『帝都物語』シリーズとは……
『帝都物語』(ていとものがたり)は、小説家・荒俣宏による日本の長編伝奇小説。
1983年から発表された荒俣宏の小説デビュー作であり、1987年に第8回日本SF大賞を受賞し、1988年の映画をはじめとして様々なメディアミックス化が行われ、荒俣の出世作となった。小説誌『月刊小説王』(角川書店)に1983年の創刊号から1984年まで13回連載された後は新書判レーベル「カドカワノベルズ」から書き下ろし形式で発表され、シリーズはベストセラーとなった。
平安時代の大怨霊・平将門を目覚めさせ帝都東京の破壊を目論む魔人・加藤保憲の野望と、それを阻止すべく立ち向う人々との攻防を描く。明治時代末期から昭和七十三年(実際の昭和は六十四年で終わったため、現実の元号に直せば平成十年となる)までの約100年にわたる壮大な物語であり、史実や実在の人物が物語中で登場・活躍する特徴がある。荒俣が蓄積してきた博物学や神秘学の知識を総動員しており、風水思想を本格的に扱った日本最初の小説とされている。陰陽道、風水、奇門遁甲などの呪術用語をサブカルチャーの世界に定着させた作品でもある。
シリーズ作品一覧
『帝都物語1 神霊篇』(1985年1月)
『帝都物語2 魔都篇』(1985年4月)
『帝都物語3 大震災篇』(1986年1月)
『帝都物語4 龍動篇』(1986年2月)
『帝都物語5 魔王篇』(1986年3月)
『帝都物語11 戦争篇』(1988年1月)
『帝都物語12 大東亜篇』(1989年7月)
『帝都物語6 不死鳥篇』(1986年7月)
『帝都物語7 百鬼夜行篇』(1986年10月)
『帝都物語8 未来宮篇』(1987年2月)
『帝都物語9 喪神篇』(1987年5月)
『帝都物語10 復活篇』(1987年7月)
※10 復活篇までの刊行後に、時系列を遡って外伝的作品として11 戦争篇と12 大東亜篇が発表された。
『シム・フースイ』シリーズ(1993~2001年 全5作)風水師・黒田茂丸の孫である黒田龍人が主人公の怪奇ホラー小説シリーズ。『東京龍 TOKYO DRAGON 』(1997年)として TVドラマ化された。ちなみに黒田龍人は小説『帝都物語外伝 機関童子』にも登場する。
『帝都物語外伝 機関(からくり)童子』(1995年)
『帝都幻談』(1997年)江戸時代を舞台とする。
『新帝都物語』(1999~2001年)江戸幕末期を舞台とする。
『帝都物語異録 龍神村木偶茶屋』(2001年)江戸幕末期を舞台とする。
『妖怪大戦争』(2005年)荒俣宏が脚本プロデュースした映画作品。加藤保憲が登場する。
『虚実妖怪百物語』(2011~18年)京極夏彦の妖怪クロスオーバー小説。加藤保憲が登場する。
『妖怪大戦争 ガーディアンズ』(2021年)荒俣宏が製作総指揮を担当した映画作品。加藤保憲が転生したとおぼしき人物が登場する。
おもな登場人物
加藤 保憲(かとう やすのり)
明治時代初頭から昭和七十三(1998)年にかけて、帝都東京の滅亡を画策して暗躍する魔人。大日本帝国陸軍少尉、のち中尉。紀伊国龍神村の生まれとされるが、詳しい生い立ちについては一切不明である。
長身痩躯で、こけた頬にとがった顎、さっぱりとした刈上げといった容姿で、いかなる時代においても老いの感じられない20~30歳代の外見をしている。眼光は鋭く、身体の大きさに似合わぬ軽い身のこなしが特徴的である。黒い五芒星(ドーマンセーマン)の紋様が染め抜かれた白手袋を着用している。剣の達人で刀は孫六兼元を愛用する。 極めて強力な霊力を持ち、あらゆる魔術に精通している。とりわけ陰陽道・風水・奇門遁甲の道においては並ぶ者のいないほどの達人であり、古来最も恐れられた呪殺秘法「蠱毒」を使う。天皇直属の陰陽道の名家・土御門家が総力を挙げても彼一人に敵わない。秘術「屍解仙」を用いて転生したこともある。さまざまな形態の鬼神「式神」を使役し、平将門の子孫を依代にして将門の大怨霊を甦らせようとしたり、大地を巡る龍脈を操り関東大震災を引き起こしたりした。中国語や朝鮮語にも通じる。
原作者の荒俣は、加藤保憲は連載開始当初、テクノポップバンド「プラスチックス」のギタリストとして活動していたグラフィックデザイナーの立花ハジメをイメージしていたと語り(2019年の取材記事より)、また映画『帝都物語』以降のシリーズ作品で加藤を演じた俳優・嶋田久作の談話(2011年の取材記事より)によると、荒俣は俳優の伊藤雄之助のイメージで執筆したと語っていたという。しかし、実際に加藤を演じた嶋田久作による演技と存在感は強烈で、荒俣自身も「加藤保憲は嶋田さんと2人で作り上げたキャラクターだ」と認めている。
ちなみに「保憲」の名の由来は、平安時代中期に実在した有名な陰陽師・賀茂保憲(917~77年)による。
辰宮 洋一郎(たつみや よういちろう)
大蔵省官吏。帝都東京の改造計画に加わり、明治時代末期から大正時代にかけての歴史の奔流を目撃する。物語の冒頭で平将門の霊を降ろす依代として加藤に利用される。
妹の由佳里に執着しており、彼女が霊能力を持つに至った経緯や雪子の出生に関わりを持つ。
辰宮 由佳理(たつみや ゆかり)
洋一郎の妹。平将門の依代となる程に強力な霊能力者であり、加藤や北一輝に狙われる。
強度のヒステリー症状ないしは霊能体質を有するために、奇怪な事件に巻き込まれる。精神を病んで森田正馬医師の治療を受ける。
辰宮 雪子(たつみや ゆきこ)
由佳里の娘。母から強い霊能力を受け継ぎ、そのために加藤に狙われる。
品川のカフェで女給として働くが、二・二六事件に深く関わることとなる。
目方 恵子(めかた けいこ)
辰宮洋一郎の妻。相馬俤神社の巫女。辰宮家と帝都東京を守るべく平将門の巫女として加藤と戦う。
鳴滝 純一(なるたき じゅんいち)
東京帝国大学理学士。洋一郎の旧友。純朴な性格だが、由佳理を思慕するあまり、暴走することもある。
鳴滝 二美子(なるたき ふみこ)
鳴滝純一の養子。多大な犠牲を出すこともいとわず野望を推し進める養父に心を痛める。
平井 保昌(ひらい やすまさ)
日本陰陽道の名家・土御門家の老陰陽師。秘術を尽くして宿敵たる加藤と渡り合う。
クラウス
救世軍の医師。加藤に精神を狂わされた辰宮母娘の治療にあたる。
黒田 茂丸(くろだ しげまる)
風水師。風水術を操り寺田、恵子と協力して加藤と戦う。
トマーゾ
帝都東京の支配を目論むメソニック協会日本支部を牛耳る、130歳を超える謎のイタリア人。高齢ゆえに重い障害を患っているが、特殊な力を持つ宝石「世界の眼(オクルス・ムンディ)」で補っている。髪の毛を意のままに操ることができる。
大沢 美千代(おおさわ みちよ)
ある人物の転生した姿として誕生し、前世の記憶に目覚めていく。
団 宗治(だん むねはる)
オカルト知識やコンピュータ技術を駆使し、大沢美千代と協力して加藤の放つ水虎や式神と対決する。
土師 金凰(はじ きんぽう)
土師家棟梁。団や春樹と協力して加藤と戦う。
梅小路 文麿(うめこうじ あやまろ)
華族出身の人物。新時代のために天皇を人胆の力で生かし続けていた。
平 将門(たいらのまさかど 903~40年)
平安時代の関東地方最大の英雄。京の中央集権主義に刃向かい関東を独立国家化したため討伐されたが、その没後もなお千年間、大手町の首塚の下で関東と帝都東京を鎮護し続ける大怨霊。『帝都物語』シリーズ全体の根幹をなす最重要人物。
佐藤 信淵 (さとう のぶひろ 1769~1850年)
江戸時代末期の経世家、鉱山技術家、兵法家。理想郷の実現を目指し、平将門ゆかりの下総国印旛沼をはじめ内洋すべてを干拓する生産向上計画を提唱した人物。統治論書『宇内混同秘策』は神道家・平田篤胤(1776~1843年)の日本中心主義を内包しつつ全世界を征服するための青写真を描いた一大奇書で、この中で「東京」という名称が初めて用いられたとされる。
渋沢 栄一(しぶさわ えいいち 1840~1931年)
明治時代の日本を代表する実業家で、第一国立銀行初代頭取を務めるなど金融体制の設立にも尽力した自由競争経済設立の指導者。子爵。
帝都東京を物理的、霊的に防衛された新都市にしようと秘密会議を開く。
織田 完之(おだ ひろゆき 1842~1923年)
三河国生まれの農政家で歴史学者。平将門の名誉回復に尽力した。
豪農の出身で勤王派に加わり、桂小五郎や高杉晋作らと交友したが、明治維新後は新政府の農業・干拓事業を担当、特に印旛沼の治水事業に尽力した。明治二十五(1892)年の引退後は「碑文協会」を設立し、二宮尊徳や佐藤信淵の思想体系の顕彰活動に尽力した。
セルゲイ=ドルジェフ(ゲオルギイ・イヴァノヴィチ=グルジエフ 1866~1949年)
アルメニア出身の民族解放運動リーダー。邪視を用いる超能力者。学生運動のリーダーに呼ばれて来日し、恵子や加藤と戦う。
幸田 露伴(こうだ ろはん 1867~1947年)
小説家で、明治時代最大の東洋神秘研究家。膨大な魔術知識を駆使して魔人加藤と戦い、追い詰める。
『一国の首都』と題した長大な東京改造計画論を持ち、後年には寺田寅彦とも親交があった。
カール・エルンスト=ハウスホーファー(1869~1946年)
ドイツ帝国陸軍少将で地政学者。ミュンヘンに生まれ、1887年にインド、東アジア、シベリアを旅行し、1909年から約2年間、日本にも滞在し、秘密結社「緑竜会」に入会した。
地政学(ゲオポリティーク)を戦争の実用科学にまで高め、ミュンヘン大学の教授・学長を歴任し、初期ナチズムの神秘的教養を形成する影の参謀となった。
森田 正馬(もりた まさたけ 1874~1938年)
精神科神経科医で精神医学者。クラウスと共に辰宮母娘の治療にあたる。
寺田寅彦が幼少期を過ごした高知県に生まれ、犬神憑きなどの憑霊現象を研究する。後に「森田療法」として知られる独自の精神病治療法を確立した。
大谷 光瑞(おおたに こうずい 1876~1948年)
仏教浄土真宗本願寺派第二十二世法主。加持祈祷によるアメリカ・イギリス・ソヴィエト連邦の首脳陣の呪殺を画策する。
寺田 寅彦(てらだ とらひこ 1878~1935年)
東京帝国大学の物理学者。渋沢栄一の秘密会議に出席して加藤と出会い、迫りくる帝都東京滅亡の危機を必死で食い止めようとする。
日本を代表する超博物学者でもあり、大文豪・夏目漱石の一番弟子。物理学者でありながらも超自然や怪異への限りない興味を抱き続けた。
北 一輝(きた いっき 1883~1937年)
国家社会主義を掲げる思想家・社会運動家。『日本改造法案大綱』を発表し革命を目論むがシャーマンでもあり、革命を阻害する大怨霊・平将門を倒すべく暗躍する。
西村 真琴(にしむら まこと 1883~1956年)
北海道帝国大学の生物学教授。帝都東京の地下鉄道路線の工事現場に巣食う鬼を人造人間「学天則」で退治する。
大川 周明(おおかわ しゅうめい 1886~1957年)
超国家主義を掲げる思想家。帝都東京の奥津城に眠る怨霊の正体を探る命を加藤から受ける。
石原 莞爾(いしわら かんじ 1889~1949年)
大日本帝国陸軍中将。『世界最終戦論』を掲げ、北一輝と同じ法華経オカルティストでありながらも、二・二六事件にて立場の違いから北と対立する。
甘粕 正彦(あまかす まさひこ 1891~1945年)
満洲国警察庁長官。東条英機の子飼いの部下であり、加藤やトマーゾと関わり満州国で暗躍する。
辻 政信(つじ まさのぶ 1902~61年以降消息不明)
大日本帝国陸軍将校。戦後、東南アジアに潜入しドルジェフと闘う。
愛新覚羅 溥儀(あいしんかくら ふぎ 1906~67年)
中国・清帝国最後の皇帝にして満州国皇帝。大日本帝国陸軍関東軍の監視下で疲弊し、オカルティズムに傾倒するようになる。
中島 莞爾(なかじま かんじ 1912~36年)
大日本帝国陸軍少尉。雪子と恋仲となるも、北一輝に傾倒して二・二六事件に参加する。
角川 源義(かどかわ げんよし 1917~75年)
帝都東京の怨霊鎮魂のため、人骨を砕いた灰を撒き続けた。
角川 春樹(かどかわ はるき 1942年~)
源義の長男。角川書店社長となるも突如出奔し、奈須香宇宙大神宮の大宮司として東京の破滅を見届ける。
三島 由紀夫(みしま ゆきお 1925~70年)
中島莞爾の怨霊に取り憑かれていた大蔵省官吏。後に小説家に転向する。自衛隊に体験入隊した際に加藤から修練を受ける。
フサコ・イトー(重信 房子 1945年~)
ドルジェフの側近。
藤森 照信(ふじもり てるのぶ 1946年~)
路上観察学会の建築史家。鳴滝の依頼により震災の瓦礫を発掘する。
滝本 誠(たきもと まこと 1949年~)
団の友人のジャーナリスト。政府の陰謀を察し、行動する。
映画化・アニメ化・マンガ化作品
映画『帝都物語』(1988年1月公開 135分 エクゼ)
原作小説の『神霊篇』~『龍動篇』の映画化作品。日本初の本格的ハイビジョン VFX映画。加藤保憲の役に、当時小劇場俳優で庭師として生計を立てていた嶋田久作が抜擢された。登場する人造ロボット「学天則」の開発者・西村真琴の役を、真琴の実子の西村晃が演じている。 監督・実相寺昭雄、脚本・林海象、製作総指揮・一瀬隆重、特殊美術・池谷仙克、画コンテ・樋口真嗣、特殊メイク・原口智生、コンセプチュアル・デザインH=R=ギーガー。音楽・石井眞木。製作費10億円、配給収入10億5千万円。
映画『帝都大戦』(1989年9月公開 107分 エクゼ)
原作小説『戦争編』を原作とするが、登場人物の設定などが変更されている。監督は当初、香港映画界の藍乃才が務める予定だったが直前に降板したため、前作『帝都物語』でエグゼクティブ・プロデューサーを務めた一瀬隆重が製作総指揮と監督を兼任した。脚本・植岡喜晴、音楽・上野耕路、特殊効果スクリーミング・マッド・ジョージ、特殊メイク・原口智生。配給収入3.5億円。
映画『帝都物語外伝』(1995年7月公開 89分 ケイエスエス)
小説『帝都物語外伝 機関童子』を原作とするが、内容は大幅に異なる。監督・橋本以蔵、脚本・山上梨香、主演・西村和彦。
OVAアニメ版(1991年リリース 全4巻 マッドハウス)
原作小説の『神霊篇』~『龍動篇』のアニメ化作品。加藤保憲の声は実写版と同じく嶋田久作が担当した。脚本・遠藤明範、キャラクターデザイン・摩砂雪、シリーズ監督・りんたろう。作画スタッフには鶴巻和哉、樋口真嗣、前田真宏、庵野秀明らが参加していた。
コミカライズ版
川口敬『帝都物語』(1987~88年 小学館『ビッグコミックスピリッツ』にて連載)
映画『帝都物語』公開に合わせての連載で、原作小説の『神霊篇』~『龍動篇』をマンガ化している。未単行本化。
藤原カムイ『帝都物語 Babylon Tokyo 』(1988年 角川書店)
映画『帝都物語』公開に合わせての刊行で、原作小説の『神霊篇』~『龍動篇』をマンガ化している。
高橋葉介『帝都物語 TOKIO WARS 』(1989年 角川書店)
映画『帝都大戦』公開に合わせての刊行で、原作小説の『魔王篇』と『戦争篇』をマンガ化している。
『帝都物語』(ていとものがたり)は、小説家・荒俣宏による日本の長編伝奇小説。
1983年から発表された荒俣宏の小説デビュー作であり、1987年に第8回日本SF大賞を受賞し、1988年の映画をはじめとして様々なメディアミックス化が行われ、荒俣の出世作となった。小説誌『月刊小説王』(角川書店)に1983年の創刊号から1984年まで13回連載された後は新書判レーベル「カドカワノベルズ」から書き下ろし形式で発表され、シリーズはベストセラーとなった。
平安時代の大怨霊・平将門を目覚めさせ帝都東京の破壊を目論む魔人・加藤保憲の野望と、それを阻止すべく立ち向う人々との攻防を描く。明治時代末期から昭和七十三年(実際の昭和は六十四年で終わったため、現実の元号に直せば平成十年となる)までの約100年にわたる壮大な物語であり、史実や実在の人物が物語中で登場・活躍する特徴がある。荒俣が蓄積してきた博物学や神秘学の知識を総動員しており、風水思想を本格的に扱った日本最初の小説とされている。陰陽道、風水、奇門遁甲などの呪術用語をサブカルチャーの世界に定着させた作品でもある。
シリーズ作品一覧
『帝都物語1 神霊篇』(1985年1月)
『帝都物語2 魔都篇』(1985年4月)
『帝都物語3 大震災篇』(1986年1月)
『帝都物語4 龍動篇』(1986年2月)
『帝都物語5 魔王篇』(1986年3月)
『帝都物語11 戦争篇』(1988年1月)
『帝都物語12 大東亜篇』(1989年7月)
『帝都物語6 不死鳥篇』(1986年7月)
『帝都物語7 百鬼夜行篇』(1986年10月)
『帝都物語8 未来宮篇』(1987年2月)
『帝都物語9 喪神篇』(1987年5月)
『帝都物語10 復活篇』(1987年7月)
※10 復活篇までの刊行後に、時系列を遡って外伝的作品として11 戦争篇と12 大東亜篇が発表された。
『シム・フースイ』シリーズ(1993~2001年 全5作)風水師・黒田茂丸の孫である黒田龍人が主人公の怪奇ホラー小説シリーズ。『東京龍 TOKYO DRAGON 』(1997年)として TVドラマ化された。ちなみに黒田龍人は小説『帝都物語外伝 機関童子』にも登場する。
『帝都物語外伝 機関(からくり)童子』(1995年)
『帝都幻談』(1997年)江戸時代を舞台とする。
『新帝都物語』(1999~2001年)江戸幕末期を舞台とする。
『帝都物語異録 龍神村木偶茶屋』(2001年)江戸幕末期を舞台とする。
『妖怪大戦争』(2005年)荒俣宏が脚本プロデュースした映画作品。加藤保憲が登場する。
『虚実妖怪百物語』(2011~18年)京極夏彦の妖怪クロスオーバー小説。加藤保憲が登場する。
『妖怪大戦争 ガーディアンズ』(2021年)荒俣宏が製作総指揮を担当した映画作品。加藤保憲が転生したとおぼしき人物が登場する。
おもな登場人物
加藤 保憲(かとう やすのり)
明治時代初頭から昭和七十三(1998)年にかけて、帝都東京の滅亡を画策して暗躍する魔人。大日本帝国陸軍少尉、のち中尉。紀伊国龍神村の生まれとされるが、詳しい生い立ちについては一切不明である。
長身痩躯で、こけた頬にとがった顎、さっぱりとした刈上げといった容姿で、いかなる時代においても老いの感じられない20~30歳代の外見をしている。眼光は鋭く、身体の大きさに似合わぬ軽い身のこなしが特徴的である。黒い五芒星(ドーマンセーマン)の紋様が染め抜かれた白手袋を着用している。剣の達人で刀は孫六兼元を愛用する。 極めて強力な霊力を持ち、あらゆる魔術に精通している。とりわけ陰陽道・風水・奇門遁甲の道においては並ぶ者のいないほどの達人であり、古来最も恐れられた呪殺秘法「蠱毒」を使う。天皇直属の陰陽道の名家・土御門家が総力を挙げても彼一人に敵わない。秘術「屍解仙」を用いて転生したこともある。さまざまな形態の鬼神「式神」を使役し、平将門の子孫を依代にして将門の大怨霊を甦らせようとしたり、大地を巡る龍脈を操り関東大震災を引き起こしたりした。中国語や朝鮮語にも通じる。
原作者の荒俣は、加藤保憲は連載開始当初、テクノポップバンド「プラスチックス」のギタリストとして活動していたグラフィックデザイナーの立花ハジメをイメージしていたと語り(2019年の取材記事より)、また映画『帝都物語』以降のシリーズ作品で加藤を演じた俳優・嶋田久作の談話(2011年の取材記事より)によると、荒俣は俳優の伊藤雄之助のイメージで執筆したと語っていたという。しかし、実際に加藤を演じた嶋田久作による演技と存在感は強烈で、荒俣自身も「加藤保憲は嶋田さんと2人で作り上げたキャラクターだ」と認めている。
ちなみに「保憲」の名の由来は、平安時代中期に実在した有名な陰陽師・賀茂保憲(917~77年)による。
辰宮 洋一郎(たつみや よういちろう)
大蔵省官吏。帝都東京の改造計画に加わり、明治時代末期から大正時代にかけての歴史の奔流を目撃する。物語の冒頭で平将門の霊を降ろす依代として加藤に利用される。
妹の由佳里に執着しており、彼女が霊能力を持つに至った経緯や雪子の出生に関わりを持つ。
辰宮 由佳理(たつみや ゆかり)
洋一郎の妹。平将門の依代となる程に強力な霊能力者であり、加藤や北一輝に狙われる。
強度のヒステリー症状ないしは霊能体質を有するために、奇怪な事件に巻き込まれる。精神を病んで森田正馬医師の治療を受ける。
辰宮 雪子(たつみや ゆきこ)
由佳里の娘。母から強い霊能力を受け継ぎ、そのために加藤に狙われる。
品川のカフェで女給として働くが、二・二六事件に深く関わることとなる。
目方 恵子(めかた けいこ)
辰宮洋一郎の妻。相馬俤神社の巫女。辰宮家と帝都東京を守るべく平将門の巫女として加藤と戦う。
鳴滝 純一(なるたき じゅんいち)
東京帝国大学理学士。洋一郎の旧友。純朴な性格だが、由佳理を思慕するあまり、暴走することもある。
鳴滝 二美子(なるたき ふみこ)
鳴滝純一の養子。多大な犠牲を出すこともいとわず野望を推し進める養父に心を痛める。
平井 保昌(ひらい やすまさ)
日本陰陽道の名家・土御門家の老陰陽師。秘術を尽くして宿敵たる加藤と渡り合う。
クラウス
救世軍の医師。加藤に精神を狂わされた辰宮母娘の治療にあたる。
黒田 茂丸(くろだ しげまる)
風水師。風水術を操り寺田、恵子と協力して加藤と戦う。
トマーゾ
帝都東京の支配を目論むメソニック協会日本支部を牛耳る、130歳を超える謎のイタリア人。高齢ゆえに重い障害を患っているが、特殊な力を持つ宝石「世界の眼(オクルス・ムンディ)」で補っている。髪の毛を意のままに操ることができる。
大沢 美千代(おおさわ みちよ)
ある人物の転生した姿として誕生し、前世の記憶に目覚めていく。
団 宗治(だん むねはる)
オカルト知識やコンピュータ技術を駆使し、大沢美千代と協力して加藤の放つ水虎や式神と対決する。
土師 金凰(はじ きんぽう)
土師家棟梁。団や春樹と協力して加藤と戦う。
梅小路 文麿(うめこうじ あやまろ)
華族出身の人物。新時代のために天皇を人胆の力で生かし続けていた。
平 将門(たいらのまさかど 903~40年)
平安時代の関東地方最大の英雄。京の中央集権主義に刃向かい関東を独立国家化したため討伐されたが、その没後もなお千年間、大手町の首塚の下で関東と帝都東京を鎮護し続ける大怨霊。『帝都物語』シリーズ全体の根幹をなす最重要人物。
佐藤 信淵 (さとう のぶひろ 1769~1850年)
江戸時代末期の経世家、鉱山技術家、兵法家。理想郷の実現を目指し、平将門ゆかりの下総国印旛沼をはじめ内洋すべてを干拓する生産向上計画を提唱した人物。統治論書『宇内混同秘策』は神道家・平田篤胤(1776~1843年)の日本中心主義を内包しつつ全世界を征服するための青写真を描いた一大奇書で、この中で「東京」という名称が初めて用いられたとされる。
渋沢 栄一(しぶさわ えいいち 1840~1931年)
明治時代の日本を代表する実業家で、第一国立銀行初代頭取を務めるなど金融体制の設立にも尽力した自由競争経済設立の指導者。子爵。
帝都東京を物理的、霊的に防衛された新都市にしようと秘密会議を開く。
織田 完之(おだ ひろゆき 1842~1923年)
三河国生まれの農政家で歴史学者。平将門の名誉回復に尽力した。
豪農の出身で勤王派に加わり、桂小五郎や高杉晋作らと交友したが、明治維新後は新政府の農業・干拓事業を担当、特に印旛沼の治水事業に尽力した。明治二十五(1892)年の引退後は「碑文協会」を設立し、二宮尊徳や佐藤信淵の思想体系の顕彰活動に尽力した。
セルゲイ=ドルジェフ(ゲオルギイ・イヴァノヴィチ=グルジエフ 1866~1949年)
アルメニア出身の民族解放運動リーダー。邪視を用いる超能力者。学生運動のリーダーに呼ばれて来日し、恵子や加藤と戦う。
幸田 露伴(こうだ ろはん 1867~1947年)
小説家で、明治時代最大の東洋神秘研究家。膨大な魔術知識を駆使して魔人加藤と戦い、追い詰める。
『一国の首都』と題した長大な東京改造計画論を持ち、後年には寺田寅彦とも親交があった。
カール・エルンスト=ハウスホーファー(1869~1946年)
ドイツ帝国陸軍少将で地政学者。ミュンヘンに生まれ、1887年にインド、東アジア、シベリアを旅行し、1909年から約2年間、日本にも滞在し、秘密結社「緑竜会」に入会した。
地政学(ゲオポリティーク)を戦争の実用科学にまで高め、ミュンヘン大学の教授・学長を歴任し、初期ナチズムの神秘的教養を形成する影の参謀となった。
森田 正馬(もりた まさたけ 1874~1938年)
精神科神経科医で精神医学者。クラウスと共に辰宮母娘の治療にあたる。
寺田寅彦が幼少期を過ごした高知県に生まれ、犬神憑きなどの憑霊現象を研究する。後に「森田療法」として知られる独自の精神病治療法を確立した。
大谷 光瑞(おおたに こうずい 1876~1948年)
仏教浄土真宗本願寺派第二十二世法主。加持祈祷によるアメリカ・イギリス・ソヴィエト連邦の首脳陣の呪殺を画策する。
寺田 寅彦(てらだ とらひこ 1878~1935年)
東京帝国大学の物理学者。渋沢栄一の秘密会議に出席して加藤と出会い、迫りくる帝都東京滅亡の危機を必死で食い止めようとする。
日本を代表する超博物学者でもあり、大文豪・夏目漱石の一番弟子。物理学者でありながらも超自然や怪異への限りない興味を抱き続けた。
北 一輝(きた いっき 1883~1937年)
国家社会主義を掲げる思想家・社会運動家。『日本改造法案大綱』を発表し革命を目論むがシャーマンでもあり、革命を阻害する大怨霊・平将門を倒すべく暗躍する。
西村 真琴(にしむら まこと 1883~1956年)
北海道帝国大学の生物学教授。帝都東京の地下鉄道路線の工事現場に巣食う鬼を人造人間「学天則」で退治する。
大川 周明(おおかわ しゅうめい 1886~1957年)
超国家主義を掲げる思想家。帝都東京の奥津城に眠る怨霊の正体を探る命を加藤から受ける。
石原 莞爾(いしわら かんじ 1889~1949年)
大日本帝国陸軍中将。『世界最終戦論』を掲げ、北一輝と同じ法華経オカルティストでありながらも、二・二六事件にて立場の違いから北と対立する。
甘粕 正彦(あまかす まさひこ 1891~1945年)
満洲国警察庁長官。東条英機の子飼いの部下であり、加藤やトマーゾと関わり満州国で暗躍する。
辻 政信(つじ まさのぶ 1902~61年以降消息不明)
大日本帝国陸軍将校。戦後、東南アジアに潜入しドルジェフと闘う。
愛新覚羅 溥儀(あいしんかくら ふぎ 1906~67年)
中国・清帝国最後の皇帝にして満州国皇帝。大日本帝国陸軍関東軍の監視下で疲弊し、オカルティズムに傾倒するようになる。
中島 莞爾(なかじま かんじ 1912~36年)
大日本帝国陸軍少尉。雪子と恋仲となるも、北一輝に傾倒して二・二六事件に参加する。
角川 源義(かどかわ げんよし 1917~75年)
帝都東京の怨霊鎮魂のため、人骨を砕いた灰を撒き続けた。
角川 春樹(かどかわ はるき 1942年~)
源義の長男。角川書店社長となるも突如出奔し、奈須香宇宙大神宮の大宮司として東京の破滅を見届ける。
三島 由紀夫(みしま ゆきお 1925~70年)
中島莞爾の怨霊に取り憑かれていた大蔵省官吏。後に小説家に転向する。自衛隊に体験入隊した際に加藤から修練を受ける。
フサコ・イトー(重信 房子 1945年~)
ドルジェフの側近。
藤森 照信(ふじもり てるのぶ 1946年~)
路上観察学会の建築史家。鳴滝の依頼により震災の瓦礫を発掘する。
滝本 誠(たきもと まこと 1949年~)
団の友人のジャーナリスト。政府の陰謀を察し、行動する。
映画化・アニメ化・マンガ化作品
映画『帝都物語』(1988年1月公開 135分 エクゼ)
原作小説の『神霊篇』~『龍動篇』の映画化作品。日本初の本格的ハイビジョン VFX映画。加藤保憲の役に、当時小劇場俳優で庭師として生計を立てていた嶋田久作が抜擢された。登場する人造ロボット「学天則」の開発者・西村真琴の役を、真琴の実子の西村晃が演じている。 監督・実相寺昭雄、脚本・林海象、製作総指揮・一瀬隆重、特殊美術・池谷仙克、画コンテ・樋口真嗣、特殊メイク・原口智生、コンセプチュアル・デザインH=R=ギーガー。音楽・石井眞木。製作費10億円、配給収入10億5千万円。
映画『帝都大戦』(1989年9月公開 107分 エクゼ)
原作小説『戦争編』を原作とするが、登場人物の設定などが変更されている。監督は当初、香港映画界の藍乃才が務める予定だったが直前に降板したため、前作『帝都物語』でエグゼクティブ・プロデューサーを務めた一瀬隆重が製作総指揮と監督を兼任した。脚本・植岡喜晴、音楽・上野耕路、特殊効果スクリーミング・マッド・ジョージ、特殊メイク・原口智生。配給収入3.5億円。
映画『帝都物語外伝』(1995年7月公開 89分 ケイエスエス)
小説『帝都物語外伝 機関童子』を原作とするが、内容は大幅に異なる。監督・橋本以蔵、脚本・山上梨香、主演・西村和彦。
OVAアニメ版(1991年リリース 全4巻 マッドハウス)
原作小説の『神霊篇』~『龍動篇』のアニメ化作品。加藤保憲の声は実写版と同じく嶋田久作が担当した。脚本・遠藤明範、キャラクターデザイン・摩砂雪、シリーズ監督・りんたろう。作画スタッフには鶴巻和哉、樋口真嗣、前田真宏、庵野秀明らが参加していた。
コミカライズ版
川口敬『帝都物語』(1987~88年 小学館『ビッグコミックスピリッツ』にて連載)
映画『帝都物語』公開に合わせての連載で、原作小説の『神霊篇』~『龍動篇』をマンガ化している。未単行本化。
藤原カムイ『帝都物語 Babylon Tokyo 』(1988年 角川書店)
映画『帝都物語』公開に合わせての刊行で、原作小説の『神霊篇』~『龍動篇』をマンガ化している。
高橋葉介『帝都物語 TOKIO WARS 』(1989年 角川書店)
映画『帝都大戦』公開に合わせての刊行で、原作小説の『魔王篇』と『戦争篇』をマンガ化している。