「心ゆたかな暮らしを」  ~Shu’s Page

小説のレビュー、家族の出来事、趣味の事、スポーツ全般など、日々の出来事をつづりながら、一日一日を心豊かに過ごせれば・・・

伝わらず『ほかならぬ人へ』by白石一文

2019年01月30日 | 小説レビュー
『ほかならぬ人へ』by白石一文

~「ベストの相手が見つかったときは、この人に間違いないっていう明らかな証拠があるんだ」
…妻のなずなに裏切られ、失意のうちにいた明生。
半ば自暴自棄の彼はふと、ある女性が発していた不思議な“徴”に気づき、徐々に惹かれていく…。
様々な愛のかたちとその本質を描いて第一四二回直木賞を受賞した、もっとも純粋な恋愛小説。「BOOK」データベースより

『私という運命について』から二作目の白石氏の作品です。

読み終えてから『直木賞受賞作品』だと知りました(^_^;)

とても読みやすい文章でスラスラと読めます。

本当に大切なひと、「この人なら!」と思って結婚を決めると思うのですが、その相手が自分にとってベストだったかどうかは、それこそ棺桶の蓋が閉まるまでわかりません。

『ほかならぬ人へ』、『かけがえのない人へ』の二編が収められていますが、『ほかならぬ人へ』の方で直木賞を獲ったのですね。

ストーリーは、主人公の明生が妻のなずなに裏切られ、目が覚めます。

そして、会社の上司に心を開いて相談しながら、徐々に惹かれていきます。

その過程が中々良く描かれていて、実感がこもっています。

もう少し、二人の時間を長く、濃く描いていてくれれば、良い作品になったと思います。

文庫版に合わせてページを埋めるために?書かれたのか?『かけがえのない人へ』は、何ともつまらん話でした。

主人公はもちろんのこと、黒木にも家族にも聖司にも、誰にも共感できず、リアリティーがありません。

いずれにしても、作者が何を伝えたかっのか、伝わりにくい作品で、前評判通りとは言えません。

★★☆2.5です。
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ご都合主義の展開にガッカリ『奪取 上・下』真保裕一

2019年01月27日 | 小説レビュー
『奪取 上・下』真保裕一

~一千二百六十万円。友人の雅人がヤクザの街金にはめられて作った借金を返すため、大胆な偽札造りを二人で実行しようとする道郎・22歳。
パソコンや機械に詳しい彼ならではのアイデアで、大金入手まであと一歩と迫ったが…。
日本推理作家協会賞と山本周五郎賞をW受賞した、涙と笑いの傑作長編サスペンス。「BOOK」データベースより


上下巻あわせて1,000ページの長編で読むのに疲れましたわ(^_^;)

親友の何気ない小さな借金がドンドン膨らみ、やむを得ず偽札づくりに手を染めてしまうという話です。

僕好みではない、一人称の語り口調で物語が進んだことと、台詞の軽さや、偽札作りの材料や手順がメチャクチャ細かくて、後半は流し読みしながら進めました。

そういうこともあって中々ページが進まなかったのもありますが、展開がご都合主義的過ぎるのも、やや興醒めでした。

最後にどんでん返しが用意してあるところや、エピローグの軽いジョークも笑えましたが、まぁ総体的にみて、イマイチの作品でしたね。

★★☆2.5です。
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8年ぶりのドライバー新調!

2019年01月24日 | ゴルフ
8年間にわたって愛用してきたドライバー「ヤマハ―インプレス4.6D」を手放し、とうとう新しいドライバーを購入しました(^_^)v

PING―G―LS Tec―9度 ―ALTA J50(JP)/Sです!

大山志保が愛用しており、名器といわれていた、三代前のG20を購入しようと思っていたのが数年前・・・。

なかなかタイミングと懐具合が合わず(^_^;)))

色々と悩み抜いた末に、「とにかく真っ直ぐ、メッチャ飛ぶ!」というフレコミを見て、中古ショップで打ってみて、「これはなかなか良い!」と、感覚を信じて買いましたよ!

そして早速、夜の練習場で打ち込んでみたところ・・・、

「音がデカい・・・(^_^;)」

中古ショップでは、それほど気にならなかったんですが、夜の広い練習場では、ちょっと近所迷惑なぐらい、「キャィ~~ン!!」と高音が響きわたります(^_^;)。

まぁ、音はさておき、とにかく初速が速く、球も真っ直ぐに飛んでいきます!勢いが違うって感じですね。

ミスヒットの許容範囲も広く、多少芯を外しても、割りとしっかり飛びます。

憧れのロフト調整も出来るので、もう少し打ち込んでから、最適なポジションを見つけたいと思います。

次のラウンドが楽しみですo(^o^)o
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じんわりと温かい『沈黙のひと』by小池真理子

2019年01月17日 | 小説レビュー
『沈黙のひと』by小池真理子

~両親の離婚によってほとんど関わりあうことなく生きてきた父が、難病を患った末に亡くなった。
衿子は遺品のワープロを持ち帰るが、そこには口を利くこともできなくなっていた父の心の叫び―
後妻家族との相克、衿子へのあふれる想い、そして秘めたる恋が綴られていた。
吉川英治文学賞受賞、魂を揺さぶる傑作。「BOOK」データベースより


大好きな小池真理子さんの作品で、さらに吉川英治文学賞受賞作品とのことで、否が応でも期待せずにはいられません!

と意気込んで読み出したものの、なかなか読み手が進みません(^_^;)
何となくリズムがわるいというか、乗れないというか・・・。

「これはもしかしたら駄・・・」と思い始めた中盤あたりから、一気に物語に引き込まれました( ´∀`)

やっぱり小池さんの文章は細部に至るまで美しいですよね。

いつもは恋愛ものなんですが、今回は不倫の末に妻と娘を残して新しい女のもとへ去っていった父と娘の物語です。

どうしようもない父親なんですが、小池さんが描くと美しい父娘愛に溢れた作品になってしまうんでから不思議ですよね。

パーキンソン病を患ってしまい、身体の自由も言葉を話すことも出来なくなった父が、最期には脳梗塞で還らぬ人となってしまいます。

その父親が残した古いワープロの中に残された数々の文書の中から、母娘を置き去りにしていった父の日常が明らかになっていきます。

父が愛した短歌の数々が出てくるのですが、この短歌が素晴らしい!

巻末の解説で明らかになるのですが、この短歌こそ、小池真理子さんの実父が実際に詠んだ短歌であることがわかると、なおのこと深みが増しました。

小池さんの文章が美しいのも遺伝なんかな?と思ってしまいます。

それほど盛り上がる展開がある訳ではないのですが、読んでいて心がジーンと温かくなる作品です。

★★★3つです。
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生きていく意味とは?『ロストデイズ』by大崎善生

2019年01月12日 | 小説レビュー
『ロストデイズ』by大崎善生

~30半ばで娘を授かった西岡順一は、子供の誕生の喜びとは裏腹に、妻との関係がこのまま在り続けるのか不安を抱く。
妻との距離をつかめなくなった矢先、意に沿わぬ人事異動の命が。
アルコールに逃げる順一を、しかし、妻・由里子は静かに見守るだけだった。
そんなある日、大学時代の恩師で娘の名付け親でもある大島危篤の報が。
二人は急遽、教授夫妻の住むニースへ旅立った。夫人の勧めで二人はさらにジェノヴァへと向かう。
旅の中で二人がたどり着いたものとは?自分たちは人生の頂に近づいているのか、頂を過ぎこれからは下っていくのか?切なく胸に染み入る至高の恋愛小説。「BOOK」データベースより


「愛に飽和点はあるのだろうか」と帯に書いてあるんですが、少し考えさせられますよね。

愛の飽和点、愛の飽和状態・・・、判るような気がしますね。

あらためて「飽和」について調べると、
①最大限度まで満たすこと。また、最大限度まで満たされていること。 「大都市の人口は-状態に達している」
②ある条件下で、一定量に達すると外部から増大させる要因が働いても、それ以上には増えない状態。
とあります。

さて、僕にとっては当たり外れの大きい「大崎善生氏」の作品ですが、今回の『ロストデイ』も、どちらかといえばハズレの部類に入るでしょうね。

結婚することによって、長い人生を共に歩むパートナー(妻もしくは夫)とは、登山をしていくようなものであると文中で例えています。

まさにその通りだと思いますね。

頂上を目指す二人はザイルでしっかりと繋がって、時に夫が前に出たり、妻が引っ張ったりと、互いに支えあいながら登っていくものだと思います。

この作中の順一は、良く悩み考える男で、「そんなに考えなアカンか?」と問いたくなります。

一方で、妻の由里子は淡々と毎日を過ごしているように写ります。

「きっと、大崎善生氏のことやから、後半に何か起こるで!?」と期待しながら読みましたが、最後まで、なぁ~んにも起こりません。

順一に感情移入できない分、もう少し、由里子目線の描写があれば、何か読み手に訴えるものがあったかも知れませんね。

何かに向かって登っているうちは目指すべき頂があり、二人の絆もガッチリと繋がっているように思いますが、結婚から10年が経ち、20年が経ち、子どもが成人し、そして二人は老いていくという過程に差し掛かったとき、まさに人生という山の下り坂を下りていくとき、二人の目標は?絆は?どこに求めていくのでしょうか?

最後に恩師が「生きていくことに意味なんて君の中になくていいんだよ・・・。君が見つけられなくても、君の妻や子どもが生きていく意味を見つけたのなら、それが君の生きる意味だ」的なことを言われます。

「生きる意味・・・、自分が生きている意味かぁ・・・。」

毎日を生き抜くモチベーションとなるものなんて、そんなに見つけられている人なんていないでしょう?

何となく仕事して、何となく家に帰って、何となくテレビ観て、何となく本を読んだり、ネットをしたり、そして時間がきたらお風呂に入って、そのまま布団に入って・・・。 朝はいつもの時間に目覚めて・・・、ごはんを食べて着替えたら出勤して・・・という惰性ループでしょう?

その中で、色んな細かい良い事や悪いことは起こりますし、決して単調ではないんですが、「自分の生きる意味」について考えることなんてないし、必要ないと思います。

確かに小さくとも目標を持って人生を生きていくことは理想の姿でありますし、大切なことです。

しかし、課題や連絡等を先送りすることなく、一日一日をしっかり終えることの積み重ねが、人生の成功に繋がっていくと思いますので、日々頑張って過ごして生きたいと思います。

作品の評価としては、 ★★☆2.5です。
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さすがはホラー大賞!『玩具修理者』by小林泰三

2019年01月10日 | 小説レビュー
『玩具修理者』by小林泰三
~玩具修理者は何でも直してくれる。独楽でも、凧でも、ラジコンカーでも…死んだ猫だって。壊れたものを一旦すべてバラバラにして、一瞬の掛け声とともに。
ある日、私は弟を過って死なせてしまう。親に知られぬうちにどうにかしなければ。私は弟を玩具修理者の所へ持って行く…。
現実なのか妄想なのか、生きているのか死んでいるのか―その狭間に奇妙な世界を紡ぎ上げ、全選考委員の圧倒的支持を得た第2回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作品。「BOOK」データベースより


ずっと図書館の予約リストの中にいれたまま眠らせていた作品です。

『隠蔽捜査』シリーズで現実的な小説ばかり読んできたので、ちょっと異なる作品を読みたくなって借りてきました。

表題の「玩具修理者」と、「酔歩する男」の二作品が収められています。

「玩具修理者」の方は、グロテスクなホラー小説ですが、オチが中々切れてて面白かったです、さすがは『日本ホラー小説大賞短編賞受賞』作品ですよね。

一方の「酔歩する男」の方は、読むのが面倒くさい作品でしたが、読み終わってみると、なかなかよく練れた作品で、発想もおもしろかったですよ。

★★★3つです。
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新元号は!?

2019年01月09日 | 雑感・日記的な
いよいよ4月1日に『新元号』が発表されることとなりましたね!

ネット上では『○○や!』だとか『△△だと思います』などと、巷間かまびすしい新元号問題です。

しかし、4月1日といえば、私の職場でも「辞令交付式」がありますし、年度初めの大変忙しい日であります。

他にも入社式や入学式などがあり世の中がバタバタする日ですよね。

今年は統一地方選挙の年でもありますので、4月1日なら地方選挙の真っ只中で、候補者の方も人生を賭けた勝負の中で新元号どころではないでしょうね(-_-;)

さて、ここで私の『新元号予想』を発表しておきたいと思います。

まず、イニシャルは『K』だと思います。

それを踏まえて、「うまンchu」的に、三候補挙げておきたいと思います。

◎本命『景光(けいこう)』

〇対抗『寛進(かんしん)』

★激推し『吉章(きっしょう)』


さて、どうでしょう?
4月1日を楽しみに待ちたいと思います(*^^)v
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いよいよ竜崎が異動?『隠蔽捜査 7 棲月』by今野敏

2019年01月07日 | 小説レビュー
『隠蔽捜査 7 棲月』by今野敏
~私鉄と銀行のシステムが次々にダウン。
不審に思った竜崎はいち早く署員を向かわせるが、警視庁生安部長から横槍が入る。
さらに、管内で殺人事件が発生。
だが、伊丹から異動の噂があると聞かされた竜崎はこれまでになく動揺していた―。「BOOK」データベースより


『隠蔽捜査』シリーズの最新作『隠蔽捜査 7 棲月』です。

家族の不祥事による降格人事として、警視庁大森警察署の署長として赴任した、竜崎伸也の最後の所轄署長としての事件となります。

大森警察署署長として、所轄署員とともに様々な難事件を解決していく中で、これまでの 竜崎の考え方、感情の振れ幅、人との接し方に大きな変化が生まれました。

完璧と思われていた竜崎ですが、まだまだ高みに登る伸びしろがあったということですね。

この『棲月』は、事件としての緊張感はややもの足りませんが、竜崎の身の処し方は相変わらず興味深かったです。

いよいよ、大森署に別れを告げ、神奈川県警本部の刑事部長として栄転することが決まった竜崎。

これまでの物語の中で、警視庁と神奈川県警との対立や、県警本部内の部長同士の縄張り争いなどについて触れられていたので、それらの問題、課題を竜崎がどのように解消していくの興味が尽きません。

もちろん、この『棲月』も、

★★★3つです。
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捜査よりも対人関係『隠蔽捜査 6 去就』by今野敏

2019年01月06日 | 小説レビュー
『隠蔽捜査 6 去就』by今野敏
~大森署管内で女性が姿を消した。
その後、交際相手とみられる男が殺害される。
容疑者はストーカーで猟銃所持の可能性が高く、対象女性を連れて逃走しているという。
指揮を執る署長・竜崎伸也は的確な指示を出し、謎を解明してゆく。
だが、ノンキャリアの弓削方面本部長が何かと横槍を入れてくる。
やがて竜崎のある命令が警視庁内で問われる事態に。
捜査と組織を描き切る、警察小説の最高峰。「BOOK」データベースより


毎回毎回、この『隠蔽捜査』シリーズは期待を裏切りませんね!
どんどんページを捲る手が止まりませんわ(^_^;)

いつもながら、警察組織の旧い慣習や体制を守ろうとする人たちとの対立や、難解な事件の捜査を竜崎が独特の「合理主義」で乗り越えていきます。

僕は、組織として動いていくときに大切なことは、周りとの調和だと思っています。

しかし、それに重きを置くばかりに、進むべき方向を見失っていては、元も子もありません。

最近の流行語でいえば忖度、そして人間同士の思いやりは、うまく作用すれば潤滑油となって推進力となりますが、慮り過ぎてもダメですよね。

竜崎の素晴らしいところは、明晰な頭脳に裏付けられた熟慮(その速度は速いですよ)の上での判断、そして「責任は俺がとる!」というところです。

簡単に「責任は俺がとる」と格好よくいう人がいますが、それだけではただの潔い人で終わります。

周囲が納得出来るだけの論理と、行動を共に出来る信頼感を持って進むことが出来れば、自ずと結果はついてくると思います。

竜崎とは立場も頭脳も責任も全く違いますが(^_^;)))、そういう心持ちで仕事に励みたいと思います。

さて、この『隠蔽捜査 6 去就』も、いつもながらオモしろいです。

★★★3つです。
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鋭い!その通り『堕落論』by坂口安吾

2019年01月02日 | 小説レビュー
『堕落論』by坂口安吾

単に、人生を描くためなら、地球に表紙をかぶせるのが一番正しい―誰もが無頼派と呼んで怪しまぬ安吾は、誰よりも冷徹に時代をねめつけ、誰よりも自由に歴史を嗤い、そして誰よりも言葉について文学について疑い続けた作家だった。
どうしても書かねばならぬことを、ただその必要にのみ応じて書きつくすという強靱な意志の軌跡を、新たな視点と詳細な年譜によって辿る決定版評論集。「BOOK」データベースより


これは深いというか真理でしょう!
「坂口安吾はいいよ」と薦められて読みましたが、戦中戦後の日本、日本人について、独自の視点で書き連ねた、まぁ現代でいうならば、エッセイのようなものです。


以下『青空文庫」に堕落論の転載文が出ていたので、抽出すると、


~徳川幕府の思想は四十七士を殺すことによって永遠の義士たらしめようとしたのだが、四十七名の堕落のみは防ぎ得たにしたところで、人間自体が常に義士から凡俗へ又地獄へ転落しつづけていることを防ぎうるよしもない。

節婦は二夫に見えず、忠臣は二君に仕えず、と規約を制定してみても人間の転落は防ぎ得ず、よしんば処女を刺し殺してその純潔を保たしめることに成功しても、堕落の平凡な跫音あしおと、ただ打ちよせる波のようなその当然な跫音に気づくとき、人為の卑小さ、人為によって保ち得た処女の純潔の卑小さなどは泡沫の如き虚しい幻像にすぎないことを見出さずにいられない。

特攻隊の勇士はただ幻影であるにすぎず、人間の歴史は闇屋となるところから始まるのではないのか。
未亡人が使徒たることも幻影にすぎず、新たな面影を宿すところから人間の歴史が始まるのではないのか。
そして或は天皇もただ幻影であるにすぎず、ただの人間になるところから真実の天皇の歴史が始まるのかも知れない。

歴史という生き物の巨大さと同様に人間自体も驚くほど巨大だ。
生きるという事は実に唯一の不思議である。
六十七十の将軍達が切腹もせず轡くつわを並べて法廷にひかれるなどとは終戦によって発見された壮観な人間図であり、日本は負け、そして武士道は亡びたが、堕落という真実の母胎によって始めて人間が誕生したのだ。

生きよ堕ちよ、その正当な手順の外に、真に人間を救い得る便利な近道が有りうるだろうか。

戦争は終った。特攻隊の勇士はすでに闇屋となり、未亡人はすでに新たな面影によって胸をふくらませているではないか。
人間は変りはしない。ただ人間へ戻ってきたのだ。

人間は堕落する。義士も聖女も堕落する。それを防ぐことはできないし、防ぐことによって人を救うことはできない。
人間は生き、人間は堕ちる。そのこと以外の中に人間を救う便利な近道はない。

戦争に負けたから堕ちるのではないのだ。人間だから堕ちるのであり、生きているから堕ちるだけだ。
だが人間は永遠に堕ちぬくことはできないだろう。なぜなら人間の心は苦難に対して鋼鉄の如くでは有り得ない。

人間は可憐であり脆弱であり、それ故愚かなものであるが、堕ちぬくためには弱すぎる。
人間は結局処女を刺殺せずにはいられず、武士道をあみださずにはいられず、天皇を担ぎださずにはいられなくなるであろう。
だが他人の処女でなしに自分自身の処女を刺殺し、自分自身の武士道、自分自身の天皇をあみだすためには、人は正しく堕ちる道を堕ちきることが必要なのだ。

そして人の如くに日本も亦堕ちることが必要であろう。
堕ちる道を堕ちきることによって、自分自身を発見し、救わなければならない。政治による救いなどは上皮だけの愚にもつかない物である。



しかしまぁ、随分バッサリと斬ってくれますよね!痛快、爽快ですよ。

僕の大好きな『町田町蔵氏』に聞いたことはありませんが、たぶん町田氏は、坂口安吾の影響を受けてると思われますね

坂口安吾の考え方って、非常にパンクロック的でアナーキーなんですよね。


本来、日本人は、とても弱くダメなものなので、『武士道』精神や、『惻隠の情』、『倫理観』のようなものを作り上げて、それを遂行することこそが美しいとされてきました。

しかし、自分はダメな人間であることを認めて、一度全てを捨て去って、堕落(淪落)してみれば、新たな価値観や人生が見えてくるものだと言っています。

もちろん行き過ぎはダメですが、言葉や仕草で回りくどく「わかってくれるでしょう?」的なものより、本来の気持ちに正直に真っすぐに生きていけば、案外生きやすい世の中になるかも知れませんね。

また読みたい本ですし、収録されている『恋愛論』や『青春論』も非常に興味深く「わかるわかる」と同感するものばかりで、とても戦中戦後のあたりに書かれたものとは思えません。

★★★3つです。
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