小雨の中歩き出すと、道路の向こうにキジトラの後姿。
『影虎』かな?と思って追いかけてみたが
振り向いた顔を見て愕然とした。
口の感覚がもう無いのか
よだれが止まらない猫の顔が恐怖に引きつっていた。
猫は死に際に姿を隠すと言うが、
自分で病気や傷を癒しに出て行くのだそうだ。
治ったら、戻って来る。
そうやって出て行っても、老猫には体力の限界があって
力尽きて家に帰れなかった猫は二度と戻らない。
病気のその猫は感覚が研ぎ澄まされた状態で、
麻薬患者が何者かに追われている幻覚を見るように
私に追い回されていると感じたのかも知れない。
どうする事も出来ないで足が固まった。
こちらを振り向いたその瞳には
出来ていた事も出来なくなる惨めさとか哀れとか、
おおよそ人間が老いや死に感じる感情は無い。
ただ逃げ切る気力と私への恐怖だけだ。
きっと最期の瞬間まで自分と戦うのだろう。
口からよだれを足元まで垂らしたまま
家と家の隙間によろよろと逃げて行く後姿を
ただ見詰めるしかなかった。
あの老猫にはあれから二度と会っていないが
私の頭の中で、今日も死に場所を探し彷徨っている。
今日は何位?
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