連載小説「六連星(むつらぼし)」第7話
「英治の生い立ち(2)」

金髪の英治の出身地は、秋田県の由利本荘(ゆりほんじょう)市です。
日本海に面して町並が開け、内陸部にも広大に広がる地方都市のひとつです。
河口から3kmほど遡った子吉川の南側を中心に、市街地が大きく広がっています。
この子吉川の河口には、夏場には大変に賑わう「本荘マリーナ海水浴場」があり、
この海岸に沿いながら、酒田街道(国道7号)が北と南へ伸びていきます。
市域の中央部は、丘陵地帯(笹森丘陵)になっていますが、
さらに本荘街道(国道107号)矢島街道(国道108号)などが、内陸部へと通じています。
面積は県内最大級(秋田県の面積の十分の一)を誇り、神奈川県の面積の
約半分に相当します。
このため、天気予報も、『由利本荘沿岸』『由利本荘内陸』と
(広大すぎるために)2つに分けて行われています。
英治の実家は内陸部で、『高橋』の姓を名乗ります。
実家は小さな農家ですが、今ではその田畑を祖母が一人でこなしています。
祖父は運転手として働きに出ています。
長距離便のトラックのため、家に居るのは週にせいぜい2日ほどです。
子供は、男と女の二人です。
長男にあたる茂は地元の高校を卒業した後、電子部品を扱う零細企業に勤めました。
妹の綾子は、仕事が嫌いできわめての男好きです。
19歳にしてすでに2人の子供を産みました。
いずれもシングルマザーとして出産をして、どちらも男親が異なります。
その長男にあたるのが、金髪の英治です。
行き先を心配した両親が、遠縁を頼って綾子の婿を決めました。
最初に出来た2人の子供は実家に残し、綾子は単身で男のもとに嫁ぎます。
こうして20歳を前に綾子には所帯を持たせたものの、相変らず男癖は悪いままでした。
やがて2人の間に、2人の子供が生まれたものの、夫婦仲はきわめてぎくしゃくとして、
下の子が出来た直後には、もう離婚話がはじまりました。
仲裁の話も旨くは進まずに、結局、2年後にこの2人の子供も連れて、
綾子が、年寄りと2人の子供が待つ実家へと戻ってきました。
ちょうどこの同じころに、長男の茂が、務めたいた愛車で
前代未聞の不祥事件を起こしてしまいました。
茂の勤めている電子部品工場の製造品は、
手仕事による流れ作業の電話機部品の組み付けが中心でした。
200人余り居る従業員のうち、90%以上が若い女性たちという職場です。
女性が多い職場となるとその大きな特徴として、会社からは見えない場所で、
女同士のねたみや悪口などが、秘密裏のうちに横行をはじめます。
ろくに労務管理の教育も受けないうちに、茂は、21歳にして管理職に登用をされました。
課長補佐の肩書をもらい、部下の管理のひとつとして、こうした少女たちのもめ事の
仲裁などにもあたることになりました。
こうした優遇の背景にあったものは、単なる野球部の先輩後輩という『こね』でした。
茂が進学をしたのは、地元でも野球で名の通った有名私立高校です。
野球部の特待生として監督から呼ばれ、入学試験も受けずに無事の入学を果たします。
2年生の春までは順調に来ましたが、夏の甲子園予選を前にして、
ついに小学校時代から連投を重ねてきた茂が、生命線である肩を壊してしまいます。
レギュラーに辛うじて残ったものの、3番手の投手として出番のないベンチ生活が続き、
そのまま、高校生活と野球人生を終えてしまいます。
電子部品工場への就職も、
単にそのときに培かわれた野球部OBのコネによるものでした。
さらに短期間に昇進を決めた大きな要因といえば、ほとんど気の利いた男子がいないという
ここの職場の、独特の事情によるものです。
電子部品工場の作業は、実に簡単で、なおかつ単調です。
プリント済みの基盤へ、電子部品をいくつか組み込み、そこへ数本の配線を
接続するだけで完成品になりました。
専門技術を必要としない分だけ、人集め時の人事考査が甘くなります。
多少問題が有ると思われても、人手の確保を最優先とするために、会社は次から次へと
増産のあおりも受けながら、若い娘たちを雇い入れていきました。
当然の結果として、しつけはもちろん倫理や道徳観などには一切無頓着で
粗野だけが取り柄と言える問題娘たちが、いつしかグループごと
そっくりと会社内にまぎれこんできました。
茂にとって最悪の事態が始まったのは、
電子部品工場が、市内からの移転後のまもなくからのことでした。
新しく建てられた工場は、市内の中心部から遠く隔たっていたために、
工場のほか、同じ敷地内に、真新しい女子寮が建設をされました。
山間の僻地に隔離されて建てられたこの女子寮は、グループの不良少女たちによって
あっというまに「いたずらといじめの」のたまり場にかわってしまいます。
気に入らない女子従業員への村八分を始め、幾多もの陰湿ないやがらせが
看視がすこぶる甘い女子寮の中で、連日のように、平然と繰り返されるようになりました。
内部からの告発を受けた会社が、管理職の茂に女子寮への立ち入り調査を命じます。
しかし、すでに待ちかまえる準備が出来ていた寮の首謀者たちの『罠』は、
きわめて巧妙そのものでした。
立ち入り調査が予定されていたその前日に、
茂が、被害者だと名乗る一人の女の子から、まず夕方時に呼び出されます。
「人目があるとまずいから、どこか静かで安心な処で話したい」という口車に乗せられて、
茂が、言葉巧みにラブホテルへと引きずり込まれてしまいます。
女の子はさんざん泣き事を並べたあげく、感極まった風をよそおって、
「秘密を守ってくれるなら、お例代わりに」と、言葉巧みに茂を色仕掛で誘惑をします。
もちろん、首謀者たちによる最初の策略のひとつです。
しかしそうとは気がつかない茂は、いとも簡単に、この「罠』に翻弄されてしまいます。
だがこの日の出来ごと以来、不思議なことに、寮でのイジメが静まりかえります。
静かさを取り戻してきた女子寮の様子に、会社が一段落をして安心をしかけたころ、
再び別の被害者だと名乗るから女性から、茂が再び呼び出されます。
「貴方の知らないところで、まだ陰湿ないじめが実行されている」と、誘い出し
再び同じラブホテルへ連れ込まれ、嘘の証言をはじめます。
この女もまた、どうにでもしてとばかりに艶めいて、茂に甘え身体を任せてしまいます。
会社には、秘密だからと口止めをしたうえでの不遜な行為に及びます。
しかし女子寮と会社での不思議な現象は、さらに続きました。
こうして茂が呼び出されて、女たちと関係を持つたびに、職場でも寮でも、
不良少女たちのいじめが、なりをひそめていきました。
ついには終息をしてかのように見え、すべてが平穏を取り戻したようにも思えました。
会社も安泰ぶりを見極めて、イジメの終息を高らかに宣言しました。
茂もまた大役を果たしたとすっかり思いこみ、深い自己満足とともに、
女たちの身体まで楽しんだ余韻を残して、やがて安心をし切って、ついに油断をします。
その隙を見計らったように、首謀者たちの狙いを定めた最後の一撃がやってきます。
以前に被害者の一人としてラぶホテルへ誘い込み、身体を許した女の子から、
『どうしても見逃せない、ひどいいじめが、まだもうひとつだけ横行をしている』
という内容の電話が、茂のもとへ届きました。
貴方から相談をして何とかしてほしいと、その子には泣いて頼まれたから
紹介をしますので、いつものように内緒の場所で会いましょうと、用意周到な、
女からの誘いがやって来ました。
茂は指示された通りに、いつものラブホテルへ出掛けて行きます。
いつものラブホテルでは、おびえた表情の少女が、なぜかたった一人で待っていました。
かたくなに固まっている彼女をなだめながら、色々と聞き出そうとしますが、
なぜか少女は、口を閉ざしたまま何も言いません。
やがて茂が当然のことだと思い、ろくな躊躇も見せずに、ごく当たり前のこととして、
いつものように少女にもまた、身体を求めはじめます。
さほどの抵抗も見せずに、(あきらめて)少女もそれに応じます。
驚いたことに、別れ際になって彼女のほうから、
再び会いたいという約束を、茂に告白をしてきました。
「何度でもお付き合いをいたします」少女は精いっぱいにそう告白をしました。
意外な展開とは言え、これが片付けば全てが終わると信じ込み、
さらには瑞々(みずみず)しい少女への卑劣な想いまでが加わって、
少女と茂の理不尽な関係が始まってしまいます・・・・
こうして数度の逢瀬をかわしていく内に、避妊をしないままの当然の結果として
いつしか少女が、茂の子供を身ごもってしまいます。
妊娠の事実を知った茂が、この少女を呼び出しました。
結婚をして男としての責任を取ると言い始める茂を、少女が絶望的な瞳で見つめます。
やがて私には他に好きな人が居て、その人との結婚を心の底から夢に見ていましたと、
涙をこぼしながら、切々と語りはじめました。
不良グループの少女たちによって、日夜にわたっていじめられてきたこの少女は、
上司の茂と『寝ること』を条件に、そこから開放されることが約束されていました。
この少女こそが、イジメに遭っているその当の本人でした。
少女の哀しい告白のすべてから、ここへ至ったイジメの罠の真相を、
茂は初めてはじめて知る事になりました・・・
それは・・・少女が、相次ぐイジメに耐えかねていたところへ、
親切顔をした首謀者仲間の一人が、そっとささやいたひとことから始まりました。
『何人も、いじめから救い出している課長代理がいるって、知っている?
ここのところイジメも、悪戯も出ていないのは、その課長代理の闇の力なんだよ。
そのかわり内緒で何度か寝るようだけど、絶対秘密は守ってくれるわよ。
どう、私が口を聴いてあげるから、あなたも一度たのんでみれば・・・。』
茂が真相に愕然としたその翌日に、この少女は遺書ひとつも残さずに、
海岸で自らの手首を切って、自殺を遂げてしまいます。
田舎での突然のこの自殺騒ぎは、あっというまに地元紙を賑やかにしました。
これこそが、首謀者たちが用意をした実に周到な『罠』でした。
最後の少女こそが、実は首謀者たちによるいじめの、最後の標的でその犠牲者でした。
巧妙なままに、茂はいつのまにか、共犯者たちの一人に仕立て上げられていたのです。
少女が結婚の予定の前に妊娠をしていたことから、
なんらかの事情はあれど覚悟の上の自殺とみて、警察は事故として結論づけてしまいます。
勝ち誇った首謀者たちの視線を背中に受けながら、茂は傷心のまま工場を辞めます。
逃げるようにして秋田を離れ、単身で上京をしてしまいます。
こうして地元の秋田での茂の事件は、収まりを見せましたが、
実は高橋家の悲惨な現実と言う話は、ここを序章として、さらにこのさきで
長年にわたる『本題』が、その幕をあげます・・・・
(8)へ、つづく

・本館の「新田さらだ館」は、こちらです http://saradakann.xsrv.jp/
・連載中の新作小説は、こちらです
赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (40)恭子の隠れ家
http://novelist.jp/62536_p1.html
(1)は、こちらからどうぞ
http://novelist.jp/61553_p1.html
「英治の生い立ち(2)」

金髪の英治の出身地は、秋田県の由利本荘(ゆりほんじょう)市です。
日本海に面して町並が開け、内陸部にも広大に広がる地方都市のひとつです。
河口から3kmほど遡った子吉川の南側を中心に、市街地が大きく広がっています。
この子吉川の河口には、夏場には大変に賑わう「本荘マリーナ海水浴場」があり、
この海岸に沿いながら、酒田街道(国道7号)が北と南へ伸びていきます。
市域の中央部は、丘陵地帯(笹森丘陵)になっていますが、
さらに本荘街道(国道107号)矢島街道(国道108号)などが、内陸部へと通じています。
面積は県内最大級(秋田県の面積の十分の一)を誇り、神奈川県の面積の
約半分に相当します。
このため、天気予報も、『由利本荘沿岸』『由利本荘内陸』と
(広大すぎるために)2つに分けて行われています。
英治の実家は内陸部で、『高橋』の姓を名乗ります。
実家は小さな農家ですが、今ではその田畑を祖母が一人でこなしています。
祖父は運転手として働きに出ています。
長距離便のトラックのため、家に居るのは週にせいぜい2日ほどです。
子供は、男と女の二人です。
長男にあたる茂は地元の高校を卒業した後、電子部品を扱う零細企業に勤めました。
妹の綾子は、仕事が嫌いできわめての男好きです。
19歳にしてすでに2人の子供を産みました。
いずれもシングルマザーとして出産をして、どちらも男親が異なります。
その長男にあたるのが、金髪の英治です。
行き先を心配した両親が、遠縁を頼って綾子の婿を決めました。
最初に出来た2人の子供は実家に残し、綾子は単身で男のもとに嫁ぎます。
こうして20歳を前に綾子には所帯を持たせたものの、相変らず男癖は悪いままでした。
やがて2人の間に、2人の子供が生まれたものの、夫婦仲はきわめてぎくしゃくとして、
下の子が出来た直後には、もう離婚話がはじまりました。
仲裁の話も旨くは進まずに、結局、2年後にこの2人の子供も連れて、
綾子が、年寄りと2人の子供が待つ実家へと戻ってきました。
ちょうどこの同じころに、長男の茂が、務めたいた愛車で
前代未聞の不祥事件を起こしてしまいました。
茂の勤めている電子部品工場の製造品は、
手仕事による流れ作業の電話機部品の組み付けが中心でした。
200人余り居る従業員のうち、90%以上が若い女性たちという職場です。
女性が多い職場となるとその大きな特徴として、会社からは見えない場所で、
女同士のねたみや悪口などが、秘密裏のうちに横行をはじめます。
ろくに労務管理の教育も受けないうちに、茂は、21歳にして管理職に登用をされました。
課長補佐の肩書をもらい、部下の管理のひとつとして、こうした少女たちのもめ事の
仲裁などにもあたることになりました。
こうした優遇の背景にあったものは、単なる野球部の先輩後輩という『こね』でした。
茂が進学をしたのは、地元でも野球で名の通った有名私立高校です。
野球部の特待生として監督から呼ばれ、入学試験も受けずに無事の入学を果たします。
2年生の春までは順調に来ましたが、夏の甲子園予選を前にして、
ついに小学校時代から連投を重ねてきた茂が、生命線である肩を壊してしまいます。
レギュラーに辛うじて残ったものの、3番手の投手として出番のないベンチ生活が続き、
そのまま、高校生活と野球人生を終えてしまいます。
電子部品工場への就職も、
単にそのときに培かわれた野球部OBのコネによるものでした。
さらに短期間に昇進を決めた大きな要因といえば、ほとんど気の利いた男子がいないという
ここの職場の、独特の事情によるものです。
電子部品工場の作業は、実に簡単で、なおかつ単調です。
プリント済みの基盤へ、電子部品をいくつか組み込み、そこへ数本の配線を
接続するだけで完成品になりました。
専門技術を必要としない分だけ、人集め時の人事考査が甘くなります。
多少問題が有ると思われても、人手の確保を最優先とするために、会社は次から次へと
増産のあおりも受けながら、若い娘たちを雇い入れていきました。
当然の結果として、しつけはもちろん倫理や道徳観などには一切無頓着で
粗野だけが取り柄と言える問題娘たちが、いつしかグループごと
そっくりと会社内にまぎれこんできました。
茂にとって最悪の事態が始まったのは、
電子部品工場が、市内からの移転後のまもなくからのことでした。
新しく建てられた工場は、市内の中心部から遠く隔たっていたために、
工場のほか、同じ敷地内に、真新しい女子寮が建設をされました。
山間の僻地に隔離されて建てられたこの女子寮は、グループの不良少女たちによって
あっというまに「いたずらといじめの」のたまり場にかわってしまいます。
気に入らない女子従業員への村八分を始め、幾多もの陰湿ないやがらせが
看視がすこぶる甘い女子寮の中で、連日のように、平然と繰り返されるようになりました。
内部からの告発を受けた会社が、管理職の茂に女子寮への立ち入り調査を命じます。
しかし、すでに待ちかまえる準備が出来ていた寮の首謀者たちの『罠』は、
きわめて巧妙そのものでした。
立ち入り調査が予定されていたその前日に、
茂が、被害者だと名乗る一人の女の子から、まず夕方時に呼び出されます。
「人目があるとまずいから、どこか静かで安心な処で話したい」という口車に乗せられて、
茂が、言葉巧みにラブホテルへと引きずり込まれてしまいます。
女の子はさんざん泣き事を並べたあげく、感極まった風をよそおって、
「秘密を守ってくれるなら、お例代わりに」と、言葉巧みに茂を色仕掛で誘惑をします。
もちろん、首謀者たちによる最初の策略のひとつです。
しかしそうとは気がつかない茂は、いとも簡単に、この「罠』に翻弄されてしまいます。
だがこの日の出来ごと以来、不思議なことに、寮でのイジメが静まりかえります。
静かさを取り戻してきた女子寮の様子に、会社が一段落をして安心をしかけたころ、
再び別の被害者だと名乗るから女性から、茂が再び呼び出されます。
「貴方の知らないところで、まだ陰湿ないじめが実行されている」と、誘い出し
再び同じラブホテルへ連れ込まれ、嘘の証言をはじめます。
この女もまた、どうにでもしてとばかりに艶めいて、茂に甘え身体を任せてしまいます。
会社には、秘密だからと口止めをしたうえでの不遜な行為に及びます。
しかし女子寮と会社での不思議な現象は、さらに続きました。
こうして茂が呼び出されて、女たちと関係を持つたびに、職場でも寮でも、
不良少女たちのいじめが、なりをひそめていきました。
ついには終息をしてかのように見え、すべてが平穏を取り戻したようにも思えました。
会社も安泰ぶりを見極めて、イジメの終息を高らかに宣言しました。
茂もまた大役を果たしたとすっかり思いこみ、深い自己満足とともに、
女たちの身体まで楽しんだ余韻を残して、やがて安心をし切って、ついに油断をします。
その隙を見計らったように、首謀者たちの狙いを定めた最後の一撃がやってきます。
以前に被害者の一人としてラぶホテルへ誘い込み、身体を許した女の子から、
『どうしても見逃せない、ひどいいじめが、まだもうひとつだけ横行をしている』
という内容の電話が、茂のもとへ届きました。
貴方から相談をして何とかしてほしいと、その子には泣いて頼まれたから
紹介をしますので、いつものように内緒の場所で会いましょうと、用意周到な、
女からの誘いがやって来ました。
茂は指示された通りに、いつものラブホテルへ出掛けて行きます。
いつものラブホテルでは、おびえた表情の少女が、なぜかたった一人で待っていました。
かたくなに固まっている彼女をなだめながら、色々と聞き出そうとしますが、
なぜか少女は、口を閉ざしたまま何も言いません。
やがて茂が当然のことだと思い、ろくな躊躇も見せずに、ごく当たり前のこととして、
いつものように少女にもまた、身体を求めはじめます。
さほどの抵抗も見せずに、(あきらめて)少女もそれに応じます。
驚いたことに、別れ際になって彼女のほうから、
再び会いたいという約束を、茂に告白をしてきました。
「何度でもお付き合いをいたします」少女は精いっぱいにそう告白をしました。
意外な展開とは言え、これが片付けば全てが終わると信じ込み、
さらには瑞々(みずみず)しい少女への卑劣な想いまでが加わって、
少女と茂の理不尽な関係が始まってしまいます・・・・
こうして数度の逢瀬をかわしていく内に、避妊をしないままの当然の結果として
いつしか少女が、茂の子供を身ごもってしまいます。
妊娠の事実を知った茂が、この少女を呼び出しました。
結婚をして男としての責任を取ると言い始める茂を、少女が絶望的な瞳で見つめます。
やがて私には他に好きな人が居て、その人との結婚を心の底から夢に見ていましたと、
涙をこぼしながら、切々と語りはじめました。
不良グループの少女たちによって、日夜にわたっていじめられてきたこの少女は、
上司の茂と『寝ること』を条件に、そこから開放されることが約束されていました。
この少女こそが、イジメに遭っているその当の本人でした。
少女の哀しい告白のすべてから、ここへ至ったイジメの罠の真相を、
茂は初めてはじめて知る事になりました・・・
それは・・・少女が、相次ぐイジメに耐えかねていたところへ、
親切顔をした首謀者仲間の一人が、そっとささやいたひとことから始まりました。
『何人も、いじめから救い出している課長代理がいるって、知っている?
ここのところイジメも、悪戯も出ていないのは、その課長代理の闇の力なんだよ。
そのかわり内緒で何度か寝るようだけど、絶対秘密は守ってくれるわよ。
どう、私が口を聴いてあげるから、あなたも一度たのんでみれば・・・。』
茂が真相に愕然としたその翌日に、この少女は遺書ひとつも残さずに、
海岸で自らの手首を切って、自殺を遂げてしまいます。
田舎での突然のこの自殺騒ぎは、あっというまに地元紙を賑やかにしました。
これこそが、首謀者たちが用意をした実に周到な『罠』でした。
最後の少女こそが、実は首謀者たちによるいじめの、最後の標的でその犠牲者でした。
巧妙なままに、茂はいつのまにか、共犯者たちの一人に仕立て上げられていたのです。
少女が結婚の予定の前に妊娠をしていたことから、
なんらかの事情はあれど覚悟の上の自殺とみて、警察は事故として結論づけてしまいます。
勝ち誇った首謀者たちの視線を背中に受けながら、茂は傷心のまま工場を辞めます。
逃げるようにして秋田を離れ、単身で上京をしてしまいます。
こうして地元の秋田での茂の事件は、収まりを見せましたが、
実は高橋家の悲惨な現実と言う話は、ここを序章として、さらにこのさきで
長年にわたる『本題』が、その幕をあげます・・・・
(8)へ、つづく

・本館の「新田さらだ館」は、こちらです http://saradakann.xsrv.jp/
・連載中の新作小説は、こちらです
赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (40)恭子の隠れ家
http://novelist.jp/62536_p1.html
(1)は、こちらからどうぞ
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