伊予鉄道高浜線の三津駅から西の方へ旧街道のような道を抜けて港を通り過ぎたところ、雨の中、探し探し歩いてようやく見つけました。1日限定30食の「鯛メシ膳」(2,100円)のみ、完全予約制の店です。駅から結構な距離があると思ったのだが、後で店のご主人に聞いたところ、港山駅から渡し船に乗った方が近いらしい。実際、帰りにその方法で歩いたらかなり便利なことが分かりましたが…ここは天保5(1836)年創業のよろず問屋だったとのことで、昭和4(1929)年に建て替えられという立派なお屋敷。建て替えの際、延焼を防ぐため外壁に銅板を貼り巡らせたとのこと、さぞ羽振りがよかったんでしょうね。有形文化財に指定されています。
通されたのは、かつてここで句会が開かれていたという客間で、三津浜の古い写真や、ノスタルジックな映画のポスターが壁に飾られ、一角には骨董の数々も品よく展示されています。障子の向こうは、こじんまりした庭園。聞こえてくるのはSP版のオールドジャズ…目にも耳にも優しいですね。座敷には座布団が両サイドに並んでいて、今や珍しい座敷にお膳でいただくスタイルになっています。
鯛メシ膳は、刺身・吸い物・小鉢などのお膳と、お櫃に入った鯛メシという内容。トラハゼの甘酢煮は、頭から丸ごといただきます。そうめんかぼちゃはゆずのドレッシング仕立てでさっぱりと。
お膳のメインは天然鯛のお刺身。旨みのある皮を残したお刺身は、身がプリプリで、噛めば甘みが広がってくる。
鯛のお吸い物は実に上品な仕上がり。鯛の旨味がお汁に滲みだしていて味わい深いが、アラも堅くなっていない。
メインの鯛メシはお櫃で出てきます。お釜で蒸された鯛の身と海藻が入っていて、自分で混ぜ込み、茶碗に装う。
口に運ぶと鯛の風味がフワッと鼻腔に広がります。鯛の身がしっとりしていて質の良さを物語っています。ほんのりとした味付けで実に優しい仕上がりです。米もまた美味いな。タイミングいいことに今年初の新米とのこと。おこげがこれまた香ばしい。
最後にデザート?の真桑瓜がでてきました。素朴な、懐かしい味ですね。ここのお料理、全体に上品で薄い味付けなので、素材の味が活きていて好ましい。
予約電話を入れた際、ご主人と思しき方が電話口で「この日は実は休もうかと思ってたんですが…」っとおっしゃる。でも、こちらとしても鯛めしが食べたい。大阪から宇和島経由で行くんだが…っと伝えると、「宇和島に負けるわけにはいきませんね、では営業します」っと。正直やなぁ…でもなんかほのぼのした方やなぁっと思ってました。実際にお店に伺ってお話を聞いてみると、サラリーマンとして定年まで東京で勤め上げた後、故郷のこの地で、旧家を活かして鯛めし屋を開いたとのこと。料理も一から勉強して母の味を再現したとのこと。朴訥とした話し方の中に、人柄の良さがにじみ出ているご主人でした。再び松山に来る時には、ぜひとも訪れたいお店です。
- 営業時間:11:30~15:00
- 定休日:火曜、水曜