トヨタは販売後の車向けのサービス事業を伸ばす(愛知県豊田市の本社)
トヨタ自動車は自己資本利益率(ROE)の目標を2倍の20%とする。上場企業の平均(23年度で9%台)を大きく上回り、世界の車メーカーでトップ級となる。
販売後の車にサービスを提供するなど事業モデルを革新し、株主還元を積極化する。日本企業が資本効率を重視する流れが強まりそうだ。
トヨタのROEは近年、9~16%弱で推移してきた。2025年3月期の市場予想は11%が見込まれている。
直近ではROEの具体的な目標を掲げていなかった。効率的な経営の目安であり投資家が重視するROEを引き上げ、市場評価を高める。
トヨタ幹部はROEについて「世界で勝つためには20%くらいを安定的に出さないといけないのではないかという話をしている。
小さなアセット(資産)から大きな売り上げを生み出す」と話す。達成時期は明らかにしていないが、30年前後を想定しているとみられる。
ROE改善策の一つは、事業モデルの革新だ。車の販売後に様々なサービスを提供し、新車販売に頼らない事業モデルを構築する。トヨタ車は世界で累計3億台超生産されており、潜在需要は大きいとみる。
今でも部品交換や定期点検、販売金融などを展開し、こうした事業の営業利益は「毎年1000億円以上拡大している」(宮崎洋一副社長)という。
トヨタはソフトウエアの技術を強化する(イメージ)
新たに注力するのが、販売後の車に無線通信を使って機能を追加するサービス事業だ。運転支援や事故防止などの機能を加えたり、自動運転の精度を向上させたりする。
「ソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV)」と呼ばれ、米テスラがサービスを提供している。ソフトウエアが中心となるため、高収益が見込まれている。トヨタも技術開発を強化し、実証実験を重ねている。
もう一つは、株主還元の拡充だ。金融機関の保有株売却の意向を受けて自社株買いを積極化しており、9月には25年4月までの取得枠の上限を1兆2000億円と従来から2割引き上げた。
配当も安定的に増やす方針で、前期の配当総額は1兆円を超えた。配当と自社株買いを合わせた総還元性向は今期に5割を超す可能性がある。
トヨタにとって、ROE20%は簡単ではない。ROEは純利益を自己資本の期中平均で割って求める。自己資本が前期平均の31兆円なら、純利益は6兆円超となる計算だ。
最高益だった前期(4兆9449億円)から1兆円以上の上積みが必要になる。自己資本が35兆円なら純利益は7兆円となる。事業モデルの革新による利益水準の引き上げとともに、資産の有効活用や自己資本の最適化が達成のカギを握る。
トヨタは総資金量(金融事業を除く、現預金など)が24年3月期で15兆円と、総資産(90兆円)の2割弱まで積み上がっている。総資金量は1年前に比べて3割増えた。圧縮に乗り出したものの、政策保有株やグループ株もなお多い。余剰な資産をどう効率化するかが課題となる。
QUICK・ファクトセットの24年度の市場予想によると、世界の車大手10社でROEが20%を超えるのは中国の比亜迪(BYD)のみ。テスラは11%の見通しだ。
車メーカーはこれまで資産規模が大きいことから、経営の安定性を高めるため手元資金をため込む傾向が強かった。株式市場で車メーカーの評価が低い一因となっていた。
日本企業はこれまで損益計算書を重視する傾向が強く、貸借対照表(バランスシート)への意識が薄かった。資本効率の改善に向け、手元資金や余剰資産、有利子負債などバランスシート全体を有効活用する動きが広がってきた。
(上原翔大、野口和弘)
西原里江J
Pモルガン証券 チーフ株式ストラテジスト
ひとこと解説
トヨタがROE目標を20%へと倍増にするならば、このこと自体が日本株買いの理由となるだろう。
トヨタは販売台数や売上高でグローバル自動車業界でトップに君臨し、国内でも24年に日本企業の政策株保有のあり方を大きく動かしたように、産業界への影響力がある。
現在、トヨタグループのROEは24年度11.8%から27年度10.2%まで緩やかに低下する予想となっている(Bloomberg)。
ネットに常時つながるソフトウェア定義車両(SDV)強化に加え、バランスシート適正化がROEの大幅改善を実現する可能性があり、東証の掲げる企業統治改革と相まって、日本企業全体のバランスシート変革を引き起こす可能性があろう。
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井出真吾ニッセイ基礎研究所 主席研究員 チーフ株式ストラテジスト
ひとこと解説
ROE改善の方法は①純利益増加、②株主資本縮小の2つです。トヨタは両方取り組むようですが、収益力強化による純利益増加に特に力を入れる模様で、これはROE改善の”王道”といえます。
というのも、コストカットによる純利益拡大や、自社株買いや増配による株主資本縮小には限界があるからです。
トヨタの目標が一朝一夕にできないことは皆理解しているので、時間がかかったり途中で踊り場があったりしても実現に向けて前進してくれることを大いに期待したいですし、追随する企業が現れて欲しいと思います。
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