ハリス副大統領への支持が広がりつつある(23日、メリーランド州)=ロイター
米民主党のハリス副大統領が11月の大統領選で党候補者に指名されることが固まり、滞っていた民主への政治資金の流れが再び動き出そうとしている。
トランプ前大統領と共和党への献金に動いていた米金融界で、ハリス氏支持の声が出始めた。映画界のハリウッドでもハリス氏への期待が高まっている。トランプ陣営が優勢となりかけていた政治資金集めで民主は追い上げを急ぐ。
バイデン大統領が選挙戦から撤退し後継候補にハリス氏を推すと表明した21日以降、金融界ではハリス氏支持の声が広がり始めている。
民主の大口献金者動く
著名投資家で民主への大口献金者として知られるジョージ・ソロス氏と息子のアレックス氏がいち早く表明したほか、米投資銀行エバコア創業者のロジャー・アルトマン氏も22日の米CNBCで支持を明言した。
同氏はクリントン政権で財務副長官を務め、ソロス氏らと同様に民主の大口献金者だ。
「多くのウォール街のリーダーがハリス氏を支援するために結集するだろう」。
ブルームバーグ通信は米投資銀ラザードのレイモンド・マクガイア社長のこんなコメントを伝えた。関係者によると、米投資会社アベニュー・キャピタル・グループの共同創業者で最高経営責任者(CEO)のマーク・ラスリー氏もハリス氏の資金集めに協力する考えだという。
「バイデン離れ」が続いた民主の牙城であるハリウッドでもハリス氏を支援する声が上がり始めた。
俳優のジョージ・クルーニー氏は23日、米CNNに「バイデン氏は真のリーダーシップを示し、再び民主主義を救った」と声明を寄せた。
「ハリス氏の歴史的な挑戦を支援するため、できることは何でもするつもりだ」と続け、資金集めに協力する姿勢を示した。
クルーニー氏は「ハリウッドの民主支持者の羅針盤」と言われる。
6月にはバイデン氏の資金調達イベントを主催し、民主は2800万ドル(約44億円)以上を集めた。同27日の大統領候補討論会でバイデン氏が精彩を欠くと「新しい候補者が必要だ」と撤退を要求し、バイデン氏が身を引く転換点の一つとなっていた。
米ネットフリックス創業者のリード・ヘイスティングス会長はX(旧ツイッター)でハリス氏に祝意を示し「今こそ勝利の時だ」と書き込んだ。
同氏も民主の大口献金者で、討論会後はバイデン氏の撤退を求めていた。
ハリス氏には実際に選挙資金も集まり始めている。
同陣営は22日、大統領選への立候補から24時間で8100万ドル(約127億円)の政治献金があり、1日の集金額では史上最高額を記録したと発表した。
討論会でのバイデン氏の失態や銃撃事件後のトランプ氏の支持率上昇を経て、民主支持者による献金は鈍っていた。これがハリス氏の立候補で変わりつつある。
米ウォルト・ディズニー共同創業者の孫で映画監督のアビゲイル・ディズニー氏は討論会後、「バイデン氏が撤退するまで献金をやめる」と表明していた。
現在は「心からハリス氏を支持する」と米紙ニューヨーク・タイムズに話し、ハリス氏に献金したり、資金調達イベントを開いたりする意向を示す。
資金集め競争激しく
テレビの政治広告などに回す選挙資金を巡る争いは一段と激しさを増しそうだ。
各陣営の選挙対策本部による連邦選挙委員会(FEC)への報告によると、6月末時点の手元資金はトランプ陣営が1億2800万ドルだった。バイデン氏から資金を引き継ぐハリス陣営の9600万ドルを上回る。
大手投資ファンドのブラックストーンCEOのスティーブン・シュワルツマン氏は、一時期距離を置いていたトランプ氏への献金を再開した。
共和の大口献金者として知られる大手ヘッジファンドのシタデル創業者、ケン・グリフィン氏も6月にトランプ氏と会い、献金を探っているとみられる。
グリフィン氏や米有力アクティビスト(物言う株主)のエリオット・マネジメントを率いるポール・シンガー氏は5〜6月、米議会選で共和候補を支援するスーパーPAC(政治活動委員会)に1000万ドル規模の献金を実施したことがFECへの開示で明らかになっている。
バイデン政権下では米証券取引委員会(SEC)がファンドの透明性向上などを求める規制強化に動き、金融界で反発が広がっていた。
規制緩和を求める業界側がトランプ氏や共和への献金を強めている面がある。暗号資産(仮想通貨)業界でトランプ氏への支持や献金の動きが出ているのも構図は同じだ。
ハリス氏も現時点ではバイデン政権の路線を継承するとみられている。ウォール街で従来の民主支持者の枠を超えて支持を集め、トランプ氏に傾きかけていた流れを変えられるかは不透明だ。波乱続きの大統領選の行方はなお混沌としている。
(ニューヨーク=斉藤雄太、シリコンバレー=中藤玲)
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。
日本総合研究所創発戦略センター チーフスペシャリスト
産業界からの献金理由をみると、共和党は「規制緩和」目的がわりとはっきりと見えます。
民主党の場合は、国際的な協調路線や、多様な従業員に対する姿勢を見せるため、気候変動対策への賛同といった具合にいくつかキーワードが分かれるように思います。
民主党支持基盤の方が多様とも、バラバラになりやすいともいえます。
民主党が今後、集まった資金をテコに、無党派層に対してどれだけ投票しようという行動を促せるのか、前回州により70%前後だった投票率に注目したいです。
BNPパリバ証券 グローバルマーケット統括本部 副会長
金融や映画界がハリス氏ならと、支持を表明し、献金を再開、と読むとそれはそれ。
しかし、日本と比べると彼我の差が大きいことがわかる。
たとえば、七夕の日の東京都知事選は誰に入れるかという話だけでも、多くの人がそれは言えない、と口をつぐんだ。
政治的な意見を言わない、のはその色をつけないことに資するが、今の選挙にはSNSやTikTokが大きく影響することを踏まえれば、インフルエンサーの挙動が流れを変える可能性がある。また、献金もそう。
裏金問題やパーティー券が敵視される日本では政治にお金をかけないように配慮しなければならないが、米国は支持表明に巨額の献金がセットになりがち。
どちらがいいかはわからない。
2024年に実施されるアメリカ大統領選挙に向け、現職のバイデン大統領やトランプ氏などの候補者、各政党がどのような動きをしているかについてのニュースを一覧できます。データや分析に基づいて米国の政治、経済、社会などに走る分断の実相に迫りつつ、大統領選の行方を追いかけます。
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