まわる世界はボーダーレス

世界各地でのビジネス経験をベースに、グローバルな視点で世界を眺め、ビジネスからアートまで幅広い分野をカバー。

映画「RRR」が教えてくれるインドの様々な事実

2022-10-23 16:29:35 | インド
2022年10月21日にインド映画「RRR」が日本で封切られ、その舞台挨拶に監督と主演男優が訪れました。舞台挨拶のチケットは売り切れていたので行けなかったのですが、10月22日(土曜日)の朝、近所の東京木場の映画館で観ることができました。

とにかくすごい映画でした。怒りや、喜びなどの感情がこれほど濃密に表現されているのはすごいと思いました。このような映画評は今後いろんなところで出てくると思いますので、私は、この映画の周辺の様々なことを書いてみたいと思います。

西洋と東洋の文明の衝突というテーマ

トップの画像は、この映画の登場人物の相関図を自分なりに整理してみようとしてパワーポイントで作ったものです。人物を配置してみると、見事なシンメトリーになっているのがわかります。

1920年の英国植民地時代のインドが舞台です。英国植民地支配に抵抗するテーマは、インド人には特に共感を呼ぶテーマです。しかし、インド人でなくても、残虐非道なヒール役が最後はヒーローにやっつけられるというストーリーは誰もが爽快感を感じられますね。

この映画で最も有名なダンスの“Natu Natu"は、イギリス人から「野蛮なインド人はダンスを知らない」と馬鹿にされたことに反逆して、主人公の二人が見せる見事なダンスです。西洋文明に対する反逆のメッセージがこのダンスに見事に表現されています。西洋文明に対するアンチテーゼなんですね。

インド神話が編み込まれたストーリー



映画のストーリーに登場する「ラーマ」はインドの叙事詩「ラーマヤナ」の王子の名前です。また「シータ」もプリンセスの名前です。映画の中でもビームが、ラーマのフィアンセの名前が「シータ」と聞いて、「ラーマヤナのラーマとシータだね」とからかう場面が出てきます。

「ラーマヤナ」を熟知したインド人からすると、ラーマがシータとハッピーエンドになるというストーリーは拍手喝采ですね。最初は警察官の姿のラーマが、最後は上半身裸で、弓矢を構え、馬に乗るその姿は、インド神話の世界のラーマそのものです。インド神話の世界が、20世紀という時代背景の中で登場してくるというのはインド人としては嬉しくてたまらないのではないかと思います。

ちなみに、「ビーム」という名前も、インド叙事詩「マハーバーラタ」に登場する英雄「ビーマ」と同じです。映画のセリフの中では、たしかに「ビーム」ではなく「ビーマ」と発音されていますね。槍とか松明を持ったビームは、マハーバーラタのビーマを連想させます。

100年前のインドをテーマにした映画の中に、ラーマヤナやマハーバーラタなどの要素が散りばめられているのはインド人としてはすごく誇りに思えるのではないかと思います。

実在の人物であったビームとラーマ



映画「RRR」の主人公二人は実は約100年前の実在の人物です。コマラム・ビームも、アルーリ・シータラマ・ラジューも英国植民地支配に抵抗した実在の英雄でした。実際に二人が協力して何かを行ったということはなかったのですが、この二人が会っていたらどんなことになっただろうかという架空の空想がこの映画のベースになっているそうです。

インド独立に対して非暴力で抵抗したのがマハトマ・ガンジーでしたが、この二人は武力で抵抗した英雄でした。そして二人とも、テルグ語圏(アンドラ・プラデシュ州、テランガナ州)出身の英雄です。上の写真のアルーリ・シータラマ・ラジューの金色の銅像は、今年(2022年)7月、彼の生誕125周年を記念して、アンドラ・プラデシュ州のビマヴァラム(Bhimavaram)という都市に作られたもので、30フィートの高さ(約9メートル)があるそうです。その完成式典にはモディ首相も訪れたとニュースに出ていました。

そして注目すべきは、この映画が、ボリウッドの映画ではなく、テルグ映画であるということ。この二人の英雄が、テルグ語地域が生み出した英雄であるということです。地元の人々にとっては、メイドインご当地のご当地映画で、地元地域としては最高に嬉しい映画となったであろうことは容易に想像できます。

インドだけでなく、ウクライナでも撮影されていた!



この映画のストーリーはインドでの出来事なのですが、撮影はインドだけでなく、ウクライナやブルガリア、オランダなどでも行われたそうです。豪華な邸宅でのパーティーシーンおよびそこで踊られた“Naatu Naatu"ダンスの場面ですが、ウクライナのキーウ(キエフ)で撮影されました。ロシアのウクライナ侵攻のほんの少し前のことだそうです。

主なシーンは、アンドラ・プラデシュ州の森だったり、テランガナ州のアルミニウム工場や、フィルムシティーの映画撮影施設だったりするのですが、見事に英国統治下のインドを再現していましたね。

コロナとの戦い



映画制作はコロナの影響で延期を余儀なくされました。上のグラフはインドのコロナ感染者数の推移ですが、2021年5月には1日の感染者数が40万人を超えていて、厳しい行動制限が行われていて、映画制作はかなり影響を受けていました。

また長い間、海外渡航も制限されていたので、海外ロケはできませんでした。ウクライナでのロケは、海外渡航が緩和された後と、ロシアのウクライナ侵攻が行われる直前の奇跡的な期間に実行されたのですね。本当に大変な時期にこの映画は作られていたのかと思うと、感慨ひとしおです。

またパンデミックということで言えば、この映画の設定になっている1920年のインドは、1918年から19年にスペイン風邪が蔓延していた時期なので、ちょうど現在のような状況ではなかったかと思われます。

映画の中で、シータが疫病の人間が隔離されているというようなことを英国人の取り調べの人間に言って、捜査をあきらめさせる場面が出てきますが、今で言えば「この中にコロナの感染者が隔離されているので」と言うような感じですね。

テルグ映画の存在感



インドはヒンディー語以外にいろんな言語が話されています。ヒンディ語が5億人以上に話されていますが、南部地域はヒンディー語が通じず、テルグ語やタミール語、カンナダ語、マラヤラム語などが使われています。それぞれ数千万人の規模です。

そんな言語状況を背景に、インド映画も、その土地の言語や文化を背景にした映画が作られてきています。上のグラフはそれぞれの言語の映画がどれだけ作られているのかを示したものですが、2019年と2020年の比較になっています。

これを見ると、2019年に制作された映画ではテルグ映画がヒンディー映画よりも多かったということがわかります。2020年はコロナの影響でどの言語の映画も本数が極端に下がります。インド映画の中でテルグ映画って実はすごい存在感があったんですね。タミール映画もすごいですが。



上の図は、ムンバイで作られる映画がボリウッドと呼ばれ、インド映画はムンバイで主に作られていると思われていますが、じつはそうではないということを示したものです。

映画産業はインド各地に散在していて、テルグ映画は「トリウッド」などと言われています。タミール映画は「コリウッド」、マラヤラム映画は「モリウッド」などいろいろとあります。

インド映画生産本数が世界でナンバーワンなのですが、いろんな場所で、いろんな言語で、インドの映画が作られています。そんな中でテルグ映画はかなりの存在感を示しているんですね。

少数民族ゴンドの民



この映画の中でゴンド族というのが出てきます。ゴンドというのはドラビダ系の少数民族(少数と言っても数百万人以上いますが)で、テルグ語圏の北の山岳部に分散して存在しています。州としては、テランガナ州、マハラシュトラ州、マディヤプラデシュ州などになります。

ゴンド族は、ゴンド語を話しているのですが、それぞれの州は、公式言語を教育等で使用しているので、ゴンド語の話者は少なくなりつつあります。

映画の中ではビームがゴンド族の少女を奪回するために頑張るのですが、毒ヘビの毒を解毒する知恵を持っていたりするのが映画の中でも紹介されます。

こうしてみてくると、この映画がいろんな意味ですごいというのがわかります。ゴンド族など少数民族のプライドを鼓舞するものでもありますし、テルグ語地域の土着のヒーローを賛美するものでもありますし、インドの強さをアピールするものでもあります。また西洋文明に対する東洋文明のアピールでもあるし、専制主義に対する民主主義のアピールでもあります。

映画の最後で、ビームがラーマに「お礼に何がほしいか」と聞かれて、「教育」と答えたのが印象的でした。お金とか、財宝ではなく、「教育」という答え素晴らしいですね。「教育」が兵器や弾薬に代わり強力な武器になるというのは現代インドを象徴しているような気がします。

まもなく中国の人口を抜き、世界最大の人口を持って、フェイスブックやインスタグラム、ユーチューブなどを制し、世界のITやビジネスを制し、世界経済が失速する中でも年率6%以上の経済成長率を維持てきているインドにとって、この映画はさらに大きなエネルギーになっているんだなと思いました。

話はつきないですが、今日はこのへんで。
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あつまれインドのWOODの森—ボリウッドだけがインド映画じゃない

2021-10-31 06:46:00 | インド

インドは世界で最も映画製作本数が多い国として有名です。2017年のユネスコのデータでは、世界の映画製作本数のランキングはこのようになっています。



インドの年間映画製作本数は1986本。2位の中国を大きく引き離しています。

また、こちらは映画入場者数の国別ランキング。



こちらもインドがトップです。

さて、インド映画というとボリウッド(Bollywood)なのですが、実は、映画の製作拠点はインド中にあります。映画産業としては、ボリウッドのムンバイが圧倒的に大きいですが、ボリウッドに倣って、何とかウッドと呼ばれる場所はいくつもあります。上の画像が各地で何とかウッドと名乗っている映画産業の拠点を示しています。

まず、ボリウッドなのですが、なぜそう呼ばれるかに関して、説明しておきましょう。ムンバイは、イギリスの植民地時代からボンベイ(Bombay)と呼ばれていましたが、1995年にムンバイという古来からの名前に戻すことにしました。(マドラスからチェンナイに、カルカッタからコルカタに、バンガロールからベンガルールにというのも同じような動きです)

映画と言えば、世界的にはハリウッドなので、ボンベイのハリウウッドということでボリウッドと呼ばれることになりました。そこから影響されて、各地の映画も何とかウッドと呼ばれることになります。

各地に映画産業が分散しているのは、インドの言語の複雑さがその理由です。インドというとヒンディー語を思い浮かべますが、ヒンディー語の人口は2011年の国勢調査によれば(こんな古いデータが未だに一般に使われています)、ヒンディー語を母語とする人は全人口の約44%です。母語ではないが話せる人の数を入れれば、57%になりますが。逆に言えば、それ以外の人はヒンディー語がわからないということになります。実はインドには、タミール語、ベンガル語など、無数の言語が存在します。

こちらの写真はインドの200ルピーの紙幣の一部です。



英語と、ヒンディー語では大きく200ルピーと書いてあるのですが、四角の中にずらっと列挙されているのが、15の言語での200ルピーの表記です。これらが割とメジャーな言語ということになります。
文字も全く違っています。日本の方言どころの違いではありません。

何年か前に、「チェンナイ・エクスプレス」という映画がありました。ボリウッドのシャールク・カーンとディーピカ・パドゥコーンが主演し大ヒットしたアクションコメディ映画です。主人公が間違って、チェンナイに行くことになってしまうのですが、言葉が全く通じないということが面白おかしく表現されています。同じインドでも地域が違えば、そんな感じです。

こちらが「チェンナイ・エクスプレス」のトレーラーです。



ヒンディー映画なのですが、タイトルは英語で書かれています。これは、言語展開する時に、ヒンディー語で書いてしまうと、いちいちその部分のフィルムを作り替えないといけなくなり、大変なコストになるからです。

インドの言語別の映画製作本数がこちらのリストに出ています。



左の欄が言語ですが、数なくともこの言語の数だけ、映画産業の拠点があるということになります。そして、何とかウッドという名前がそれだけ存在することになるのです。

一番上の画像にある、何とかウッドを、あらためて列挙しておきたいと思います。

Lollywood (ロリウッド): パキスタンのラホール、言語はウルドゥ語
その昔は、パキスタンのラホールがインドの映画の供給地として重要拠点だったらしいのですが、1940年代にムンバイの映画産業が成長するのに合わせて、多くの映画人がラホールから移動したそうです。ラホールは今でもウルドゥ語映画の拠点になっています。

Pollywood (ポリウッド): パンジャブ州、言語はパンジャビ
パキスタンに接する州。

Dhollywood (ドリウッド): グジャラート州、言語はグジャラーティ
ゴリウッド(Gollywood)とも言われる。

Bhojiwood (ボジウッド): ビハール州とウッタル・プラデシュ州、言語はボジプリ

Dhallywood (ダリウッド): バングラデシュのダッカ、言語はベンガル語

Tollywood (トリウッド): コルカタのTollygungeがその中心地、言語はベンガル語

Chakwood(チャクウッド): ミゾラム州や南バングラデシュ、言語はチャクマ語

Chhollywood (チョリウッド): チャッティスガル州、言語はチャッティスガリ

Ollywood (オリウッド): オリッサ州(オリッシャ)、言語はオディア

Sandalwood (サンダルウッド): カルなタカ州バンガロール、言語はカンナダ語


Tollywood (トリウッド): テランガナ州、アンドラ・プラデシュ州、テルグ語
ベンガル語のトリウッドと同じ呼び方をしていて紛らわしい。

Coastwood (コーストウッド): カルナタカ州、海岸付近、トゥールー語

Mollywood (モリウッド): ケララ州、マラヤラム語

Kollywood (コリウッド): タミルナドゥ州、タミール語

チェンナイのコダンバカンという地名からこの名前が。
日本で有名なラジニカーントはタミール映画の俳優。

これ以外にも、まだあるかもしれませんが、これだけでも随分あります。

インド映画の世界は内容もさることながら、言語だけでもこれだけの多様性があります。インド映画は何十本か見ていますが、本数が多すぎて、なかなかついていけません。おまけに一本の長さが2時間半くらいが平均的な長さで、映画館では通常途中に休憩が一回入るように作ってあります。毎回が壮大な大河ドラマみたいな感じなので、なかなかたくさん見るというわけにはいかないのですが、これでもかというほど色々詰め込まれているので、お得感はありますね。

インド映画についての話は、盛りだくさんすぎてお腹いっぱいという感じなので、この話はこれくらいにしておきましょう。
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わずか七粒のコーヒー豆から始まった物語

2021-10-29 13:41:06 | インド
小雨の降る土曜日の午後、珈琲館の
門前仲町店に行ったら、ババブーダンと
いうインドのコーヒーが期間限定で出て
いた。「チャンピオンズが選んだ手摘み
スペシャルティーコーヒーシリーズ」と
いうことで5月の21日まで数量限定で
販売されているらしい。



インドのコーヒーはかねてから興味が
あったし、「期間限定・数量限定」と
言われると弱い。迷わずこれを注文した。

ココアのように香ばしい香りで、マス
カルポーネのような柔らかい酸味、
ライトなボディでクリーミーな舌触り、
スムーズなアフターテイストとメニュー
に書いてある。そう言われるとそんな
感じもするのだが、正直そんな微妙な
違いまではわからない。

丁寧に入れられた上質のコーヒーとい
う味わいはある。そして何よりも
「ババブーダン」という名前がこの
コーヒーに特別の風味を加えている。

どこかで聞いたことのあるような名前
だと思っていたら、つい先日、偶然調べ
たのだが、インドに最初にコーヒーを
もたらしたインド人の僧侶の名前だっ
たのを思い出した。

17世紀初頭、北部インドはムガール
帝国が領土を拡大し、ゴアはポルト
ガルの植民地となっており、南部で
はヴィジャヤナガル王国が末期を迎え、
マイソール王国が興る頃、イスラム教
の僧侶だったインド人のババブーダン
(Baba Budan)が、サウジアラビア
のメッカに巡礼に行く。

メッカに行く途中にモカで有名な
コーヒー産地のイエメンがあるが、
イスラム世界では当時、イスラム教
寺院の中だけで、門外不出の秘薬と
してコーヒーが飲まれていたらしい。
インドから来た僧侶のババブーダンは、
コーヒーの虜となり、持ち出すことが
禁止されているコーヒー豆を7粒だけ
隠してインドに帰ったのだとか。もし
見つかれば重い罰を受けたであろうが、
彼は何とかコーヒー豆を持ち帰ること
ができた。

アラブのコーヒーといえば、思い出す
のは「コーヒールンバ」の歌。西田
佐知子が1961年に歌った後、荻野目
洋子とか、いろんな人がカバーする
名曲だが、その歌詞の中に、
「アラブの偉い坊さん」という言葉
が出てきたりする。この歌の
おかげで日本ではモカが有名になった。
こちらは荻野目洋子のバージョン。



この曲、日本のオリジナル曲かと思っ
ていたら、オリジナルは、ベネズエラ
の作曲家ホセ・マンソ・ペローニ
(Jose Manzo Perroni)がコーヒーを
モチーフに1958年に作詞・作曲した
「Moliendo Cafe」(モリエンド・カフェ)
というのだそうだ。

ババブーダンがインドに7粒のコーヒー豆
を持ち帰ってから、約400年経った現在、
インド南部のカルナタカ州(バンガロール
がある州)は、インドで最大のコーヒー
産地となっている。インドは、紅茶の
イメージが強いが、実はコーヒーの生産
額も世界8位(1位はブラジル、インド
は世界の5位や6位になった年もある)。

2012年に、インドにスターバックスが進出
したが、都市部を中心にコーヒー店が
どんどん増えている。こちらは一番
店舗数が多い、Cafe Coffee Dayの
プネー郊外のお店の中。

かなりお洒落だ。
そしてこちらは、2012年にムンバイに
進出したスターバックスの一号店。


インドで最大規模のチェーン展開をして
いるCafe Coffee Dayも、インドの
スターバックス(タタ・グループ)も、
巨大なコーヒー生産地をカルナタカ州
に持っている。

インドのコーヒーは、ヨーロッパには
輸出されていたらしいが、日本では
あまりなじみがなかった。
珈琲館の「ババブーダン」などを見る
と、インドのコーヒーが急に出回り
始めているようだ。

アラビア半島から、ヒヤヒヤしながら
インドにコーヒーを持ち込んだババ
ブーダンも、自分の名前がはるか異国
のコーヒーにつけられているのを知っ
たらさぞびっくりするにちがいない。

こちらもよろしくお願いいたします

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アフターコロナを見据えてインドのビジネスエリート層にリーチする方法

2021-06-21 16:42:12 | インド
日本からははるか遠い国インド。コロナの蔓延で、海外渡航が自由にできない状況の中で、インドはますます距離が遠のいている感じです。1日の感染者数も死者数も世界最多を記録した期間もあり、また5月には医療用酸素が欠乏するということもあり、さらに最近ではコロナの「インド株」が世界の脅威となって感染を拡大しています。インドとは距離をおきたくなる気持ちはわかります。

私は、現在シンガポールにいますが、一昨年末まで在籍していた日系広告代理店のインド法人の責任者をやっていて、インドには二ヶ月に一度くらいは出張で出かけておりました。コロナ蔓延後、現地にいた駐在員は昨年日本に帰任し、現在は日本人を現地に置かずにオペレーションをしているようです。

インドは昨年後半は、感染が一旦減少し、規制緩和をしておりましたが、2020年4月頃感染が急拡大しました。5月頭にピークアウトし、感染者は現在のところ減少傾向にあります。



(出典:worldmeters.info, June 20, 2021)

ワクチン接種は、一回目接種者の数では、現時点では中国に次いで世界の第二位となっていますが、人口が多いので、人口あたりの接種比率では、日本よりも少ないという現状です。インドは、数々のワクチンの緊急使用が次々に認められるようになってきていて、インド政府は今年8月から12月にかけて国内で20億回分を超えるワクチンを製造すると約束しており、年内には全ての成人にワクチンを接種することを目標に掲げています。今後ワクチン接種は一段と加速するものと見込まれています。





(出典:Our World in Data, June 18, 2021)

こんな状況なのですが、JETROインドの情報(2021年6月14日)によれば、デリー準州政府は、6月7日から緩和した活動制限を6月14日にさらに緩和。モール、市場、独立店舗、飲食店など全ての店舗に一部条件付きで営業が許可されたとのことです。また隣接するハリアナ州では、さら に制限が緩和されているそうです。このまま感染第三波を回避できれば、7-9月期は活動制限措置の緩和が進んで景気回復に向かうとみられています。
インドは、今後急速にビジネスが回復基調になっていくものと思われますが、インドで特にビジネス層向けに訴求が必要な方は、先手を打って、対応をしておくのがよろしいかと思います。

ここでは、インドのビジネス層向けに広告、ブランディングを行うにはどのような方法があるのか、ご案内したいと思います。

インドのビジネスメディア

一般の新聞や、ニュース雑誌、テレビなどを使ってもビジネスマン向けの訴求はできますが、それら一般媒体はターゲットのビジネスマン以外の層も多く含まれ、リーチは大きいのですが、媒体の価格は高くなります。従って、コスト・パフォーマンスは悪くなります。ビジネス層に絞って情報発信をしたいのであれば、ビジネスメディアを起用するのが効率がよいです。

ビジネスメディアとしては、新聞と雑誌があります。どちらもプリントとオンラインの両方に対応しています。主要な媒体は、長年の蓄積があり、優良な読者層を抱えていますので、媒体の信用を利用して広告を発信するということが可能になります。

トップ画像に入っているのが主なビジネス媒体なのですが、新聞の場合は、一つ選ぶとすれば、Economic Timesになります。日本の日経新聞や、欧米のFinancial TimesやWall Street Timesのような位置付けの新聞です。インドの英字紙としては最大部数を誇るTimes of Indiaと同じTimes Groupの英字経済日刊紙です。

1961年3月に創刊されたこの新聞は、インド国内14箇所で同時印刷されていて、80万人の読者を持つと言われています。インドのいわゆるC-Suiteと呼ばれる経営者層、企業のシニアマネジメント層、オピニオンリーダー層にリーチするには最適な媒体です。

二番手としては、Hindustan Timesの系列のMintがあります。2007年2月1日に発行されたこの日刊英字紙は、31万4000部の発行部数を誇ります。新聞の場合は、広告を出しても一日だけなので、特別な日に一回だけ出稿するというのでない限り、複数回の出稿が望ましいです。

雑誌では、ダントツはBusiness Todayという隔週刊の英字ビジネス誌です。インドの雑誌として最大部数を誇るニュース誌のIndia Todayと同じIndia Todayグループに属している雑誌です。インドのビジネス誌は、この雑誌もそうですが、隔週刊(fortnightly)、つまり2週間に一回の発行が大半です。昨年、大規模なロックダウンで、ビジネス誌の印刷を止めたところが多いですが、この雑誌だけは定期的に印刷を続けていた唯一のビジネス誌と言われています。

雑誌としては、他に、Business India, Outlook Business, Businessworld, Forbes Indiaなどがあります。それぞれインドでは有名な雑誌です。

ここにご紹介したものはすべて英語の媒体なのですが、インドのビジネスマンに訴求するのに英語でよいのかという疑問が生じるかと思います。インドはヒンディー語が一番の言語です。しかしビジネス向けとなると英語になります。それは何故か?インドは実は、ヒンディー語以外にも、タミール語とか、ベンガル語とか、テルグ語とか様々な言語が混在しています。ヒンディー語を母語とする人は多いのですが、理解できない人も多数いるのです。英語はインド国内での共通語としてとくにビジネスの世界ではデフォルトで使われる言語となっています。

インド全国民の中で英語が話せる人口は、1億人と言われています。全人口の一割に満たないのですが、ビジネスエリートはほぼすべていこの一割に含まれているというわけですね。

印刷物か、デジタルか?

上でご紹介したメディアは印刷物とオンラインと両方とも対応しています。デジタル化の進展で実際に紙で読むというのは少なくなっていて、かなりデジタル化にシフトしているというのは、インドに限らず世界的なトレンドです。

しかしながら、インドでは、プリント広告費の落ち込みは他の国に比べてそれほどひどくはありません。まだまだ新聞や雑誌は紙で読みたいという人が多いのかと思います。世界では、新聞は印刷部数を減らし、雑誌も、業績が悪くて廃刊になっていくものが多い現状です。広告費としては、印刷媒体は落ち込み、デジタルメディアは着々伸びています。インドの場合、印刷媒体は落ち込みがほとんどなく(統計による)、デジタル媒体は年々伸びています。

オンラインでは、インドは大半がスマホになります。各メディアはサイト内でバナー広告対応ができますし、記事広告を掲載してもらうということも可能です。オンラインのキャンペーンとしては期間は1ヶ月から可能ですが、期間が長いほど効果は高くなります。

記事広告は基本的には、出版社側でライティングをしてもらえるのですが、ドラフトに準じて書いてもらうということが可能です。会社の紹介でも、商品の紹介でも大丈夫です。Business Todayは文字数は600ワード程度、写真点数は3点というふうになっています。条件によりますが、一ヶ月間での記事のビューは、70万ビューくらいとなります。また、記事は無料で音読してくれて、音声での視聴も可能になっています(Business Todayの場合)。

エネルギーや環境関係の業種ですと、Economic Timesが、ET Energyworld.comというエネルギー業界に特化したニュースサイトもありますので、そういう業界の方はこのサイトで広告をすればインドの業界でのプレゼンスをさらに高めることが可能です。

ビジネスターゲットに限定したバナー広告配信

以上は、ビジネス媒体を使ったキャンペーンですが、グーグルアドネットワークや、様々なネットワークに対応したアドエクスチェンジを使ったDSPバナー広告キャンペーンも可能です。ターゲットオーディエンスは、インド国内の経営者層やシニアマネジメント以上とかセグメントできるので、効率的な訴求が可能になります。期間は一ヶ月くらいからがミニマムですが、期間は長いほど効果を高めていくことが可能になります。インプレッションの数をどれくらいにするかで費用は決まりますが、フレキシブルな管理が可能です。基本はインプレッション数ですが、クリック数を保証するキャンペーンも可能です。

最近行なった事例では、オーディエンスセグメントに加えて、ビジネスサイトやニュースサイトの閲覧を条件に入れました。つまり、ターゲットオーディエンスが、ビジネスサイトやニュースサイトを閲覧している間に、そのサイト上にバナーが表示されるというものです。

キャンペーン期間内に、どのサイトを見ている人が反応がよいかなど傾向がわかってくれば、効果的なサイトに絞っていくなどキャンペーンをさらに効率化していくことが可能になります。バナー広告からのランディングページは、日本のウェブサイトでも、どこのサイトでも大丈夫です。サイト側でグーグルアナリティクスでモニターしていけば、インド経由で流入してきた人の数も把握できるので、どれくらいの人がクリックしたのかもわかります。

シンガポールからワンストップでコントロール

インドの広告媒体を取り扱っていて、デジタル広告も管理できるインド系の会社をパートナーとして持っているので、プリント広告でもデジタル広告でもワンストップで可能です。そこの会社のインド拠点はアドテクノロジーに優れたIT会社なので、安心してお仕事をまかせていただくことができます。

日本からこのようなことをコントロールすることは大変ですが、シンガポールを経由することで、ワンストップでこのようなサービスができてしまいます。

インドは日本からは遠く、なかなか広告の手段も探せません。コロナが収束しない状況ではインドに実際に行くことも難しいし、実際に行けたところで、インドは巨大すぎて、右往左往するばかりで、手がかりがありません。インドとはビジネスの関係が強いシンガポールからだと、インドにいるよりも効率的に広告のコントロールができてしまいます。

もし何かございましたら以下のサイトかフェイスブック経由でお問い合わせいただけたらと思います。
よろしくお願いします。
www.wings2fly.co
www.facebook.com/wings2fly-co
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インドでデジタル広告キャンペーンを開始

2021-01-19 13:10:47 | インド

某日本企業のインド向けデジタル広告キャンペーンが2021年1月18日から始まりました。一年前から受注がほぼ決まっていたのですが、コロナでずっと延期になっていたものです。最初は、インドのビジネス雑誌の中で最も読者数の多い雑誌に広告を出稿することで、その読者の大半を占めるビジネスエリート層にブランド訴求を行うという計画でした。

インドは、多言語の国です。ヒンディー語が人口規模では一番多いのですが、タミール語とか、ベンガル語とか、テルグ語など地域にとって数多くの言語が使われています。インド全体の公用語としては、英語とヒンディー語になるのですが、ビジネスの世界では英語が共通言語となります。従って、インドのビジネスエリート層が購読するような新聞や雑誌は英語になります。

インド全国のビジネス層にリーチする場合、一般の新聞や経済紙を使うとかなり高くなってしまいますが、英語のビジネス誌だとかなり効率的に広告キャンペーンを行うことができるので、この媒体に着目したわけです。ところが、すぐにコロナになります。インドが全国規模のロックダウンに入るのが2020年3月25日。このロックダウンは5月末まで継続します。

6月から"Unlock"ということでロックダウンが徐々に解除されることになるのですが、実はインドの感染者が急増するのはロックダウンが解除された後なのです。6月から9月まで、感染者が急増していきます。9月には、一日の感染者数が10万人に迫り、やがてアメリカを抜くかとも思われたのですが、9月中旬をピークに感染者数は徐々に下がっていきます。感染者の推移と、ロックダウンから"Unlock"への流れを示したのが下の図です。



ちょっと見にくいですが、上の段の赤い矢印がロックダウンの時期 (3月25日から5月末まで)。緑色が"Unlock"(ロックダウン緩和)の時期です。"Unlock"は6月から始まり、1月現在まで"Unlock 8.0"として継続中です。下の棒グラフは昨年2月からのインドの一日の感染者数の推移です。ロックダウンが始まった頃はほとんど感染者が少ない状況でした。累積ではアメリカに次ぐ感染者数のインドですが、2021年の1月中旬時点では1万人以下になるレベルにまで下がっています。また1月16日からインドでワクチンの接種も始まります。着実に収束に向かっているという感じですね。

3月25日から5月末のロックダウンの期間、一誌を残してほとんどのビジネス雑誌が印刷を停止してしまいます。雑誌は定期購読でオフィスや自宅に配達される以外に、書店や空港などで販売されるのも多く、オフィスが閉鎖になったり、外出規制などにより、読者数が減少するという事態に見舞われます。

こんな状況の中で、オンラインでメッセージを訴求したらコロナの影響を回避できるのではないかという話になり、雑誌媒体の予算をまるごとデジタル広告に移すことになります。

インドのビジネスエリート層をターゲットに、バナー広告を配信するということになるわけですが、グーグルとかの特定のアドネットワークではなく、フェイスブックやインスタグラムなども含めた複数のネットワークを対象にしたプログラムで広告配信をすることにしました。特定のサイトや、特定のページに広告を露出するのではなく、ターゲットとして特定されている人が閲覧するページやSNSに広告を露出させていくという手法です。専門的な言葉で言うと、アドエクスチェンジとか、リターゲティングとかを組み合わせた構造になります。

またこれに合わせて、ビジネス誌でのオンラインでの広告キャンペーンも並行して行うのですが、これらすべてをリモートで管理しています。日本、シンガポール、インドがリモートで繋がって、お金のやりとりも全く問題なくできました。これまでやったことのない業務もあり、心配なことも多々あったのですが、やってみたらできてしまいました。結果が出てくるのはこれからですが、クライアントが満足する結果が出ることを祈っています。

国境を超えて、広告を実施していくのが私の役割なのですが、遠く離れたインドでもこんなことができてしまうので、何かありましたらお問い合わせください。コロナの時期でビジネスの制約はありますが、国境を超えて不可能を可能にしていきたいと思っておりますので、よろしくお願いいたします。
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