素浪人旅日記

2009年3月31日に35年の教師生活を終え、無職の身となって歩む毎日の中で、心に浮かぶさまざまなことを綴っていきたい。

『ドキュメント・宇宙飛行士選抜試験』(光文社新書)の中の言葉より

2010年10月15日 | 日記
  “千日紅”の名の通り、猛暑の頃から秋の気配を感じる今まで、元気な花を咲かせ続けてくれている。花言葉は“変わらぬ愛情”“不朽”

 『宇宙飛行士選抜試験』の取材では、候補者をはじめ、さまざまな人たちにインタビューがされている。その中から、私の心をとらえたものを紹介しておきたい。閉鎖環境の中での長期に渡る共同生活においては仕事の能力だけではなく、仲間と打ち解けあうために必要なコミュニケーション能力、なかでも「ユーモア=人を楽しませる能力」が重要である。このことは、今回のチリ鉱山での事故でも認識させられた。審査委員の長谷川氏の言葉。

 「長期滞在は6ヶ月で、1日の実働は8時間です。土曜日は仕事がある日もありますが、日曜日は基本的に休みです。この休みのときにこそ他の宇宙飛行士とコミュニケーションを取れないといけません。実験内容についてのパートナーとのスムーズなやりとりや、サポートをするときは、相手が何を考えているかあらかじめ分からないとできません。そして相手を理解するためには、日頃からの気配りと会話のキャッチボールが必要で、それは楽しい会話ができないと続きません。そういう意味では、長期間、心が安定しているのはもちろん、朗らかで明るくて、相手の気持ちが分かって、時には相手を楽しませるような気配りのできる人が、非情に良い宇宙飛行士になると思うのです。」  このことは、心身ともに不安定な思春期真っ只中の生身の人間と接する中学校の現場にも言えることではないかと思う。空き時間や放課後雑談する余裕がなく、静かな職員室、笑いのない職員室になっているという愚痴をちょくちょくいろいろな人から聞く。よくない傾向だと思う。

 ロシアのベテラン宇宙飛行士で、国際宇宙ステーションの船長を務めた、パダルカ氏の言葉。

「若田は船長になる条件をすべて備えている。船長は、“気づく力”“実直さ、勤勉さ”“忍耐力”、そして何よりも“ユーモア”を兼ね備えている必要がある。彼のもとであれば、クルーは安心して、そして楽しんで任務に当たることができるだろう」   船長を学級担任、教科担任、学年主任、校長に置き換えてもいいのではないかと思った。

候補者の一人、航空自衛隊のパイロットである油井さん(38)の言葉。

「パイロットをしているとき、条件が揃わなかった場合には、物事を中断する勇気を持つことも必要だという経験を味わってきました。1つのことをあきらめずにどんどんやっていくというのは一見、積極的で勇ましく思えますが、そうではない。やはり状況が整わないときには、これは“できない”ということもあり得る。だからこそ、取り組むべき問題自体を切り捨てるというのも、私は一種の勇気だと思っていました。」

 この言葉を読んだ時、池田高校の監督であった蔦文也さんが「攻めダルマの教育論」(ゴマブックス)に書いていたことを思い出した。

《する勇気・しない勇気を教えろ》→ 「“する勇気”とは“動的な勇気”といってもいい。勇猛果敢にことを行なうのは、訓練さえ積めばさしてむずかしくはない。ある意味では、人間の動物的本能を満たしてくれるからだ。  いっぽう、“しない勇気”は、精神的な修練によって生まれる。私は、これを“静的な勇気”と呼んでいるが、こちらは動物的本能を抑えることによって育ってくるから、なかなかむずかしい。しかし、この“しない勇気”を体得することによって、余裕も生まれてくる。」 まだまだ修練の足りない私にとって、耳の痛い話である。

 日本人初の女性宇宙飛行士・向井千秋さんの宇宙飛行士に必要な資質についての言葉。

「宇宙飛行士は、何もスーパーマンである必要はないと私は思う。例えば、しばしば宇宙飛行士は体が頑丈だとか言われるけれども、オリンピックで金メダルを取るわけではないから、何か1つのことにものすごく長けていなくてもいい。語学にしても、同時通訳をしている人たちのほうが上だと思うし、健康にしても筋肉マンですごい力がある必要はない。  宇宙飛行士に求められるのは、数々の審査で、すべて合格点を取らなければならないということ。すべての項目で60点を取るというのは意外と難しいんですよ。健康面も含めて、100点じゃなくてもいいんだけれど、50点じゃだめ。勉強も運動も精神・心理も、すべてバランスよく合格点を取らなければならないんです」 これも宇宙飛行士を教諭に置き換えてもいいのではないかと考えた。“一芸に秀でた者”を尊重する流れがあるように思えるが、私は疑問である。

 宇宙飛行士に関する情報はほとんど知らされず、実際に宇宙に飛んだ時のほんの一こまの情報しか、一般人には伝わってこない。ともすると、その映像から国の財政難で現実の生活に逼迫感を感じている国民が、巨額な予算の必要な宇宙開発を無用の長物としか見えず、宇宙飛行士をお気楽な仕事と誤解することも無きにしにあらずである。JAXAとの半年にも及ぶ交渉の末、選抜試験の密着取材を取り付けたディレクターの思いは、もっと宇宙飛行士の本質を知り、伝えたいということにあった。

 私自身もTVやこの本で、ずい分知らないことを知り、認識を深めた。質の高い価値あるドキュメントに出会えたと思っている。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする