落合順平 作品集

現代小説の部屋。

赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (18)

2016-12-30 17:25:02 | 現代小説
赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (18)
 会津若松の奥座敷・東山温泉



 人口12万人の会津若松市の中心地から、車で10分。
鶴ヶ城から南東方向に、およそ3km。
会津若松の奥座敷と呼ばれている東山温泉は、湯川(ゆがわ)沿いに、
20軒以上の温泉宿とホテルが密集している。
湯量は毎分1,500リットル。現在でもおおくの芸妓が活躍している。
「からり妓さん」と呼ばれ、古い歴史を誇る温泉街に、華やかな
彩(いろど)りを添えている。


 温泉は今から千三百年前、名僧・行基によって発見された。
ここは東北地方で最大の芸妓の街。
昭和30年代の最盛期には、200名を超える芸妓が居た。
しかし。観光ブームの衰退とともに、置屋も芸妓も数を徐々に減らした。
いまでは20数名の芸妓が、当時の名残りを今日に伝えている。



 芸者衆が履く、からりからりと下駄の鳴る音に、独特の風情があった。
ここから『カラリ』と名付けられたという説もある。
しかし。からりは実際には、年少芸妓のことを指している。
一人前になっていない若い芸妓や、見習いとしてお座敷に出ている
少女たちのことを総称して『カラリ妓さん』と呼ぶ。


 
 肩揚げと袖揚げを施した振袖の着物に、赤い刺繍の半衿。
ぽっくりの下駄に、少女向きの日本髪。
桃割れや唐人髷、結綿、割れしのぶ、おふくといった髪型に、
花かんざしで、幼さを強調したいでたちが、年少芸妓たちの大きな特徴。
関西では彼女たちのことを「舞妓」と呼び、
それ以外の地域の花街では、「半玉」と呼ぶのが一般的。



 山形県の酒田では、若手芸妓たちのことを「舞娘」と呼んでいる。
「きらり妓さん」(神奈川・箱根湯本温泉)と呼ばれたり、、
会津東山温泉と同じように、「からり妓さん」と呼んでいる地域もある。
東山温泉にいる春奴母さんの2番弟子の小春は、鳴り物
(三味線を除く楽器、笛と打楽器の総称)の名手。


 多くの画人や文人が、東山温泉へやってきた。
竹久夢二は、3度もこちらへ逗留している。
その時に描いた美人画が、いまも旅館に残されている。
温泉街には、夢二が作詞した「宵待草」の歌碑も建っている。
手塚治虫が愛した地でもある。
よほど気に入ったのか、相次いでこちらへ足を運んでいる。
昭和34(1959)年。少年サンデーに掲載された「スリル博士第4話」は、
ここで描かれたというエピソードが残っている。



 『でもね、お母さん』
お化粧を終えた小春が、怒った顔で、くるりと一同を振り返る。
東山温泉にほど近い小春のマンション。
昼食会のお座敷に呼ばれているため、先程から小春が身支度の準備で、
大わらわの状態を続けている。




 「来るなら来るで、前もってお電話くださいと、あれほどお願いしたでしょう。
 それに、一体なんなのよ。
 ウチの足元を、ドタバタ駆け回るこの小猫たちは。
 たまが来るだけならまだしも、真っ白のオマケまで連れて来るなんて。
 聞いていません、そんなお話。
 だいいちお座敷まで、もう時間が無いのよ、
 お願いだから、身支度の邪魔をしないでくださいな、2匹とも。
 あんたたちは暇を持て余しているけど、からりの姉さんは、お昼からのお座敷で、
 とにかく多忙なの!」



 「おまえねぇ。いくら子猫が相手とはいえ『からり妓さん』には無理がある。
 お前の歳なら、姐さんと呼ばれても差支えがない。
 で。なんなのさ。東山温泉では、真っ昼間からお座敷が入るのかい?。
 へぇぇ。小原庄助さんゆかりの温泉は、やはりいまだに、粋ですねぇ」

 「ですから。
 何度も申し上げているとおり、観光協会がたちあげた観光ツァーのひとつです。
 艶と粋でもてなす企画で、立方(たちかた)と地方(じかた)の3人1組で
 東山温泉の芸を、昼食時に楽しんでもらいます」



 「なるほどねぇ。芸妓の宣伝とアピールには、もってこいの観光企画だ。
 で、昼間に観光客たちに披露する演目は、どんなものが用意されているんだい?」


 「最初に、『愛しき日々』。
 1986年に放送された「白虎隊の」主題歌です。
 メロディに合わせて、芸妓が舞い踊ります。
 2番目が『白虎隊』。こちらは飯盛山で壮烈な最後をとげた16歳から17歳の
 白虎隊の物語を、舞踏化したものです。
 3番目は、会津の『なりませぬ節』。
 「ならぬことはなりませぬ」の会津藩に伝わる掟を歌詞にしたものに、
 艶っぽい踊りを添えたものです。
 あっ。また、お母さん乗せられて、時間を無駄に潰しています!
 もう、ホントに時間がいっぱいです。このままでは遅刻をしてしまいます。
 もう出かけますから、あとは適当にくつろいでいてくださいな。
 まったくぅ~、もう。あ~あ、忙しい、忙しい・・・・
 忙しいったら、ありゃしない!」



 「あら。どこかで聞いたようなセリフです。
 歳はとりたくないですねぇ。
 なんだか、すっかり似てまいりましたねぇ、大きなお姐さんの口ぶりが。
 お母さんの口癖に?」



 慌てふためき、あたふたと飛び出していく小春の後ろ姿を、
豆奴がふふふと笑って見送る。
そのあと、チラリと横目で、春奴お母さんを見つめる・・・・



 ※芸妓は、経験や場によって担当がわかれる。
 踊る役を「立方(たちかた)」。
 三味線、唄、鳴りもの(太鼓、鼓)などで伴奏するのが「地方(じかた)」。
 唄と伴奏と踊りが一体となり、場をにぎやかに盛り上げる。※


(19)へつづく


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2 コメント

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思い切っての方向転換 (屋根裏人のワイコマです)
2016-12-30 21:10:28
良かったですね 一週間のお休み
私なんか12月は、10日くらいしか
働いていません、殆どお休みのようなものです
でも70近い年寄りは、どんな職場も
御免こうむるみたいです(≧∇≦)
物書きの方で・・地元新聞の連載を書くとか
特技を活かして・・そんな方法も・・
実は、しっかりと期待しています
農業に勤しむ・・蓄電中と言うか
充電期間なのでしょう \(^o^)/
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ワイコマさん。こんばんは (落合順平)
2016-12-31 17:19:58
今年も残すところ、あと6時間あまり。
2016年が、あっという間に通り過ぎていきます。
60歳代半ばの、あたらしい転機になった1年です。
ゆっくり余韻にひたりたいところですが、
元旦は、河川敷のゴルフ場で初打ちコンペです。
スタートは、7時。
新年の1番スタートのコンペに招待されました。
完全武装で、カミさんと2人で行ってまいります。
今年1年、ご愛読いただきありがとうございました。
2017年もまた、精力的に書いていきたいと考えております。
新年もまた、本年同様、よろしくお願いいたします。
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