
ウクライナ戦争について、以前こんな記事をd-マガジンで読んだことを思い出しました。
引用します。
週刊現代 2023年6月17日号
佐藤優・全情勢分析
ロシア・ウクライナ戦争 正しい理解の仕方
__日本人は何もわかっていない
世界が笑っている日本の「ゼレンスキー礼賛」
専門家が答えられない
「なぜ戦争が起きたのか」
本当の理由
2022年2月24日にロシアがウクライナを侵攻してから、1年3ヵ月が経過しました。ロシアは「特別軍事作戦」と称していますが、実態は戦争にほかなりません。
未だ停戦交渉は進まず、両国は交戦を続行しています。ウクライナ侵攻について簡単におさらいしておきましょう。
初動の段階では、争いはまだ地域紛争の様相を呈していました。ロシアに言わせると、ウクライナ東部で暮らすロシア系少数民族(すなわちロシアの在外国民)が蜂起した、と。ドンバス地域(ルハンスク州とドネツク州)に住むロシア系住民の処遇をめぐる問題が、ロシアとウクライナの二国間係争の争点でした。
軍事侵攻から1ヵ月余が経過した昨年3月22日、トルコのイスタンブールで両国の和平交渉が開かれます。ロシアとウクライナの代表団が対面で停戦協議のテーブルにつき、対立はいったん解決しかけました。ところが、ロシア軍がウクライナの首都キーウ周辺から軍隊を引き揚げると、キーウ近郊のブチャで民間人を含む大量虐殺を行っていた事件が報じられました。この「ブチャ事件」が停戦の可能性を御破算にしてしまいます。
ウクライナ側は「こんな蛮行に手を染めるような連中とは交渉できない」と激怒して交渉のテーブルから離れ、以後一度も和平交渉ができなくなってしまいます。
さらにアメリカをはじめとするNATO(北大西洋条約機構)諸国、西側諸国がウクライナに送る兵器の物量が一気に10倍以上に増えました。ブチャ事件をトリガーとして、西側諸国がこの戦争を“価値観戦争”に変えたのです。
「民主主義 vs.独裁」の争いに変わった価値観戦争を、どうすれば終わらせることができるのでしょう。相手の政権を殲滅するか、あるいは屈服させるか。相手が自分の価値観を放棄しない限り、戦争は終わらなくなってしまいました。
西側諸国が兵器をどんどん送りこむ中、昨年4月以降のウクライナとロシアは「地域紛争」という枠組みで戦闘を継続します。この枠組みが9月に変化しました。
9月上旬(主に6~10日頃)、「ここが手薄だ」と見込んだウクライナ軍はハルキウ州で猛烈な攻勢をかけました。ハルキウ州が手薄だったことには理由があります。ここの住民はロシア語をしゃべる正教徒が多く、ロシアへの共感が強いのです。ロシア軍が入ってきても人道物資の受け取りを拒否せず、ロシア軍から仕事をもらって学校も機能している。統治が比較的うまくいっていたため、ロシア軍は兵力を南に移動させました。
一方で、ハルキウ州が手薄だという情報をつかんだのは、アメリカの軍事衛星です。ペンタゴン(国防総省)はウクライナにその事実を伝え、ウクライナ軍はロシア軍の8倍もの兵力を投入して一気に攻勢をかけました。戦争の教科書では、兵力の差が1対3以上になったときには、全滅か捕虜になるかいずれかの選択しかありません。全滅を避けるためにロシア軍 は、オスキル川を渡って川の向こうに逃げました。その際、ハルキウ州の攻防戦で前線を突破したのは、ウクライナ正規軍ではなくアメリカとイギリスの特殊部隊員です。「休暇中」という名目で、米英の特殊部隊員によって構成された事実上の傭兵部隊が前線に送りこまれてきた。西側諸国が兵器を送りこむのはまだロシアも我慢できるものの、もはやこれは容認の限度を超えています。「事実上西側諸国が参戦しているに等しいではないか」とプーチンは激怒しました。
その頃、黒海沿岸に位置するザポリージャ州とヘルソン州の住民は「ウクライナがハルキウ州と同じように攻勢をかけてきたら大変なことになる」と危機感を抱きます。
というのも、ハルキウ州を奪還した直後から、ウクライナ軍は住民を尋問して選別を始めました。ロシア軍に協力した住民は拷問を受け、虐殺されています。ドネツク州のマリウポリでロシア軍がやったのと同じことを、ウクライナ軍もやっていたのです。
SNSを通じてその事実を知っている住民は拷問に脅えて「この地域を守ってくれ。一番いい方法はロシア領になることだ。併合してくれ」とロシアに迫ります。こうして9月30日、 ザボリージャ州とヘルソン州はロシアに併合されました。
重要なのは、ロシアがザポリージャ州とヘルソン州を併合したときのプーチン大統領の演説 (9月30日)です。性的少数者を強く否定する文脈で、こう言いました。
〈西側エリートの独裁は、西側諸国の国民を含むすべての社会に向けられています。全員への挑戦状です。このような人間の完全否定、信仰と伝統的価値の破壊、自由の抑圧は、「宗教を逆手に取った」、つまり完全な悪魔崇拝の特徴を帯びているのです。〉(訳:佐藤優)先ほど私は、西側諸国が“価値観戦争”に転じたと申し上げました。9月30日の演説から、 プーチンの中で戦争の位相が変化したことが読み取れます。「真実のキリスト教(正教) vs.悪魔崇拝(サタニズム)の戦い」へと戦争の位相が変わり、西側諸国に続いてロシアまでもが“価値観戦争”に転じてしまったのです。
(つづく)
【解説】
ブチャ事件をトリガーとして、西側諸国がこの戦争を“価値観戦争”に変えたのです。
「民主主義 vs.独裁」の争いに変わった価値観戦争を、どうすれば終わらせることができるのでしょう。相手の政権を殲滅するか、あるいは屈服させるか。相手が自分の価値観を放棄しない限り、戦争は終わらなくなってしまいました。
佐藤氏はこう主張します。
あたかも戦争を“価値観戦争”に変えた西側諸国に、停戦交渉が決裂した責任があるといいたげです。
しかし、佐藤氏はブチャ事件と簡単に言いますが、それはロシア軍が起こした悲惨な住民虐殺以外の何ものでもありませんでした。
佐藤氏のロシア寄りの姿勢が気になります。
9月30日の(プーチンの)演説から、 プーチンの中で戦争の位相が変化したことが読み取れます。「真実のキリスト教(正教) vs.悪魔崇拝(サタニズム)の戦い」へと戦争の位相が変わり、西側諸国に続いてロシアまでもが“価値観戦争”に転じてしまったのです。
この場合の戦争の位相の変化は、ロシアのプーチンに責任があります。それに対する責任追及の姿勢は、佐藤氏に見られません。
獅子風蓮