『アラビアの夜の種族Ⅰ、Ⅱ、III 』By古川 日出男
~聖遷暦1213年。偽りの平穏に満ちたエジプト。迫り来るナポレオン艦隊、侵掠の凶兆に、迎え撃つ支配階級奴隷アイユーブの秘策はただひとつ、極上の献上品。それは読む者を破滅に導き、歴史を覆す書物、『災厄の書』―。アイユーブの術計は周到に準備される。権力者を眩惑し滅ぼす奔放な空想。物語は夜、密かにカイロの片隅で譚り書き綴られる。「妖術師アーダムはほんとうに醜い男でございました…」。驚異の物語、第一部。
~侵掠したフランス軍壊滅の奇策、「読む者を狂気へ導く玄妙驚異の書物」は今まさにカイロの片隅で、作られんとしている。三夜をかけて譚られた「ゾハルの地下宮殿の物語」が幕を閉じ、二人めの主人公がようよう登場する頃、ナポレオンは既にナイルを遡上し始めていた。一刻も早く『災厄の書』を完成させ、敵将に献上せねばならない。一夜、また一夜と、年代記が譚られる。「ひとりの少年が森を去る―」。圧巻の物語、第二部。
~栄光の都に迫る敵軍に、エジプト部隊は恐慌を来し遁走した。『災厄の書』の譚りおろしはまにあうのか。奴隷アイユーブは毎夜、語り部の許に通い続ける。記憶と異界を交差しながら譚りつむがれる年代記。「暴虐の魔王が征伐される。だが地下阿房宮の夢はとどまらない―」。闇から生まれた物語は呪詛を胎み、術計は独走し、尋常ならざる事態が出来する!書物はナポレオンの野望を打ち砕くのか??怒涛の物語、第三部完結篇。
『BOOK』データベースより
記念すべき、わが小説レビュー500作目は、500作目にふさわしい大作です!図らずも500作目にして、このような素晴らしい小説に出会えたことは感無量です。
もともと小説を読むことは好きだったんですが、思い起こせば2014年9月、『イニシエーションラブ』を読んで、「小説って、やっぱり素晴らしい!」と思い直し、一気に読書欲が再燃し、レビューを付けていくことにしました。
過去に読んだ作品も何作か加えて、数える事「500作品!」まぁ読みましたね!読んで読んで読みまくりましたね。小説を片時も離さず、時間があれば小説の世界に没入した6年あまりでした。
いつかは自分の読んだ小説を★★★★★の評価ごとにまとめて発表する機会をうかがっておりましたが、500作品を超えたので、これからボチボチと発表していきたいと思います。
さて、本作ですが3巻を合計すると1000頁超えの大作です。
物語は全体を通して、魔訶不思議な世界観と中世エジプトの妖艶な魅力が漂う妖しい雰囲気です。しかし、表紙の雰囲気と内容は全然違って、1000年の時を超えて紡がれる『冒険活劇ファンタジー』のような感じです。
「アーダム」、「ファラー」、「サフィアーン」という三人の主人公が一つのストーリーの中で交錯し、惹かれ合い、闘い、運命に抗いながら、それぞれの宿命と目的の為に奮闘します。
そして、もう一人の主人公「アイユーブ」をはじめ、キラリと光る脇役達も輝かしい彩を添えてつつ、それぞれの巻のクライマックスを迎えます。Ⅰ、Ⅱ、Ⅲと巻をまたぎながら、Ⅲで見事に集約されていき、否が応でも読み手の心を揺さぶります。
「徹夜本」と言われるだけあって、グイグイ引き込まれますし、時折混ざってくるユーモアと変なセリフにもクスッと笑わせられます。「阿房宮(地下迷宮)」で暮らす奇人変人、痴れ者、勇者、剣士、魔術師たちの暮らしぶりなど、ドラゴンクエストやファイナルファンタジーのような魔訶不思議な世界が広がっております。
『ハチワンダイバー』に登場する鬼将会ビルの地下・独立将棋国家を思い出しました。
さて、いよいよクライマックスでラスボスとの対決となるのですが、案外サッパリと終わり、ボナパルトの侵攻もあっさりと終わります。
しかし、それから最後の種明かしというか大どんでん返し、そして筆者のあとがきにも大いなる仕掛けが用意されており、日本推理作家協会賞、日本SF大賞をW受賞しただけの内容であると感心しました。
独特の文体に好みが分かれるかもしれませんが、色んな人に読んでもらいたい作品ですね。
★★★★4つです。