佐渡島の旅では能を体験することで理解や愛着につなげている
2024年もあと1週間を切った。訪日客数と消費額はすでに過去最高を更新している。
地方にとって観光事業は地域を活性化させる大チャンス。単なる撮影スポットではなく、交流や体験を通じて旅の後(あと)も続く関係作りにつなげたい。
富裕層向けパーソナライズツアーを企画するEighty Days(東京・品川)のグランジェ七海代表取締役に、25年のトレンドを聞くと、女性のソロツアーへの問い合わせが目立つという。
40〜60代女性のいわゆる「おひとり様」が参加し、5〜10人くらいで各地を巡る旅だ。「エンパワーメントの意識が高いのか、女性の職人やシェフがいる場所に行きたいとリクエストされている」(グランジェ社長)。体験の後に一緒に食事するランチ会を通じて帰国後の交流や口コミによる波及効果を期待する。
グランジェ社長は会社員時代に全国の小売店を営業で回った。住民同士のつながりに温かみを感じる一方、シャッター商店街が目立ち地域の伝統が承継されず消えていく現状に心を痛めた。
観光を通じて地域の伝統文化や技術を継続させたいと16年に起業した。グラミン銀行創設者でノーベル平和賞受賞者であるムハマド・ユヌス博士によるソーシャル・ビジネス企業に認定されている。24年はEY Japanが女性経営者を表彰する「EY Winning Women」のファイナリストに選ばれた。
各地の伝統文化を体験し、地域の人との交流を促すツアーはプライスレスな価値と評価され、需要を伸ばしている。
新潟県の佐渡島では世界文化遺産に登録された佐渡金山を探検するほか、能や太鼓の体験メニューを用意。旅で出会った職人の商品をオンラインで継続的に購入できる仕組みも検討中だ。
Eighty Daysの顧客は欧米が中心で10〜14日の滞在に150万〜200万円を費やす。
「SNSよりカード会社の雑誌や口コミを好む傾向にあり、最近はkakuuchi(角打ち)のリクエストもあった」。約20カ国・地域から集まった50人の社員が対応する。
日本政府観光局(JNTO)によると、訪日客数は24年1〜11月までの累計で3338万人と19年の年間累計を上回る。
消費額(観光庁)は9月末までに(速報)年間の過去最高額を更新した。もはや過ごし方は千差万別。それぞれの地域にあった過ごし方を提案し、ファン作りにつなげたい。
(編集委員 中村奈都子)
日経記事2024.12.26より引用