素浪人旅日記

2009年3月31日に35年の教師生活を終え、無職の身となって歩む毎日の中で、心に浮かぶさまざまなことを綴っていきたい。

「すべての真の歴史は現代史である」

2015年08月05日 | 日記
 この言葉を知ったのは磯田道史さんの『天災から日本史を読み直す』(中公新書)である。イタリアの歴史哲学者べネデット・クローチェ(1866~1952)の『人間は現代を生きるために過去をみる。すべて歴史は現代人が現代の目で過去をみて書いた現代の反映物だから、すべての歴史は現代史の一部といえる。歴史はその時代の精神を表現したもの、生きる人間のものではないか』という思想を学んだ磯田さんは、バブル崩壊後不況のどん底にあった2003年に、『武士の家計簿』を書いた。経済的に逼迫した中で、激動の幕末、明治、大正を生きた武士の暮らしから、今を生きるヒントを得たいという強い思いがあった。

 そして、その8年後東日本大震災に遭った。東京のマンションの5階にある仕事場で、本棚からどんどん本が落ちた。長年かかって集めた貴重な古書が床に散乱している光景の凄まじさに茫然とされた。

 その体験から、過去に起きた巨大地震の経過を探り、この先のことを考えようと思った。そして、理系の研究者と歴史学者が地震津波を研究する「歴史地震研究会」に入会するとともに、次に大津波のきそうなところで、しばらく歴史津波の古文書を探そうと考え、2012年4月に茨木大学から静岡文化芸術大学にうつった。

 江戸時代と同じように、南海トラフの地震が連動すれば東日本大震災を数十倍上回る被害が予想される。とくに静岡県西部、浜松市付近は、近代的な大都市を大津波が直撃する人類史上初めての事例になるおそれがある。にもかかわらず、古文書を解読でき、なおかつ歴史時代の地震を研究する大学の日本史研究者が、東海地方には一人も常駐していないことも転職を決意した大きな要因であった。

 その成果をまとめた『天災から日本史を読み直す』(中公新書)は示唆に富む。今、読み終えた第1章「秀吉と二つの地震」は、新しい視点を与えてくれた。

 『天災を勘定に入れて、日本史を読みなおす作業が必要とされているのではなかろうか。人間の力を過信せず、自然の力を考えに入れた時、我々の前に新しい視界がひらけてくる。あの震災で我々はあまりにも大きなものを失った。

 喪失はつらい。しかし、失うつらさの中から未来の光を生みださねばと思う。過去から我々が生きるための光をみいだしたい。クローチェのように』
という言葉でまえがきが締めくくられている。目次を見ると第2章以下も興味深いタイトルが並んでいる。楽しみである。
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