今日一番のニュースであろう。地下700mに閉じ込められ、70日間に渡って33人の人たちが、全員大きな衰弱もなく救出されたことは“奇跡”と呼ぶにふさわしい。最後に魔多しというので、最後の一人(救助隊6人も含め)が地上に出るまでは緊張を維持していた。地球の反対側にいる私にできることはそれぐらいであった。
特に、事故発生から地上に生存が知られるまでの17日間は厳しかったと思う。そのあたりのことは、これから33人への取材から明かされていくと思うが、ドラマチックに仕立てるのではなく、冷静な報道を望みたい。
ちょうど、救出活動が始まろうとしている時、NHKの大鐘良一さんと小原健右さんによる『ドキュメント・宇宙飛行士選抜試験』(光文社新書)を読みかけているところだった。2008年2月、日本で10年ぶりとなる宇宙飛行士の募集が、JAXAによって発表された。963人の応募者から3度の選抜を経て絞られた10人の最終試験の一部始終を密着取材したものをまとめてできた本である。
テレビでは2008年3月にNHKスペシャル「宇宙飛行士はこうして生まれた~密着・最終選抜試験」というタイトルで放送された。放送を見て感激し、唸った記憶がある。その中心となったスタッフによる本、映像では伝えきれなかったことも含め、読む人それぞれに、多くの示唆を与えてくれる。
この最終選抜試験は大きく2部に分けられる。前半の9日間は「筑波宇宙センター」で後半の1週間はアメリカ・テキサス州にあるNASAで行なわれる。チリ鉱山落盤事故に際してもNASAの支援チームが早くから現地に入り、宇宙飛行士同様、閉鎖空間での生活を強いられた作業員体調管理への助言を行なっていた。
「筑波宇宙センター」での選抜試験は1週間“閉鎖環境適応訓練設備”と呼ばれる国際宇宙ステーションの特殊な環境を地上に再現した施設の中で共同生活をしながら課題に取り組むというものだ。そこで“極限のストレス”に耐える力を試されることになる。外とは隔離された狭い空間で、出身、専門性、年齢も違う9人の「他人」(しかもライバル)との1週間に及ぶ集団生活。しかも24時間、監視下にあり、言動のすべてが評価の対象となり得るという現実。候補者にかかるストレスには測りがたいものがある。
今回の審査でJAXAが本当に見たかったものは、ストレス環境下であっても、チームワークを発揮できるか。団体行動における、候補者それぞれの力を見極めたかったのである。そのキーワードは“リーダーシップ”(指導力)と“フォロワーシップ”(リーダーに従い、支援する力)である。チリ鉱山の閉じ込められた33人も事故直後の混乱からルイス・ウルスアさん(54)をリーダーにしっかりとしたチームワークが形成されたことが全員救出という“奇跡”につながった。
“リーダーシップ”と“フォロワーシップ”について候補者の一人、エアーニッポンの機長である白壁さん(34)が2次面接で答えたものが紹介されていたが、示唆に富むものだ。
「あるグループの中でリーダーシップをとる人間は、自ら名乗り出るというよりも、立場や人間性で、ある程度自然に決まるものだと思います。リーダーには牽引力が必要ですが、フォロワーに対する配慮が最も大事だと思います。逆に、フォロワーは、リーダーの後ろをただ歩いていくだけではダメです。助言をしなければいけないときにしっかり助言できる。それが真のフォロワーだと思います。
私が副操縦士だったときのことですが、リーダーである機長の発言の中で、あれ、おかしいな、と思うことがときどきありました。そのとき、やんわりお伺いを立てるというところから、主張へと段階的に入っていくのですが、最後は『違いますよね?』とはっきり言えなかったばかりに、燃料が足りなくなって別の空港に降りなければならなくなるなど、失敗した事例をたくさん経験しました。今は機長として、副機長をはじめとしたフォロワーが、私に意見しやすい環境をつくろうと心がけています。」
“リーダーシップ”“フォロワーシップ”に関してはマニュアル的なものはなく、それぞれの人生を通して培ってきた《人間力》《人としての魅力》から生まれるものなのでとても厳しい面がある。
特に、事故発生から地上に生存が知られるまでの17日間は厳しかったと思う。そのあたりのことは、これから33人への取材から明かされていくと思うが、ドラマチックに仕立てるのではなく、冷静な報道を望みたい。
ちょうど、救出活動が始まろうとしている時、NHKの大鐘良一さんと小原健右さんによる『ドキュメント・宇宙飛行士選抜試験』(光文社新書)を読みかけているところだった。2008年2月、日本で10年ぶりとなる宇宙飛行士の募集が、JAXAによって発表された。963人の応募者から3度の選抜を経て絞られた10人の最終試験の一部始終を密着取材したものをまとめてできた本である。
テレビでは2008年3月にNHKスペシャル「宇宙飛行士はこうして生まれた~密着・最終選抜試験」というタイトルで放送された。放送を見て感激し、唸った記憶がある。その中心となったスタッフによる本、映像では伝えきれなかったことも含め、読む人それぞれに、多くの示唆を与えてくれる。
この最終選抜試験は大きく2部に分けられる。前半の9日間は「筑波宇宙センター」で後半の1週間はアメリカ・テキサス州にあるNASAで行なわれる。チリ鉱山落盤事故に際してもNASAの支援チームが早くから現地に入り、宇宙飛行士同様、閉鎖空間での生活を強いられた作業員体調管理への助言を行なっていた。
「筑波宇宙センター」での選抜試験は1週間“閉鎖環境適応訓練設備”と呼ばれる国際宇宙ステーションの特殊な環境を地上に再現した施設の中で共同生活をしながら課題に取り組むというものだ。そこで“極限のストレス”に耐える力を試されることになる。外とは隔離された狭い空間で、出身、専門性、年齢も違う9人の「他人」(しかもライバル)との1週間に及ぶ集団生活。しかも24時間、監視下にあり、言動のすべてが評価の対象となり得るという現実。候補者にかかるストレスには測りがたいものがある。
今回の審査でJAXAが本当に見たかったものは、ストレス環境下であっても、チームワークを発揮できるか。団体行動における、候補者それぞれの力を見極めたかったのである。そのキーワードは“リーダーシップ”(指導力)と“フォロワーシップ”(リーダーに従い、支援する力)である。チリ鉱山の閉じ込められた33人も事故直後の混乱からルイス・ウルスアさん(54)をリーダーにしっかりとしたチームワークが形成されたことが全員救出という“奇跡”につながった。
“リーダーシップ”と“フォロワーシップ”について候補者の一人、エアーニッポンの機長である白壁さん(34)が2次面接で答えたものが紹介されていたが、示唆に富むものだ。
「あるグループの中でリーダーシップをとる人間は、自ら名乗り出るというよりも、立場や人間性で、ある程度自然に決まるものだと思います。リーダーには牽引力が必要ですが、フォロワーに対する配慮が最も大事だと思います。逆に、フォロワーは、リーダーの後ろをただ歩いていくだけではダメです。助言をしなければいけないときにしっかり助言できる。それが真のフォロワーだと思います。
私が副操縦士だったときのことですが、リーダーである機長の発言の中で、あれ、おかしいな、と思うことがときどきありました。そのとき、やんわりお伺いを立てるというところから、主張へと段階的に入っていくのですが、最後は『違いますよね?』とはっきり言えなかったばかりに、燃料が足りなくなって別の空港に降りなければならなくなるなど、失敗した事例をたくさん経験しました。今は機長として、副機長をはじめとしたフォロワーが、私に意見しやすい環境をつくろうと心がけています。」
“リーダーシップ”“フォロワーシップ”に関してはマニュアル的なものはなく、それぞれの人生を通して培ってきた《人間力》《人としての魅力》から生まれるものなのでとても厳しい面がある。