サトウキビは砂糖のほかエタノールの原料にもなる(タイの農場)
NECは住友商事と組んで人工知能(AI)を用いて農作物栽培を支援するサービスを世界で2024年中に始める。
栽培履歴などの過去のデータと、人工衛星や農場に設置したセンサーの情報を組み合わせ、水や肥料を節約しながら収穫量を増やす栽培方法を提案する。気候変動による異常気象の多発で食料危機が懸念されるなか、テクノロジーで食料の安定生産を支援する。
住商は世界40カ国で農薬や肥料など農業資材ビジネスを手掛ける。NECは住商の販売網を生かし、ブラジルやインド、タイなど海外で本格的に始める。農作物はサトウキビ向けにまず注力し、小麦や大豆などの穀物にも広げる。
NECがトマト栽培で先行して導入したところ、イタリアでは水の使用量を19%減らす一方で収穫量を23%増やせた。
農作物栽培の支援サービスは、農作物の栽培に関連する大量のデータを学習したAIを用いて生育状況を分析する。
収穫日まで水や肥料を節約しながら収穫量を増やす最適な栽培方法を助言する。利用者はスマートフォンやパソコンで収穫量の予測データや、最適な収穫日も確認できる。
栽培時の水やりから収穫のスケジュールまでAIが助言する(システムの利用イメージ)
提供先は自社農場や契約農場に作業指示を出す「アグロノミスト」と呼ばれる担当者を抱える現地の製糖会社や農業資材メーカーなどが想定される。料金は面積単位の定額課金方式となる。
NECは今回のサービスを含む農業ICT(情報通信技術)事業の売上高を25年までに50億円に増やしたい考えだ。
NECが農業をテクノロジーで下支えする「アグリテック」分野に注力する背景には、地球温暖化で農産物の栽培が難しくなっていることがある。
サトウキビは降雨量が減ると生育に悪影響が生じる。23年の世界の平均気温は過去最高を更新し、インドでは記録的な干ばつに見舞われ、粗糖の国際価格が高騰した。
スウェーデンのストックホルム環境研究所(SEI)は、70〜99年のサトウキビ生産量は1980〜2010年に比べて59%減少すると予想する。
サトウキビは砂糖の原料になるほか、植物由来のエタノールを精製できるため、化石燃料の代替になるバイオマス燃料としての需要も伸びており、供給不足が懸念されている。
熱波や干ばつ、台風や豪雨による洪水などによって、ジャガイモやトウモロコシ、コーヒー豆など様々な農産物の不作も懸念されている。
国連食糧農業機関(FAO)は、自然災害による農作物と家畜生産の被害額は1991〜2021年で3兆8000億ドルに達したと推計する。
国連によると、人口増によって食料需要は50年には10年比で7割増える見通しで、アグリテックへの参入企業は広がっている。
米マイクロソフトは23年、クラウド基盤「Azure(アジュール)」で農業向けサービスを発表した。農業全体で生み出されるデータをクラウドに集めて分析する。
ドイツの製薬大手バイエルはハウス栽培向けにセンサーから得たデータをもとにAIが病害を予測するサービスを提供している。ソフトバンクは天候や土壌の水分量などのデータをAIで分析するシステムを手がける。
アイルランドの調査会社リサーチ・アンド・マーケッツによると、アグリテックの世界市場は27年に411億ドル(約6.2兆円)と、年率12%で成長する見通しだ。
当初は農機具メーカーなどが取り組んできたが、あらゆるものがネットにつながるIoTやAIの技術進化を背景にスタートアップの参入も相次ぐ。
(福島悠太)
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日経記事2024.03.01より引用