《前回までのあらすじ》
なんの前触れもなく第3新東京市に突如出現した浮遊する謎の巨大な球体は案の定、第12使徒レリエルだった!
だがしかし、久しぶりの活躍に意気揚々と出撃したはずだったネルフのエヴァンゲリオン3機フルメンバーは、わずか「1分半」という戦闘時間の末に「エヴァンゲリオン初号機をまるっと喪失」という史上最大級の惨敗を喫してなすすべもなく撤退する。
その後の解析の結果、レリエルの本体は空中の球体ではなくその「影」の部分であるらしいことが明らかとなり、初号機もその影から通じている別次元の空間に転移させられているのではないかという状況が推測されるのだった。
破壊ではなく、あえて「拉致」という攻撃手段をとったレリエルの意図とは? そして、果たしてネルフは連れ去られた初号機を奪還し、この歴代もっともわけのわからないアプローチを仕掛けてくる使徒を殲滅することができるのであろうか!?
っていうかぁ~、この「第12使徒レリエル編」は、年はまたぐは月はまたぐは、いったいいつまで続くのかしらぁ~ん!? God's only known.
まずはちゃちゃっと、深夜のネルフ対策会議で開発主任が発言していた、レリエルの本体部分がこの地上世界と連結させているという、虚数空間「ディラックの海」について。
なんだがおらもよぐわがんねぇんだげども、そもそもディラックっつうのはイギリスのポール=ディラック(1902~84)っつう、ノーベル物理学賞もさずがっだ量子力学のえらい先生の名前からとらっだんだそうで、ディラック先生は1928年に、電子の相対論的な量子力学を解析する方程式としてディラック方程式を考えつがれだんだそうです。ほんで、この方程式でいう、電子の負(マイナス)エネルギーのある空間のごどば「ディラックの海」ど呼んでみだらばよがんべ、ど提案すたんだそうで。この解釈だど電子の電荷(正・プラス)と符号が逆で大きさは同じ電荷を持ち、電子と同じ質量を持つ負の粒子(反粒子)がこの世界の、目に見えないどっかしらさ存在しているらすいごどが予言されだわげで、これはのづに、電子の反粒子である陽電子が1932年に発見されたごどで証明されるごどさなっだわけです。
つなみに、おらのふるさとのご近所には「でっくら」ど呼ばれる土地があるわげなんだげども、でらっく先生とはあんまり関係はねぇんだずよねぇ~。山間部だがら海もねぇし。干し柿がうめぇんだげども。
と、いうことで、話題が思いっきり苦手な数学・物理方面にいってるので、山形弁でよそさまの知識をまんま横流しするだけの処理で逃げさせていただきました……苦手だなぁ~、方程式! 入り口に方程式の書いてあるお札が貼ってあったら、私はその家に入ることはできません。
まぁともかく、開発主任の語る予想が正しいのならば、レリエルがエヴァンゲリオン初号機をすっ飛ばした先の空間は、科学的に証明された「あなたの知らない世界」ということになるのですが、まぁ要するに日本の特撮の世界でいう、四次元怪獣ブルトンやらイカルス星人やら我らが異次元人ヤプールやらがお住まいになっている「異次元・四次元」と同じようなわけのわからない別宇宙ということになるのではないのでしょうか。
でも、こんな意味不明なやつ、どうやって倒せばいいんだろうか……
打開策は容易に浮かばず、このまま異世界に放り出されたエヴァンゲリオン初号機内の生命維持モードも限界をむかえ、理論値から推定すれば翌朝の夜明け直前に中の専用パイロットは死んでしまうだろう、という冷酷な予測が刻一刻と緊張と絶望の度合いを高めていきます。残された時間は、わずか数時間!
ところで、今さらな説明になってしまうのですが、巨大人型兵器エヴァンゲリオンの人体でいう頚椎部分(背中と首のつなぎ目あたり)に位置しているパイロットのコックピット「エントリープラグ」の内部は、水のような液体でありながらも人体の肺臓からの栄養循環を可能にするという、非常に便利な「 L.C.L.」という溶液で満たされています。この言葉の略さない名称については「 Link Connected Liquid(リンク・コネクテッド・リキッド)」なのではないかという説も出ているのですが、正式なところはまだ発表されていません。色はだいたいオレンジ色でしょうか。ただし、コックピットとしての機能を通常に起動させた状態では、なんらかの操作で溶液の色はまったくの無色透明になるようです。
この溶液は、アニメ本編を観ればわかるように、それに満たされてもなんら不自由なく、空気と同じように手足を身軽に動かすことができるという超スグレモノで、モニターを通してはもちろんのこと、同じプラグ内にいる相手ともまったく普通に会話をすることができます。そんな液体、あり~!?
それでいて、溶液であることからエントリープラグ内は衝撃吸収性に長けていて、操縦しているエヴァンゲリオンがどんなにコテンパンに攻撃されていたのだとしても、エントリープラグそのものに直接衝撃が与えられない限りは、中のパイロットの肉体的な安全は絶対的に近い確度で保障されているわけなのです。ただ、脳を通じてエヴァンゲリオンからパイロットに加えられてくるヴァーチャルなダメージはもちろん痛いわけなんですが……
ただ、だとするのならば、0号機専用パイロットがことあるごとにしつこくアピールしてくる、あの血まみれの包帯だの吊り包帯だの眼帯だの松葉杖だのといった、「エヴァンゲリオンに乗るたんびに生じるらしい」負傷の数々はいったい、なんなんでしょうか……まさか、彼女の壮絶すぎる自作自演!? それとも、「出自が出自」だけに、人一倍身体が弱いのだろうか。
そういえば、第11使徒イロウルと第12使徒レリエルとの間にある2話ぶんのエピソードでは、この0号機専用パイロットがネルフの怪しい総司令の特命を受けて謎のミッションのために0号機を機動させていたり、ネルフ本部の地下にある秘密部分「セントラルドグマ」の一室で、くだんの L.C.L.とおぼしきオレンジ色の液体に満たされた、でっかい試験管のような装置にどっぷりつかってたゆたっているといった、観ている人をただただ困惑させる新展開が矢継ぎ早に披露されていました。
つまり、前回の対イロウル戦と今回の対レリエル戦とのあいだで、彼女の本質は「人間らしくない雰囲気のヒロイン」から、「ほんとに人間じゃないかもしれない最重要キャラクター」にガラッと変容してしまったわけなのです。こいつぁかなり大きな方向修正ですよね。
と、言いつつも、このままいってしまうと使徒検証シリーズじゃなくなってしまうので彼女についての詮索はここまでにしておきますが、一言でまとめてしまうのならば、彼女も含めたあらゆるポイントで今まで配置されていた物の中身が「変わってしまった」のが TV版の『新世紀エヴァンゲリオン』の後期エピソード群から『旧劇場版2部作』までの流れで、その変わり方を徹底的に避けた新しい方向性を模索しているのが現在も制作進行中の『新劇場版』なんじゃあないかと思うんですよね。いろいろありましたけど、まだまだ『新劇場版』の0号機専用パイロットはヒロインのままでいられていると思うんです。ただしその点で『新劇場版』は、主人公だのヒロインだの敵だの味方だのといった記号がすべて途中から解体されていってしまう旧シリーズよりも、見ようによっては「古くさい」作品になっている、とも言えるのではないのでしょうか。良い意味でも良くない意味でも、破綻のない正調活劇になっていると思うんです。『Q』のぶっとび方だって、昔にくらべたらずいぶんとかわいいもんでしょ?
話がかなりズレてしまいましたが、いずれにしても、あのレベルの負傷が L.C.L.いっぱいのプラグ内で繰りひろげられていたのだとしたら、そりゃ~もう一瞬で内部は映画『ジョーズ』のような血なまぐさい真っ赤なモヤモヤでなんにも見えない惨状になるはずなのです。そんなの TVで放送できるかいな!
ともかく、そんなわけで中のパイロットの生命だけは保障されている初号機のエントリープラグなのですが、その限界時間ということはつまり、プラグに内蔵されているであろう、パイロットに酸素を供給して二酸化炭素を処理する循環装置の電源が切れてしまうリミットということになるのでしょうか。
あわれ、初号機専用パイロットである男子中学生14歳、夜明け前になすすべもなく溺死!?
「彼にはかなり悲惨な最期をとげていただくことになってしまい、私としても本意ではないのですが……でも彼この前、2号機専用パイロットの娘さんと接吻したんでしょ? じゃあこの世にもう未練はないんじゃないんでしょうかねぇ。ただ、死んでいただく前に、わたくしの役には立ってもらいますよ、ふふふ……」
ほっといても死んでしまう初号機専用パイロットを前にして、何を思うレリエル!? でも、あのキッスは誰も得しない、冥土の土産にするにはあまりにも不毛な「若気のいたりもの」だったわけで……男子中学生、ここで死んじゃあ~なんねぇ!!
さて、お昼すぎの戦闘以降の物語のシーン描写は、地上で反撃の機会をうかがうネルフの野戦対策本部と、「ディラックの海」の中でなすすべもなく救出を待つエントリープラグ内の初号機専用パイロットのもようとが交互に切り替わっていく形式になっていきます。
なので、今後の時間の推移については、このシーンの順序がそのまま時間順であるとバカ正直に解釈して検証を進めていきたいと思います。そうでもしないと、何を信用していいのかがさっぱりわかんなくなるのが『新世紀エヴァンゲリオン』!
まず、まだ空に夕焼けのあとが残っている日没直後の対策本部の様子が描写され、次のシーンはいよいよ、異空間に投げ出されてしまった初号機の番となります。
初号機内部のエントリープラグ。内部はどうやら節電モードになっているらしく無音でうす暗くなっており、初号機専用パイロットも前面モニターの電源を切ってうすらぼんやりと座席に腰かけています。
ふと、思い出したようにモニターに電源をつけてみたりもするのですが、そこに映し出されるのは完全な「真っ白けっけ」の世界。何も見えません。彼の発言から、初号機から発信するレーダーやソナーもまったくの無反応であることがわかります。
自分のプラグスーツの手の甲に内蔵されている、生命維持モードの経過時間をしめすデジタル表示は「12:03:45」。
「生命維持モードに切り替えてから12時間。(ため息をついて)僕の命もあと4、5時間か……おなか、すいたな。」
この描写から、このときの時間が、あの戦闘から12時間後。日がかわった深夜0~1時くらいであることがわかります。
すでにあれから、いたずらに半日も時間が経ってしまったことがわかるわけなのですが、その間に彼もパニックし飽きてしまったのか、それとも最初から死を覚悟していたのか、この時点では精も根も尽き果てたといった感じでぐったりしています。
生命維持モードのタイムリミットを前もって把握していたような上のつぶやきからも、パイロットがある程度は自分の置かれている状態を冷静に理解していたらしいことはわかるのですが、目元に、疲労か泣きはらしたかでくまができているのが細かくてリアルですね。
それにしても、あのエントリープラグは座席の背後にがっつり重要そうな機器がすえつけられているので、おそらく座っているシートのリクライニングは不可能ですよね? さすが14歳。半日おんなじ座席で寝そべりなしはそ~と~キツかっただろうに、えらい!! 生きて帰ってこれたら、腰はいたわれよ!
こういったエントリープラグの1回目のシーンの後、画面は地上にもどり、前回にも取りあげた、開発主任によるレリエルの解析結果の発表シーンが展開されます。つまり、ネルフがレリエルの正体と初号機生存の可能性をしかと認識したのは、初号機専用パイロットの生命のタイムリミットもあと数時間という危なさになってきたド深夜のことだったのです。本編を見ているとすぐにレリエルのことがわかったような印象になるのですが、実際には開発主任もかなり苦戦していたんですね。おそらく、深夜1時すぎにホワイトボードを使っておこなわれた彼女の説明に、思わず居眠りをぶっこいてしまったネルフ職員もゼロではなかったのではないのでしょうか。人類防衛業はつらいよ!!
そんなこんなで、「レリエルの正体はだいたいわかったんだけど……これからどうしよっかぁ~。」という、さらなる混迷をまねきかねない空気が対策本部を支配してゆく中、シーンはふたたび初号機のエントリープラグ内に移っていきます。
ここからの幾度かのエントリープラグ~対策本部間のやりとりは、具体的にそれぞれのシーンの時間が深夜の午前何時ごろなのかはまったく語られていないのですが、次第に切迫していく状況を非常に的確にピックアップしています。
切り替わったエントリープラグの内部シーンでは、いつのまにか自分の周囲の L.C.L.溶液がにごって本来のオレンジ色にもどり、しかもなんだかよく見てみれば、白いフワフワしたほこりのようなゴミがそこら中に漂っていることに初号機専用パイロットが気づきます。
「水がにごってきてる……浄化能力が落ちてきてるんだ!」
と同時に、自分が呼吸(?)している溶液が鉄くさい血の味になってきていることにもかなり動揺し、パイロットは途端にパニック状態におちいってしまいます。
パイロットの発言の通り、おそらくこれらの L.C.L.の変化はエントリープラグの残された電力がかなり少なくなってきた影響だと思われるのですが、と同時に、混乱する男子中学生の脳裏には、
「ちょっとパワーが落ちたからといって、たった数時間でそんなにこれみよがしにヘンなゴミだらけにならなくたっていいじゃないか……ちゃんと乗る前に洗浄してプラグスーツを着てるのに、僕のからだはそんなに汚れてるっていうのか……やっぱり大人になんてなりたくない、嫌だ!!」
という、思春期特有のセンシティヴな絶望感がよぎっていたのではないのでしょうか。ほら、14歳くらいは代謝がいろいろとアレだから。
いっぽう、そんな極限状態におちいりつつある男子中学生の危機を知ってか知らずか、第3新東京市市街地の対策本部ウラでは、開発主任が密かに作戦指揮官ひとりを呼び出して「ある作戦」の即時決行を提案します。う~ん、主任は今回もなんだか前に出てくる。
作戦「エヴァーの強制サルヴェージ!?」
主任「現在、可能と思われる唯一の方法よ。
992個、現存する全ての N2爆雷を中心部に投下。タイミングを合わせて残存するエヴァ2体の A.T.フィールドを使い、使徒の虚数回路を1/1000秒だけ干渉するわ。その瞬間に爆発エネルギーを集中させて、使徒を形成するディラックの海ごと破壊する。」
作戦「でも、それじゃあエヴァーの機体が……シンジ君がどうなるか。救出作戦とは言えないわ!」
主任「作戦は初号機の機体回収を最優先とします。たとえボディが大破しても構わないわ。」
作戦「ちょっと待って!」
主任「この際、パイロットの生死は問いません。」
思わず激昂し、開発主任に強烈な右ビンタをくらわす作戦指揮官! 軽快に吹っ飛ぶ主任の銀ぶちメガネ!!
主任「……シンジ君を失うのは、あなたのミスなのよ!? それを忘れないで!」
作戦「碇司令やあなたが、そこまで初号機にこだわる理由はなに?(主任の胸ぐらをムンズとつかみ)エヴァーって、なんなの!?」
主任「あなたに渡した資料が全てよ!」
作戦「……嘘!」
主任「ミサト……私を信じて。
この作戦についての一切の指揮は、私が執ります。」
作戦指揮官をにらみつつ、落ちたメガネを拾い上げる開発主任。あわただしく携帯電話かトランシーバーのようなもので連絡をとり、「関空にも便を回すわ。航空管制と空自(航空自衛隊)の戦略輸送団に連絡を。」とテキパキ指示を出しながら本部に戻っていきます。
引用が長くなりましたが、ここの2人のやりとりは内容からいっても声優さんがたの名演からいっても非常に見ごたえのあるものとなっており、対レリエル戦の切り札という急展開もさることながら、「ネルフが、っていうかネルフの怪しい総司令が初号機の機体を並外れて重要視していること」「エヴァンゲリオン初号機に関する、作戦指揮官の全く知らない秘密を総司令と開発主任が知っているらしいこと」「開発主任が初めて明確に作戦指揮官のネルフ上層部に対する不満を(身をもって)認識したこと」などがつるべ打ちで提示されていくという、濃密この上ない名シーンになっているのです。
「私を信じて。」と言いつつも、2人の大学時代以来の仲を感じさせるこの一言にかぎって!実に居心地悪そうに作戦指揮官から目をそらしている開発主任のバカ正直すぎるウソのつき方が愛らしいです……あんたはおかたづけで皿を割った小学生か!?
このやりとりによって、作戦指揮官のネルフに対する不信感は決定的なものとなってしまうのですが、この時に開発主任が提案した「初号機サルヴェージ作戦」の規模は、今さら指揮官がダメと言おうがイヤンと言おうが止めようのないスケールのものとなっており、よくよく考えてみれば、もともと主任側に、指揮官に作戦のイニシアティヴをとらせるつもりはさらさらなかった、「提案」というよりも「事後通告」に近いものだったようです。
それは確かにそうで、この作戦の元手となる「992個の N2爆雷」のほとんどの保有組織は日本の自衛隊か国連軍であることが明らかになっているわけで(ネルフもいくらか保有しているらしいことはのちのエピソードでわかる)、主任が作戦指揮官のビンタをくらった直後にもかかわらず大急ぎで輸送準備を指示していたように、あの対第5使徒ラミエル戦のときの「日本全国停電させ~のヤシマ作戦」のような、組織や国境の壁を越えた人類規模の一大決戦のための準備を、まさに「夜明けまでの数時間」のうちに完了させなければならかったわけなのです。
これが L.C.L.循環機能の低下したプラグ内シーンの後に置かれているのですから、先ほどの発言に出た「4~5時間」もなかったことは明らかなのです。できんのか!?
この大作戦のおおまかな流れは、その中でエヴァンゲリオンがになう役割こそ微妙に違ってはいるものの、「使徒の A.T.フィールドを無効化させたところをフルボッコ」という部分においては、過去の第6使徒ガギエル、第9使徒マトリエル、第10使徒サハクィエルに対しておこなった殲滅方法と同工異曲のものとなっています。ガギエル戦では一時的に通常以上の馬鹿力を発揮する「覚醒状態」になったエヴァンゲリオン2号機の活躍のため、マトリエル戦では偶然にもいちばん A.T.フィールドの守りが弱くなっていた部分を初号機がピンポイントで銃撃したために使徒のみなさんは比較的あっけなく苦杯をなめることとなってしまったわけなのですが、最近のサハクィエル戦ではエヴァンゲリオン3機が総出撃でギリギリ食い止めて殲滅にこぎつける、という危うさになっていました。同じような手法の焼き直しという感じなのですが、今度の正体不明すぎる使徒レリエルに対してはいったいどこまで通用するのでしょうか……
確かに、「エヴァンゲリオン以外で使徒に通用する人類唯一の兵器」ともいわれる、核兵器なみの破壊力を誇る N2兵器は、かつて地雷型や投下型といった形式で第3使徒サキエルや第7使徒イスラフェルの活動を「一時停止させる」功績を挙げてはきたわけなのですが……最後に使われた、宇宙空間の第10使徒サハクィエルに対してはまったく効かなかったよね!? 今までのような数発のチビチビ投入とはまるでスケールが違う992個全弾投下とはいえ、大丈夫なのかしら。
それにしても、このサルヴェージ作戦の精神は、「とにかく全力でぶち当たれ!!」という、全盛期の作戦指揮官の理念を思いださせるものとなっており、「作戦指揮官だけだと思ってたのに……ネルフにはそんな特攻野郎しかいないのか。」と人類を慄然とさせるムチャクチャ感があるのですが、置いてきぼりにされた作戦指揮官の指摘するとおり、そこには「人質(初号機)がどうなろうがレリエルは殲滅する!」という尋常でない姿勢とともに、
「992個の N2爆雷の一斉爆発に巻き込まれても、ネルフが回収したい初号機の『なにか』は大破せずに確保できる。」
という不気味な確信があるわけなのです。
それが「初号機の機体」でも「パイロットのいるエントリープラグ」でもないことは開発主任の発言からわかるのですが……ひょっとすると初号機だけでなく、作戦に参加する2号機も0号機も、第3新東京市さえもがまるまるパーになりかねない賭けに出てでも怪しい総司令が取り返したかったその『なにか』とは、果たして何だったのでしょうか。謎が謎を呼びすぎ!!
余談ですが、このやりとりで2人は初号機の専用パイロットの生死をめぐって激しく言い争っているのですが、そのいっぽうで2人が2人とも、2号機と0号機の専用パイロットの安全をまったく話題にしていないのがなんだかコワいですね。まぁ、それだけエヴァンゲリオンの機体とエントリープラグが信頼できるということのあらわれなのかも知れませんが……子どもの人権110番に、今すぐアクセス♪
さて、そんな感じで地味~に始動するネルフ史上&人類史上最大級の大爆発作戦だったのですが、そのころレリエルの手中におちいった初号機のエントリープラグの中ではなんと! 1990年代日本アニメの「伝説のはじまり」を大いに予感させる、まさしく「次元が違いすぎる」異常な闘いが繰り広げられようとしていたのであります!!
「そろそろ、彼の意識ももうろうとしてきたころでしょうかね。外の世界ではなにやら人類のみなさんがガタガタ準備をなさっているようですが、私もいよいよ本腰を入れてお仕事をさせていただきますよ……時まさに、闇のもっとも深くなる夜明け前。今までの先輩がたのやり口とはひと味違った、わたくし『夜の天使』レリエルの料理をとくとご覧あれい! へんし~ん、くるりんぱっ☆」
生命の危機に瀕する初号機専用パイロットの前に現れたのは……これはなんと、どことも知れぬ夕暮れの電車の中にちょこんと腰かける、彼とまったく同じ声を持つ「少年時代の彼」!? たぬき? たぬきのしわざなの?
正体不明の第12使徒レリエルの真のねらいが明らかになり、そして同時にあまりにも残酷なわかれのときが訪れる、悲しみトワイライトな結末は、まった次回のココロだ~!
……ホントにもう、次でいい加減にしとこうな、ウン。
なんの前触れもなく第3新東京市に突如出現した浮遊する謎の巨大な球体は案の定、第12使徒レリエルだった!
だがしかし、久しぶりの活躍に意気揚々と出撃したはずだったネルフのエヴァンゲリオン3機フルメンバーは、わずか「1分半」という戦闘時間の末に「エヴァンゲリオン初号機をまるっと喪失」という史上最大級の惨敗を喫してなすすべもなく撤退する。
その後の解析の結果、レリエルの本体は空中の球体ではなくその「影」の部分であるらしいことが明らかとなり、初号機もその影から通じている別次元の空間に転移させられているのではないかという状況が推測されるのだった。
破壊ではなく、あえて「拉致」という攻撃手段をとったレリエルの意図とは? そして、果たしてネルフは連れ去られた初号機を奪還し、この歴代もっともわけのわからないアプローチを仕掛けてくる使徒を殲滅することができるのであろうか!?
っていうかぁ~、この「第12使徒レリエル編」は、年はまたぐは月はまたぐは、いったいいつまで続くのかしらぁ~ん!? God's only known.
まずはちゃちゃっと、深夜のネルフ対策会議で開発主任が発言していた、レリエルの本体部分がこの地上世界と連結させているという、虚数空間「ディラックの海」について。
なんだがおらもよぐわがんねぇんだげども、そもそもディラックっつうのはイギリスのポール=ディラック(1902~84)っつう、ノーベル物理学賞もさずがっだ量子力学のえらい先生の名前からとらっだんだそうで、ディラック先生は1928年に、電子の相対論的な量子力学を解析する方程式としてディラック方程式を考えつがれだんだそうです。ほんで、この方程式でいう、電子の負(マイナス)エネルギーのある空間のごどば「ディラックの海」ど呼んでみだらばよがんべ、ど提案すたんだそうで。この解釈だど電子の電荷(正・プラス)と符号が逆で大きさは同じ電荷を持ち、電子と同じ質量を持つ負の粒子(反粒子)がこの世界の、目に見えないどっかしらさ存在しているらすいごどが予言されだわげで、これはのづに、電子の反粒子である陽電子が1932年に発見されたごどで証明されるごどさなっだわけです。
つなみに、おらのふるさとのご近所には「でっくら」ど呼ばれる土地があるわげなんだげども、でらっく先生とはあんまり関係はねぇんだずよねぇ~。山間部だがら海もねぇし。干し柿がうめぇんだげども。
と、いうことで、話題が思いっきり苦手な数学・物理方面にいってるので、山形弁でよそさまの知識をまんま横流しするだけの処理で逃げさせていただきました……苦手だなぁ~、方程式! 入り口に方程式の書いてあるお札が貼ってあったら、私はその家に入ることはできません。
まぁともかく、開発主任の語る予想が正しいのならば、レリエルがエヴァンゲリオン初号機をすっ飛ばした先の空間は、科学的に証明された「あなたの知らない世界」ということになるのですが、まぁ要するに日本の特撮の世界でいう、四次元怪獣ブルトンやらイカルス星人やら我らが異次元人ヤプールやらがお住まいになっている「異次元・四次元」と同じようなわけのわからない別宇宙ということになるのではないのでしょうか。
でも、こんな意味不明なやつ、どうやって倒せばいいんだろうか……
打開策は容易に浮かばず、このまま異世界に放り出されたエヴァンゲリオン初号機内の生命維持モードも限界をむかえ、理論値から推定すれば翌朝の夜明け直前に中の専用パイロットは死んでしまうだろう、という冷酷な予測が刻一刻と緊張と絶望の度合いを高めていきます。残された時間は、わずか数時間!
ところで、今さらな説明になってしまうのですが、巨大人型兵器エヴァンゲリオンの人体でいう頚椎部分(背中と首のつなぎ目あたり)に位置しているパイロットのコックピット「エントリープラグ」の内部は、水のような液体でありながらも人体の肺臓からの栄養循環を可能にするという、非常に便利な「 L.C.L.」という溶液で満たされています。この言葉の略さない名称については「 Link Connected Liquid(リンク・コネクテッド・リキッド)」なのではないかという説も出ているのですが、正式なところはまだ発表されていません。色はだいたいオレンジ色でしょうか。ただし、コックピットとしての機能を通常に起動させた状態では、なんらかの操作で溶液の色はまったくの無色透明になるようです。
この溶液は、アニメ本編を観ればわかるように、それに満たされてもなんら不自由なく、空気と同じように手足を身軽に動かすことができるという超スグレモノで、モニターを通してはもちろんのこと、同じプラグ内にいる相手ともまったく普通に会話をすることができます。そんな液体、あり~!?
それでいて、溶液であることからエントリープラグ内は衝撃吸収性に長けていて、操縦しているエヴァンゲリオンがどんなにコテンパンに攻撃されていたのだとしても、エントリープラグそのものに直接衝撃が与えられない限りは、中のパイロットの肉体的な安全は絶対的に近い確度で保障されているわけなのです。ただ、脳を通じてエヴァンゲリオンからパイロットに加えられてくるヴァーチャルなダメージはもちろん痛いわけなんですが……
ただ、だとするのならば、0号機専用パイロットがことあるごとにしつこくアピールしてくる、あの血まみれの包帯だの吊り包帯だの眼帯だの松葉杖だのといった、「エヴァンゲリオンに乗るたんびに生じるらしい」負傷の数々はいったい、なんなんでしょうか……まさか、彼女の壮絶すぎる自作自演!? それとも、「出自が出自」だけに、人一倍身体が弱いのだろうか。
そういえば、第11使徒イロウルと第12使徒レリエルとの間にある2話ぶんのエピソードでは、この0号機専用パイロットがネルフの怪しい総司令の特命を受けて謎のミッションのために0号機を機動させていたり、ネルフ本部の地下にある秘密部分「セントラルドグマ」の一室で、くだんの L.C.L.とおぼしきオレンジ色の液体に満たされた、でっかい試験管のような装置にどっぷりつかってたゆたっているといった、観ている人をただただ困惑させる新展開が矢継ぎ早に披露されていました。
つまり、前回の対イロウル戦と今回の対レリエル戦とのあいだで、彼女の本質は「人間らしくない雰囲気のヒロイン」から、「ほんとに人間じゃないかもしれない最重要キャラクター」にガラッと変容してしまったわけなのです。こいつぁかなり大きな方向修正ですよね。
と、言いつつも、このままいってしまうと使徒検証シリーズじゃなくなってしまうので彼女についての詮索はここまでにしておきますが、一言でまとめてしまうのならば、彼女も含めたあらゆるポイントで今まで配置されていた物の中身が「変わってしまった」のが TV版の『新世紀エヴァンゲリオン』の後期エピソード群から『旧劇場版2部作』までの流れで、その変わり方を徹底的に避けた新しい方向性を模索しているのが現在も制作進行中の『新劇場版』なんじゃあないかと思うんですよね。いろいろありましたけど、まだまだ『新劇場版』の0号機専用パイロットはヒロインのままでいられていると思うんです。ただしその点で『新劇場版』は、主人公だのヒロインだの敵だの味方だのといった記号がすべて途中から解体されていってしまう旧シリーズよりも、見ようによっては「古くさい」作品になっている、とも言えるのではないのでしょうか。良い意味でも良くない意味でも、破綻のない正調活劇になっていると思うんです。『Q』のぶっとび方だって、昔にくらべたらずいぶんとかわいいもんでしょ?
話がかなりズレてしまいましたが、いずれにしても、あのレベルの負傷が L.C.L.いっぱいのプラグ内で繰りひろげられていたのだとしたら、そりゃ~もう一瞬で内部は映画『ジョーズ』のような血なまぐさい真っ赤なモヤモヤでなんにも見えない惨状になるはずなのです。そんなの TVで放送できるかいな!
ともかく、そんなわけで中のパイロットの生命だけは保障されている初号機のエントリープラグなのですが、その限界時間ということはつまり、プラグに内蔵されているであろう、パイロットに酸素を供給して二酸化炭素を処理する循環装置の電源が切れてしまうリミットということになるのでしょうか。
あわれ、初号機専用パイロットである男子中学生14歳、夜明け前になすすべもなく溺死!?
「彼にはかなり悲惨な最期をとげていただくことになってしまい、私としても本意ではないのですが……でも彼この前、2号機専用パイロットの娘さんと接吻したんでしょ? じゃあこの世にもう未練はないんじゃないんでしょうかねぇ。ただ、死んでいただく前に、わたくしの役には立ってもらいますよ、ふふふ……」
ほっといても死んでしまう初号機専用パイロットを前にして、何を思うレリエル!? でも、あのキッスは誰も得しない、冥土の土産にするにはあまりにも不毛な「若気のいたりもの」だったわけで……男子中学生、ここで死んじゃあ~なんねぇ!!
さて、お昼すぎの戦闘以降の物語のシーン描写は、地上で反撃の機会をうかがうネルフの野戦対策本部と、「ディラックの海」の中でなすすべもなく救出を待つエントリープラグ内の初号機専用パイロットのもようとが交互に切り替わっていく形式になっていきます。
なので、今後の時間の推移については、このシーンの順序がそのまま時間順であるとバカ正直に解釈して検証を進めていきたいと思います。そうでもしないと、何を信用していいのかがさっぱりわかんなくなるのが『新世紀エヴァンゲリオン』!
まず、まだ空に夕焼けのあとが残っている日没直後の対策本部の様子が描写され、次のシーンはいよいよ、異空間に投げ出されてしまった初号機の番となります。
初号機内部のエントリープラグ。内部はどうやら節電モードになっているらしく無音でうす暗くなっており、初号機専用パイロットも前面モニターの電源を切ってうすらぼんやりと座席に腰かけています。
ふと、思い出したようにモニターに電源をつけてみたりもするのですが、そこに映し出されるのは完全な「真っ白けっけ」の世界。何も見えません。彼の発言から、初号機から発信するレーダーやソナーもまったくの無反応であることがわかります。
自分のプラグスーツの手の甲に内蔵されている、生命維持モードの経過時間をしめすデジタル表示は「12:03:45」。
「生命維持モードに切り替えてから12時間。(ため息をついて)僕の命もあと4、5時間か……おなか、すいたな。」
この描写から、このときの時間が、あの戦闘から12時間後。日がかわった深夜0~1時くらいであることがわかります。
すでにあれから、いたずらに半日も時間が経ってしまったことがわかるわけなのですが、その間に彼もパニックし飽きてしまったのか、それとも最初から死を覚悟していたのか、この時点では精も根も尽き果てたといった感じでぐったりしています。
生命維持モードのタイムリミットを前もって把握していたような上のつぶやきからも、パイロットがある程度は自分の置かれている状態を冷静に理解していたらしいことはわかるのですが、目元に、疲労か泣きはらしたかでくまができているのが細かくてリアルですね。
それにしても、あのエントリープラグは座席の背後にがっつり重要そうな機器がすえつけられているので、おそらく座っているシートのリクライニングは不可能ですよね? さすが14歳。半日おんなじ座席で寝そべりなしはそ~と~キツかっただろうに、えらい!! 生きて帰ってこれたら、腰はいたわれよ!
こういったエントリープラグの1回目のシーンの後、画面は地上にもどり、前回にも取りあげた、開発主任によるレリエルの解析結果の発表シーンが展開されます。つまり、ネルフがレリエルの正体と初号機生存の可能性をしかと認識したのは、初号機専用パイロットの生命のタイムリミットもあと数時間という危なさになってきたド深夜のことだったのです。本編を見ているとすぐにレリエルのことがわかったような印象になるのですが、実際には開発主任もかなり苦戦していたんですね。おそらく、深夜1時すぎにホワイトボードを使っておこなわれた彼女の説明に、思わず居眠りをぶっこいてしまったネルフ職員もゼロではなかったのではないのでしょうか。人類防衛業はつらいよ!!
そんなこんなで、「レリエルの正体はだいたいわかったんだけど……これからどうしよっかぁ~。」という、さらなる混迷をまねきかねない空気が対策本部を支配してゆく中、シーンはふたたび初号機のエントリープラグ内に移っていきます。
ここからの幾度かのエントリープラグ~対策本部間のやりとりは、具体的にそれぞれのシーンの時間が深夜の午前何時ごろなのかはまったく語られていないのですが、次第に切迫していく状況を非常に的確にピックアップしています。
切り替わったエントリープラグの内部シーンでは、いつのまにか自分の周囲の L.C.L.溶液がにごって本来のオレンジ色にもどり、しかもなんだかよく見てみれば、白いフワフワしたほこりのようなゴミがそこら中に漂っていることに初号機専用パイロットが気づきます。
「水がにごってきてる……浄化能力が落ちてきてるんだ!」
と同時に、自分が呼吸(?)している溶液が鉄くさい血の味になってきていることにもかなり動揺し、パイロットは途端にパニック状態におちいってしまいます。
パイロットの発言の通り、おそらくこれらの L.C.L.の変化はエントリープラグの残された電力がかなり少なくなってきた影響だと思われるのですが、と同時に、混乱する男子中学生の脳裏には、
「ちょっとパワーが落ちたからといって、たった数時間でそんなにこれみよがしにヘンなゴミだらけにならなくたっていいじゃないか……ちゃんと乗る前に洗浄してプラグスーツを着てるのに、僕のからだはそんなに汚れてるっていうのか……やっぱり大人になんてなりたくない、嫌だ!!」
という、思春期特有のセンシティヴな絶望感がよぎっていたのではないのでしょうか。ほら、14歳くらいは代謝がいろいろとアレだから。
いっぽう、そんな極限状態におちいりつつある男子中学生の危機を知ってか知らずか、第3新東京市市街地の対策本部ウラでは、開発主任が密かに作戦指揮官ひとりを呼び出して「ある作戦」の即時決行を提案します。う~ん、主任は今回もなんだか前に出てくる。
作戦「エヴァーの強制サルヴェージ!?」
主任「現在、可能と思われる唯一の方法よ。
992個、現存する全ての N2爆雷を中心部に投下。タイミングを合わせて残存するエヴァ2体の A.T.フィールドを使い、使徒の虚数回路を1/1000秒だけ干渉するわ。その瞬間に爆発エネルギーを集中させて、使徒を形成するディラックの海ごと破壊する。」
作戦「でも、それじゃあエヴァーの機体が……シンジ君がどうなるか。救出作戦とは言えないわ!」
主任「作戦は初号機の機体回収を最優先とします。たとえボディが大破しても構わないわ。」
作戦「ちょっと待って!」
主任「この際、パイロットの生死は問いません。」
思わず激昂し、開発主任に強烈な右ビンタをくらわす作戦指揮官! 軽快に吹っ飛ぶ主任の銀ぶちメガネ!!
主任「……シンジ君を失うのは、あなたのミスなのよ!? それを忘れないで!」
作戦「碇司令やあなたが、そこまで初号機にこだわる理由はなに?(主任の胸ぐらをムンズとつかみ)エヴァーって、なんなの!?」
主任「あなたに渡した資料が全てよ!」
作戦「……嘘!」
主任「ミサト……私を信じて。
この作戦についての一切の指揮は、私が執ります。」
作戦指揮官をにらみつつ、落ちたメガネを拾い上げる開発主任。あわただしく携帯電話かトランシーバーのようなもので連絡をとり、「関空にも便を回すわ。航空管制と空自(航空自衛隊)の戦略輸送団に連絡を。」とテキパキ指示を出しながら本部に戻っていきます。
引用が長くなりましたが、ここの2人のやりとりは内容からいっても声優さんがたの名演からいっても非常に見ごたえのあるものとなっており、対レリエル戦の切り札という急展開もさることながら、「ネルフが、っていうかネルフの怪しい総司令が初号機の機体を並外れて重要視していること」「エヴァンゲリオン初号機に関する、作戦指揮官の全く知らない秘密を総司令と開発主任が知っているらしいこと」「開発主任が初めて明確に作戦指揮官のネルフ上層部に対する不満を(身をもって)認識したこと」などがつるべ打ちで提示されていくという、濃密この上ない名シーンになっているのです。
「私を信じて。」と言いつつも、2人の大学時代以来の仲を感じさせるこの一言にかぎって!実に居心地悪そうに作戦指揮官から目をそらしている開発主任のバカ正直すぎるウソのつき方が愛らしいです……あんたはおかたづけで皿を割った小学生か!?
このやりとりによって、作戦指揮官のネルフに対する不信感は決定的なものとなってしまうのですが、この時に開発主任が提案した「初号機サルヴェージ作戦」の規模は、今さら指揮官がダメと言おうがイヤンと言おうが止めようのないスケールのものとなっており、よくよく考えてみれば、もともと主任側に、指揮官に作戦のイニシアティヴをとらせるつもりはさらさらなかった、「提案」というよりも「事後通告」に近いものだったようです。
それは確かにそうで、この作戦の元手となる「992個の N2爆雷」のほとんどの保有組織は日本の自衛隊か国連軍であることが明らかになっているわけで(ネルフもいくらか保有しているらしいことはのちのエピソードでわかる)、主任が作戦指揮官のビンタをくらった直後にもかかわらず大急ぎで輸送準備を指示していたように、あの対第5使徒ラミエル戦のときの「日本全国停電させ~のヤシマ作戦」のような、組織や国境の壁を越えた人類規模の一大決戦のための準備を、まさに「夜明けまでの数時間」のうちに完了させなければならかったわけなのです。
これが L.C.L.循環機能の低下したプラグ内シーンの後に置かれているのですから、先ほどの発言に出た「4~5時間」もなかったことは明らかなのです。できんのか!?
この大作戦のおおまかな流れは、その中でエヴァンゲリオンがになう役割こそ微妙に違ってはいるものの、「使徒の A.T.フィールドを無効化させたところをフルボッコ」という部分においては、過去の第6使徒ガギエル、第9使徒マトリエル、第10使徒サハクィエルに対しておこなった殲滅方法と同工異曲のものとなっています。ガギエル戦では一時的に通常以上の馬鹿力を発揮する「覚醒状態」になったエヴァンゲリオン2号機の活躍のため、マトリエル戦では偶然にもいちばん A.T.フィールドの守りが弱くなっていた部分を初号機がピンポイントで銃撃したために使徒のみなさんは比較的あっけなく苦杯をなめることとなってしまったわけなのですが、最近のサハクィエル戦ではエヴァンゲリオン3機が総出撃でギリギリ食い止めて殲滅にこぎつける、という危うさになっていました。同じような手法の焼き直しという感じなのですが、今度の正体不明すぎる使徒レリエルに対してはいったいどこまで通用するのでしょうか……
確かに、「エヴァンゲリオン以外で使徒に通用する人類唯一の兵器」ともいわれる、核兵器なみの破壊力を誇る N2兵器は、かつて地雷型や投下型といった形式で第3使徒サキエルや第7使徒イスラフェルの活動を「一時停止させる」功績を挙げてはきたわけなのですが……最後に使われた、宇宙空間の第10使徒サハクィエルに対してはまったく効かなかったよね!? 今までのような数発のチビチビ投入とはまるでスケールが違う992個全弾投下とはいえ、大丈夫なのかしら。
それにしても、このサルヴェージ作戦の精神は、「とにかく全力でぶち当たれ!!」という、全盛期の作戦指揮官の理念を思いださせるものとなっており、「作戦指揮官だけだと思ってたのに……ネルフにはそんな特攻野郎しかいないのか。」と人類を慄然とさせるムチャクチャ感があるのですが、置いてきぼりにされた作戦指揮官の指摘するとおり、そこには「人質(初号機)がどうなろうがレリエルは殲滅する!」という尋常でない姿勢とともに、
「992個の N2爆雷の一斉爆発に巻き込まれても、ネルフが回収したい初号機の『なにか』は大破せずに確保できる。」
という不気味な確信があるわけなのです。
それが「初号機の機体」でも「パイロットのいるエントリープラグ」でもないことは開発主任の発言からわかるのですが……ひょっとすると初号機だけでなく、作戦に参加する2号機も0号機も、第3新東京市さえもがまるまるパーになりかねない賭けに出てでも怪しい総司令が取り返したかったその『なにか』とは、果たして何だったのでしょうか。謎が謎を呼びすぎ!!
余談ですが、このやりとりで2人は初号機の専用パイロットの生死をめぐって激しく言い争っているのですが、そのいっぽうで2人が2人とも、2号機と0号機の専用パイロットの安全をまったく話題にしていないのがなんだかコワいですね。まぁ、それだけエヴァンゲリオンの機体とエントリープラグが信頼できるということのあらわれなのかも知れませんが……子どもの人権110番に、今すぐアクセス♪
さて、そんな感じで地味~に始動するネルフ史上&人類史上最大級の大爆発作戦だったのですが、そのころレリエルの手中におちいった初号機のエントリープラグの中ではなんと! 1990年代日本アニメの「伝説のはじまり」を大いに予感させる、まさしく「次元が違いすぎる」異常な闘いが繰り広げられようとしていたのであります!!
「そろそろ、彼の意識ももうろうとしてきたころでしょうかね。外の世界ではなにやら人類のみなさんがガタガタ準備をなさっているようですが、私もいよいよ本腰を入れてお仕事をさせていただきますよ……時まさに、闇のもっとも深くなる夜明け前。今までの先輩がたのやり口とはひと味違った、わたくし『夜の天使』レリエルの料理をとくとご覧あれい! へんし~ん、くるりんぱっ☆」
生命の危機に瀕する初号機専用パイロットの前に現れたのは……これはなんと、どことも知れぬ夕暮れの電車の中にちょこんと腰かける、彼とまったく同じ声を持つ「少年時代の彼」!? たぬき? たぬきのしわざなの?
正体不明の第12使徒レリエルの真のねらいが明らかになり、そして同時にあまりにも残酷なわかれのときが訪れる、悲しみトワイライトな結末は、まった次回のココロだ~!
……ホントにもう、次でいい加減にしとこうな、ウン。