奈良交通の路線バス、八木新宮線は、近鉄線の大和八木駅(奈良県橿原市)から紀伊山地を南下し、十津川村を経てJR線の新宮駅(和歌山県新宮市)までを結ぶ路線バス。走行距離は169.9kmで、高速道路を走らない路線バスでは最も長い距離を走ることで知られ、よくTV等でも取り上げられている奈良交通の花形路線です。
従来よりこの「八木新宮特急」の主力となっている車両は、1992年に導入された9両の「日野ブルーリボン HU-3KLAA」で、これは一般路線バス車両ながら長距離走行に対応できるようにした「特注」車。通常の路線バスと共通の車体ながら高速バスの様に前方ドアのみで、車内はリクライニング機構はないものの二人掛けシートが並ぶ4列シート。
またエンジンも、ブルーリボン標準よりパワーのある高出力型を装備し、山道のカーブに対応してホイールベースは4.8mの短尺車サイズ。エアコンは高速バスによくある床下に専用の小型発電エンジンを搭載した「サブエンジン」方式でもちろんエアサス…見た目は路線バスだが、中身は高速バス並みの「スペシャル」な車両です。しかしこの車両も導入から24年を経て、老朽化も目立ってきていました。
観光路線と生活路線の両面性を持つ特徴的な路線で、一部から人気を博す一方、過疎化による乗客の減少から常に路線廃止の危機に晒されていました。しかし、十津川村などでは基幹の交通といってもいいこの路線。このたび、それを維持するため、国土交通省と奈良・和歌山両県が購入費の一部を支援し、3両の新型のノンステップバスが導入されたのです。
今回導入のバスは、なんと昨年にフルモデルチェンジしたばっかりの「日野ブルーリボン KV290N1」。今度は特注ではなく、メーカー標準のモデルです。奈良交通では山岳路線に新車を導入するに当たって、高齢者の多い地域でのノンステップの利便性、低燃費・低公害でハイパワーなエンジンなど、新車の効果を勘案してこの「八木新宮特急」に導入を決定したようです。
導入されてから数か月を経過してしまったが、ようやく機会に恵まれ、今回、初乗車に至りました。13時45分、八木駅から乗車します。車体には沿線市町村のキャラクターや観光スポットなどがボディーペインティングされ、見た目は賑やか。こういうのはあまり好きではないのだが、新車導入のご祝儀みたいなものなので目をつぶることにする。
新車の定員は座席31人・立席39人・乗員1人の合計71人。定員は増えているがうち39人は立席…そう、なんとつり革がついているんですね。しかも荷棚や補助席がなくなるなど、ほとんどメーカー標準。スペシャルなのは長時間乗車を考慮したハイバックシートと、それに取り付けられているカップホルダーぐらいです。
エンジンもメーカー標準だが、これは現在のエンジンは総じてパワーが向上しているので、特に問題なさそう。現に天辻峠を越える際にも、ギア比は上がるもののエンジン音に苦しそうな唸りはありませんでした。また、ホイールベースが5.3mの標準型なので、急カーブや狭い場所での取り回しには気を使うことになりそうだが、国道168号線の改良も進んでいるので、こちらも問題なさそうです。
画期的なのがこの路線初の6速ATなこと。これは運転士さんの労働環境が向上されますね。クラッチ・ミッション操作に気を遣っていた分を安全運行に振り向けてもらえるものと思います。
なお、「バスヲタ」には残念なお知らせをひとつ。長距離路線にも関わらず燃料タンクの容量の少ない一般型としたことで、途中に給油設備がないこともあり、左前輪のタイヤハウスの上に大型燃料タンクを乗せています。これにより車掌さん気分を味わえる「ヲタ席」がなくなりました。ワタシの指定席が…(涙)。
今回、導入されたのが3両ということだが、今後、徐々に新型に代わっていくと思われます。八木新宮線のクイーンとして長きに渡って活躍した旧型「日野ブルーリボン KV290N1」も、見納め・乗り納めの日が近づいています。「八木新宮特急」仕様のスペシャルタイプ、今のうちに乗っておきたいですね。
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