蔵を金田一耕助役に召喚して映画化された理由そのままでもあると思う。いや~、やっぱ全てのはじまりの第1作は伝説的だわ!
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9割がた「龍」なんだけど……最後の最後で蛇尾ったワン ~映画『八犬伝』~

2024年11月11日 09時24分56秒 | ふつうじゃない映画
 はいはいど~もみなさま、おはようございます! そうだいでございまする。いや~、いよいよ秋めいてまいりましたねぇ。

 さてさて、今年の秋、だいたい映画『箱男』くらいから始まりました、極私的な「秋のおもしろ新作ラッシュ」も、ついにおしまいを迎えることとあいなりました。『黒蜥蜴2024』でしょ、『カミノフデ』でしょ、『傲慢と善良』でしょ、『ジョーカー フォリ・ア・ドゥ』でしょ……うん、こうやって振り返ってみると、ぜんぶがぜんぶ大当たり!というわけでもなかったのですが……まぁ、新作なんてそんなもんですわな。

 そいでま、今回取り上げるのは、それら秋の強化月間の掉尾を飾る、この一作でございます。


映画『八犬伝』(2024年10月25日公開 149分 キノフィルムズ)
 『八犬伝』は、山田風太郎(1922~2001年)の長編小説『八犬傳』(1982~83年連載、現在は角川文庫より上下巻で発刊)を原作とする映画作品である。
 江戸時代の読本(よみほん)作者・曲亭馬琴(1767~1848年)の長編伝奇小説『南総里見八犬伝』(1814~42年)をモチーフに、28年もの歳月を費やし失明してもなお口述筆記で書き続け全106冊という大作を完成させた馬琴の後半生や浮世絵師・葛飾北斎(1760~1849年)と馬琴の交流を描く「実の世界」と、『南総里見八犬伝』作中での、安房国大名・里見家にかけられた呪いを解くために八つの珠に引き寄せられた八人の剣士たちの運命を描く「虚の世界」との2つの世界が交錯する物語となっている。
 本作の撮影は、香川県琴平町の旧金毘羅大芝居(金丸座)、兵庫県姫路市の姫路城・亀山本徳寺・圓教寺、滋賀県長浜市の大通寺、山梨県鳴沢村などで行われた。

あらすじ
 時は江戸時代後期、文化十(1813)年。
 人気読本作家の曲亭馬琴は、親友の浮世絵師・葛飾北斎に新作読本の構想を語り始める。それは、由緒正しい大名・里見家にかけられた恐ろしい呪いを解くために、里見の姫が祈りを込めた八つの珠を持つ八人の剣士たちが運命に引き寄せられて集結し、壮絶な合戦に挑むという、壮大にして奇怪な物語だった。
 北斎はたちまちその物語に夢中になるが、馬琴から頼まれた挿絵の仕事は頑なに断る。しかし頻繁に馬琴を訪ねては物語の続きを聞き、馬琴の創作の刺激となる下絵は描き続けるのだった。やがてその物語『南総里見八犬伝』は、馬琴の生涯を賭けた仕事として異例の長期連載へと突入していくが、物語も佳境に差し掛かった時、老いた馬琴の目は見えなくなってしまう。苦悩する馬琴だったが、義理の娘のお路から「手伝わせてほしい」と申し出を受ける。
 馬琴は、いかにして失明という困難を乗り越え、28年もの歳月を懸けて物語を書き上げることができたのか? そこには、苦悩と葛藤の末にたどり着いた、強い想いが込められていたのだった。

おもなキャスティング
曲亭 馬琴 …… 役所 広司(68歳)
葛飾 北斎 …… 内野 聖陽(56歳)
滝沢 お路 …… 黒木 華(34歳)
滝沢 鎮五郎 / 宗伯 …… 磯村 勇斗(32歳)
滝沢 お百 …… 寺島 しのぶ(51歳)
渡辺 崋山 …… 大貫 勇輔(36歳)
葛飾 応為 …… 永瀬 未留(24歳)
四世 鶴屋 南北  …… 立川 談春(58歳)
七世 市川 団十郎 …… 二世 中村 獅童(52歳)
三世 尾上 菊五郎 …… 二世 尾上 右近(32歳)
丁字屋 平兵衛   …… 信太 昌之(60歳)
歌舞伎小屋の木戸番 …… 足立 理(36歳)

里見 伏姫   …… 土屋 太鳳(29歳)
犬塚 信乃   …… 渡邊 圭祐(30歳)
犬川 壮助   …… 鈴木 仁(25歳)
犬坂 毛野   …… 板垣 李光人(22歳)
犬飼 現八   …… 水上 恒司(25歳)
犬村 大角   …… 松岡 広大(27歳)
犬田 小文吾  …… 佳久 創(34歳)
犬江 親兵衛  …… 藤岡 真威人(20歳)
犬山 道節   …… 上杉 柊平(32歳)
大塚 浜路   …… 河合 優実(23歳)
玉梓の方    …… 栗山 千明(40歳)
金碗 大輔 / 丶大法師 …… 丸山 智己(49歳)
金椀 八郎   …… 大河内 浩(68歳)
里見 義実   …… 小木 茂光(62歳)
扇ヶ谷 定正  …… 塩野 瑛久(29歳)
船虫      …… 真飛 聖(48歳)
網乾 左母二郎 …… 忍成 修吾(43歳)
赤岩 一角   …… 神尾 佑(54歳)
大塚 蟇六   …… 坂田 聡(52歳)
犬田屋 文吾兵衛 …… 犬山 ヴィーノ(56歳)
姨雪 世四郎  …… 下條 アトム(77歳)
姨雪 音音   …… 南風 佳子(60歳)
足利 成氏   …… 庄野﨑 謙(36歳)
横堀 在村   …… 村上 航(53歳)
河鯉 守如   …… 安藤 彰則(55歳)


おもなスタッフ
監督・脚本 …… 曽利 文彦(60歳)
製作総指揮 …… 木下 直哉(58歳)
撮影    …… 佐光 朗(66歳)
音楽    …… 北里 玲二(?歳)
配給    …… キノフィルムズ


 いやぁ、八犬伝ですよ。ここにきて、日本文学史上に燦然と輝く大名作『南総里見八犬伝』を原作とした作品のご登場でございます!

 私はねぇ……『南総里見八犬伝』には、ちとうるさ……いというほどでもないのですが、色々と思い入れはあるんですよね。
 まず、大学時代に専攻ではないのですが『南総里見八犬伝』研究の大家である先生の講義や実習を受けたことがありまして、まぁ真面目に受講していなかったので身につくものはほとんど無いダメ学生だったのですが、最低限、曲亭馬琴のことを「滝沢馬琴」と呼んでは絶対にいけないというルールくらいは覚えました。
 その後、千葉暮らしの劇団員だった時に劇団の公演で『南総里見八犬伝』を元にした舞台の末席に加えさせていただきました。なんてったって千葉県ですから、そりゃ『南総里見八犬伝』はやりませんとね。里見家とは直接の関連は無いのですが、千葉市は亥鼻公園にある天守閣を模した外観の千葉市立郷土博物館を前に、物語の登場人物を演じることができたのは、分不相応ながらも良い思い出であります。その頃、下北沢の古書ビビビで購入した岩波文庫版の『南総里見八犬伝』全10巻を読破したのはうれしかったなぁ~。江戸文学、がんばれば読めんじゃん!と。
 そして、最近ともいえないのですが、6、7年前に仕事の関係で『南総里見八犬伝』にまた関わることがありまして、その時は原書に加えて、学研から出ている児童向けコミカライズや、講談社青い鳥文庫、角川つばさ文庫のジュブナイル版などを参考にしました。あと、2006年の TBSスペシャルドラマ『里見八犬伝』(主演・滝沢秀明)や1983年の映画『里見八犬伝』(主演・薬師丸ひろ子)も当然、観ました。映画の『里見八犬伝』はクソの役にも立ちませんでした。
 惜しむらくは、NHKで放送されていた伝説の連続人形劇『新八犬伝』(1973~75年放送 人形制作・辻村ジュサブロー)を観れていないことなんですよねー。人形はジュサブローさんの美術展で観たことあるんだけどなぁ。

 まぁ、そんなこんなで要は、わたくしは『南総里見八犬伝』が大好きだということなのであります。好きなキャラは籠山逸東太(こみやま いっとうだ)です!

 そんな私が、今回の映画『八犬伝』の公開を心待ちにしていたことは火を見るよりも明らかであったわけなのですが、ここで注意しておかなければならないのは、本作が曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』の直接の映画化作品では決してない、ということです。ややこしや!

 そうなんです、上の Wikipedia記事にもある通り、この映画はあの「忍法帖シリーズ」で戦後昭和のエンタメ界を席巻した人気小説家・山田風太郎の長編小説『八犬傳』を原作としているのです! そして、山田風太郎にはこの『八犬傳』の他にもう一つ、曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』に想を得た『忍法八犬伝』(1964年連載)という奇想天外忍術時代小説も存在しているのです! うわ~、沼また沼!! 八犬伝ワールドは広大だわ……

 え? 読みましたよ……そりゃあーた、『八犬傳』も『忍法八犬伝』も、どっちも読んだに決まってるじゃないですか。残念ながら映画を観るまでには間に合わなかったのですが、どっちも読みましたよ、だって面白いんだもん!!

 正直申しまして、山田風太郎の2作品のうち、面白いのは圧倒的に、映画化されなかった方の『忍法八犬伝』のほうなのですが、こちらはもはや「メディア化なんてクソくらえ!!」とばかりに、撮影技術的にも放映倫理的にも映像化300% 不可能な桃色忍術合戦のオンパレードになっており、山田風太郎の小説かエロゲーの中でしかお目にかかれないようなバカバカし……幻惑的なイリュージョンが目白押しの一大絵巻となっております。すばらしすぎる。そりゃ角川春樹も映画化しないわ。
 ちなみに概要だけ触れておきますと、こちらの『忍法八犬伝』は曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』の続編のような内容となっており、馬琴の物語で大団円を迎えた里見家と八犬士の子孫たち(約120年後 里見家当主は里見義実の9代あとの里見忠義)が、江戸時代初期の「大久保忠隣失脚事件」(1613年)に連座して改易された史実を元にした……んだかなんだかよくわかんない崩壊劇となっております。でも、史実を最大限遵守したタイムスケジュールになってるのがすごいんだよなぁ。
 ほんと、ものすごい「里見一族の滅亡」ですよ。あの、八犬士たちの高潔な志はどこにいったんだと……まさに国破れて山河在りといったむなしさで、ペンペン草ひとつ残らない気持ちいいまでのバッドエンドは、まさに山風ならではのニヒリズムといった感じなのですが、そのラストシーンに、読者の誰もがその存在を忘れていた「あの人」がふらふらと通りすぎるというオチは、もう見事としかいいようがありません。あ~、君いたね~!みたいな。ほんと、読者をたなごころでクルクル回す手練手管ですよね。曲亭馬琴もすごいけど、山田風太郎も相当やっべぇぞ!!

 え~、いつも通りに脱線が長くなりました。

 それで今回映画化された小説『八犬傳』についてなのですが、こちらはほぼほぼ、映画版と同じ筋立てとなっております。つまりは「江戸時代の曲亭馬琴パート」と「南総里見八犬伝パート」のか~りぺったか~りぺったで物語が進んでいくスタイルですよね。

 ほんで、この『八犬傳』は1980年代前半の小説ということで、山田風太郎の還暦前後の作品ということもあってか、約20年前に『忍法八犬伝』に見られた全方位に噛みつくごときアグレッシブなストロングスタイルはさすがに鳴りをひそめて、かなり忠実に曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』の世界をなぞりつつ、その一方でそういった「正義の叙事詩」を世に出した、出さなければならなかった馬琴の実人生を克明に小説化した端整な物語となっております。うん、映画化するんなら絶対こっちのほうだわ。

 ただ、ここで大きな問題となってくるのが、この小説『八犬傳』のあまりにも落ち着きすぎた締めくくり方なのでありまして、端的に言ってしまうと、「馬琴はなんとか『南総里見八犬伝』を完成させましたとさ。おしまい!」みたいな感じで、かなりスパッと終わっちゃうんですよね。正直申しまして、「風太郎先生、電池切れたな……」と察せざるを得ない、余韻もへったくれもないカットアウトなのですが、小説はそれでいいとしても、2時間30分も観客を引っ張り続けた映画は、そうはいきませんやね! 今作は、そういうところでかなり苦労したのではなかろうかと。

 実のところ、私が今回の映画作品を観て強く感じたのも、「この風呂敷、どうやってたたむんだろう?」というところ、ほぼ一点でした。

 だって、『南総里見八犬伝』のダイジェストに加えて、失明してもなお執筆をやめなかった馬琴の生涯を描くんでしょ? 主演、役所広司さんと内野聖陽さんなんでしょ!? 玉梓の方を栗山千明姫が演じるんでしょ!? 面白くならないはずがないじゃないですか。
 だとしたら、その際限なく豪華絢爛になってしまった物語をどう締めるのか。ここが唯一最大の課題だと思うんですよ。そして、残念ながらその解決策は、肝心カナメの原作小説には存在していないのです……どうする!?

 そんでま、それに対する映画版オリジナルのエンディングは、確かに用意されていました。されてはいたのですが……
 う~ん、THE 無難!! まぁそうなるかなという、100人が考えたら80人くらいが思いつきそうな『フランダースの犬』オチとなっていたのです。

 いや、うん、わかる! だいたい、原作の風太郎先生がほっぽっちゃってるんですから、それよりひどい締め方にはなりようもないはずなのですが、も~ちょっとこう、ねぇ! そんな小学生向けの学習マンガみたいな安全パイじゃなくて、「令和に『八犬伝』を世に出した曽利文彦ここにあり!!」みたいな、観客に爪跡を残す伝説を創ってほしかったなぁ、と。

 惜しい! 実に惜しいんですよね。そこまでけっこう面白かったんですから!
 まず、正義をつらぬく八犬士たちが悪をくじいて平和を勝ち取るという『南総里見八犬伝』の世界に反して、やることなすこと上手くいかず家庭もほぼ崩壊という悲劇に見舞われる曲亭馬琴という対立構造が非常に興味深く、なんとか息子の嫁お路の献身的な協力を得て『南総里見八犬伝』を完結させた馬琴ではありましたが、その怪物的な創作エネルギーの犠牲になったかのようにこの世を去って行った息子・宗伯や妻・お百の存在価値とは一体なんだったのかというところが、映画『八犬伝』なりの大団円を迎えるためのキモだったと思うのです。

 ところがどうでい! あんなエンディングじゃあ、馬琴は浮かばれたとしても、宗伯やお百の魂魄は地上に縛られたまんまじゃねぇんですかい!? そんな自分勝手なカーテンの閉め方、あるぅ!? 寺島しのぶさんが化けてでるわ!!
 とにかくどんな言葉でもいいから、苦悶の表情を浮かべて死んでいった宗伯やお百に対する馬琴の姿勢のようなものは見せてほしかったです。あれじゃ馬琴自身がボケて2人のことを忘れちゃってる可能性すらある感じでしたからね。カンベンしてよ~!!

 いや~、ほんとこの映画、最後の最後までは面白く観たんだよなぁ。特に現実の江戸世界のパートに関しては、もう文句のつけようもないくらい最高のキャスティングと演技で、いつまでも、2時間でも3時間でも観ていられる感じだったのですが。

 主演の役所さんも内野さんも当然すばらしく、お路役の黒木華さんも言うまでもなく最高だったのですが、私が特に目を見張ってしまったのは、「フィクションだからこそ正義が勝つ!」という創作哲学を堅持する馬琴に大いに揺さぶりをかける、「悪が勝つのが現実じゃござんせんか」理論を展開したダークサイドの売れっ子作家・四世鶴屋南北を見事に演じきった立川談春さんの大怪演でした。これ、ほんとすごかった!
 正義至上主義の馬琴に対して、へらへらと嗤いながらも昂然と反駁する舞台奈落のブラックすぎる南北……絵的にも、地下から見上げる馬琴と地上の舞台装置から顔を逆さまにして見下す南北ということで、まるでトランプのカードのような対称配置が非常に面白い会話シーンだったのですが、ここ誇張表現じゃなく、あの『ダークナイト』(2008年)を彷彿とさせる正義と悪の名対決だと思いました。それで、正義派の馬琴が結局は南北に言い負かされた形で終わっちゃうんだもんね! 南北もまた、ものすごい才能だったのね~。

 ところで、史実の南北は馬琴の12歳年上だったらしいので、実際には『スター・ウォーズ』サーガの銀河皇帝パルパティーンみたいなヨボヨボのじいさまが、「ふぇふぇふぇ……馬琴くんも、まだまだ若いのぉ。」みたいな感じであしらう雰囲気だったのかも知れませんね。ま、どっちでも面白いけど!
 余談ですが、映画のこのシーンで、馬琴と北斎を舞台奈落に案内する、いかにも歌舞伎の女形さんっぽいナヨッとした木戸番さん(演・足立理)がいたじゃないですか。「あの、そろそろ蝋燭が消えます……」って言ってた人。
 あの人、風太郎先生の小説にもちゃんと出てくるのですが、小説ではなんと、江戸時代でもかなり有名な「あの人」の仮の姿という設定になってるんですよね! 話がややこしくなるので映画でカットされちゃったのは仕方ないですが、気になった人はぜひとも原作小説を読んでみてください。いや~、化政文化、激濃な才能が江戸に集まりすぎよ!!

 まぁまぁ、こんな感じで馬琴の現実パートはほんとに面白かったんですよね。

 もちろん、それに対する『南総里見八犬伝』パートも負けずに楽しかったのですが、やっぱりまともに全部映像化するのは絶対にムリということで、犬村大角の発見以降の物語の流れがいきなり雑になってしまったのは、予想はつきつつも、やっぱり残念ではありました。いや、しょうがないんですけどね!
 この、『南総里見八犬伝』における「犬村大角が出たとたんにザツ化問題」は、八犬士を探すために東日本各地に散った主要メンバーが、再び安房国(房総半島のはしっこ)に集結するまでの「帰り道でのなんやかやがめんどくさすぎ」であることと、八犬士の大トリである『ドラゴンボール』の悟空なみにチートなスーパーヒーロー少年・犬江親兵衛の登場&加入を物語るパートの「規模が京都まで拡大してめんどくさすぎ」であることが起因しているわけなのですが、これをまともに追うわけにはいかない大抵のダイジェスト小説や映像作品は、このあたりをまるっとはしょって、「まぁ色々あったけど八犬士が集まって、玉梓の方が転生した悪者をやっつけたヨ!」という、まさに今回の映画版がそうしたような雑な RPG的展開に堕してしまうのです。

 いや、しょうがねぇよ!? しょうがねぇけど、この場合、いちばんの被害を被ってしまうのは、満を持しての大活躍をほぼ全てカットされてしまう犬江親兵衛くんなのでありまして、今回の映画を観た人の多くも、「なんだ? あの唐突に馬に乗って現れた親兵衛ってガキは?」という印象を持ったかと思います。親兵衛かわいそう! さすがの藤岡マイトくんをもってしても、あのとってつけた感を拭い去ることはできなかったでしょう。
 あと、最後の八犬士 VS 玉梓の方の決戦シーンも、なんだかほんとに典型的な RPGの魔王の城といった感じで、右手だけムッキムキになって定正を締め上げる玉梓も、な~んかチープになっちゃいましたよね。あれ、 CGでちょろっとでもいいから、ムキムキになった腕を袖の中にしゅるっと引っ込める描写を入れたらよかったのに、それをやらずにムキムキ腕の造形物を着けた栗山さんだけを撮っちゃうもんだから、コントみたいな肉じゅばん感が増しちゃったと思うんだよなぁ。あそこ、残念だったな……どうせ栗山さんなんだから、思いきって20年ぶりにあの射出型モーニングスター付き鎖鎌「ゴーゴーボール」を復活させればよかったのに! 栗山さん、たぶん喜んでやってたよ!?
 「八犬士が玉を集めたら勝てました。」っていうのも、ねぇ。ちょっと安易だけど、まぁフィクションなんだから、しょうがねっか。

 それはまぁいいとして、こちら『南総里見八犬伝』パートで輝いていたのは、やはり実質主人公格である「名刀村雨丸」の使い手・犬塚信乃を好演した渡邊圭祐さんと、今年の NHK大河ドラマ『光る君へ』であんなにか弱い一条帝を演じたのに、本作では一転して悪辣非道な中ボス・扇ヶ谷定正を嬉々として演じていた塩野瑛久さんのお2方でしたね。

 いや~、渡邊さんはほんとにいい俳優さんですね! まさか、『仮面ライダージオウ』であんなに怪しげな3号ライダーを演じていた彼が、大スクリーンでこんなにもド正統な正義のヒーローを演じきる日がこようとは……非常に感慨深いです。
 古河御所・芳流閣における古河公方のリーサルウエポン犬飼現八との対決なんか、CG による誇張も非常にいいあんばいで手に汗握る名勝負だったのですが、あそこ、小説ではかなりタンパクに描かれているのですが、映画版は現八の武器である捕縄をうまく使って、いったん屋根から転落した信乃が捕縄を命綱にして城壁を垂直に走り、また屋根に登ってくるというムチャクチャなアクションを映像化してましたよね。あれ、絶対に小説版の『魔界転生』へのオマージュでしょ! やりますねぇ!!
 渡邊さん、かっこよかったなぁ~。アクションもカッコいいんですが、ふと俯き加減に黙り込むと、あの天本英世さんをちょっと思い出させるような知性もにじみ出るんですよね。これからの活躍にも期待大です! 祝え、大名優の誕生を!!

 いっぽうの塩野さんなのですが、完全にやり慣れていないド悪役を、ムリヤリ悪ぶって演じているという不自然さが、「実は小物」という定正のキャラクターと妙にリンクしていて最高だなと思いました。これはキャスティングの勝利ですね! こんな定正、絶対に根っからの悪人じゃないもの! ちょっと酒グセと女性の趣味が悪いだけなんだもの。

 その他、『南総里見八犬伝』パートに出ている俳優さんで気になった人と言えば、2024年の映像界でいきなり有名になった河合優実さんが実質ヒロインの浜路を演じている点なのですが、いやいや、こっちのパートはフィクション世界なんですから、なんでそんなに「リアルな」お顔立ちの河合さんがヒロインを演じてらっしゃるのかな、という疑問は残りました。どう見たって現実パート顔でしょ。馬琴の近所の娘さんって顔じゃないの……いや、もうこれ以上は申しません。

 ヒロインと言えば、かつてあの『るろうに剣心』3部作で、あれほどキレッキレのアクションを見せていた土屋太鳳さんが、本作ではまるで身体を動かさない伏姫を演じるベテラン感をみなぎらせていたのにも、時の流れを痛感して感慨深くなりました。そうよねぇ、もうお母さんなんだものねぇ。


 と、まぁ、そんなこんなでありまして、もともと『南総里見八犬伝』ファンである私にとりまして今回の映画『八犬伝』は、直接の映画化作品ではないにしても、おおむね期待した以上に満足のいく作品でございました。単純に、観ていて楽しかった!
 ただ、それだけに惜しいのは、やっぱり最後の締め方なんですよね。そこさえ、他の作品に無い「なにか」を提示してくれさえすれば、邦画史上に残る完全無欠の名作になったはずなのですが……そこが非常に残念でなりません。役所さんだったら、どんな展開でも対応できたはずなのに、なんであんなに無難な感じになってしまったのか! まさにこれ、龍頭蛇尾。

 でも、現状可能な限り、最高級の逸材が集結した豪華絢爛な映画作品に仕上がったことは間違いないと思います。小さな画面じゃなくて大スクリーンで見ることができて良かった~!!


 いや~、『南総里見八犬伝』って、ホンッッッットに! いいもんでs……

 あ、思い出した。うちの積ん読に、あの桜庭一樹さんの『南総里見八犬伝』オマージュの『伏 贋作・里見八犬伝』(2010年)が未読のまま塩漬けになってたわ……プギャー! これ、『伏 鉄砲娘の捕物帳』(2012年)っていうアニメ映画にもなってるの!? エー、あの桂歌丸師匠が馬琴を演じてたの!?

 こここ、これを読まずして、観ずして『南総里見八犬伝』ファンだなどとは片腹痛し! おこがましいにも程がある!!

 また、出直してまいります……やっぱ『南総里見八犬伝』は広大だワン☆
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こんなんでいいじゃん!レトロ感たっぷりのひらきなおりエンタメ ~『黒蜥蜴』2024エディション感想本文~

2024年11月09日 23時16分52秒 | ミステリーまわり
 え~、そんでま、前回に引き続きまして『黒蜥蜴』2024エディションの感想なんですけれども。

 私、けっこう楽しめました! 実は、視聴するまでは個人的に不安要素が多いなと感じていて、かなり懐疑的なまなざしで画面とにらめっこしていたのですが、だんだんとこの作品の「方向性」みたいなものがわかってくると、あぁそういう楽しみ方をすればいいのねといった感じに肩の力がぬけて、どんどん面白くなってきたんですよね。正直、最初の心の中でのハードルがかなり低かったから後は上がるだけという好条件もあったのでしょうが、観終わった後は「船越小五郎の第2作があってもいいじゃないか!」という気分にまで上昇していたのです。ほんと、この明智探偵事務所チームが1作だけで解散しちゃうのは実にもったいない!


 まず、2024エディションに入る前に前提としておさえておきたいのですが、今回の船越小五郎 VS 黒木蜥蜴のバージョンをもってなんと11度目の映像化になるという、江戸川乱歩作品の中でも随一の映像化頻度の高さを誇る『黒蜥蜴』において、言うまでもなくその現時点での最新バージョンがこの2024エディションであることはもちろんなのですが、これが「令和最初の『黒蜥蜴』」ではぜっっっったいにないことは!ここでしっかりと断言させていただきたいと思います。なんか、一部媒体でそんな妄言をぬかしてる文章なんか、ありませんこと!? なんと無礼な!!

 令和最初の『黒蜥蜴』は、この1コ前の『黒蜥蜴 BLACK LIZARD』(2019年12月放送 監督・林海象 NHK BSプレミアム)ですから!!
 いくら、明智小五郎役の俳優さんの不祥事で再放送やソフト化に暗雲が立ち込めているとはいえ、この作品を無視するなんて許しませんぞ! 歴代、いくたの美人女優さんがたが演じてきた(丸山さんも女優だ!!)女賊・黒蜥蜴の中でも、「爬虫類っぽさ」部門と「アクション」部門でぶっちぎりの一位を獲得している、りょうさんによる黒蜥蜴……ほんとに最高でしたよね。あとは、岩瀬庄兵衛役の中村梅雀さんの、岩瀬早苗を押しのけるプリティさが際立った異色の逸品でした。ほんと、クライマックスで黒い特高警察みたいな悪ぶった衣装に身を固めてた姿が最高に似合ってなくてかわいい♡

 ともかく、そっちの2019エディションの感想は過去記事にあるので深くは立ち入らないのですが、そちらは何といっても黒蜥蜴役のりょうさんの超人的なビジュアルが世界観全体を併呑したかのように、時代設定を思いッきり SFな「架空の近未来」にして、もはや江戸川乱歩作品なんだか手塚治虫作品なんだか『攻殻機動隊』(アニメ版のほう)なんだかよくわかんない作品に仕上がっていたので、りょうさんが大好きな私としては異存なぞあろうはずもないのですが、『黒蜥蜴』の映像化作品としては、いささか冒険が過ぎるような異端の一作となっておりました。ほんと、再放送の機会が絶望的なのがまことにもったいない!!

 そんな2019エディションのわずか5年後に、今度は BS-TBSに場を移して映像化されることとなった今回の2024エディションなのですが、まず放送前に発表されたアナウンスをチェックしたとき、私は正直言いまして「ふ~ん、がんばってね。」的な、何とも言いようのないテンションの低下をもよおさずにはいられなかったのでありました。

 いわく、「サスペンスドラマの帝王」こと船越英一郎の明智小五郎、いわく、もはや大御所女優となった黒木瞳ふんする黒蜥蜴、いわく、作品の時代設定は「昭和四十年頃の雰囲気と現代を織り交ぜた架空の時代」……

 私の主観的な印象ではあるのですが、どうもこの2024エディションは新味に欠けると言いますか、TV的なアイコンにまみれている感じで、少なくとも原作小説の『黒蜥蜴』の味わいをどうこうしようとかいう意思は薄いような気がしたのです。
 だって、「昭和四十年頃」って1965年ってことでしょ? 原作の『黒蜥蜴』の時代設定はその約30年も前の昭和九(1934)年の物語なんですから、なんで21世紀現代でもなく原作リスペクトでもない、そんな中途半端な時代になってるのかって話なんですよ。しかもそれを踏まえた上での「架空の時代」……?
 ちなみに、おそらく映像化された『黒蜥蜴』の中で特に有名なのは1962年大映映画版(監督・井上梅次 黒蜥蜴は京マチ子)と1968年松竹映画版(監督・深作欣二 黒蜥蜴は丸山明宏)、そして言わずと知れた天知小五郎シリーズの中での1979年ドラマ版(監督・井上梅次 黒蜥蜴は小川真由美)の3バージョンなのではないかとおもわれます。ヒエ~どの黒蜥蜴もクセがすごい!

 こう見てみると、今回の2024エディションが標榜している「昭和四十年」というキーワードは、本来 TVドラマを主戦場としている船越英一郎さんのテイストからすれば一番意識するはずの天知小五郎シリーズからはややずれた、そこからさらにひと昔前の設定になっているという違和感が残ります。実際に見比べてみても、天知小五郎シリーズは実質的に「1980年代」の雰囲気をすでに先取りしている印象が強く、やけにとんがったデザインの最新車種を乗りこなす明智や大爆破あったり前のカーアクション、ワープロや「禁煙」といった小道具・言葉が出てくる作品の雰囲気は、明らかに先行する2バージョンの映画版とはまるで違った、いかにも TVっぽいにぎやかさに満ちたものとなっています。同じ「昭和」でも、中身は結構違うのね。
 そもそも昭和四十(1965)年というのは、大乱歩の原作小説よりも、それを元にした三島由紀夫の戯曲版『黒蜥蜴』(1961年発表、62年初演)のほうがよっぽど近いわけで、2024エディションは乱歩と三島のどっちの映像化なんだというどっちつかず感が目立ってしまいます。いや、これは今回に限らず、どの映像化作品でもそうなんですけどね……全バージョン、三島戯曲が世に出て以後の作品なんだもんなぁ。

 原作小説が大好きな私としては、現在の二代目とはだいぶ外観の違う初代・通天閣(高さ75m、1943年に焼亡)が登場する戦前の商都・大阪を CGかなんかで完全再現した、昭和九年の小説版のみを原作とする『黒蜥蜴 THE ORIGIN 』を死ぬまでに一度でいいから観たい気もするんですけどね~。時代設定的に原作小説に最も近い黒蜥蜴が登場するのはマンガ『二十面相の娘』(2003~07年連載)なんですけど、あれも刺青の位置が違うからなぁ。

 ま、そんなこんなで乱歩的でもなく天知小五郎的でもなく現代的でもないらしいという前情報にモヤモヤした感情を抱えてしまった私は、あの白本彩奈さんが岩瀬早苗役で出るヨという朗報を得てもなお、「大丈夫かぁ!?」という疑念が晴れずにいたのでした。いいとこどりすぎて薄っぺらい TVドラマになるんじゃないかという危惧ですよね。


 それでいよいよ、おっかなびっくりで録画した本編を観てみたわけなのですが、2024エディションは原作小説および戯曲版の味わいを可能な限り物語に落とし込みつつも、天知小五郎シリーズに寄せすぎず「船越さんと黒木さんなりの TVドラマっぽさ」を上品に反映させた良作になっていると感じました。おふざけがありつつも、面白いエンタメ作品になってましたよ!

 TVドラマっぽい。そうなんです、この作品は、映画になるには作りが軽すぎます。前回の視聴メモでも言及しましたが、この2024エディションにおける黒木蜥蜴は、明智の捜査によって原作ではついぞ語られることの無かった「過去」を暴かれ、犯罪の道にはしる以前の少女時代のトラウマをさらけ出して一人の人間の女性に戻った上で退場するのです。そこに過去バージョンの多くで女賊・黒蜥蜴が守っていたミステリアスな雰囲気やプライドの壁は無く、そもそも黒木蜥蜴のふるまいには、明智の若干サイコな探偵論の披歴に素でひいてしまうような人間っぽさも常に漂っていたのです。直近のサイボーグみたいなりょう蜥蜴とはえらい違いでんな!

 その一方で、黒木蜥蜴に対抗する船越小五郎はどうかと言いますと、こんなこと言ったってどうしようもないのですが、外見がどこからどう見ても「船越英一郎」なんですよね、どうしようもなく……ンやわたっっ!!
 これ、冗談で言ってるんじゃなくて、本当に船越さんくらいにサブリミナルレベルで TVに露出している俳優さんだからこその業病と言いますか、「何をやってもぜんぜん明智小五郎に見えない」という足かせがかなり強く働いているんですよね。これが実にしつこく、作品全体の重力が、その主人公を務めている船越さんのまとう、「そんなカッコつけても船越英一郎さんなんでしょ」という視聴者側のぬぐいきれないメタ視点によって軽くなってしまうのです。
 その上さらに、BS-TBS での本放送では、CM にその船越さんと黒木さんがまんま刑事と犯人役で登場するにしたんクリニックのサスペンスドラマ風コマーシャルが流れちゃうもんなのですから、もはや狙ってやってるというか、「おれ達も今さら THE MOVIE 気取りでしゃっちょこばってやるつもりなんてさらさらねぇゼ!」みたいな覚悟を見せつけられてしまうのでした。腹くくってんなぁ!

 ただ、ここまでくると「そんなに TVっぽいなら見たくないな」と思われる向きもあるかも知れないのですが、本バージョンのいちばん目覚ましいポイントは、主演の船越さんがそうとうな力の入れようで明智小五郎という人物の造形にこだわっているところなのです。この一点! この一点のみがブラックホールのように深く暗い「おもし」となっているので、ともすれば軽すぎてひらひら~っと飛んで行ってしまいそうな作品の存在感をかろうじてつなぎとめるアクセントになっているのです。主人公に特異な色味があるのは大事ですね~、ほんと!

 これはつまり、船越さんが俳優としての自分自身の「主戦場(TVドラマ)」と「弱点(軽さ)」を充分に自覚分析したうえで明智小五郎となる仕事を引き受けたという事実の証左なのです。相手を知り、己を知れば百戦危うからず……遅ればせながら、私は船越さんが素晴らしい名優であることを本作で確信いたしました。まさに帝王!
 そして、ここで船越さんが範としたであろう「陽キャヒーローなばかりでもない明智小五郎」の原形が、まさしく江戸川乱歩が初期の小説世界で描いていた大正時代の書生ふうの青年明智、すなはち「犯罪者すれすれのダークな異常才能者」としての明智小五郎だったことは疑いようがなく、こういう明智が映像作品の中で描かれるのはけっこう久しぶりなことなのではなかろうかと私は感服してしまったのでした。これは偉業だ!

 「大正時代のヤング明智」の映像作品における活躍といえば、何はなくとも NHK BS プレミアムで放送されていた『シリーズ・江戸川乱歩短編集』(2016~21年放送)が挙げられるわけですが、あそこでは明智小五郎を女優の満島ひかりさんが演じるということで、明智のヤバい部分、異端性がポップになるという効果がありました。ですので今回の「ほんとはこわい」船越小五郎に、過去に明智を演じた綺羅星の如き俳優さんがたの中で誰がいちばん近いのかと考えてみますと、それはやはり、あの実相寺昭雄監督の映画2作(映画『屋根裏の散歩者』と『 D坂の殺人事件』 真田広之~!!)で明智を演じた嶋田久作さんなのではないでしょうか。すごいとこと繋がったな~!

 船越小五郎、いいですよ~。その発言については前回の視聴メモでふれているので繰り返しませんが、1作のみで終わらせるには惜しすぎる暗黒面を抱えたキャラクターになっています。船越小五郎と吉岡秀隆の金田一耕助によるダースベイダー卿 VS 銀河皇帝パルパティーンみたいな暗黒面対決、観てみたい~!!
 ま、外見はどうしても陽気な船越さんなんですけどね……でも、あの天知茂さんだって、美女シリーズが始まった当初は「どこからどう見ても天知茂じゃないか」と揶揄されていたのではないでしょうか。顔の知れた大スターはつらいものですよ。船越さんも、どんどん作品を重ねて明智小五郎の新しい顔になって欲しいと切に願います。

 「1回こっきりにしておくのは惜しい」と言うのならば、やはり本作の明智探偵事務所、特に船越小五郎と樋口小林青年との「長いつきあい」についても、ちょっと触れるだけで終わってしまったので、次回作にて是非とも具体的に明らかにして欲しいところであります。本作だけを観ると、もっぱら手柄があったのはアクション担当の文代さんだけで、小林青年はせいぜい陽動作戦でおとりになってくれた程度といった感じで、文代さんよりも助手歴が長い理由がはっきりしないコメディリリーフ要員でしかなかったですよね。そこらへんを、もっと詳しく教えて! 「ボクは頭脳専門でね……」と豪語していた小林青年の本領発揮を、次の事件簿で見せてくれ~。
 そして、あの『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』(2022~23年放送)で一年間堂々と赤センターのドンモモタロウを務めあげた樋口さんなのですから、単に助手と言うだけでなく「明智の後継者」という将来も視野に入れた人選となっているのではないかと、私は睨んでおります。そうなると即座に脳裏にひらめくのは、あの佐藤嗣麻子監督によって映画化もされた、劇作家・北村想の小説『怪人二十面相・伝』二部作(1988~91年)における明智と小林に関する実に興味深い新解釈であります。1925~62年という長期にわたって、明智小五郎はどうしてずっと「若き天才探偵」のスタイルを変えずにいられたのか……主人公を十二分に演じられるポテンシャルを持っている樋口さんだからこそ、船越小五郎との力関係に非常にふくみがあるようで、興味は尽きませんね~!!

 さて、主人公サイドの船越小五郎チームに続いて振り返ってみたいのは、本作の影の主役となる「黒蜥蜴一味」なのですが、今回はとにもかくにも、「やけに人間くささと弱さを持った黒蜥蜴」が目立ったキャラ造形だったなと感じました。確かに、直近のりょう蜥蜴がダイヤモンド並みの硬度を持った造形だったので、その逆をゆくという判断は非常に的確だったと膝を打ちました。そうきたか~!
 この、思い切って黒蜥蜴をデバフさせるという奇手は、対する明智がまさに演じる船越さんのサスペンスドラマにおける「捜査法」を踏襲するかのように、「黒蜥蜴の前半生を掘り起こして人間としての彼女の犯行動機をさぐる」戦法を採っていたがために、重いトラウマを抱えた少女の記憶を取り戻し悔恨するひとりの女性を演じるためにも、黒木さんにとって最適の選択だったのではないでしょうか。
 そうなのです、本作の明智と黒蜥蜴は、そのキャラクターこそ乱歩ワールドの住人であっても、物語の進み方は限りなく往年の旅情サスペンスドラマの骨格を継承しているのです。ま、「旅情」というほど明智が旅をしていたわけでもないのですが、黒蜥蜴=緑川夫人が着ていた和服の帯から群馬県桐生市に飛ぶという、原作小説のどこを見ても明智がやったことのないアプローチをたどった船越さんの捜査は、ベッタベタなのに絶対に船越さんでしか実行しえない、乱歩ワールドの中ではきわめて新鮮な展開だったのではないでしょうか。その手法を受け入れるためにも、今作の黒木蜥蜴は「人間的で弱く」ならなければならなかったのです。

 ……とは言いましても、黒木さんは本作の出演者陣の中では比較的小柄だし、おまけにホテルニューアカオから逃走する時に変装した老紳士の姿を見てもわかる通りに枝みたいにスリムすぎる体型なので、内面だけでなく外見も、世界の大富豪たちをおびやかす強盗グループの首領としてはだいぶ心もとない印象になってしまいましたね。ほんと、さらわれて緊縛されてる白本さんの方がどう見ても強そうなんだもんなぁ。まぁ、それは黒木蜥蜴ご本人も先刻承知のようで、峰不二子よろしくふとももにデリンジャーを隠し持っていたわけですが。

 あと、これだけは必ず触れなければならないのですが、本作の隠れた MVPは、やはり黒蜥蜴の過去を知る唯一の側近・松吉を演じた諏訪太朗さんと言うしかないのではないでしょうか。顔半分のやけど跡に眼帯、回想シーンではヅラ! もうフルスロットルの大活躍でしたね。演出の本田隆一監督は、わかってらっしゃる!!
 本編を観ても分かる通り、映像化された『黒蜥蜴』において松吉(松公)を演じる俳優さんは後半に大事な役目があるので、それをちゃんとやり切ることのできる実力のある方でなければなりません。
 ですので、2024エディションでは諏訪太朗さん、そして2019エディションではなんとあの堀内正美さんが演じていたということで、『黒蜥蜴』を楽しむ上での隠れたお楽しみトピックとなっています。
 うをを、諏訪太朗 VS 堀内正美!! この、実相寺昭雄監督ファンならば血圧が200あたりを超えること必至な名バイプレイヤー対決は、この『黒蜥蜴』でも繰り広げられていたというわけなのですか。りょう蜥蜴に寡黙につき従う堀内さんと黒木蜥蜴に親のように寄り添う諏訪さん、あなたはどっちがお好き!?
 乱歩ワールドにおけるこのお2方の対決といえば、どうしてもあのテレ東「ガールズ×戦士」シリーズにおける『ひみつ×戦士ファントミラージュ!』第15話(2019年7月放送)での、堀内さん演じる名探偵「明土(あけっち)小五郎」と諏訪さん演じる「怪盗二十面相」との宿命の対決構造を思い出さずにはいられません。たまんねぇキャスティングだ~!! このエピソードについては、我が『長岡京エイリアン』でもかなり前に記事にしたのですが、まだ本文完成してないのよね……この不調法者が!! ヒエ~変態けろっぴおやじ神さま、おゆるしを。

 あと、黒木蜥蜴一味といえば、やはり今回でも明智と黒蜥蜴の愛憎関係にだいぶ時間を割いてしまったために、黒蜥蜴にゆがんだ恋慕の情を寄せる雨宮のポジションが小さくなってしまったのは残念でしたね。いや、これは意図的に明智の存在を薄くしないと前に出てくる余地が作られない立場なので仕方ないのですが、本作でも雨宮なりの物語のしめ方が語られなかったのはもったいなかったなぁ。文代さんにコテンパンにのされるだけでしたからね。

 最後に、本作の「にぎやかで軽い TVドラマのノリ」を体現するかのように、オーバーすぎるほどに肩をビクッと震わせて目を見開くリアクションを見せてくれた早苗役の白本さんもすばらしかったと触れずにはいられません。あんな顔、驚かす側のほうがびっくりするわ!
 いや~、白本さんは今回もよかったなぁ。作品ごとでの自分の役割をわかってらっしゃるクレバーな女優さんですよ。金持ちのお嬢様らしく甘ったれた話でもあるのですが、父の愛情に飢える令嬢の苦悩をセリフでなく、その特徴的な「ハ」の字まゆで見事に表しきっていた演技力は見事でした。ほんと、こうなるとごくごくフツーの役を演じる白本さんの引き出しも他の色々な作品で観てみたいですね。ここ最近の他のドラマ作品での白本さんの仕事に関しましては、本記事最後のおまけコーナーにて!

 でも、明らかに黒蜥蜴よりもガタイの良い早苗という絵面はかなり新鮮で、そういえば黒蜥蜴が先に作った「をとこの剥製」もけっこうマッチョな感じだったので、本作の黒蜥蜴は男女に関わらず、自分に無いマッシブな肉体に渇望していたのかも知れませんね。だとしたら黒蜥蜴は、あの『盲獣』のようなむちむちぶりんぶりんの曲線に包み込まれるエル・ドラドオを脳裏の地平線に追い求める想いがあったのかも知れず……彼女の心の闇は、深い!!


 こんなわけでありまして、『黒蜥蜴』2024エディションは、自分たちの身の丈に合ったサイズを熟知した上で、いちばん得意とする主戦場「サスペンスドラマ的文法ゾ~ン」に、畏れ多くも乱歩ワールドを無理くり引き込むという奇策に出た、非常に野心的な作品であると感じました。江戸川乱歩の世界に忠実かというとそうでもないのですが、とにかく俺たち、私たちでしかできないエンタメを作ってやろうぜというプロ意識はひしひしと感じられる良作だったと思います。2019エディションのようなひたすら世界観の硬度にこだわる作り方もあるわけなのですが、今回の2024エディションは「お茶の間の人気者」としてのコンプライアンスを順守した上で、令和の御世にどこまで王道な娯楽作を作り上げることができるのかという課題に、船越英一郎と黒木瞳という W座長公演のスタイルで挑んだわけなのです。ナンパでほんわかした勧善懲悪の世界を、真剣勝負で作る! TVドラマの本気を観た思いでしたね。

 ただし、ここで注意しておかなければならないのは、今回再現された TVドラマの世界は、あくまで平成と令和の時代を生き抜いた船越さんと黒木さんの経験則に基づくものなのであって、もっと乱雑で刺激的だった「天知小五郎シリーズ」もいた昭和の世界とは全く別物だということです。つまり、今作の世界はやっぱりどこまでも「架空の時代」のお話なのであり、天知小五郎の世界の復活を期待するのは筋違いなんですね。実際、車の一台も爆破炎上しないし、21:55~22:05くらいのきわどい時間帯に被害者となる女性のおっぱいだってまろび出ない今作の世界は、ある意味でヌルいことこの上ない、上っ面だけを天知小五郎シリーズから拝借した「カレーの王子さま」にしか見えないという方もおられるかも知れません。

 ただ、作品が万人ウケする視聴率重視のドラマ作品であるという宿命から、「全く動機不明だが美にこだわりまくる狂人」だの、「無差別殺人にしか快楽を見いださないサイコ連続殺人鬼」だのがポンポン出てくる江戸川乱歩の世界を TVという媒体で忠実に映像化することができないのは、今回の2024エディションもかつての天知小五郎シリーズも同じことで、今作での黒木蜥蜴が地に足の着いた人間になったように、例えばあの超絶サイコな虐殺グランギニョル作『蜘蛛男』(1929~30年連載)を原作とする天知小五郎の『化粧台の美女』(1982年)もまた、「犯人にはそれなりの哀しい事情がある。」というきわめて俗っぽいお涙ちょうだいな言い訳を加えていたのです。ただ盗みたいから盗む、殺したいから殺すというカオスなキャラが出てきたって、視聴者は納得しないだろうと見ているわけですね。
 そういう意味では、日本の TVドラマは、まだまだ約100年近く前の江戸川乱歩の世界に追いついていないということになるのでしょうか。海外の映画界に目を向ければ、『羊たちの沈黙』(1991年)とか『ノーカントリー』(2007年)とか『ダークナイト』(2008年)とか、もはや自然災害かなんかとしか言いようのない説明不能の異常犯罪者は枚挙にいとまがない程いるのですが、乱歩の明智もの長編に出てくる犯罪者なんて、だいたいこっちの世界の奴ばっかですからね! 魔術師とか蜘蛛男とか、黒蜥蜴とか吸血鬼とか……もう、ゴッサムシティで大笑いしながらサブマシンガンをぶっぱなしてても違和感ないキャラばっか!

 いろいろ申しましたが、今回の船越小五郎のチャレンジは、船越さんらしさの総決算的作品ではあるものの、まだまだ過去作品に伍して闘うことのできる、この作品だけのオリジナリティというものが出ているとは言い難い中途半端さがあります。CG で明智と黒蜥蜴の双方の変装術を表現するというのも、天知小五郎シリーズのブラッシュアップの範疇ですからね……
 だからこそ! 船越小五郎シリーズは必ず、後続する第2弾を作って、ほんとうの独自性を創出していかねばならない義務があると思うのですよ。

 船越小五郎と樋口小林くん、ほんとに頑張れ! 再び立ち上がれ!! 私は待ちますよ、いつまでも。

 諏訪太朗さん、またなんか別の役で出てくんないかな。荒唐無稽な乱歩ワールドへと続く扉の鍵を握るのは、やっぱり諏訪さんと、諏訪さんのヅラだ!! いつまでも、元気でいてくださいね♡


≪乱歩とまるで関係のないおまけコーナー:白本彩奈さんのドラマ出演作観察日記・秋の陣≫
〇TVドラマ『GO HOME 警視庁身元不明人相談室』第6話『トー横キッズに挑む地雷系バディ!』(2024年8月24日放送 日本テレビ 脚本・八津弘幸&佐藤友治、演出・本多繁勝&山田信義)自殺したトー横キッズ・キイちゃん(奈良岡紗季)役

 白本さんが目当てで観たのですが、ドラマのコンセプトとしてまず白本さん演じるキイちゃんが死んでから話が始まるので、白本さん自身はほとんど登場しませんでした……エピソードとしては、主演の小芝風花さんとゲストの莉子さんがメインで活躍する物語でしたね。
 45分間の中に、かなりたくさんの要素をオーバーフロー気味に詰め込んだ意欲作だと感じたのですが、やはり「親友の自殺」という、かなり重い問題をテーマとしていたために、逆に触れ方がナーバスになって白本さん演じるキイちゃんの明るいふるまいのみが語られる印象になっていましたね。そりゃまぁ、それを語る莉子さん演じるはるぴちゃんがそこのみを選んで回想していたから仕方ないのですが。でも、いちおう前向きエンドなしめ方にするためには、キイちゃんの継父(演・和田聰宏)の DVを詳細に掘り返すわけにはいかなかったのでしょう。実態を観たわけではないので私もはっきりとは言えないのですが、トー横キッズやネカフェ難民の描写も、お茶の間の視聴者層を意識してかなりマイルドになっていたかと思います。
 はるぴちゃんとキイちゃん、どっちもそうなんですが、なんかこう生活臭がしないというか、ジャンクな食べ物で飢えをしのいで、変な場所で寝てるから姿勢が悪くて、髪の毛を洗ってなくて服もあんまり洗濯してないかもみたいな雰囲気が無いような気がするんです。ふつうにきれいな衣装を着てヘアスタイルもいつも整ってるので、金銭的に困っていない女優さんが多少奇抜なメイクとファッションをしているようにしか見えないんだよなぁ。それで「今話題のトー横キッズです」と言われましても……当然、性的な暗部もきれいに取り除かれてたし。
 そもそも、白本さんはああいったお顔立ちの方なので、すっぴんと地雷メイク後のお顔とでほぼ違いがないから、別々の似顔絵を用意して聞き込みに手間がかかるみたいな過程が「そんなに苦労する?」という気がして、この点、白本さんをこの役に当てはめるのはやや難があるような気もしました。もっと、メイクしたらほぼ別人のようなうす~いお顔の女優さんの方がよろしかったかと……いや白本さんでいいです!
 短い出演時間ではありましたが、ゴスロリ系の衣装を着たりスマホの写真で変顔を見せたり、「にゃーにゃーにゃー♪」と唄ったりする白本さんが拝見できたのは僥倖でした。ほんとにちょっとだけでしたが。

 余談ですが、作中で私がいちばん気にかかったのは、地元の静岡県御殿場市で女子高生時代のキイちゃんを通学バスでよく見ていたという証言をしていた酒井という青年(演・ダウ90000上原佑太)でした。あの、刑事(小芝さん)に全く視線を合わせずにおずおずと語るしぐさ……絶対に当時、キイちゃんに対してはかなき好意を抱いていたな!? わかるぞ! でも、4、5年ぶりに似顔絵でその顔を見せられたかと思ったら、キイちゃんはすでにこの世にいないという衝撃の事実……泣ける! そこだけで2時間ドラマにできるわ!!


〇TVドラマ『ザ・トラベルナース』第2シーズン第4話『仕組まれた医療ミス!VS モンスター患者』(2024年11月7日放送 テレビ朝日 脚本・香坂隆史、演出・片山修)潰瘍性大腸炎の患者・四宮咲良役

 『GO HOME 』もそうだったのですが、このエピソードも病院という空間で発生するモンペ(モンスターペイシェント)問題にアレルギー対応食の誤配事故、そして医療者側からの「がんばりましょう」発言が受けた患者によっては重い負担となるのではないかという大問題と、たった45分の中に様々なテーマをモリモリに盛り込んだ充実の内容でした。ただ、こちらの方は全ての問題が一人の患者の過去に集束していくというきれいな作りの構成になっていたので消化不良感はなく、よくできたお話だなぁと感じ入りました。脚本がうまいな!
 ただ、その……肝心カナメの我らが白本さんの役割がせっかくのゲストなのに小さめというか、膵臓がんステージ3の入院患者の斉藤四織(演・仙道敦子)とモンスターペイシェントの四谷純子(演・西尾まり)の2人が本エピソードのメインゲストといった感じなので、役割としてはかなり軽く。白本さんの演じていた患者は、こう言っては実もフタもないのですが本エピソード内での犯人候補のひとりとしてと、重めなお話を明るくするご陽気キャラとしての隠し味的配置でしたので、キャスティングとしてはかなり贅沢な采配だと感じました。正直、能天気な韓流アイドルファンの女の子という役柄なので、白本さんでなくともそこらへんのグループアイドルの女の子にやらせてもいいようなポジションで、私としては、何といっても白本さんとかなり縁のある中井貴一さんとの久々の共演なのでもっと大きな立ち位置なのかなと思っていたのですが、そんなことなかったですね。白本さんのいる病室に中井さんが来ても、セリフのやり取りも全然なかったし。
 でもなんか、死の運命とかサスペンスの被害者とかいう重苦しい展開とはまるで無縁で、とにかく陽気に笑う白本さんを観るのもかなり珍しく、ヘアスタイルもベリーショートだし、いろいろレアな白本さんが観られるので、出演時間が短いわりに非常にお得なエピソードかと感じました。第一、お話が面白いのでいいですよ! 出演陣がみんな達者ですよね。野呂佳代さんのナースチュニックのぱっつぱつ感、リアル~!!

 ほんと、患者役の白本さんがベリーショートって写真をまず観たので、こりゃ九分九厘、不治の病のやつだなと思って身構えてたんですが、そんなこと全然なくてホッとしたというか肩透かしというか……むしろ、天野はなさんが演じてた役の方が白本さんらしかったのですが、そんなんばっかやってても楽しくないでしょうしね~。口を思いきりバカっと開けて笑う白本さんも、やっぱり最高だ!! これからも、とこしえに応援し続けま~っす♡
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