「心ゆたかな暮らしを」  ~Shu’s Page

小説のレビュー、家族の出来事、趣味の事、スポーツ全般など、日々の出来事をつづりながら、一日一日を心豊かに過ごせれば・・・

日本の司法制度に一石を投じる大作!『幻夏』by太田愛

2020年09月21日 | 小説レビュー

『幻夏』by太田 愛

毎日が黄金に輝いていた12歳の夏、少年は川辺の流木に奇妙な印を残して忽然と姿を消した。

23年後、刑事となった相馬は、少女失踪事件の現場で同じ印を発見する。相馬の胸に消えた親友の言葉が蘇る。「俺の父親、ヒトゴロシなんだ」あの夏、本当は何が起こっていたのか。今、何が起ころうとしているのか。

人が犯した罪は、正しく裁かれ、正しく償われるのか?司法の信を問う傑作ミステリ。日本推理作家協会賞候補作。「BOOK」データベースより

 

太田愛さんという作家さんの作品は初めて読みますし、まったく知らなかったんですが。あの刑事ドラマ『相棒 season8』~の脚本家でもあるんですよね。

 

さて、本作ですが、導入部分から、とても緊張感があり、「これは大作の予感!」と期待しながら読み進めました。

「刑事(警察庁)→検察(検察庁)→裁判官(裁判所)」という、誰もが信頼し、頼りにしている司法機関・制度によって、いかにして冤罪が作り上げられ、無辜の民が服役し、その者の人生、そして家族の人生を大きく狂わせてしまう姿を描いています。

とても考えさせられるところがあり、キャラクターの作りこみも抜群です。

現場に残された『謎の印』の意味や、大どんでん返しもあり、クライマックスまではかなりの盛り上がりを見せますが、いよいよ犯人の目的が果たされそうとするあたりから少しずつ減速し始めて、最後は少し尻すぼみな感じでした。

それでも、佳作としては間違いなく、太田愛さんの代表作『犯罪者 上下巻』、『天上の葦 上下巻』も読んでみたくなりました。

★★★☆3.5です。


軽いタッチで読みやすい、任侠シリーズ第一作!『任侠書房』by今野敏

2020年09月15日 | 小説レビュー

『任侠書房』by今野敏

 

日村誠司が代貸を務める阿岐本組は、今時珍しく任侠道をわきまえたヤクザ。その阿岐本組長が、兄弟分の組から倒産寸前の出版社経営を引き受けることになった。

舞い上がる組長に半ば呆れながら問題の梅之木書房に出向く日村。そこにはひと癖もふた癖もある編集者たちが。

マル暴の刑事も絡んで、トラブルに次ぐトラブル。頭を抱える日村と梅之木書房の運命は?「任侠」シリーズ第一弾(『とせい』を改題)。「BOOK」データベースより)

 

で書いた、今野敏の『任侠〇〇』シリーズ二作目です。

そもそも、この『任侠書房』が、シリーズの一作目らしく、『任侠学園』、『任侠病院』、『任侠浴場』、『任侠シネマ』と続いているようです

いずれも、真っ当な?ヤクザである「阿岐本組」の面々が大活躍する、経営の立て直しが世直しに繋がっていくという痛快なストーリーです。

今野敏氏の代表作『隠蔽捜査』シリーズのような、ヒリつくような緊張感は全くありませんし、読んでいて「軽いなぁ~」と思う小説です。

しかしながら、そこは今野敏氏ですので、しっかりとメッセージ性も強く出ていますし、経営を再建していくアイデアや、阿岐本組長を中心とする日村や若手組員たちの仕事ぶり、忠節ぶりが、とても小気味良いです。

任侠団体が主人公ですが、登場人物の節度ある行動や言動を見るにつけ、これから社会に出る若者たちにも読んでもらいたい作品ですね。

★★★3つです。


わかりやすい経営ハウツー本『小さくても勝てます』byさかはらあつし

2020年09月11日 | 小説レビュー

『小さくても勝てます』byさかはらあつし

西新宿の小さな理容室「ザンギリ」が行列店に変わった実話に基づくストーリー。小さな組織に必要なのは、お金やなくて考え方なんや!経営コンサルタントが教える逆転するための25の戦略。「BOOK」データベースより


京都在住の作家であり、映画監督、経営コンサルタントをされている方です。
Wikipediaによると、京都大学卒業後、電通を経て渡米し、カリフォルニア大学バークレー校にて経営大学院にて修士号(MBA)取得。大学院在学中にアソシエートプロデューサーとして参加した短編映画『おはぎ』が、2001年カンヌ国際映画祭短編部門でパルムドール(最高賞)受賞。帰国後、経営コンサルティング会社を経て、(株)Good Peopleを設立。

とてもレビューの評価が高かったので、著書を読んでみることにしました。

新宿のビルの地下にある理容店「ザンギリ」の二代目店主が、「細く長くは経営はできるが将来的な展望は暗い」と言われている理容業界に光をあて、自らのお店を行列のできる理容店に仕立て上げるまでのサクセスストーリーです。

ビックリしたのが、『りよう室 ザンギリ』は、実在の店舗なんですよね!

お店のHPを見るだけでも、かなりの活気に満ち溢れたお店だということはわかりますよね

いわゆる経営のハウツー本なんですが、小説仕立てになっているので、難しい経済・経営用語も出てきますが、わかりやすい例えを用いて、わかりやすい単語、言い回し、チャート図などが効果的に配置されており、とても読みやすかったです。

名経営者と言われている偉人たちの名言も随所に散りばめられており、メモを取っておいて損はないでしょう!

『小さくても勝てます』というタイトルの通り、色々な小売店や中小企業の経営者が読んでも参考になるヒントが多く、ちょっとした心構えや考え方、今日からすぐにでも取り組める行動哲学がわかりやすいです。

新宿のオフィス街の中にあるという好立地が、「ザンギリ」の成功に大きな要素を占めていることを差し引いても、少なからず成功のヒントは隠されていると思います。

理容店二代目の同級生がいるので、読んでもらうつもりです。
★★★☆3.5です。


熱が感じられないが…『革命前夜』by須賀しのぶ

2020年09月08日 | 小説レビュー

『革命前夜』by須賀しのぶ

 

バブル期の日本を離れ、東ドイツに音楽留学したピアニストの眞山。

個性溢れる才能たちの中、自分の音を求めてあがく眞山は、ある時、教会で啓示のようなバッハに出会う。

演奏者は美貌のオルガン奏者。彼女は国家保安省の監視対象だった…。

冷戦下のドイツを舞台に青年音楽家の成長を描く歴史エンターテイメント。大藪春彦賞受賞作!「BOOK」データベースより

 

物語全体を通して、東ドイツの暗く重苦しい空気感に満ちており、中々晴れやかにはなりません。

「ベルリンの壁崩壊」というキーワードは何度も耳にしている言葉ですが、あらためて文章で読んでみると、一つの国が二つに分断されて民主主義国家と社会主義国家になり、もともとの家族や親族が別々の国に暮らし、行き来が出来ない状況なんていうのは想像も出来ませんよね。

そんな東西冷戦下の東ドイツに音楽留学をしてきた学生・眞山柊史(まやましゅうじ)が、様々な人々との出会いと別れによって、人間的にも音楽的にも成長していく物語です。

主人公の眞山柊史が、作中では「シュウジ」とか「シュウ」とか呼ばれているので、とても親近感が湧き、興味深く読ませてもらいました。

須賀しのぶさんという作家さんの作品は初めて読みましたが、情景描写が美しく、文章も丁寧で読みやすかったです。

作中にバッハなどの名曲が度々登場するのですが、クラシックの知識が浅い僕には、雰囲気で感じることしかできず、物語にダイブ出来なかったのが残念です。

それでも、苦しいほどではなく、曲の解説がわかりやすく、雰囲気だけで読むことが出来ます。

ミステリー要素が多彩で、クライマックスにかけて、大どんでん返しがあり、ストーリーとしても良く出来ています。

主人公のシュウジをはじめ、登場人物のキャラがもう少し立っていればということと、革命に立ち上がる民衆の熱気を更に強調することが出来れば、物語としての盛り上がりは、もうワンランク上ったと思います。

★★★3つです。


予定調和のエンターテインメント『任侠学園』by今野 敏

2020年09月05日 | 小説レビュー

『任侠学園』by今野 敏
 

日村誠司が代貸を務める阿岐本組は、ちっぽけながら独立独歩、任侠と人情を重んじる正統派のヤクザだ。そんな組を率いる阿岐本雄造は、度胸も人望も申し分のない頼れる組長だが、文化的事業に目のないところが困りもの。今回引き受けてきたのは、潰れかかった私立高校の運営だった。百戦錬磨のヤクザも嘆くほど荒廃した学園を、日村たちは建て直すことができるのか。大人気の「任侠」シリーズ第二弾。「BOOK」データベースより


今野敏ファンの同僚から借りて読みましたが、相変わらず文章が読みやすく展開もわかりやすく、起承転結と伏線の回収がしっかりしていて、まさに小説のお手本のような作品でした。


映画 『任侠学園』化もされており、組長の阿岐本氏を西田敏行氏、№2の代貸を西島秀俊が好演しているようです。配役のイメージを頭に浮かべながら読みましたが、まさにハマり役だと思います。

さて、本編ですが、やはり予定調和の中で全てが収まり、気持ちよく完結しますが、逆に言えば、盛り上がりに欠けるという思いもありました。

エンターテインメント作品として、映画で観た方が良いかも知れませんね。
★★★3つです。