路地猫~rojineko~

路地で出会った猫と人。気付かなければ出会う事のない風景がある。カメラで紡いだ、小さな小さな物語。

老いぼれ猫のブルース

2008-09-19 | ★ほんの日常

小雨の中歩き出すと、道路の向こうにキジトラの後姿。

影虎』かな?と思って追いかけてみたが

振り向いた顔を見て愕然とした。

口の感覚がもう無いのか

よだれが止まらない猫の顔が恐怖に引きつっていた。




猫は死に際に姿を隠すと言うが、

自分で病気や傷を癒しに出て行くのだそうだ。

治ったら、戻って来る。

そうやって出て行っても、老猫には体力の限界があって

力尽きて家に帰れなかった猫は二度と戻らない。




病気のその猫は感覚が研ぎ澄まされた状態で、

麻薬患者が何者かに追われている幻覚を見るように

私に追い回されていると感じたのかも知れない。

どうする事も出来ないで足が固まった。

こちらを振り向いたその瞳には

出来ていた事も出来なくなる惨めさとか哀れとか、

おおよそ人間が老いや死に感じる感情は無い。

ただ逃げ切る気力と私への恐怖だけだ。

きっと最期の瞬間まで自分と戦うのだろう。





口からよだれを足元まで垂らしたまま

家と家の隙間によろよろと逃げて行く後姿を

ただ見詰めるしかなかった。




あの老猫にはあれから二度と会っていないが

私の頭の中で、今日も死に場所を探し彷徨っている。








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コメント (4)
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