歌人・辰巳泰子の公式ブログ

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古今和歌集おみくじ(恋一~五)

2015-04-15 03:58:02 | 日常
古今和歌集(1~1111番)のなかから、百首を選んで、おみくじにします。辰巳泰子選。
以下の44首は、その恋の部(469~828番)から選びました。

これらは、編集校正を経て、「月鞠」16号誌上に、「古今和歌集おみくじ」として活字発表されますが、いまから遊べるように、この場での連番(一~四十四)を通しました。

たのしんでくださいまし!

……………………………………………………

古今和歌集476番。
一 見ずもあらず 見もせぬ人の 恋しくは あやなく今日や ながめくらさむ
(在原業平朝臣)

よく知らずにいます。でも、だから、気にかかります。ほかのこと、何もしたくない。まひるを雨にこめられたように、心地よく、熱っぽく過ごしています。始まりの予感、小吉。



古今和歌集482番。
二 逢ふことは 雲居はるかに 鳴神の 音に聞きつつ 恋ひわたるかな
(紀貫之)

雲の向こうの青空を、雷神となって飛ぶよう。まっすぐなあなたの想い、突き抜けて、天まで届くでしょう。大吉。



古今和歌集483番。
三 片糸をこなたかなたに縒りかけてあはずはなにを玉の緒にせむ
(よみ人しらず)

想う相手となかなか結ばれない。でもそのプロセスこそが、たのしかったなぁって、結ばれても結ばれなくても、あとで思うんですよ。たのしんで、中吉。



古今和歌集485番。
四 刈菰の 思ひみだれて われ恋ふと 妹知るらめや 人し告げずは
(よみ人しらず)

こんなにも、あの人を想っていたのか。田畑の、ありふれた眺めさえ、琴線に触れます。誰かに代わりに伝えてほしい自分は、こんなにも、意気地がなかったのか。自己発見は、大吉。



古今和歌集495番。
五 思ひ出づる 常盤の山の 岩つつじ 言はねばこそあれ 恋しきものを
(よみ人しらず)

新緑の山の中で、つつじを見ました。心の中にずっと、咲いていてほしいから、言わずにいます。あなたも、そうでありますように。心にかけて散らさぬ花の、大吉。



古今和歌集518番。
六 人の身も 習はしものを 逢はずして いざ試みむ 恋や死ぬると
(よみ人しらず)

逢いたいのに逢えない。ならいっそ、このまま逢わず、この苦しみになれてやるがいいさ。そして、恋心に死ねるものか、試してやろう。忘れられない想いを抱いて、吉。



古今和歌集542番。
七 春立てば 消ゆる氷の 残りなく 君が心は われに解けなむ
(よみ人しらず)

春になって、氷が消えるように、すっかりわたしに、打ち解けてほしいな。素直なのぞみを口にしたとき、根雪もとけて、ことだまを呼ぶでしょう。大吉。



古今和歌集552番。
八 いとせめて 恋しきときは むばたまの 夜の衣を 反(かえ)してぞ着る
(小野小町)

結ばれないうちは、たった一度でもいい、結ばれてからは、毎夜でも逢いたい。おなじ行為を、他の誰かとどうしているかとすら、思う。たましいまで裸にされて、吉。



古今和歌集557番。
九 おろかなる 涙ぞ袖に 玉はなす 我は堰きあへず たぎつ瀬なれば
(小野小町)

悲しい予感が、あたってしまったでしょうね。こんな男のために泣いたって、値打ちがない。たぎる情感とおなじほどの強さで、理知がはたらきます。裸にされたたましいの芯は、強いものでした。吉。



古今和歌集564番。
十 わが宿の 菊の垣根に おく霜の 消えかへりてぞ 恋しかりける
(紀友則)

きぬぎぬの朝、戻った宅の菊に、霜が降りていました。愛を遂げて、透徹した心持ちだったのに、日が高くなると、想いも、なまぬるく変わっていくようです。だからまた、逢いたくて。吉。



古今和歌集575番。
十一 はかなくて 夢にも人を 見つる夜は 朝(あした)の床ぞ 起き憂かりける
(素性法師)

結ばれて、逢えない夜は、夢にも逢う。仕事も何も、手につきません。でも、そうした時期は、短く過ぎ去ります。ここから、恋は愛に、育つでしょうか。小吉。



古今和歌集592番。
十二 たぎつ瀬に 根ざしとどめぬ 浮き草の うきたる恋も 我はするかな
(壬生忠岑)

その浮き草が、岸辺でひっかかり、俺の性根は浮き草なんだけどな……と思いつつも、居心地よくて人生まっとう。吉。



古今和歌集597番。
十三 わが恋は 知らぬ山路に あらなくに まどふ心ぞ わびしかりける
(紀貫之)

うかつだったんですね。こんな自分は自分でもイヤだと、思うのでしょう。何もつかんだ気のしない恋は、育たないでしょう。でも、その人自身が、思いやり深い人に育つでしょう。大吉。



古今和歌集599番。
十四 白玉と 見えし涙も 年ふれば からくれなゐに うつろひにけり
(紀貫之)

泣けば泣いた、怒れば怒ったで、いとおしかった女というもの。いまはもう、はげしく責められているとしか、思われません。でもまだ、心があります。泣きたいだけ、泣かせてあげましょう。吉。



古今和歌集610番。
十五 梓弓 引けばもとすゑ わがかたに 夜こそまされ 恋のこころは
(春道列樹)

反り返った梓弓は、女人の身体とも見えました。征服の快美に酔いしれることもあるでしょう。男には、中吉。



古今和歌集623番。
十六 海松布(みるめ)なき わが身を浦と 知らねばや かれなで海人の 足たゆく来る
(小野小町)

足しげく通いつめ、見込みがないのをいっこうに悟らない男への苛立ち。九十九髪のおばあさんになったら、そんな男こそがなつかしく思い出されるでしょうに。半吉。



古今和歌集625番。
十七 有明の つれなくみえし 別れより 暁ばかり 憂きものはなし
(壬生忠岑)

男に限らず、女でも、ほんとうに優しい人だけ、うまくふられることができると思うんです。ふられ上手は、大吉。



古今和歌集645番。
十八 君や来し われや行きけむ おもほえず 夢かうつつか 寝てか覚めてか
(よみ人しらず)

伊勢斎宮の夜伽をつとめた男に、斎宮からよこした歌。こうした密会のお相手は、一人ではなかったでしょう。一人につき一回きりなので、秘密が保たれる。何も壊さないなら、半吉。



古今和歌集649番。
十九 君が名も わが名も立てじ 難波なる 見つとも言ふな 逢ひきとも言はじ
(よみ人しらず)

これは、イニシアチブをとるほうの言葉ですね。でも、だとしたら、相手には、好きなように言わせてあげましょう。すべてを支配してしまうのは、半吉。



古今和歌集666番。
二十 白川の 知らずとも言はじ そこ清み 流れて世世に すまむと思へば
(平貞文)

いっしょに暮らしていくつもりがあるから、内証になんて、しませんよ。そのほうが、清らかなこころで想いつづけることも、できましょう。大吉。



古今和歌集676番。
二十一 知るといへば 枕だにせで 寝しものを 塵ならぬ名の 空に立つらむ
(伊勢)

許してもいいかな……ぐらいなところまでは、あったけど、でも、許さなかった。すると相手は、むきになります。塵の収まるまで、待ちましょう。半吉。



古今和歌集681番。
二十二 夢にだに 見ゆとはみえじ あさなあさな わが面影に恥づる身なれば
(伊勢)

夢にまでお会いしたいなんて、思いませんよ。わたし、すっかり、やつれ果ててしまって。夢で逢ったことに、しないでほしい。現実にお逢いできれば、元気になります。大吉。



古今和歌集684番。
二十三 春霞 たなびく山の 桜花 見れども飽かぬ 君にもあるかな
(紀友則)

容貌でも、性格でもないのです。表情が豊かで、責める感じがしなければ、ずっと、いとおしく思うもの。のびのびと育てて、大吉。



古今和歌集692番。
二十四 月夜よし 夜よしと人に 告げやらば 来てふに似たり 待たずしもあらず
(よみ人しらず)

別に。待ってないけど……。でも、もし来てくれるんなら、お土産は、あれがいいなぁ。仲がいいのは、大吉。



古今和歌集700番。
二十五 かく恋ひむ ものとはわれも 思ひにき 心のうらぞ まさしかりける
(よみ人しらず)

決まり文句にいいます。こんなに好きになると思わなかった……。でも、あなたの場合、ものすごく好きになってしまう予感が、初めからありました。結ばれて、大吉。



古今和歌集705番。
二十六 かずかずに おもひ思はず 問ひがたみ 身をしる雨は 降りぞまされる
(在原業平朝臣)

身のほどを知るので、ぶしつけな問いをできずにいます。これは、心ばえの、いい歌です。つつしみ深いのは、大吉。



古今和歌集708番。
二十七 須磨の海人の 塩やく煙 風をいたみ おもはぬかたに たなびきにけり
(よみ人しらず)

押しの強いほうへ、流されていった。その女は、女ではなかった。煙だったんだ。見限りながらも、風のせいにするところに、愛が見えます。あなたこそいつか、幸せに。末吉。


古今和歌集721番。
二十八 淀川の よどむと人は 見るらめど 流れて深き 心あるものを
(よみ人しらず)

淀川が、よどんで見えるのは、つらいことやかなしいこと、のみこみながら、流れているから。あなたの辛抱を、わかってくれる人が、必ず、あります。中吉。



古今和歌集732番。
二十九 堀江こぐ 棚なし小舟 こぎかへり おなじ人にや 恋ひわたりなむ
(よみ人しらず)

やっぱり、おなじ人を好き……。居心地が、いいからでしょうか。相手の居心地も、よくしてあげてくださいね。愛されて、大吉。



古今和歌集746番。
三十 かたみこそ 今はあたなれ これなくば 忘るるときも あらましものを
(よみ人しらず)

別れて、まもないでしょう。女なら、つらければ、捨てちまうでしょうし、いずれ、誰からもらったかも、忘れてしまうでしょう。男には、捨てられないでしょう。男には、吉。



古今和歌集754番。
三十一 花筐(花がたみ) 目ならぶ人の あまたあれば 忘れられぬらむ 数ならぬ身は
(よみ人しらず)

忘れられてしまっているだろうけれど、もう、取り巻きのなかに入ろうとは思わない。素敵なあなたは、ここからのほうがよく見える。自尊心の闘争を、降りて吉。



古今和歌集761番。
三十二 暁の 鴫(しぎ)の羽掻(はねが)き 百羽掻(ももはが)き 君が来ぬ夜は われぞかずかく
(よみ人知らず)

恋のうらみをユーモアに変えてしまえるあなた、素敵です。大吉。



古今和歌集773番。
三十三 今しはと わびにしものを 蜘蛛(ささがに)の 衣にかかり われをたのめる
(よみ人しらず)

もう、これまで。ふと見れば、小さな蜘蛛が衣にとりついている。もう少し、待ってみましょう。気の済むまで待って、吉。



古今和歌集781番。
三十四 吹きまよふ 野風を寒み 秋萩の うつりもゆくか 人の心の
(雲林院親王)

男の心変わりにしおれる女を、慰めるよう。そうして季節が巡れば、この萩の花のように、あの人の心も戻ってくるでしょうか。待つ心も、いつかは。答えはなくて、吉。



古今和歌集789番。
三十五 死出の山 ふもとを見てぞ かへりにし つらき人より まづ越えじとて
(兵衛)

逆境に見捨てていった人よりも、長生きしてやると思っていました。でも、いまは、寄り添ってくださるあなたがいるから、長生きしたいと思っています。大吉。



古今和歌集791番。
三十六 冬枯れの 野辺とわが身を おもひせば 燃えても春を 待たましものを
(伊勢)

燃え尽きずに終わってしまった恋。つらいこと、くるしいことは人生の肥しなのだから、身を焦がしても、春を待つでしょう。いつか、ほんとうに人を愛する日が、来たのなら。大吉。



古今和歌集794番。
三十七 吉野川 よしや人こそつらからめ 早く言ひてし 言(こと)は忘れじ
(凡河内躬恒)

ひどい目に遭わされ、終わった恋なのに、初めの睦言を忘れられません。傷ついてかしこくなった、いまのあなたが素敵。忘れて吉。



古今和歌集800番。
三十八 今はとて 君が離(か)れなば わがやどの 花をばひとり 見てやしのばむ
(よみ人しらず)

花の季節のまえに、別れがおとずれてしまいそう。せめて、花を見るだけでも、いっしょに見ませんか。約束してあったのだし……。つなぎとめたくて。吉。



古今和歌集807番。
三十九 海人の刈る 藻にすむ虫の われからと 音をこそ泣かめ 世をばうらみじ
(典侍藤原直子朝臣)

虫のように、声をあげて泣いても、恨みはしません……。でも、あなた、恨まれますよ。あんなに泣いたくせに、もう俺を忘れたのかって。半吉。



古今和歌集808番。
四十 あひ見ぬも 憂きもわが身の 唐衣 思ひしらずも 解くる紐かな
(因幡)

あなたにお逢いできないのは、わたしの浮気性がもとなのかしらね。いつも知らないあいだに、下紐がほどけている感じ。天性なら、吉。



古今和歌集812番。
四十一 逢ふことの もはら絶えぬる ときにこそ 人の恋しき ことも知りけれ
(よみ人しらず)

すっかり見込みがなくなってから、解き放たれました。あなたのこと、愛する自由も、他の誰かを愛する自由も、得られました。大吉。



古今和歌集818番。
四十二 荒磯海の 浜の真砂と たのめしは 忘るることの かずにぞありける
(よみ人しらず)

浜の真砂のように尽きぬ誓いもしましたけれど、あなたにご都合のよろしくないことは、皆、忘れました。それはそれ、お誕生日、おめでとう! 大吉。



古今和歌集823番。
四十三 秋風の吹き裏がへす 葛の葉の うらみてもなほ うらめしきかな
(平貞文)

強い恨みに変わるのは、遊びが本気になってしまったとき。でも、この歌は、女性に、花を持たせる感じもします。男としては、最高の賛辞を、送っているつもりかもしれませんね。賛辞なら、吉。



古今和歌集828番。
四十四 流れては 妹背の山の 中に落つる 吉野の川の よしや世の中
(よみ人しらず)

世間の水が隔てるのに、深い仲になるのは、よしましょう。互いをずっと好きでいられるのは、こんな場合。つらいけれど、大吉。
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