東芝デジタルソリューションズの浅海有佳さん
東芝子会社の東芝デジタルソリューションズの浅海有佳さん(32)は大手化粧品メーカー向けにスマートフォンなど端末の納入や運用・保守サービスを提供する。
現場を回り「営業やプレゼンのスパイスを拾うことが重要」と話す。アイデアを拾うために現在の担当企業で聞いて回った人数は200人を超え、成果につなげている。
東芝デジタルソリューションズは従業員向けの端末の導入や故障対応やeラーニングシステム、あらゆるものがネットにつながる「IoT」のサービスなどを提供する。
浅海さんは「特定の商材がない分、営業職としての自由度は高い」と言う。製品のラインアップが幅広く、人事や総務、工場など客先も多岐にわたる。
プレゼンで客があくび
浅海さんは2014年に入社し、まず製薬業界向けのeラーニングシステムの営業を担当した。
製薬企業に関わる展示会やカンファレンスに参加するなど、客先を理解するための勉強をこつこつと積み上げてきた。 だが、製薬業界の営業として苦い経験もした。
ある製薬企業に対して東芝のソフトウエア製品をプレゼンした際、通り一遍の説明になってしまった。プレゼンを聞く企業の担当者からは小さなあくびが漏れていた。「自分のプレゼンが聞く価値があるのか。相手のメリットに踏み込んで説明をしないといけない」と誓った。
製薬会社は職種によって年間の研修計画や集合研修の有無や、受ける研修の種類が細かく決められている。「製薬企業は制度の決まりが多い。まずは現場で何が起こっているのか聞くしかない」
どのような使われ方をするのか、細かな業務まで相手に踏み込んでニーズを聞くようにした。顧客の仕事や最終的な使い方をイメージして商品紹介に臨むことで、相手から質問されるようなプレゼンを心がけた。
こうした会話を重ね、法令や制度が変わるタイミングなど業界の節目やトレンドを察知しやすくなり、次の商品の紹介につながることも増えていった。
食品メーカーを担当したのち、2016年から大手化粧品メーカーを担当する。以前に担当した製薬業界と違い、1社を深掘りする「アカウント営業」と呼ばれる業務だ。
化粧品メーカー向けにパソコンからスマートフォンなどの運用をしたり、どの従業員がどの端末を使っているのか情報管理の基盤を提供したりする。
担当した当初、東芝が化粧品メーカーへ導入した端末は約5000台だった。スマートフォンなどの新しい端末の導入や、異常が起きたときのデータを収集したり、在庫管理など継続したサービスを提案。スマホやタブレット端末の納入も決まり、現在、取り扱う端末の台数は10倍の約5万台にのぼる。
工場から総務まで聞き取り
以前に担当していた製薬企業では複数社を回ることで業界のトレンドやニーズをつかんでいたが、アカウント営業ではこうした営業スタイルがとりづらい。そのため、IT部門に加えて、工場や販売、総務など複数の部署の社員から直接話を聞くようにした。その数は約200人にのぼる。
結果、総務部門から「社内向けにデジタルサイネージを出したい。どのように設置すればいいかな」といった新規サービスの相談を受ける機会が徐々に広がっていった。「何が顧客に刺さるのか。ヒントを現場から見つけることが欠かせない」と浅海さんは話す。
入社してからこれまで営業を担当しているが、「まだ営業職としてやりつくしたと思っていない」。最短1カ月で導入が完了する製品もあれば、顧客と二人三脚で数年かけて構築するシステムもある。「自分が取ってきた仕事だからこそ、トラブルが起きても、最後まで走りきる覚悟をもつ」と力強く話す。
(大西綾)