落合順平 作品集

現代小説の部屋。

居酒屋日記・オムニバス (78)       第六話 子育て呑龍(どんりゅう)⑨

2016-05-28 10:03:59 | 現代小説
居酒屋日記・オムニバス (78)
      第六話 子育て呑龍(どんりゅう)⑨



 
 八瀬川沿いの300本の桜に春が来た。
満開をむかえた桜が、水面を覗き込むように900mのトンネルを作る。
4月にはいった最初の土曜日。和太鼓の演奏が、近所の公園から響いてきた。
満開のサクラをいっそう盛り上げる、恒例の和太鼓の競演だ。


 この日だけ真理子は、弁当店を休む。
2人の娘たちと、満開になった八瀬川の桜を満喫するためだ。
赤いレンガを敷き詰めたさくらプロムナードに、多くの人が集まって来る。



 ソメイヨシノの花言葉は、「純潔」と「優れた美人」。
満開時の見事さと、散り際のいさぎよさ、そこには涙が出るほどの美しさがある。
春の風にあおられて、早くもサクラの花びらが水面へ舞い落ちていく。
埋めつくされた花びらで、水面が、まるで万華鏡のように華やいでいく。



 「よお。そこを歩いて行く、美人の三姉妹!」



 背後から男の声が、真理子を呼び止める。
(美人の3姉妹?、それって、もしかして私たちの事かしら・・・)
真理子が、怪訝そうな目でうしろを振り返る。
呼び止めたのは、散歩しているような雰囲気の幸作だ。
右手に、大きな風呂敷包みを下げている。




 「弁当を作って来た。どこかそのあたりで、花見と洒落こもう」


 「うふふ。なんだ、誰かと思ったら、幸作さんか。
 でも、いくらなんでも美人の三姉妹というのは、無理が有り過ぎです」



 「そうでもないようだ。
 八瀬川の満開のサクラに、まったく負けていないぜ3人とも。
 弁当を用意したんだ。
 だが、あいにくのことにウチの娘は、ソフトの大会で朝から遠征だ。
 このまま、無駄にするのはもったいない。
 そういう事情だ。
 いい天気だ。見た通り、絶好といえる花見日和だ。
 俺といっしょに、どこかで、この弁当を食わないか」



 「そこまで言われたら、断る理由が見当たりませんねぇ・・・
 よろこんで、御馳走になります」


 「そうこなくっちゃ!。やっぱり、良い女は決断が速い。
 それでこそ、真理子だ。
 ちょうどいい。
 さくらプロムナードの真ん中に、俺の友人が経営している喫茶店がある。
 2階のテラスから満開のサクラが見下ろせる。
 そこでこいつを食いながら、世間話でもしょうじゃないか」



 「あら。2階のテラスまで確保してあるの・・・
 ふぅ~ん、なんだかずいぶん、手回しがいいわねぇ」


 何か下心でも有るのかしらねぇ、と真理子が目を細めて笑う。



 「朝からのいい天気だ。
 こんな日は、誰でもポカポカ陽気に誘われて、外へ出かけたくなる。
 こんないい日に、家に居るのはもったいねぇ。
 おや・・・もうひとり、陽気に誘われて花見にやって来た奴がいるみたいだな・・・」



 向こう岸で、見覚えのある男が、花びらが舞い落ちる川面を覗き込んでいる。
その姿を幸作が、いち早く見つけ出した。
満開になったばかりのサクラが、春の風が通り過ぎていくたびに、
惜しげもなく、ハラハラと、川面に向かって舞い落ちていく。
幸作が見つけ出したのは、舞い落ちる様子を見つめている安原の姿だ。



 「よう。何やってんだ、そんなところで!」



 幸作が対岸に向かって声をかける。
川面を覗き込んでいた運転手の安原が、あわてて顔をあげる。


 「あっ・・・幸作さん。先日はどうも、ごちそうさまでした!」



 「ちょうどよかった。
 たったいま、みんなで、弁当を食おうという話がまとまったところだ。
 どうせなら、大勢の方が盛り上がる。
 暇ならお前もこっちへ来い。まぜてやってもいいぜ、俺たちの宴会に」


 「えっ、いいんですか・・・ホントウに?」



 「かまうもんか。年に一度の花見だ。
 ただし。仲間に入れるには、それなりの試験が有る。
 いまから俺が出す問題をクリアできたら、たぶんここにいる真理子のやつも、
 仲間入りを、許可してくれるだろう」


(79)へつづく


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2 コメント

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気風ってものは (屋根裏人のワイコマです)
2016-05-28 14:46:11
幸作さんの気風も板についていて福田、中曽根、笹川、柿沼、そして
小渕と主要首長たちそのものの感じ
いいリズムですね (●^o^●)
ナイターソフトも・・今いい時期ですよね
でも、普段そんなに走っているように
見えませんので・・気をつけて
無理しないで下さいよ
6月5日に差し支えては困りますから
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ワイコマさん。こんにちは (落合順平)
2016-05-29 10:11:40
昨夜はメンバーが充分に集まったため、
ベンチワークだけで済みました。
第1戦は8名しか来なかったため、1塁主として
久々にゲームへ参加しました。
たしかに最近は身体が動きません。
反応時間も、ずいぶんと遅くなりました。
しかし。ソフトボールはゴルフと違って団体競技。
勝ったときは歓びが、人数分だけ多くなります。
10人集まりましたので、よろこびも10倍になりました!
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