落合順平 作品集

現代小説の部屋。

農協おくりびと (12)中央会という怪物

2015-09-18 11:35:37 | 現代小説
農協おくりびと (12)中央会という怪物



 「なんで知ってんの、あたしの個人情報を。しかも給料の中身まで!」


 「公然の秘密だ、その程度のことは。
 農協という組織に個人情報保護法も、プライバシーも有るもんか。
 ここだけにしてくれという内緒の話が、いつの間にか全員に筒抜けになっちまう。
 その程度なんだぞ、農協なんていう訳の分からん組織は。
 そいつを根底から改善するために、6年間も理事と言う仕事をしてきたんだ俺は。
 その俺が言うんだ。間違いはねぇ」


 
 「ふぅ~ん。お給料が、いつの間にか、巧妙に吸い上げられてしまうのか農協に。
 うまく出来ていますねぇ。農協の営業方針は」



 「当たり前だ。
 農協は、昔。農民たちが自分たちのために作ったものだ。
 だがいまじゃ、地域に根を張った総合商社だ。
 あの手この手で組合員たちから、上手に金を吸い上げていくんだ。
 農家はやせ細っていくが、農協グループは肥っていく。
 職員たちは、上部組織へ上納金を払うためにせっせと推進に取り組む。
 県や国の中央会の連中は、何の仕事もしていねぇ。
 国の省庁や、県庁からの天下りしてきた奴らばかりが中央会に屯している。
 こいつらは仕事をしないで、単協からの上納金で食っているんだ。
 だからおめえも、そういう連中のために、正しい自爆を推進しろ」



 「中央会と言う上部組織へ、上納金がある?。
 そこいらあたりで幅を利かせている、ヤクザ組織とまったく同じ構図じゃないの。
 可笑しいでしょ。何の仕事もしていない中央会の天下り連中のために、
 わたしたちがせっせと自爆をするなんて」
 


 「おいおい、お前。言うことにいちいち、トゲがあるぞ。
 だいいち、まだ自爆なんかしてねぇだろう。
 中央会というは、経済事業を取りまとめているJA全農や、JA共済連、
 JAバンクなどとは切り離されている組織だ。
 つまり中央会は自前の収入が、まったく無いということになる」


 「当たり前じゃないの、仕事をしていないんだもの。
 そんなもの、さっさと切り捨てればいいのよ。
 そうすれば農協の職員たちが、地獄のような推進事業から解放されるもの」



 「ところが話はそんなに簡単じゃねぇ。
 単位農協は、農業者ひとりひとりが組合員になり、出資して設立したものだ。
 だが県や国の中央会は、農協が出資してつくりあげたものだ。
 単位農協の指導機関が、自分たちが出資してつくった県や国の中央会と言う位置づけだ。
 逆らえんだろう。みずからの金で作り上げてしまった上部組織には」


 「自分の頭の上に、自分で重い石を乗せてしまったようなものね。
 利口じゃありませんねぇ、単位農協さんの考えることは」



 「こらこら。自分の職場を、そんな風に卑下するんじゃない。
 化け物のように肥大化してしまった組織に、そのうち国によってメスが入るだろう。
 大きくなりすぎてしまった営利団体を解体して、発足した頃に戻そうという動きが有る。
 地域の実情は、地域によってそれぞれ異なるからな。
 単一的な中央集権を排除して、農協と言う巨大なピラミッドを解体しようという動きだ。
 そういう動きが、たしかに水面下で進行している」


 「えっ、解体されてしまうの、農協という強大な全国組織が?」



 「早ければ5年後。いや、グループ内の抵抗が有るから10年後になるかもしれん。
 国鉄も民営化した。郵政も民有化された時代だ。
 巨大な利権を持つ農協グループも、遅かれ早かれ政府によって解体命令が出るだろう。
 でもな。農協グループが解体されても、推進は廃止されないぞ。
 たぶん今まで通りに実施される。
 推進という取り組みが、農協の基本を支えているからな。
 中央会が消え、上納金がなくなっても、手っ取り早く金になる推進事業は残る。
 だからお前も覚悟を決めて、正しい自爆のやり方を、せいぜい研究しておけ。
 あっはっは」


(13)へつづく

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