晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

新田次郎『孤高の人』

2018-10-06 | 日本人作家 な
先月は2回しか投稿できませんでした。
誰に謝ってるのかわかりませんが、とにかくすみ
ません。
ここから見苦しい言い訳。先月の中頃ぐらいから
でしょうか、関東南部では最高気温が真夏日に届
かなくなって夜も熱帯夜から解放され、そうなる
と眠りも深くなって、1日の読書タイムは寝る前
の1時間ほどなのですが、ベッドに入るといつの
間にか朝になっててビックリです。

それはさておき、新田次郎さん。「新田次郎文学
賞」という、時代小説や自然分野の小説に贈られ
る賞だそうですが、日本の山岳小説の第一人者な
のだそうな。

なぜこの本を読もうと思ったのか。NHKのBS
でやってる「グレートトラバース」という番組が
ありまして、プロアドベンチャーレーサーの田中
陽希さんという方が、作家で登山家の深田久弥の
本「日本百名山」の全山を徒歩と海はカヤックの
みで一筆書きのように移動しながら踏破するとい
うのがあるのですが、朝の6時から再放送をやっ
てまして、犬の散歩に行ってきて朝ごはんを食べ
ながらぼーっと見てたらいつの間にかハマってし
まい、といっても登山に行ったりはしませんが、
でその「日本百名山」を本屋で探したんですが見
つからず、代わりに何か探していると文庫の表紙
の槍ヶ岳の写真とピッケルを見て「おお、これは」
と思い買ったというわけ。

さて、この小説は、加藤文太郎という戦前に実在
した登山家の物語です。
明治になって欧米から登山という文化が入ってき
たのですが、登山は上流階級の独壇場で当時は高
価で揃えるのも大変だった登山グッズに身を包み、
複数人でパーティーを編成して山に詳しい案内人
を雇って、というものでした。そして主流は関東。
そこに、難しいとされている山を次々と登頂して
いく、しかも単独でという人物がいるという話が
山岳界で拡まります。神戸在住の加藤という工員
で、格好はナッパ服(作業着)に地下足袋、しか
も恐ろしいほどのスピードで歩くので、はじめこ
そ「そんなのは登山じゃない」と受け入れられな
かったのですが、やがて専門誌に取り上げられて
有名になります。

加藤は、兵庫県の日本海側に生まれ、高等小学校
を卒業すると、神戸の造船所の技術研修生になり
ます。加藤はよく六甲の山に登って故郷の方角を
見たりしていたのですが、そこで研修所の教官で
造船所の技師である外山三郎と出会います。外山
は神戸の山岳会に所属していて、加藤が六甲の山
を平地と同じ感覚で歩くその脚力に着目し山岳会
に誘いますが、加藤は「別に山登りは好きではあ
りません」と断ります。しかし外山は加藤に地図
の見方を教えたりと彼のよき相談役になります。

もともとそんなに社交的ではなかった加藤ですが、
研修所時代に影山という陰険な教官に目をつけら
れたり、仲の良かった同期の研修生が政治活動に
熱心になって警察にマークされて加藤が尋問され
たりということがあって人間嫌いになります。
じつは加藤、愛想笑いをしようとするのですが、
引きつった(ニヤリ)という顔になって、周りか
らは「バカにされてる」と思われたりして、まあ
なにかと損ではあります。
そんな加藤に外山は山の魅力を教え、山岳会の人
と引き合わせたりして、やがて登山にのめり込ん
でゆくのです。

まだこの当時、世界最高峰のエベレストに登頂し
た人はいなく、加藤は自分が人類初のエベレスト
登頂をするんだと少ない給料から「ヒマラヤ貯金」
と称してコツコツ金を貯め始めます。
そして、ヒマラヤに行く(訓練)として、冬の日
本アルプスに単独で行くようになります。
寒さになれるため、神戸の家でも冬に庭で寝たり、
食糧難を想定して、甘納豆と揚げた小魚だけを持
参し、雪を溶かしてお湯にして飲むという苦行者
のようなことをします。
冬季の槍ヶ岳単独登頂や北アルプスの単独縦走と
いう、この当時では考えられないような偉業をつ
ぎつぎと達成し、この頃から「単独行の加藤」や
「不死身の加藤」さらに「地下足袋の加藤」など
と噂になります。しかし一部の山岳愛好家からは
命知らずや無謀といって加藤をバッシング。

そんな加藤ですが、冬山にいると孤独感に襲われ、
人嫌いなのですが無性に誰かと話をしたくなって
ある登山パーティーに仲間に入れてくれとお願い
しますが断られます。
それでも毎年冬になると会社の休暇日と有給を使
って山に登ります。加藤は「なぜ山に登るのか」
の答えを見つけようしますがこれという正解は見
つかりません。

加藤の日常生活に大きな変化が。なんと結婚する
のです。相手は故郷の幼なじみ。まあこれにはい
ろいろと複雑な事情もあったりするのですが、そ
れはともかく、これからは独身時代のように登山
を優先というわけにもいかなくなります。
「独身最後の登山」といって結婚式当日に山に登
ってたら式に遅刻するというなかなかアレな加藤
ですが、やがて子も生まれ、それまで有給を限界
まで使う代わりに残業も率先していたのですが、
終業時間になると真っ先に家に帰るようになった
ことを会社で揶揄われたりしても照れ笑いを返し
たりと人間が変わったようになります。そして唯
一の生き甲斐といってよかった「山に登りたい」
という欲も薄れてきます。

そんな中、加藤を敬愛してやまない宮村という友
人から「いっしょに北鎌尾根に登ってほしい」と
頼まれるのですが・・・

新田次郎さんは、中央気象台(現在の気象庁)の
職員で富士山観測所で勤務しているとき、富士山
を単独で登山していた加藤文太郎にお会いしたそ
うです。

山で吹雪に会ったり大変な目に遭ったときに、だ
いたいの人は「こんちくしょう」とか「なにくそ」
と思ったりしますが、加藤は「そういう目に遭う
のは山に悪態をつくからだ」と思うようになりま
す。勝手に登って勝手に危ない目に遭って悪態つ
かれたら山だってたまったものではありません。

ストーリーとは直接関係ないのですが文中でよく
「ルックザック」という文字が出てきて、おそら
くリュックサックのことだろうな、きっとこの時
代はそう呼んでたんだろうと思ったのですが、調
べましたらなんてことはない、リュックサックの
ドイツ語読みがルックザックですって。

にしても文庫上下巻で計1,000ページにおよ
ぶ長編。疲れました。

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