『死神の浮力』by伊坂幸太郎
~娘を殺された山野辺夫妻は、逮捕されながら無罪判決を受けた犯人の本城への復讐を計画していた。
そこへ人間の死の可否を判定する“死神”の千葉がやってきた。千葉は夫妻と共に本城を追うが―。
展開の読めないエンターテインメントでありながら、死に対峙した人間の弱さと強さを浮き彫りにする傑作長編。「BOOK」データベースより
前作?というか、「死神の精度」という短編集から、8年後に書かれた作品だそうです。
長編だけあって、ストーリーが、よく練られています。
娘を持つ親としては、読んでいて、とても苦しい話ですが、相変わらず伊坂さん流の「軽快」に、そして「ホンワカ感」、さらに、二転三転する「疾走感」が抜群で、一気に読ませてくれます。
途中、本当に犯人が憎くて憎くて、苦しくなりますが、そこは伊坂さんですよ!キッチリと落とし前をつけてくれますね(^人^)
さて、文中で、「人の死」について、死神同士が会話する場面があるのですが、とても絶妙な例えを用いています。
「水が入ったグラスの中で氷が浮いているのは浮力が働いているからだ。」
「物体には水の中で浮かぶ力、水の押す力が上に作用する。それが浮力だ。その浮力の強さに物体の重さは関係なく、体積によって決まり、体積が大きい物体ほど浮力が強い。」
「氷が溶けたら水の量が増えてグラスから溢れるような気がするが、実際はそうならない。浮力が消えるだけで、水位は変わらない。氷は姿を消すが全体の量は変らない。」
「これは人間の死と似ている。たった一人の人間の死は、社会からは気に留められず、そして総体としても影響がない。」
「しかし、固体としての氷が溶けて姿形は無くなっても、実際は水の中に混ざっている。亡くなって肉体はこの世から消えてしまっても、記憶として誰かの心の中に溶け込み、刷り込まれているから、その存在は無くならない。死んだ人のことを結構覚えてるでしょ、人間って。」
と、このような感じのやりとりがあるんですよ。
伊坂さんという作家は、こういうことを考えつくというか、何とも当たり前のようなことを美しく論理的に語ってくれる素晴らしい作家さんなんですよ。
★★★☆3.5です。