自動車でプラスチックの再利用が広がる。ホンダ(7267)は使用済みプラを回収・再生しやすい車体設計にする。
トヨタ自動車(7203)も再生素材の採用率を30%以上に高める。脱炭素の達成には電動車の普及だけでなく、素材の環境負荷を減らす調達が欠かせない。
リサイクル材を使ったコンセプト車「SUSTAINA-C Concept」(写真中央)を
発表するホンダの三部敏宏社長(23年、東京都江東区)
「素材の循環利用で、限りある資源の制約から解放され、地球環境の保護と自由な移動の喜びを両立できるようになる」。ホンダの三部敏宏社長は自動車に使うリサイクル材の重要性についてこう表現する。
自動車1台あたりのプラ使用量は一般に100〜200キログラム。車体重量ベースで1割程度を占める。耐摩耗性からバンパーやハンドルなど幅広い車部品で欠かせない。素材を金属よりも軽いプラに変えれば車重を軽くできる。満充電時の航続距離が商品競争力となる電気自動車(EV)時代に、プラの重要性はますます高まる。
問題はプラに持続可能性がないことだ。廃車後に出る使用済みプラの大半は市場に出回らない。何十種類とあるプラの分別作業に手間がかかるためで、コストが高くなる。品質的にも問題があり、再利用よりも焼却や埋め立て処分が優先されてきた。
脱炭素社会ではこの仕組みを変える必要がある。石油や天然ガスが原料のプラは製造・処分時に二酸化炭素(CO2)が出るため、再利用できれば車1台あたりの化石資源の消費や環境負荷を減らせる。
ホンダは50年に環境負荷のない持続可能な資源の利用率100%に高める方針で、達成には再生材の活用が不可欠だ。そこで同社は車の製品設計の見直しに着手した。循環利用に適した材料を選ぶほか、良質な廃プラを簡単に取り出せる分離設計をめざす。
その1つが車に使うプラの種類を減らすことだ。車部品は必要な特性に応じて、適した種類のプラ(樹脂)を使う。たとえば自動車で代表的なプラであるポリプロピレン(PP)樹脂や耐衝撃性があるABS樹脂などは、材質グレードを含めると1000以上の種類があるという。
リサイクルを容易にするため、ホンダは新車に使うプラの種類を段階的に6割減の6〜7種程度に絞る方針だ。
ホンダ初の量産の電気自動車(EV)「ホンダe」では約25種類のプラを使っていた。種類が減れば分別作業がしやすくなり、再生プラを調達する基盤を整えることにつながる。
リサイクル材は自由な色柄にできるのが特長
回収したプラの再生技術の確立にも動き出した。三菱ケミカルグループ(4188)と自動車のランプカバーに使うアクリル樹脂の再生で連携する。
マイクロ波化学(9227)の技術を使った再生方法で、従来品と遜色ない品質の車部品を再生プラでつくるのに成功した。全体の温暖化ガス排出量は、従来の焼却処分時より50%減らせる。
東レ(3402)とは自動車エンジンの吸気管に使われたナイロン樹脂をリサイクルする実証実験を始めた。再びナイロン材として使うための技術開発を進めている。
ほかの自動車メーカーも動く。トヨタ自動車は日本・欧州での生産車両を対象に、30年時点で再生素材の採用率を車両重量ベースで30%以上にすることを目標に掲げる。
大型多目的スポーツ車(SUV)の「ランドクルーザー250」では、自社で回収したペットボトルをシートに適用する取り組みを実施した。欧州で販売する小型SUV「C-HR」で再生プラの使用量を前モデルに比べ約2倍に増やした。
日産自動車(7201)は仏ルノーと連携し、廃車のEV部品から再生プラを造り、欧州で新車の生産に使う取り組みを検討している。事業の開始時期など詳細は今後詰める。
各社が取り組みを急ぐ背景には欧州の動きがある。
欧州連合(EU)の欧州委員会は23年、新車に必要なプラの25%以上を再生プラにする規則案を公表した。このうちさらに25%は自動車由来のプラスチックと規定した。
つまり新車に使うプラのうち6.25%は廃車由来の再生材を使う必要がある。31年にも規制が導入される可能性があり、対応しない自動車はEUでの販売が難しくなる可能性がある。
EUの規制強化の動きを追い風に、独メルセデス・ベンツや独BMWなど海外勢も再生プラの利用を増やす方針だ。海外の調査会社によると、再生プラを含む車向けのリサイクル材料市場は世界で27年に39億ドル(約5900億円)と、22年に比べ6割増える。
政府も支援に動く。環境省は25年度予算概算要求に、廃車から回収するプラの供給拡大に向けた新規事業で7億円を要求した。政府は「プラスチック資源循環促進法」を22年に施行し、35年までに使用済みプラを熱利用も含め100%利活用する目標を掲げる。
リサイクル材の利用は自動車価格の上昇につながる。それを吸収できるだけのEV性能や自動運転などの機能性を消費者に訴求できるかが、長期的な自動車の競争力を左右することになる。
(沖永翔也)
[日経ヴェリタス2024年11月10日号]
ESG投資とは財務情報だけでなく環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)を重視する投資です。
長期目線での企業評価に軸足を置き、個人投資家からも注目が集まっています。日経ヴェリタスとの連動企画「みんなのESG」では、企業による取り組み事例や注目すべき銘柄など、投資家や経営者が知っておきたい情報を様々な観点から取り上げます。
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日経記事2024.11.14より引用