https://www.nikkei.com/article/DGXZQOJC02BFY0S4A201C2000000/
機械商社のリックスが手掛ける精密洗浄ノズルが半導体業界から注目を集めている。
空気の圧力で水を過冷却状態にし、超音速で噴射する仕組みで、ナノ(ナノは10億分の1)メートル単位の細かい異物も除去できる。
半導体の製造では多数の洗浄工程を経る。溶剤などを使うよりコストや環境負荷が小さい利点も武器に拡販する。
リックスのノズル「マイクロアイスジェット」は福岡県工業技術センターが保有していた特許をもとに同センターと共同開発した。砂時計のように中央部がくびれた形状のノズルに圧縮空気を送り込むと、くびれ部分で空気が秒速450メートルの超音速に加速。くびれ通過後に一気に体積が膨張することで温度も急速に低下する。
ここに水滴を注入すると空気の膨張にあわせて熱が奪われ、セ氏0度以下でも氷にならない過冷却状態になる。
過冷却水は衝撃を与えると氷に変化する性質があり、高速で対象物に当てると表面に付着した異物を取り込みながら凝固する。これを風圧で吹き飛ばすことで異物を除去する仕組みだ。
一般にナノレベルの微細な物体には、空気や水など流体の力が作用しにくくなる。異物を氷で包み込むことで体積が増え、吹き飛ばせるようになるというわけだ。
利用するのは半導体工場にも備わっている圧縮空気や純水で、導入に手間がかからない利点もある。同じく洗浄に用いられ、タンクなどの設備を要する二酸化炭素(CO2)ジェットに比べてコストが抑えられる。溶剤を使うのに比べ環境負荷も小さい。
応用できる局面は幅広い。供給する水の量が多ければ洗浄に向くシャーベット状の氷となり、減らせば膜などの対象物を削ったり掘り下げたりできる硬い氷になる。
すでにウエハーを平らにするため研磨したあとに残る、薬剤やウエハーのカスの除去にも使われているほか、一部では製造装置の精密洗浄にも用いられているという。半導体関連以外にもカメラのレンズやカミソリの刃先の洗浄にも採用された。
回路を描き込んだ半導体ウエハーをチップに切断する「ダイシング」工程では金属加工同様に小さな突起(バリ)が生じるが、硬い氷を使えば最終製品の機能に影響しかねないバリの除去も可能だ。
マイクロアイスジェットの技術は11月、福岡県が運営する「三次元半導体研究センター」が開いた研究会でも、参加した企業や大学に広くアピールした。同センターにもこのノズルを置き、企業に使ってもらいながらさらなる用途の探索につなげる。
国内各地で半導体関連の設備投資が盛り上がっていることを背景に、マイクロアイスジェットの納入先は7割程度が半導体向けだ。
流体機器技術部の岡元浩幸部長は特にウエハーのバリ取りをターゲットに据える。「切断装置が1工場に数百台入ることもあるため商機が大きい」という。
リックスは半導体関連事業に力を入れてきた。ウエハーを研磨する際に、真空で吸着して固定するための装置部品「ロータリージョイント」を製造しており、台湾積体電路製造(TSMC)の熊本工場に納入された装置にも組み込まれているという。
装置の周辺機器の修理・再生サービスも手掛けている。
2024年3月期のリックスの電子・半導体関連の売上高は67億円だった。
好調だった前の期からは2%ほど下がったものの、5年前と比べて5割伸びている。業界のニッチな需要をとらえた自社製品を拡大し、成長につなげたい考えだ。
(兼谷将平、坂部能生)
九州で「シリコンアイランド」復活に向けた動きが広がっています。半導体受託製造の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)の熊本進出を機に、関連企業が九州に集まりつつあります。最新のニュースを伝えます。
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