オヤジ達の白球(45)右へ左へ
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1球目。投手が思い切り前へ跳びだす。
するどく振られた指先から、回転の効いたボールが飛びだしてくる。
(勝負球のライズボールか。臨むところだ)
負けじと柊も右足を大きく踏み込む。
外角ぎりぎりのストライクコースへ、ライズボールが浮き上がって来る。
(あわてるな。ぎりぎりまでひきつけて、しっかり上から叩くんだ)
目の前へボールがぐわりと浮き上がって来る。
(いまだ!)渾身の力でバットを振り出す。
充分な手ごたえが有った。
飛距離は充分だ。しかし。打球は右へ切れていく。
(振り遅れた!。手ごたえは充分だったが、押し込まれて1塁側のファールだ)
柊がバッターボックスを外す。
身体は覚えていた。しかし、長年のブランクがある。
魔球のライズボールに順応したと考えたのは甘かった。
もうすこし速くバットを振り出すべきだな、と何度も素振りをくりかえす。
柊のそんな様子を捕手がチラリと、横目で盗み見る。
(ほんものだぞ。油断できん。振り遅れてくれたから助かったが、危なかった)
2球目もライズボールで攻めようと、捕手がサインを送る。
(たしかに力強いいいスイングだった。
だが50ちかいおっさんに簡単に当てられるようじゃ、俺の目覚めが悪い)
こんどは本気で行くぞと、投手がライズの形に指をかける。
ライズボールは球の回転がいのち。
そのため親指は使わない。人さし指を寝かせ、中指をボールの縫い目にかける。
親指をかけておくとボールが安定し過ぎ、回転数があがらない。
投げる瞬間。ドアノブを右へひねる形ですばやく手首を返す。
ボールにバックスピンに近い回転を与える。
腕の振りが強くないとライズボールは上昇しない。
腕の振りを強くするために、右足を素早くひきつける必要がある。
1球目と比べると、投手の足の動きがはるかに速い。
(おっ、次も本気のライズボールで来るつもりだな。
好都合だ。それならそれでこちらも、早めにバットを振り出すだけだ)
ソフトボールのバッテリー間の距離は14,02m。
野球の18,44mよりはるかに短い。
それだけではない。
投手は、ピッチャーズサークルの半径2,44mぎりぎりまで前へ跳ぶ。
11m余りの至近距離から、威力のあるストレートや緩急の有るチェンジアップや
上に浮き上がるライズボールが飛んでくる。
そのため。110キロの速球がバッターから見れば160キロに相当する。
手元を離れてから振り出したのでは、はるかに遅い。
ボールがリリースされる直前。打者のバットは上から叩くための始動をはじめている。
上から叩かなければ野球よりも大きく重い球は、遠くまで飛んでいかない。
柊の読み通り。こんどはインコースをえぐるようにライズボールが飛んできた。
(さすがにAクラスの好投手。想定通りの、インコースだ)
腕をたたんだ柊が、胸元へむかってせりあがって来る球を上から強烈に叩く。
こんども手ごたえは充分にあった。
しかし。対応が速すぎたため、バットを押し込み過ぎた。
3塁線上を飛び始めた打球が途中から軌道を変え、おおきく左へ切れていく。
「ファールボール。ストライク2!」
「いい投手だ。ひさびさに俺の闘争本能に火がついたぞ!」
「ナイススイングです、2球とも。
おっさんだと思ってあなどっていました。
さすが伝説のホームランバッタです。スイングはいまだ健在のようですね」
「嬉しいねぇ。若い者からそんな風に褒められると。
君のリードも素晴らしいが、おたくの投手もなかなかのものだ。
次もとうぜん、ライズボールで勝負に来るんだろ」
「そのようです。
いまのスイングでウチのピッチャのやる気スイッチが入りました。
ライズボールをど真ん中へ投げたくて、うずうずしているのがわかります」
「それでこそAクラスのエースピッチャだ。
おかげでひさびさに、いい勝負ができそうだ。」
柊がふたたび打席を外す。びゅっと強く、思い切りバットを振りぬく。
(46)へつづく
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1球目。投手が思い切り前へ跳びだす。
するどく振られた指先から、回転の効いたボールが飛びだしてくる。
(勝負球のライズボールか。臨むところだ)
負けじと柊も右足を大きく踏み込む。
外角ぎりぎりのストライクコースへ、ライズボールが浮き上がって来る。
(あわてるな。ぎりぎりまでひきつけて、しっかり上から叩くんだ)
目の前へボールがぐわりと浮き上がって来る。
(いまだ!)渾身の力でバットを振り出す。
充分な手ごたえが有った。
飛距離は充分だ。しかし。打球は右へ切れていく。
(振り遅れた!。手ごたえは充分だったが、押し込まれて1塁側のファールだ)
柊がバッターボックスを外す。
身体は覚えていた。しかし、長年のブランクがある。
魔球のライズボールに順応したと考えたのは甘かった。
もうすこし速くバットを振り出すべきだな、と何度も素振りをくりかえす。
柊のそんな様子を捕手がチラリと、横目で盗み見る。
(ほんものだぞ。油断できん。振り遅れてくれたから助かったが、危なかった)
2球目もライズボールで攻めようと、捕手がサインを送る。
(たしかに力強いいいスイングだった。
だが50ちかいおっさんに簡単に当てられるようじゃ、俺の目覚めが悪い)
こんどは本気で行くぞと、投手がライズの形に指をかける。
ライズボールは球の回転がいのち。
そのため親指は使わない。人さし指を寝かせ、中指をボールの縫い目にかける。
親指をかけておくとボールが安定し過ぎ、回転数があがらない。
投げる瞬間。ドアノブを右へひねる形ですばやく手首を返す。
ボールにバックスピンに近い回転を与える。
腕の振りが強くないとライズボールは上昇しない。
腕の振りを強くするために、右足を素早くひきつける必要がある。
1球目と比べると、投手の足の動きがはるかに速い。
(おっ、次も本気のライズボールで来るつもりだな。
好都合だ。それならそれでこちらも、早めにバットを振り出すだけだ)
ソフトボールのバッテリー間の距離は14,02m。
野球の18,44mよりはるかに短い。
それだけではない。
投手は、ピッチャーズサークルの半径2,44mぎりぎりまで前へ跳ぶ。
11m余りの至近距離から、威力のあるストレートや緩急の有るチェンジアップや
上に浮き上がるライズボールが飛んでくる。
そのため。110キロの速球がバッターから見れば160キロに相当する。
手元を離れてから振り出したのでは、はるかに遅い。
ボールがリリースされる直前。打者のバットは上から叩くための始動をはじめている。
上から叩かなければ野球よりも大きく重い球は、遠くまで飛んでいかない。
柊の読み通り。こんどはインコースをえぐるようにライズボールが飛んできた。
(さすがにAクラスの好投手。想定通りの、インコースだ)
腕をたたんだ柊が、胸元へむかってせりあがって来る球を上から強烈に叩く。
こんども手ごたえは充分にあった。
しかし。対応が速すぎたため、バットを押し込み過ぎた。
3塁線上を飛び始めた打球が途中から軌道を変え、おおきく左へ切れていく。
「ファールボール。ストライク2!」
「いい投手だ。ひさびさに俺の闘争本能に火がついたぞ!」
「ナイススイングです、2球とも。
おっさんだと思ってあなどっていました。
さすが伝説のホームランバッタです。スイングはいまだ健在のようですね」
「嬉しいねぇ。若い者からそんな風に褒められると。
君のリードも素晴らしいが、おたくの投手もなかなかのものだ。
次もとうぜん、ライズボールで勝負に来るんだろ」
「そのようです。
いまのスイングでウチのピッチャのやる気スイッチが入りました。
ライズボールをど真ん中へ投げたくて、うずうずしているのがわかります」
「それでこそAクラスのエースピッチャだ。
おかげでひさびさに、いい勝負ができそうだ。」
柊がふたたび打席を外す。びゅっと強く、思い切りバットを振りぬく。
(46)へつづく