まわる世界はボーダーレス

世界各地でのビジネス経験をベースに、グローバルな視点で世界を眺め、ビジネスからアートまで幅広い分野をカバー。

シンガポールの2021年のナショナルデー・テーマソングが感動を呼ぶ

2021-07-15 17:47:00 | シンガポール
シンガポールのナショナルデー(独立記念日)は8月9日。建国56年目となりますが、今年はマリーナベイの会場でリアルに開催される予定です。国に対して国民が“Happy Birthday!”と言ってお祝いする雰囲気は日本ではなかなか味わえません。前後数週間、街のあちこちに国旗が飾られ、花火が打ち上げられ、国の誕生日が盛大に祝われます。

ナショナルデーは毎年テーマソングが作られるのですが、2021年の曲は一週間前に公開されました。“The Road Ahead”というタイトルです。「進むべき道」、未来に向かって伸びている道です。



作ったのは、リンイン(Linying)という27才の女性シンガーソングライターと、エヴァン・ロウ(Evan Low)のコンビ。ミュージックビデオには、リンインの他に、セザイリ・セザーリ(Sezairi Sezali, 34)、シャイアン・ブラウン(Shye-Anne Brown, 18)、シャビール・タベー・アラム(Shabir Tabare Alam, 36)などのミュージシャンが登場しています。長年シンガポールにいる私も知らない人ばかりです。新たなタレントが出てきているんですね

こちらがそのミュージックビデオです。



バスが道路を進んでいくオープニング映像。路上に登場する曲のタイトル。“The Road Ahead”このグラフィックが洒落ています。



そしてバスの中のリンイン。芸能人っぽさが全くなく、普通のシンガポーリアンという感じです。彼女がバスの窓に自転車の絵をかざすと、それがアニメとなってストーリーが展開していきます。





おそらくコロナ禍の規制で、しばらく外食も、大がかりなロケ撮影もできなかったので、アニメということにしたのかもしれません。しかし、これが素朴な味わいを醸し出しています。



こちらはシンガポールリバーのボートの上のセザイリ・セザーリ。彼も素朴なルックスです。



別の船に乗っている人たち。過去と現代が混ざっていますが、赤い頭巾で、青い服の女性は、1920年から1940年の間、広東省山水からシンガポールに出稼ぎに来ていた女性。建築現場とかで働いていました。看護婦、建築家、郵便配達などが乗っています。



そして登場するのがシャイアン・ブラウン。庭の草木は太陽に向かって伸びていると歌います。



そして渋い感じで登場するシャビール・タベー・アラム。「夜明け前が一番暗い」という歌詞が印象的ですね。英語ではよく使われる表現です。



最後に登場する道路はECP (East Coast Parkway)からサンテック地区のビル群が見えてくるあたりですね。昔、このへんを運転して会社に通っていたので、懐かしい光景です。

曲調は非常に静かで、ノスタルジッックな感じです。コロナ禍の中で、不安を感じながらも、未来に向かって進んでいくというのを静かに歌っています。歌詞も、メロディーも、映像も、大げさな感じがなく、素朴な感じで、心に響いてきます。

新聞報道によると、通常は、ネットで賛否両論の議論が捲き上るのだそうですが、今年はポジティブな意見が多いとのことでした。1998年のナショナルデーソングになった“Home”を彷彿とさせる雰囲気の曲になっています。

“Home”はディック・リー(Dick Lee)が作曲し、キット・チャン(Kit Chan)が歌った非常に人気の高いナショナルデーソングですが、昨年のコロナ禍のイベントで、みんなで自宅でこの歌を歌うというのがありました。それに関しては、こちらのブログ記事をご覧ください。

https://blog.goo.ne.jp/singaporesling55/e/54a943f034cf3b131bbb549c357f7335

https://blog.goo.ne.jp/singaporesling55/e/41173b678395a6ed9b85be840b245eb2

こちらは、2021年のテーマソングの“The Road Ahead”の歌詞と、私の翻訳です。

One man on an island
島に一人しかいなくても
One drop in the sea
海への一滴であったとしても
All it takes to set a wave in motion
気持ちのウェーブを作るのに必要なものは
Is a single word, an action
一つの言葉、一つの行動
A hope that we can be
ずっと望んでいた変化に自分自身がなれるという
The change that we’ve been longing to see
一つの希望
For our home, our land, our family
私たちの家、私たちの土地、私たちの家族
It’s all within our reach
それらは全部手の届く場所にある
See this island, every grain of sand
この島を見て、砂の一粒一粒を見て
Hear this anthem, it’s the voices of our friends
この国の歌を聞いて、それは友の声
Come whatever on the road ahead
進むべき道の先に何が来ようが
We did it before, and we’ll do it again
それは私たちがかつて行ったこと、それをもう一度やるだけのこと
When the moments turn to hours
瞬間が長い時間になり
And the day’s last light is gone
一日の最後の光が消え去る
Look around us always and remember
いつもまわりを見回して思い出す
There were times we were uncertain
先の見えない時がかつてあったのだと
But we just kept walking on
しかし私たちは歩み続ける
It’s always darkest just before the dawn
夜明け前がいつも一番暗いのだから
See this island, every grain of sand
この島を見て、砂の一粒一粒を見て
Hear this anthem, it’s the voices of our friends
この国の歌を聞いて、それは友の声
Come whatever on the road ahead
進むべき道の先に何が来ようが
We did it before, and we’ll do it again
それは私たちがかつて行ったこと、それをもう一度やるだけのこと
Our home, the home we share
私たちの家、私たちが共有する家
Where the garden always grows toward the light
そこでは庭はいつも光に向かって伸びている
Though the road ahead is daunting,
進むべき道の先はちょっと怖いけれど
I know we’re gonna be alright
私たちは大丈夫だと知っている
See this island, every grain of sand
この島を見て、砂の一粒一粒を見て
Hear this anthem, it’s the voices of our friends
この国の歌を聞いて、それは友の声
Come whatever on the road ahead
進むべき道の先に何が来ようが
We did it before, and we’ll do it again
それは私たちがかつて行ったこと、それをもう一度やるだけのこと
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「ノンバイナリー」とともに変化していく英語表現

2021-07-11 20:24:11 | 英語
「ノンバイナリー」という、男性でも女性でもない、どちらにも属さない性別が話題となっています。それに伴い、三人称単数の“they”が使われるようになったり、“Ladies and Gentlemen”が使われなくなるなど、従来の英語表現が微妙に変化しているので、このあたりの状況をまとめてみたいと思います。

セレブのノンバイナリー宣言と代名詞の変化

フロントロウ(FRONTROW)という情報サイトが、2021年7月2日に報じた歌手のリゾ(Lizzo)に関するニュースが話題となっている、というのを妻が教えてくれました。これは、セレブ、エンタメ、ファッション、ビューティー、社会問題、 バズニュースというジャンルで海外カルチャーを発信するウェブサイトなのですが、その記事の内容はこんな感じでした。



リゾとデミ(デミ・ロヴァート)は今年10月にアメリカのニューオーリンズで開催されるジャズ・フェストで共にヘッドライナーを務めるのだが、パパラッチの1人がそのことに触れて、「デミにメッセージはある? 彼女(she)から連絡したほうがいい?」とリゾに質問。すると、リゾはすぐに代名詞の誤りに気がついたようで、「“They”だよ」と指摘。リゾの言葉が聞こえなかったのか、パパラッチが続けて「彼女(her)のチーム」と言うと、リゾはこちらもすぐさま「“Their”チームだよ」と訂正して、次のように続けた。「デミは“They”だよ」。

 その後、パパラッチも自身の誤りに気がついたようで、「訂正してくれてありがとう」とリゾに伝えた。
こちらがその記事のリンクですが、その時の動画も掲載されています。

https://front-row.jp/_ct/17464391

デミ・ロヴァートは今年の5月、男性や女性どちらにも分類・限定されない「ノンバイナリー」であり、今後使う代名詞は、「They/ Them」とすることを発表しました。

英語では「they」という言葉は、おもに三人称複数として使われてきたのですが、主語となる人物のジェンダーが分からない場合などには単数形としても使えるという特性があり、近年、ノンバイナリーの人々の代名詞として定着してきたということでした。



リゾがパパラッチに対して、代名詞を訂正してくれたことを知ったデミ・ロヴァートは、SNSでこんなコメントをしたそうです。「デミは“they”だからね。パパラッチがデミの性を間違えた直後に、リゾがそれを訂正してくれた!」

ノンバイナリーとして、“she”とか“her”ではなく、“they”や“their”、“them”を使うことに徹底的に拘っているんですね。

ノンバイナリー宣言をした有名人は、デミ・ロヴァートの以前にもいました。

2019年9月、イギリスのシンガー・ソングライター、サム・スミス(Sam Smith)がインスタグラムにて「私の代名詞は THEY / THEM 」と宣言していたのです。

サム・スミスは2014年に世界的大ヒットとなった『ステイ・ウィズ・ミー』でグラミー賞レコード・オブ・ジ・イヤーを受賞した際のスピーチでゲイであることを公表。3年後に「自分は男性であると同様に、女性でもあると感じる」と発言し、今回はノン・バイナリー(男女どちらでもない、もしくは第三の性)として「They」宣言を行ないました。

歌手の宇多田ヒカルも、2021年6月26日のインスタライブ中に自身がノンバイナリーであることを宣言しましたね。

三人称単数の“they”

1998年、オックスフォード英語辞典に、「単数形のthey」がすでに加えられていたそうです。この時はまだノンバイナリーとかの概念がほとんどなかった頃なのですが、実はかなり昔から(シェイクスピアの頃から)単数形のtheyの使用事例はあったと言われています。

私は、大学で英文学を学び、中学高校の英語教員資格を持っているのですが、「単数形のthey」などというのは全く認識していませんでした。例えば、「誰もが自分の意見を持っている」という文章で、“Everyone has ____ opinion.”という空欄にどんな言葉が入るのかという試験問題が出たとします。従来の英文法の正解は、“his or her”です。ところが、ここに“their”という単語を入れることも正解になりつつあります。日本の英語教育界がこれを容認しているのかわかりませんが、欧米ではこのような用例が以前からあったし、ノンバイナリーが登場してジェンダー・ニュートラルな時代になった今日、これがどんどん増えているんですね。

主語の“Everyone”は単数形なので、文法的に言えば、それは単数で受けなければなりません。三人称の単数と言えば、heかsheかitになります。“he”とか“she”とか言うと、性別が問題になるし、いちいち“he or she”と言うのも面倒です。一回だけでしたらいいのですが、たとえば、「誰もが自分自身に関する意見を持っている」という文章になった場合、“Everyone has his or her opinion about himself or herself”みたいな感じになってしまいます。物ではないので“it”というわけにはいきません。

ここで登場してくるのが三人称単数の“they”というわけです。“Everyone has their opinion”という使い方ですが、この場合の“their”は単数形ということになります。

こういう使い方は以前からあったのですが、性を区別したくないノンバイナリーが一般的になってくるのに合わせて、単数形のtheyが市民権を拡大しているということなのですね。

単数形ではあっても、主語として来た場合は、“They are”とか“They have”のように動詞は複数形で受けなければなりません。ここがちょっとややこしいところなのですが、意味としては、単数になります。これは慣れていくしかありませんね。ただし単数形の“they”に関して、日本の受験英語がどこまでキャッチアップしてくるのかはわかりませんので、受験生の方はご注意ください。

アメリカの学術団体「米国地方言語学会」が決定する「今年の言葉」というものがあるそうなんですが、2015年の「今年の言葉」に「単数形のthey」が200名以上の言語学者らによって選出されたそうです。

2017年には、メディアやPR業界で広く使われているAP通信編集発行の『APスタイルブック』にも「単数形のthey」が加えられたとのこと。

2019年秋、アメリカの主要辞典「メリアム・ウェブスター辞典」(The Merriam-Webster Dictionary)の「they」の語義に、「単数形のthey」の新たな語義と用法が加えられました。「単数形のthey」は、「used to refer to a single person whose gender identity is nonbinary(ノンバイナリーなジェンダーアイデンティティを持つ単数の人を指して使われる)」と定義されています。「男性でも女性でもないという性自認を持つ個別の人について使われる」三人称単数形の代名詞ということです。

英語の辞書も文法も時代に合わせてどんどん変化していくのですね。英語の先生もこういう時代の流れに合わせて勉強していく必要があるのでしょうね。

ノンバイナリーとLGBTとの関連

世の中「ダイバーシティー」とか「インクルージョン」ということで、「ノンバイナリー」とか「LGBT」とかいろいろな言葉が登場してきていますが、ここでちょっと整理しておきたいと思います。

まず、「ノンバイナリー」を理解するために、「バイナリー」という言葉についてみてみましょう。「二進法の」とか「二つの」という意味ですが、コンピュータが登場して以来、すべてのデータが0か1かの二種類のデータ(デジタルデータ)で処理されるようになりました。バイナリーというとIT用語と思っている人が多いと思いますが、もともとは二つから成るという概念です。

投資の世界でもバイナリーオプションとかありますが、これは二者択一ということです。ということで、「バイナリー」という言葉は、いろんな分野で使われています。

ジェンダーということで見ると、人間を男性と女性の二種類に分けるということは、古来行われて来ております。動物でも、鳥でも、生物はオスとメスに区分されていますね。二つに分類するという考え方が「バイナリー」なのです。

長い歴史の中で、人類は、自らを男性と女性に分類してきました。が、この中間にあって、自らをどちら側か区分できない人、区分できかねている人も出てきました。昔から存在していたのでしょうが、無理やりどちらかに区分されてきたか、無視さる存在だったのだと思います。

このどちらにも属さない人々が「ノンバイナリー」と呼ばれています。

LGBTという言葉がありますが、ゲイやレズビアンなど、男性、女性という性を前提としている場合があるので、必ずしも「ノンバイナリー」とは言えません。また「トランスジェンダー」と呼ばれる人々も、自分の帰属する性別は生まれた性別とは違うかもしれないけれど、自分が希望する性別に属すことを選択した人々ということで、これも「ノンバイナリー」とは違います。だぶっている人もいるのかもしれませんが、このへんの実態は専門家にお任せすることにしたいと思います。

“Ladies and Gentlemen”の挨拶が死語となっていく

イベントの司会者は“Ladies and Gentlemen”という常套句で挨拶を始めるというのが通例でした。ところがこれも時代遅れとなっているようです。

2020年10月1日から、JALが空港や機内のアナウンスで“Ladies and Gentlemen”という表現を止めるというのがニュースになりました。「All Passengers」(オール・パッセンジャーズ)や「Everyone」など使うようにしたそうです。

東京ディズニーランドとシーの園内アナウンスも、2021年3月18日から“Ladies and Gentlemen, Boys and Girlsというこれまでの定番の表現が変更になりました。変更の理由については「全てのゲストのみなさまに継続的に、より気持ちよくパークでお過ごし頂くため」ということだそうです。「Hello Everyone」など性別を特定しない文言に変更し、性的マイノリティーの来園者などにも配慮した表現となっています。

欧米では、すでに数年前から、公共交通機関で“Ladies and Gentlemen”という表現をやめているところも多いようですね。

ビリー・ポーター(Billy Porter)が2020年1月のグラミー賞で、"Ladies and Gentleman and Those Who Have Yet To Make Up Their Minds" (紳士、淑女、そしてまだ決めかねている皆様)と言って大受けしていました。

https://www.mrctv.org/videos/billy-porter-ladies-and-gentleman-and-those-who-have-yet-make-their-minds

こういう世界的なトレンドを知らずに“Ladies and Gentlemen”を使って顰蹙を買うことは避けたいですね。オリンピックとか大丈夫でしょうか?

Mxという敬称の登場

性別の表現としては、、Mr(ミスター)、Ms(ミズ)、Mrs(ミセス)、Miss(ミス)などといった呼称の他に、「Ze」、「Mx(ミクス)」なる呼び方がオックスフォード英語辞典(OED)に2015年に掲載されるようになったのだそうです。どちらも自分のアイデンティティが男性でも女性でもないと感じていたり、性別を特定されるのを好まなかったりする人のためのジェンダーニュートラル(中性的)な言葉が市民権を得ているのですね。

こんな感じで、社会の変化に伴い英語表現もどんどん変化しているので、常にトレンドをチェックしておかないといけませんね。
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シンガポールのニューノーマルに向けてのロードマップ

2021-07-10 18:30:48 | シンガポール
2021年7月に入って、シンガポールのニューノーマルに向けての歩みが明確になってきた感じがあります。こちらが、シンガポール政府が発表した新たなビデオ。タイトルは、”Let’s Test, Trace and Vaccinate”。ニューノーマルへの三つの重点事項「検査、追跡、ワクチン接種」をアピールするキャンペーンになっています。



飛行機に乗ると、離陸前に、安全のためのセーフティービデオが流れますが、このビデオはまさにその体裁で、しかもラップミュージック風に作られています。シンガポールチャンギ空港のJEWELを背景に、キャビンアテンダント風の女性が、「ご登場ありがとうございます」と、語りかけます。これからニューノーマルという目的地に向かっての旅が始まるというわけなのですが、その旅立ちにあたって、安全確認をきちっと守ってほしいということなのです。



この女性は、アネット・リー(Annette Lee)というシンガポールのシンガーソングライターですが、ナレーションで”There’s no better place than Our Little Red Dot”というフレーズがあります。”Our Little Red Dot”というのは、シンガポールのニックネーム、「小さな赤い点」ということで、国の小ささをちょっと自虐的に表現した言葉ですが、こんな素敵な場所はないと言っています。



飛行機だと、機長が挨拶したりしますが、バスの運転手が、3つの注意を。英語、中国語、マレー語、タミール語というシンガポールの4つの公用語で「3」という言葉を表しているのもシンガポールらしいですね。



そして車の運転手が窓から叫びます。この人、シンガポール人ならば誰もが知っているお馴染みのコメディー俳優のマーク・リー(Mark Lee)。”Win Liao Lor. Hurry Up. Faster Share”—シングリッシュです。英語と中国語が混ざったような感じですが、「もうわかったから、急いで、早くシェアしよう」というような感じですね。“Win”は英語で、相手が勝ったこと、つまり自分は降参を意味します。”Liao”は中国語(ホッケン語)の“了”ですね。最後の“Lor”はシンガポール人が語尾につける、”Lah” とか”Lo”とかと同じ感じです。この“Win Liao Lor”というのはマーク・リーの定番のセリフです。



調理場の女性が強い火力で炒め物をしていますが、”Firing Up Our Testing”という言葉が入ります。”Fire Up”というのは「燃え立たせる」という意味もありますが、「始動させる」というという意味もあります。検査をどんどん始めようということなのですね。



そして腹筋をしている青年。この人はNg Ming Weiというテコンドーの選手。「検査はどんどんやっているから心配ないよ」と言う言葉に、「いろんな種類の検査が可能になった」という女性の声が被ります。この青年の後ろで、笑っているおじさんは彼の父親。Tik Tokの面白動画で有名になったコンビです。(TikTokのアカウントは@mingweirocks )



医療関係者の女性が登場します。簡易検査で、家でも検査ができるようになったとアピール。この女性、シティ・カリジャー(Siti Khalijah)という女優。



自転車の二人がトークンを常にポケットに入れておこうと言っています。追跡アプリはスマホでできるのですが、スマホのない人もトークンを持っていれば大丈夫ということです。



ラッパーが登場して、常にスマホをオンにして、チェックインの際は追跡アプリを使おうと歌います。この人は、ユン・ラジャ(Yung Raja)というインド系ヒップホップシンガー。シンガポールは実にインターナショナルですね。



そして、もよりのワクチンセンターでワクチン接種をと呼びかけます。



シンガポールのラッフルズホテルの名物インド人ドアマンまで登場します。



そして、リーシェンロン首相の演説。これは5月31日の演説ですが、この中で、検査、追跡、ワクチン接種という方針が明確に登場しています。まるで曲の一部のような感じに聞こえますね。

明るく、ポジティブに、一致団結して、ニューノーマル再開に向けて進んでいこうというメッセージです。

ちなみにこちらが直近の感染者数のグラフ。何度か小クラスターは出ているのですが、感染拡大はコントロールされているという感じです。



そしてこちらは、ワクチン接種の状況。



1日に7万6000人の接種が行われていて、人口の3分の2が少なくとも一回の接種を終えている。7月の26日までには、人口の半数が二回の接種を終える予定とのことです。年齢別のグラフは少なくとも一回接種の人の比率ですが、70以上は逆に比率は低いですね。

ワクチンはデルタ変異株に対して効力が弱いと言われていますが、有効性は69%となっていますね。

日本だと、この数字だけで、ワクチンは効き目が弱いと決めつけていますが、実はシンガポール毎日発表されるこちらの数字。



過去28日間での重症者と死者の数、そして、その内、ワクチンを一回だけ打った人の数と、二回打った人の数、打っていない人の数。重症者のほとんどはワクチンを接種していない人というのがわかります。一回だけだと重症になる可能性もあるということなのですね。数は少ないですが。

統計数字をどのように取り上げるかですが、ワクチンの有効性をネガティブにアピールしたければ、感染者のうち、ワクチン二回接種者の数などをクローズアップするのでしょうが、そういうことはしていません。ワクチン接種は、感染を100%防げるわけではないかもしれないけれど、少なくとも重症化は確実に防いでいる、だからワクチン接種をすることが、医療の状況を助けるし、社会を健全に保つことにつながるというメッセージです。

日本はいたずらに、ワクチン接種に関するネガティブな情報を拡散し、副反応の怖さを強調し、ワクチンは効き目がないばかりか、身体に悪影響を与える、そしてワクチン接種が原因で死に至るケースが続出しているという誤情報の広がりを放置しています。また、ワクチン接種の重要さよりも、ワクチンを打たない選択の自由が強調されていますし、補償がなければ感染を防ぐ責任を放棄してもよいという雰囲気になっています。

つまり、日本は、積極的なコロナ対策を取らず、ワクチン接種が進まず、オリンピックがあろうが、緊急事態宣言が発令されようが、感染者は減らず、未来永劫コロナに怯えながら、経済も国民も疲弊し、世界から取り残されていくつもりなのかなと思えてしまいます。



シンガポールは、7月の12日から、これまで2人までだった会食の人数が5人になります。また結婚式は事前の検査を前提として、250人までが認められます。ジムも2人から5人に、授業も30人から50人までに拡大します。



さらに、7月末までにワクチン2回接種者が50%を超えた後は、会食は8人まで、コンサートや結婚式などは500人まで拡大されることになるようです。そして、ワクチン接種完了が重要な決め手となっていくのです。ニューノーマルに向けて、シンガポールは着実に動き出している感じです。

今後はいろんなところでワクチン接種完了者が優遇されていくことが考えられます。イベントの参加の条件などにもなっていく可能性があります。ハンバーガーショップのShake Shackでは、7月1日から、ワクチン接種者にはポテトが無料になるというキャンペーンを始めています。こういうのはいろんなところで増えていくことでしょう。

日本は、ハイリスク国になっているので、シンガポール入国時には、入国許可を申請する必要があり、さらにホテル隔離が必要になっています。早く感染者数を少なくして、ハイリスク国の指定を外してもらいたいものですね。日本の皆さん、よろしくお願いします。
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地球に優しい消費のあり方を、オーストラリア発量り売りのSCOOPのお店から学ぶ

2021-07-08 15:06:25 | シンガポール
オーストラリア発の量り売りの自然食品のお店、SCOOP Wholefoods(スクープ・ホールフーズ)がシンガポールに一号店を出したのは2019年。オーチャードから少し外れたタングリンモールのショップでした。それが2021年7月現在、シンガポールには5店。この8月末にはシティホールのラッフルズシティに6店目がオープンする予定になっています。



私はシンガポールに住んでいるのですが、日系だけでも、ドンキホーテ(シンガポールではDon Don Donki)、MUJI、Daiso、ユニクロ、明治屋など大型小売店がいくつかあります。それぞれが複数店舗で展開しています。コロナ禍で観光客がほとんどいなくなった状況でも、ローカル顧客の需要を満たしているのです。そんな中で、このSCOOP Wholefoodsというお店がなぜこんなに人気になっているのかに関して考えてみたいと思います。

まず、このお店の名前についている“Wholefoods”(ホールフーズ)という言葉なのですが、これは、オーガニックフードとか自然食品とかの意味でも使われているのですが、「ありのまま」の食品で、加工をしていないものを指しています。英語の“whole”という単語は、「全体」という意味ですね。「健康な」という意味も含まれています。

このお店は2013年にそれまでマルタに住んでいた夫婦がオーストラリアのシドニーで始めたのですが、最初から、人間の身体のためによい食品ということだけでなく、地球環境にもよい消費ということを考えていたようです。人間という存在が、地球という大きなエコシステムの中の一部であるという考え方がこのブランドの根底にあります。

昨今、SDGsとか、ESG(Environment, Society, Governance)とか、地球環境に対する視点が重要になってきています。プラスチックをやめようとする動きとか、過剰包装や、食品ロスなどに対する注目が高まってきています。こういう動きは、世界的には、ヨーロッパが率先しているのですが、オーストラリアは、意識的にはヨーロッパと直結していると言ってよく、オーストラリアとはかなり関係の深いシンガポールには、こうした動きがすぐに入ってきます。



SCOOP Wholefoodsの人気が高まっているのは、こうした背景があるのだと思います。単に自分の健康にいい物を買うというだけでなく、その消費が地球環境を守ることに結びついていると思えることが重要になってきています。個人の消費は、地球環境全体に比べればあまりにも小さいので、消費と地球環境を結びつけて考えることを大半の人は最初から諦めてしまっています。しかし、たとえ目に見える形での影響はないにしても、こうした動きに賛同していくということが大切になってきているのです。



このお店のメインの商売は、食品素材の量り売りです。自分が必要な量の食材を購入することで、食品ロスを少なくしようということに貢献しています。さらに、余計な商品容器や梱包を不要にすることで、ゴミを減らし、地球環境に優しい消費を可能にしています。



メインは食品なのですが、実はこのお店は、食品だけでなく、雑貨や、台所用品、浴室用品などの品揃えも充実しています。それを眺めているだけで楽しくなるのですが、環境に優しい素材を使っているのはもちろんですが、デザインも素晴らしく、機能性もよいのです。食品以外のグッズ関係だけでも単独で店舗展開できそうな雰囲気です。ジュート素材(麻)のエコバッグなども実用的でありながら、エコを感じさせてかっこいいですね。





SCOOP Wholefoodsの英語のサイトに、“Convenience vs Sustainability”という文章が出ていました。



それによると、彼らの調査で、81%の消費者が環境問題の大切さを認識している、しかし、60.4%の人は、手軽に買えて、しかも値段が同じだったら環境問題に配慮した商品を検討してもよいと考えている。あくまでも値段が同じだったらという条件付きです。そして、14.6%の人は、価格や利便性に関係なく、環境に配慮した商品を選択すると回答したそうです。日本で同じ調査をしたら、この数ははるかに少ないのではないかと思います。

また、彼らが目指しているのは、環境問題だけに留まりません。“Ethical buying”という言葉が使われているのですが、直訳すれば「倫理的購買」ということになります。「フェアトレード」という概念は以前からありますが、調達先の労働状況なども含めての概念に、いい意味で拡大解釈しています。“Ethical buying”はほとんどの場合、価格は高くなってしまいます。それに対して消費者がお金を払ってくれるかどうかが問題ですが、消費者に伝えて、理解者の数を増やしていくことが重要だと述べています。

SCOOP Wholefoodsの場合、価格はできるだけ抑えたいと考えているようですが、値段を適正値段より下げることはフェアトレードを犠牲にすることに繋がるので、そこは慎重に判断したいということでした。

先日、ある勉強会で、「人権デューデリジェンス」ということについて学んだばかりですが、強制労働とか、人権に関わる調達を排除する動きが世界的なトレンドになっています。

こういうトレンドを簡単に図式化すると、こんな感じになるのかなと思います。



消費者が商品に対してお金を払うのは、従来は、機能やデザインに対してがほとんどでした。例えば、洋服でしたら、着心地がいいとかの機能、そして見た目、デザインのかっこよさ。そこに「ブランド」という要素が加わります。有名なブランドだったら、高い対価を払ってもよいと考えるようになりました。そして「意味」と、とりあえず書きましたが、それを買うことでどのような意味があるか、意義があるかという消費です。

商品やグッズのカッコよさは、デザインや機能や、ブランド名だけが作るのではなく、その会社の社会的な考え方も大きく影響しているのだなと思いました。環境への貢献とか、人権への配慮とか、企業の社会的な考え方に対してお金を払うという消費がこれからは増えてくるのだと、このSCOOP Wholefoodsというブランドのあり方を見て、思った次第です。
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カロリーメイトのコマーシャル「見えないもの」編に関して語っておきたいこと

2021-07-02 16:58:41 | 広告
2021年6月28日、東京コピーライターズクラブによる2021年度のTCC賞が発表となり、大塚製薬のカロリーメイトのコマーシャルがグランプリを受賞。毎年、受験生を応援するコマーシャルを作っているカロリーメイトですが、今回の受賞作品は、コロナ禍での苦しい受験生活を描き、コピーは、「⾒えないものと闘った⼀年は、⾒えないものに⽀えられた⼀年だと思う」というものでした。

日本は、コロナ禍の生活を描いた広告が少なく、コロナ前と同じような手法で、企業や商品を訴求しているものが多いので、広告の世界が現実の世界と乖離しているような気がしてならなかったのですが、このカロリーメイトの「見えないもの」という作品は、2020年のコロナ禍を忠実に描き、コロナで影響を受けて辛い思いをしてきたすべての人々の心に寄り添うものとなっています。このような広告作品が作られ、そして賞を受けたことは、非常によかったと思っています。

この広告作品には私は全く関わっておらず、この記事も、全くの利害関係はありません。純粋に、一人の生活者として、このコマーシャル作品のことを語ってみたいと思ったわけです。広告業界に長くいた人間として、この作品が、コロナ禍のこの時期、日本に存在したということをより多くの人に覚えておいていていただけたらと思い、この文章を書いています。

まずこちらがその動画です。



カロリーメイトのコマーシャル「見えないもの」編の概要

このコマーシャルは、2020年11⽉21⽇(⼟)からオンエアされました。カロリーメイトのコマーシャルは、受験期の⾵物詩として毎年話題になっているものですが、今年は、新型コロナウイルスの影響を受け、⾒えないものと闘う中で⼼を通わせ合う受験⽣と先⽣の関係を描いていました。

⽣徒役はイギリス留学から戻ったばかりの加藤清史郎さんが、先⽣役は東京03の飯塚悟志さんが演じました。CM楽曲には森⼭直太朗さんの名曲「さくら」を合唱バージョンとして起⽤。森⼭さんが特別に再レコーディングしたそうです。

コロナ禍でこれまで通りの学校⽣活を送ることが出来きなくなります。授業はリモート、部活の野球部の大会は中⽌になります。このような逆境の中で、不安を抱えながらも、ひたむきに頑張る受験⽣と、苦しむ受験⽣と向かい合い続ける先⽣との「絆」が描かれています。

コロナ禍での学校生活、リモート授業の教材を作る先生の苦労、教室の机の消毒、アクリル板などインサートされるエピソードがとてもリアルで、この一年の苦労や不安な気持ちが蘇ってきます。

飯塚さん演じる先生は、ある⽇の授業中、画⾯越しの⽣徒たちに向け、「うまくいかない時に、それでも続ける努⼒を底⼒っていうんだよ」と語ります。授業動画を早送りしその⾔葉を聞き逃していた生徒が改めて動画を⾒直し、その⾔葉に出会います。生徒は、再び机に向かいます。「⾒えないものと闘った⼀年は、⾒えないものに⽀えられた⼀年だと思う。」という⼼の声がナレーションで聞こえてきます。

最後のシーンでキャッチボールする先生と生徒。「先生」、「何だ」、「時々いい事いいますね」、「時々って何だ」という掛け合いの素晴らしさ。短い言葉を通して、二人の関係が見事に表現されています。「映画のワンシーンを見ているよう」という表現がありますが、まさにそんな感じですね。

この作品の配役の素晴らしさ

何よりも配役が素晴らしいと思いました。先生役の飯塚悟志さん。数学の先生のようですが、こういう先生いるんだろうなと思えるようなリアリティ溢れる演技が秀逸でした。普段は東京03でコントをやっておられて、いつも笑わずにはいられない演技なのですが、この作品では、過剰な演技もなく、自然体で、学校の先生を生きておられました。窓の外の雪を眺める姿とか、教室での立ち姿、無言で気持ちを伝える演技、役者として非常に好感が持てました。

そして生徒役の加藤清史郎さん。最初は、それが加藤清史郎さんということに全く気付きませんでした。調べてみてそれがわかりました。コロナ禍での受験生の気持ち、部活の野球部を、大会に出られないまま、引退していく気持ち、将来への不安などを見事に演じていました。イギリスの高校に留学していたようですが、戻ってきてから最初のコマーシャルの仕事がこの作品だったようです。

大河ドラマ「天地人」(2009年)で、直江兼続の幼少期を演じて話題になり、トヨタ自動車のコマーシャルで初代の「こども店長」をやっていたのは未だ記憶が鮮明です。2011年、帝劇のミュージカルの「レ・ミゼラブル」でガブローシュを演じていたんですね。ドラゴン桜 第2シリーズ(2021年4月25日 - 6月27日、TBS)で 天野晃一郎 役で出ていましたが、子供の頃のイメージと、今のイメージのギャップを感じていました。

資料を調べていたら、もともと野球好きで、子供の頃は野球選手になりたいという夢もあったそうです。今回のカロリーメイトのコマーシャルで、彼は野球部という設定なのですが、演技にリアリティがあるのはそういう彼の経歴があるからなんですね。だからこそ、大会が中止になった時の表情とか、バットを素振りするシーンとか、キャッチボールとか、それらのシーンが自然に見えるのだと思います。

画面には出演していないですが、森山直太朗さんの「桜」の楽曲も、その歌詞の内容もこのコマーシャルのストーリーにはぴったりでした。カロリーメイトの受験生応援コマーシャルには、毎回違う楽曲が使われてきたのですが、今回の選曲は、時代の雰囲気にも、広告のメッセージにもぴったり合っていたかと思います。

このコマーシャルの制作を支えたクリエイターたち

冒頭でご紹介したTCCグランプリを受賞したのは、福部 明浩(ふくべあきひろ)さんというクリエイティブ・ディレクター/コピーライターが作ったコピーでした。1976年生まれの福部さんは、何と京都大学工学部を卒業されてから博報堂のコピーライターになっています。この経歴だけですごいですが、過去の作品を見ても、いろいろとすごい仕事をされています。日清食品どん兵衞の「どんぎつね」などもそうなんですが、大塚食品のMatchのCM「青春と数学」編もこの人の作品です。校庭に描かれた数学的な三角形など、さすが京都大学工学部出身という感じがします。


https://youtu.be/-pcvFKl3ny0

今回のカロリーメイトのコマーシャルも数式がいっぱい出てきますね。

そして演出の⽥中嗣久さん。この人「九州新幹線」のコマーシャルで一気に有名になった方です。



そしてカメラの市橋織江さん。この方は、広告写真や、コマーシャルを撮っておられますが、とても自然で飾らない写真を撮る方です。このカロリーメイトの映像の中にも、市橋さんの感性が散りばめられています。撮影は埼玉で4⽇間、70以上にも及ぶカットを撮影したそうなんですが、一つ一つのカットが芸術作品です。

このカロリーメイトのコマーシャルですが、こんなにすごい人たちが関わって、優れた作品となったわけなんですね。

コマーシャルの余韻

この作品はコマーシャルだけでは終わりませんでした。この映像を見て感動した福岡県戸畑高校の先生から御礼の手紙が届きます。そこから始まるドラマがこちらです。



さらにこれをきっかけに「歌のない卒業式に、歌を。」というプロジェクトが始まります。このプロジェクトは、新型コロナウイルス感染拡大防止のために卒業式に歌が歌えない学校も多い中、大切な友達やお世話になった先生へ、思い出と感謝を届ける動画プロジェクトとのことです。詳しくは以下の動画をご覧ください。



すでにキャンペーンは終了していますが、心温まる企画でした。商品を訴求するためのコマーシャルから発展して、コロナ禍で卒業式で歌を歌えなかった学校の生徒や先生たちに、森山直太朗さん、そしてこの企画を支えるスポンサーさんなどが協力して夢を叶えようとしたこの美しい物語があったことを記録として残しておきたくてこれを書いてみました。最後までお付き合いただきありがとうございました。
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