スウェーデンのカロリンスカ研究所などは、取り出した臓器をまるごと透明にし、目に見えないメッセンジャーRNA(mRNA)を可視化する技術を開発した。
臓器などを薄切りにする従来の手法に比べて簡便で、研究ではマウスの脳全体にある特定のmRNAを解析できた。病気の仕組みの解明や創薬研究に役立つ。論文は米科学誌「サイエンス」に掲載された。
脳などの臓器にあるmRNAを可視化する=カロリンスカ研究所の金谷繁明リサーチスペシャリスト提供
DNAの遺伝情報をコピーしたmRNAは、様々な生命現象を引き起こすたんぱく質の設計図の役割を担う。
どのようなmRNAが働いているかが分かれば細胞の活動や役割を推測できる。ただmRNAは非常に壊れやすい物質で解析が難しい。
研究チームの金谷繁明リサーチスペシャリストらが開発したのは、特定のmRNAを臓器全体で可視化する技術だ。
特殊な溶液で臓器を透明にし、mRNAに結合させた蛍光物質を光らせて観察する。mRNAが臓器のどこにどの程度存在するかを立体的に調べられる。
実験ではマウスの脳を解析した。肥満を治療する薬を投与すると、食欲に関わる部位で神経活動を示すmRNAが多く見つかった。
これまでは脳の中心部まで透明にすることは難しく、実験の途中でmRNAが壊れる問題もあった。金谷氏らは溶液の配合や反応温度などを工夫し、mRNAを壊さずに高い透明度を実現した。
従来は臓器などを薄く切って顕微鏡で解析するのが一般的な手法だった。ただ解析の精度が研究者の手技に左右されるほか、臓器全体を調べるには手間と時間がかかった。
新技術では人間や動物の臓器や組織向けに使える。臓器をそのまま解析でき、研究期間の短縮にもつながりやすい。病気の時にどんな情報を持つmRNAが働くか分かれば、新薬の開発に役立つ。薬の反応を解析すれば、効果や副作用の予測にも使える。
金谷氏はカロリンスカ研究所で顕微鏡の整備や管理を担当する技術員として働いている。同僚が脳全体のmRNAを解析する作業で苦労する姿を見て、より簡便に解析できる技術の開発を始めた。業務の合間を縫って研究を進め、煩雑で高度だったmRNAの立体的な解析を「どの研究者でも簡便に扱えるよう改良した」(金谷氏)。
現状では狙ったmRNAのみを可視化する技術だが、将来は臓器に存在するmRNAを網羅的に調べる技術の開発を目指す。