氷天国二足歩行はとても野暮
氷の下で天使の翼増殖す
手長足長の神舞い降りる氷の平原
氷の上で白馬が白鳥になる夕べ
冒頭に置かれた4句から、まず『手長足長の神舞い降りる氷の平原』を読み解いてみたい。人類の誕生は約四百万年前に遡り、二足歩行による脳の容積の拡大によってもたらされた。《手長足長》の神とは、全地球が氷結する前の人類の《原型》を指し、そこでは「白馬」も「白鳥」も「人間」と同時に偏在していた。あらゆる生命体が《天使の翼》を持ちながら互いに侵食し合うことなく存在していたのだ。人類学の定説では、氷河期以後には生命維持のため人類の手足は短縮していったという。そして、現代の作者を取り巻く《氷》の時間と空間の交錯は、【氷の首都】なる仮象をしか生み出さない。そこでは、人間は依然として《手長足長》のままである。言い換えれば、《氷》とは人間のこの世界の時空の《氷結》を意味する。あらゆる存在と認識が引き裂かれたまま放置されている。
鬱の鎖を引きずりながら氷の首都
氷の首都いかなる亀裂も無修正
氷の上で無窮動の炎が手足か
ここで明らかになるのは、すべてが引き裂かれている中で、おのれの与えられた存在をなぞるだけの《発語》の不確定さから逃れるためには、ひたすら沈黙の時間に耐えるしかないことである。・・・《続く》