落合順平 作品集

現代小説の部屋。

北へふたり旅(63) 行くぜ北海道⑦

2019-12-13 17:51:17 | 現代小説
 北へふたり旅(63) 


 上野発の夜行列車に乗り、雪の青森駅で降り、青函連絡船に乗りかえ、
こごえそうな鴎を見た津軽海峡は、いまはトンネルでこえる。


 風の音が胸をゆする、泣けとばかりに、ああ・・・津軽海峡冬景色・・・
と歌っているあいだ、はやぶさ号は海の底を140㎞で走り抜ける。


 青函トンネルは全長53.85km。世界最長の海底トンネル。
海峡の水深は140m。そこから100mの地下にトンネルが掘られた。
北海道を海底トンネルで結ぼうという構想は、戦前からあった。


 青函連絡船5隻の転覆。
1430人が死亡した洞爺丸事故がきっかけとなり、1964年。
調査坑の掘削がはじまった。


 「28分ですって・・・トンネルを通過するのに」


 「その28分を、さらに短縮しようという構想がある」


 「さらに短縮する?。できるの?。そんなことが」


 「トンネルをふくめた82㎞の区間を、新幹線と在来線の貨物列車が走っている。
 仲良く同じレールの上を走っている。
 君も知っているように、在来線と新幹線はレール幅が異なる。
 そのためここにはレールが3本ある。
 外側のひろいほうを新幹線。内側のせまいほうが貨物列車用。
 こうすることで海底トンネルの共有が可能になった」
 
 「レールが3本あるのですか。ここには」


 「在来線と新幹線が同じ軌道上を走っているのは、ここだけさ」


 「なぜ、そんなことになっているのですか?」


 「トンネルを利用する20両編成のコンテナ列車は、1日25往復はしっている。
 北海道産のじゃがいもや玉ねぎを送り出す大動脈だ。
 止めるわけにはいかない。
 トンネルを通る新幹線は、10両編成。1日に13往復。
 とうぜんトンネル内ですれ違うこともある。
 すれ違いの不安を解消するため、新幹線は本来の260キロから
 140キロに減速している。
 これを240キロで走れるよう改善すると、およそ18分短縮できる」


 「マジックでも使うのですか?。
 新幹線がそこまで速度をあげてしまうと、在来線の貨物とのすれ違いが
 たいへんなことになると思いますが」


 「心配はない。在来線を廃止するんだ。
 貨物のコンテナを、専用新幹線に積み替える。
 このアイデアが魅力なのは、札幌まで新幹線が伸びた時。
 7時間30分かかっているいまの輸送時間が、新幹線を使えば2時間30分に短縮される。
 旅客がすくなく、不効率な新幹線が貨物で威力を発揮する。
 そんな構想が、この地下トンネルの中で密かにすすんでいるらしい」


 「赤字なのですか、北海道新幹線は?」


 「飛行機を使うのが一般的だからね。北海道旅行は」


 「ごめんなさい。飛行機に乗れない女で」


 思わず苦笑した時。窓の外が一瞬明るくなった。
明るく見えたのは貨物列車の運転席。一瞬で見えなくなった。
しかし窓の外は、何かとすれ違っている気配がある。
振動もないし揺れもない。
それほど最新の新幹線は気密性に優れている。


 「飛行機に乗っているようなものさ。
 航空機のパイロットは、200~240kmで操縦かんを引き起こす。
 300km前後で離陸する。
 はやぶさは320㎞で走ってる。
 速度的には充分だ。翼をつければ津軽海峡のうえを飛ぶことができる」


 「10両編成の新幹線が空を飛ぶのですか・・・
 なんとも壮観ですねぇ」


 「次世代型の新幹線・アルファエックスの最高速度は400キロ。
 海底なんか走っている場合じゃない。
 こいつは間違いなく空を飛べる。翼をつけたらの話だけどね」


 「そうなったら北海道まで、あっという間です。
 うふっ。面白そう。
 あ、いけない。空を飛ぶものには乗れません、わたし。
 やはり地上を走るものにしてください。後生ですから。うっふっふ」


 (64)へつづく


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2 コメント

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JR北海道 (屋根裏人のワイコマです)
2019-12-13 18:27:20
JR北海道とJR四国は多分永久に
赤字経営から脱出出来ないでしょう
これは北海道は東と合併して、
四国は西と合併
今は北海道へ行くのも道内も飛行機
でも将来地球温暖化なんとやらで
飛行機もこれ以上増やせない・・
益々新幹線の時代となっていく気がします
 
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初めまして。 (にのみや あきら)
2019-12-15 06:46:11
初めまして。ご訪問ありがとうございました。その上、人気投票までしていただいて、感謝いたします。
我流で拙作ですが、よろしくお願いいたします。
先ずは、お礼まで。
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