『若冲』by澤田瞳子
~奇才の画家・若冲が生涯挑んだものとは――
今年、生誕300年を迎え、益々注目される画人・伊藤若冲。 緻密すぎる構図や大胆な題材、新たな手法で周囲を圧倒した天才は、いったい何ゆえにあれほど鮮麗で、奇抜な構図の作品を世に送り出したのか? デビュー作でいきなり中山義秀賞、次作で新田次郎賞を射止めた注目の作者・澤田瞳子は、そのバックグラウンドを残された作品と史実から丁寧に読み解いていく。
底知れぬ悩みと姿を見せぬ永遠の好敵手――当時の京の都の様子や、池大雅、円山応挙、与謝蕪村、谷文晁、市川君圭ら同時代に活躍した画師たちの生き様も交えつつ、次々に作品を生み出していった唯一無二の画師の生涯を徹底して描いた、芸術小説の白眉といえる傑作だ。 「BOOK」データベースより
もともと時代小説好きの私、特に江戸時代から明治にかけての歴史物は大好きです。
先日、『星落ちて、なお』で、第165回直木賞を受賞された澤田瞳子さんの講演を9月に聞きに行く予定があるので、「『星落ちて、なお』は人気爆発で借りられへんやろうけど、何かええのないかな?」と、Amazonのレビューを見ていると、『若冲』の評価が高かったので、「京都人なら若冲は読んでおかなあかんやろ」と、借りてきました。
錦市場商店街の入口に若冲の絵が飾られているように、
錦市場と若冲は深い縁については、ある程度知っていたんですが、その人となりや、あの精緻で奇抜で、大胆な色使い・構図による名画が、どのようにして生み出されたのかは知りませんでしたし、読んでよかったです。
澤田瞳子さんの文章は、歴史小説なのに、とても読みやすく、京ことばも良い味を出していて、とても好感が持てる文章でした。
歴史ものにありがちな、武士の立身出世物語や、身分制度の格差による悲しい恋愛もの、また武士道精神にスポットを当てたものなどなど、歴史ものの主人公がどのような立場の人であったとしても、とても楽しめる大好きなジャンルなんですが、この『若冲』はご存じのとおり、商家の跡取りとして生まれた絵師なんですよね
それだけに、この絵師の人生の浮き沈みや、若冲を取り巻く人間模様などで、「どこまで盛り上がる小説になるのか?」と、とても興味深く読ませてもらいましたが、なんの心配もいりませんでした
序盤から澤田氏の筆にグイグイと惹き込まれ、あっという間に読み切ってしまいましたよ
澤田瞳子さんの文章は優しいし、描写も巧みで美しく、情景が目に浮かぶようですし、絵の解説もわかりやすく素晴らしかったです。本当に好感が持てる作家さんで、一作でファンになりました
若冲自身の性格が、かなり偏屈で人嫌い、心の奥底に深い闇を抱えている暗~い人物なんですが、その若冲の内面の素晴らしさを捉え、周りの登場人物たちと上手く絡めて、クライマックスは大変な盛りあがりを見せた後に、見事に昇華させてくれました。
85歳という江戸時代ではギネス的な年齢まで生き抜いた若冲は、多くの作品を残しています。ぜひ一度、本物を見に行きたいと思います。
★★★☆3.5です。