オヤジ達の白球(44)千両役者登場
「ようやく場面が整った。ということは次は俺の出番だな」
岡崎がバントを決めて一塁にゆうゆうセーフになる。
それを見届けた柊が「つぎは俺の番だ」と、バットを握りベンチから立ち上がる。
「ベンチの諸君。お前さんたちの出番は、もう来ないぞ。
俺が、ここで代打サヨナラホームランを打つ。
今夜のヒーロはこの俺だ。
岡崎と俺がグランドを一周してくれば、この試合はそれでジ・エンドになる」
「柊。大口をたたいたな。
いいのか。公務員がホームランを打つなどと大風呂敷をひろげても。
公約が達成できなかったときは、どう責任とるつもりだ?」
「神に誓う。俺は絶対に失敗しない!。
見てろ。あの投手から、超特大のホームランを打ってやるから」
「たしかにおまえは大学時代、ホームランバッターだった。と聞いている。
だがいまは、50歳まじかのジジィだぜ。
ホールランを打つ体力が、いまだに残っているのかょ?」
「選手を信頼しないとはまったくもって失礼な監督だな。祐介、おまえってやつも。
芯を喰えばいまでも300ヤードはかるく飛ぶ」
「300ヤード?・・・それはゴルフの話だろ。
無理するな。振り過ぎて腰を痛めたら、みんなの笑いものになるぞ」
祐介の苦笑を背中で受けながら、柊がベンチから出ていく。
バットをおおきく振り回したあと「代打、俺。県庁の総合土木職、所長の柊です!」
と勝手に代打を告げる。
「柊?。柊という苗字はめずらしいのう。
もしかすると大学選手権で、3連続ホールランを打ったあの伝説の柊か!」
3塁で塁審をつとめている事務局長が、目を細める。
柊というめずらしい名前を聞いて、遠い昔の記憶を思い出したようだ。
バッターボックスの柊へ声をかける。
「はい。いまから30年前の話です。
たしかに選手権の文部大臣杯で、3連続ホームランを打った柊洋一です」
「おおっ。やっぱりのう。よく覚えておるぞ。
懐かしいのう~。あのとき球審をしていたのは、このワシじゃ。
凄かったのう。3発連続で場外へ消えていったあの超特大のホームランは」
「ずいぶん昔のことですが、覚えておられたとは光栄の至りです」
ドランカーズのベンチが、にわかに騒がしくなる。
「聞いたかいまの話。どうやら予告ホームランも、まったくの眉唾ではなさそうだ」
熱い視線が柊の背中へ集まっていく。
(なるほど。そういうことか。どうりでいまでもドライバーが300ヤード飛ぶはずだ)
祐介がニヤリと笑う。
30年前の伝説のホームランバッターの登場に、球場内に緊張がはしる。
消防のマウンドを守っているのはAクラスで、3本指に入る好投手。
もっとも得意な球が、打者の手元でおおきく浮き上がるライズボール。
ソフトボール独特のこの変化球に、絶対的な自信をもっている。
しかし今日は、この決め球を一球も投げていない。
できたばかりの素人チームを相手に、決め球のライズボールを投げる必要はないだろう、
と最初から決めてきた。
しかしにわかに展開が変わって来た。
捕手が柊への1球目に、ライズボールを投げろと要求を出す。
(今日はじめてのライズボールの要求か・・・
いいだろう。相手は30年前のホームランバッターだ。
そのおっさんが、どんなもんだか、いまの力を見せてもらおうじゃないか)
ソフトで一番有名な球種が、ライズボール。
下から浮きあがってくる変化球だ。
魔球ではあるが打たれるとよく飛ぶ、という危険な球でもある。
野球のスライダーが、打たれると良く飛ぶ事と同じだ。
独特の変化で空振りを取りやすい反面、強打者を相手にライズボールを投げるのは
危険すぎる側面もある。
(おっさんがどんなものか、全球、ライズボールで勝負してやろうじゃないか。
いいか。気を抜くなよ。全力でライズボールを投げてこい!)
キャッチャーが、ポンポンとミットを鳴らす。
(45)へつづく
「ようやく場面が整った。ということは次は俺の出番だな」
岡崎がバントを決めて一塁にゆうゆうセーフになる。
それを見届けた柊が「つぎは俺の番だ」と、バットを握りベンチから立ち上がる。
「ベンチの諸君。お前さんたちの出番は、もう来ないぞ。
俺が、ここで代打サヨナラホームランを打つ。
今夜のヒーロはこの俺だ。
岡崎と俺がグランドを一周してくれば、この試合はそれでジ・エンドになる」
「柊。大口をたたいたな。
いいのか。公務員がホームランを打つなどと大風呂敷をひろげても。
公約が達成できなかったときは、どう責任とるつもりだ?」
「神に誓う。俺は絶対に失敗しない!。
見てろ。あの投手から、超特大のホームランを打ってやるから」
「たしかにおまえは大学時代、ホームランバッターだった。と聞いている。
だがいまは、50歳まじかのジジィだぜ。
ホールランを打つ体力が、いまだに残っているのかょ?」
「選手を信頼しないとはまったくもって失礼な監督だな。祐介、おまえってやつも。
芯を喰えばいまでも300ヤードはかるく飛ぶ」
「300ヤード?・・・それはゴルフの話だろ。
無理するな。振り過ぎて腰を痛めたら、みんなの笑いものになるぞ」
祐介の苦笑を背中で受けながら、柊がベンチから出ていく。
バットをおおきく振り回したあと「代打、俺。県庁の総合土木職、所長の柊です!」
と勝手に代打を告げる。
「柊?。柊という苗字はめずらしいのう。
もしかすると大学選手権で、3連続ホールランを打ったあの伝説の柊か!」
3塁で塁審をつとめている事務局長が、目を細める。
柊というめずらしい名前を聞いて、遠い昔の記憶を思い出したようだ。
バッターボックスの柊へ声をかける。
「はい。いまから30年前の話です。
たしかに選手権の文部大臣杯で、3連続ホームランを打った柊洋一です」
「おおっ。やっぱりのう。よく覚えておるぞ。
懐かしいのう~。あのとき球審をしていたのは、このワシじゃ。
凄かったのう。3発連続で場外へ消えていったあの超特大のホームランは」
「ずいぶん昔のことですが、覚えておられたとは光栄の至りです」
ドランカーズのベンチが、にわかに騒がしくなる。
「聞いたかいまの話。どうやら予告ホームランも、まったくの眉唾ではなさそうだ」
熱い視線が柊の背中へ集まっていく。
(なるほど。そういうことか。どうりでいまでもドライバーが300ヤード飛ぶはずだ)
祐介がニヤリと笑う。
30年前の伝説のホームランバッターの登場に、球場内に緊張がはしる。
消防のマウンドを守っているのはAクラスで、3本指に入る好投手。
もっとも得意な球が、打者の手元でおおきく浮き上がるライズボール。
ソフトボール独特のこの変化球に、絶対的な自信をもっている。
しかし今日は、この決め球を一球も投げていない。
できたばかりの素人チームを相手に、決め球のライズボールを投げる必要はないだろう、
と最初から決めてきた。
しかしにわかに展開が変わって来た。
捕手が柊への1球目に、ライズボールを投げろと要求を出す。
(今日はじめてのライズボールの要求か・・・
いいだろう。相手は30年前のホームランバッターだ。
そのおっさんが、どんなもんだか、いまの力を見せてもらおうじゃないか)
ソフトで一番有名な球種が、ライズボール。
下から浮きあがってくる変化球だ。
魔球ではあるが打たれるとよく飛ぶ、という危険な球でもある。
野球のスライダーが、打たれると良く飛ぶ事と同じだ。
独特の変化で空振りを取りやすい反面、強打者を相手にライズボールを投げるのは
危険すぎる側面もある。
(おっさんがどんなものか、全球、ライズボールで勝負してやろうじゃないか。
いいか。気を抜くなよ。全力でライズボールを投げてこい!)
キャッチャーが、ポンポンとミットを鳴らす。
(45)へつづく