オヤジ達の白球(53)心意気
採りたてのキュウリは鮮度が違う。
折った瞬間、透明の水がしたたり落ちる。キュウリは95%が水分といわれている。
カリウムが含まれている。しかし栄養はほとんどない。
ギネスブックで世界一栄養価の低い野菜として、認定されている。
「栄養はほとんど有りません。しかしそのぶん効能が有ります。
カリウムが余分な水分を外に出してくれます。むくみの解消に効果があります。
イソクエルシトリンという成分があり、こいつには利尿作用があるそうです。
ほとんどが水分ですので、熱を冷まし身体を冷やしてくれます」
「そうよね。夏バテの時に食べると身体がすっきりするものねぇ。
体を冷やしてしまうので冷え性のひとは、食べ過ぎに注意が必要なのよねぇ。
美容にいいという話も、どこかで聞いたことがあるわ」
陽子の言葉に男がニコリと笑う。
「よくご存じです。シリカという成分は、髪やツメを丈夫にしてくれます。
実はこいつ、薄毛予防にも効果があると言われているんです。
あ・・・けっして先輩の頭を見て言っているわけではありません。
念のため」
あははと男が、楽しそうに笑う。
「あたりまえだ。キュウリなんぞに頼らんで、自力でなんとかするわい。
それより、どうなんだ。出来たばかりの呑んべェチームを手伝ってくれるのか?。
俺たちにはおまえさんの打力と、捕手の能力が必要なんだ」
「監督さんと、美人のスコアラーさんがわざわざ来てくれました。
必要だから来てくれと言われれば、断る理由はありません。
俺で良ければ、よろこんでお手伝いしたいと思います」
「よく言った。それでこそ俺の後輩だ。
じゃそういうことで、この話は決まりだ。よかった、よかった。万々歳だ。
これで安心して4番を譲り渡すことができる」
「ちょっと待ってください」男が柊をさえぎる。
「じつはちょっとした問題があります。
ソフトボールは春と秋本番の時期に、大会がひらかれることが多いですよねぇ。
この季節はキュウリの生産がピークなんです。
スポーツに最適な陽気は、野菜にとっても最適の季節なんです」
「そうよねぇ。勤め人なら日曜は休みでも、農家は収穫で大忙しなのよねぇ。
育ち盛りの野菜に、土曜も日曜も関係ないもの。
まして1人で仕事していたのでは、大会に参加する時間の余裕なんて、ないわよねぇ」
「じつはそんな事情もあって、これまでソフトボールに2の足を踏んでいたんです。
しかし。今回は大先輩からの提案なので断ることも出来ず少々、頭が痛いです」
「なぁに、そのことなら心配いらねぇ。ちやんと対策を考えてある。
試合のある日はチームのメンバーを集め、朝早くからキュウリを収穫させる。
試合したあと、箱詰め作業を手伝えば仕事もはやく終わる。
おれが声をかければ、10人や15人は集まるさ。
そうすりゃお前さんもみんなと一緒に、勝利の美酒を呑むことができる。
どうだ。わるい話じゃないだろう?」
「実にありがたい提案です。
しかし、それじゃチームの皆さんに、迷惑をかけてしまうことになります」
「遠慮することはない。これから同じ釜のメシを喰うんだ。
メンバーはソフトボールのために、日曜日のまるまる1日を確保してある。
すこしくらい朝早く集めても、バチは当たらないさ。
朝の5時に集合させる。
みんなで手分けしてハウスへ入れば、2時間くらいで収穫できるだろう。
ただし。ちゃんと指導しないと大変なことになる。
なにしろ全員がど素人だ。
規格にあったキュウリを収穫させるため、ちゃんと教えないと
あとでおまえさんが酷い目にあう。
ま・・・農家指導員だったおれさまも手伝うから、なんとかなるだろうがな」
「そういうことなら、俺もよろこんで手伝いにくる」と祐介が言えば、
「あたしも!」と陽子がにこりと笑う。
(54)へつづく
採りたてのキュウリは鮮度が違う。
折った瞬間、透明の水がしたたり落ちる。キュウリは95%が水分といわれている。
カリウムが含まれている。しかし栄養はほとんどない。
ギネスブックで世界一栄養価の低い野菜として、認定されている。
「栄養はほとんど有りません。しかしそのぶん効能が有ります。
カリウムが余分な水分を外に出してくれます。むくみの解消に効果があります。
イソクエルシトリンという成分があり、こいつには利尿作用があるそうです。
ほとんどが水分ですので、熱を冷まし身体を冷やしてくれます」
「そうよね。夏バテの時に食べると身体がすっきりするものねぇ。
体を冷やしてしまうので冷え性のひとは、食べ過ぎに注意が必要なのよねぇ。
美容にいいという話も、どこかで聞いたことがあるわ」
陽子の言葉に男がニコリと笑う。
「よくご存じです。シリカという成分は、髪やツメを丈夫にしてくれます。
実はこいつ、薄毛予防にも効果があると言われているんです。
あ・・・けっして先輩の頭を見て言っているわけではありません。
念のため」
あははと男が、楽しそうに笑う。
「あたりまえだ。キュウリなんぞに頼らんで、自力でなんとかするわい。
それより、どうなんだ。出来たばかりの呑んべェチームを手伝ってくれるのか?。
俺たちにはおまえさんの打力と、捕手の能力が必要なんだ」
「監督さんと、美人のスコアラーさんがわざわざ来てくれました。
必要だから来てくれと言われれば、断る理由はありません。
俺で良ければ、よろこんでお手伝いしたいと思います」
「よく言った。それでこそ俺の後輩だ。
じゃそういうことで、この話は決まりだ。よかった、よかった。万々歳だ。
これで安心して4番を譲り渡すことができる」
「ちょっと待ってください」男が柊をさえぎる。
「じつはちょっとした問題があります。
ソフトボールは春と秋本番の時期に、大会がひらかれることが多いですよねぇ。
この季節はキュウリの生産がピークなんです。
スポーツに最適な陽気は、野菜にとっても最適の季節なんです」
「そうよねぇ。勤め人なら日曜は休みでも、農家は収穫で大忙しなのよねぇ。
育ち盛りの野菜に、土曜も日曜も関係ないもの。
まして1人で仕事していたのでは、大会に参加する時間の余裕なんて、ないわよねぇ」
「じつはそんな事情もあって、これまでソフトボールに2の足を踏んでいたんです。
しかし。今回は大先輩からの提案なので断ることも出来ず少々、頭が痛いです」
「なぁに、そのことなら心配いらねぇ。ちやんと対策を考えてある。
試合のある日はチームのメンバーを集め、朝早くからキュウリを収穫させる。
試合したあと、箱詰め作業を手伝えば仕事もはやく終わる。
おれが声をかければ、10人や15人は集まるさ。
そうすりゃお前さんもみんなと一緒に、勝利の美酒を呑むことができる。
どうだ。わるい話じゃないだろう?」
「実にありがたい提案です。
しかし、それじゃチームの皆さんに、迷惑をかけてしまうことになります」
「遠慮することはない。これから同じ釜のメシを喰うんだ。
メンバーはソフトボールのために、日曜日のまるまる1日を確保してある。
すこしくらい朝早く集めても、バチは当たらないさ。
朝の5時に集合させる。
みんなで手分けしてハウスへ入れば、2時間くらいで収穫できるだろう。
ただし。ちゃんと指導しないと大変なことになる。
なにしろ全員がど素人だ。
規格にあったキュウリを収穫させるため、ちゃんと教えないと
あとでおまえさんが酷い目にあう。
ま・・・農家指導員だったおれさまも手伝うから、なんとかなるだろうがな」
「そういうことなら、俺もよろこんで手伝いにくる」と祐介が言えば、
「あたしも!」と陽子がにこりと笑う。
(54)へつづく