寒い日です。
曇り空から今にも何か降り出しそう。
今日は警察署に出かけて来ました。
なんで?
実はね。
去年の秋に家人がとても奇妙な体験をしました。
交通事故の目撃者になったのです。
目撃者といっても
事故現場を直接見たわけではありません。
それは去年の秋の初めの頃でした。
台風の後久しぶりに快晴となった日、
急に家人が川へ行くと言い出しました。
悪性リンパ腫で大腿骨を骨折して以来大好きな川へも
なかなか行けなかったので
それはとても久しぶりのことでした。
ところが、家人はそう言いながらお昼を過ぎても出かけようとしません。
どうしたのかと思っていると二時をすぎてやっと出かける支度ができました。
聞けば急峻な谷川では日の当たる場所も時間も限られているので
今日行く場所は今からがちょうどいい日照時間なのだと言うのです。
そですか、
じゃ、気をつけていってらっしゃい。
そう言って送り出しました。
その頃家人は、
夏に骨をつなぐ再手術をした後で
まだ松葉杖を使っている状態でした。
松葉杖で不自由な状態でも川へ行きたいのです。
よほど川が好きなんですね。
私は少し呆れておりました。
ところがその日は特別の日でした。
台風が去ったばかりの川はいつもより増水していて
向こう岸に渡ることはできません。
それでこっち岸の大きな岩に座って
日向ぼっこをしながらボーッと川を眺めていたのだそうです。
すると突然大きな音と共に
左前方五十メートルほど離れた向こう岸に
白い物体が落ちて来たと言います。
それが何なのか、
初めは何かわかりませんでした。
また誰かがゴミを捨てたのか、と思ったそうです。
だいぶ高い山の中腹に国道が走っています。
川はその谷底を流れているのです。
そこからゴミを投げ捨てる人がたまにあるので
そう思ったのでしょう。
でも、ゴミにしては物が大きいので目を凝らしてよく見ると
どうやらそれは自動車のようでした。
初めは何が起きたのかよくわからなかったものの、
あれが自動車ならどこから来たのか?
もしかして国道から落ちたのかもしれない。
そう思いつくまで二分ほどかかったようです。
それから警察に連絡したほうがいいだろうと、
判断しました。
けれども家人は携帯電話を持っていません。
そこで少し離れた場所にある温泉施設に行けば誰かに連絡してもらえるかもしれないと、思いついて
すぐに行動しました。
その時温泉は閉まっていましたが、その前で顔見知りのおじさんが山から出て来たのです。
おじさんに事情を話しましたが、
すぐには信じてもらえず、しかもおじさんは携帯を持っていない人でした。
どうしようかと困っていると一台の軽トラがやって来ました。
その人はおじさんの知り合いだったので
携帯を持っているかと尋ねると初め家に忘れて来たと答えたのだそうです。
ところがそう言う舌の根も乾かぬまに
誰かからの呼び出しでお尻のポケットから携帯の鳴る音が聞こえました。
おじさんは、「ああ、持って来てたんだ、知らなかった」とかしらばっくれていたそうですが、
仕方がなく、警察に電話をしてくれました。
警察に電話する前に本当に落ちたのが車なのか三人で確認し、
電話したようです。
それから警察がやって来て、見聞が始まりました。
何人もの警察官が入れ替わり立ち替わりやって来て、
なんども同じ話を繰り返したそうです。
その車はやはり国道から落ちて来たものでした。
谷底までの高さは百三十メートルあったそうです。
運転していた方は途中で投げ出され即死でした。
後で家人が言うには
自分が岩に座っていたその時に眼の前で人の命が無くなっていたと言う偶然に
とても不思議な気持ちになったそうです。
事故現場に行ってみると
不思議なことがいっぱいでした。
その自動車が落ちた場所を特定するのが難しいほど
痕跡がほとんど残っていなかったのです。
ましてや車が落ちることのできる場所は本当に軽自動車一台がやっと通れる幅だけです。
もしもその人が普通車に乗っていたら下まで落ちることはなかったかもしれないのです。
どうしたらここから落ちることができるのか?
誰もが訝る場所でした。
自殺かもしれない、と警察も当初は考えたようですが、
本当に自殺したい人なら絶対にそんな場所は選ばないでしょう。
身元が判明してもそこに自殺するこれっぽっちの理由も見つけられなかったそうです。
目撃者もついにありませんでした。
谷底の川で日向ぼっこをしていた家人がいなければ
誰も事故に気がつかず
春か夏になるまで誰にも見つけられずにいた可能性が高いのです。
よくもまあ家人の目の前に落ちたものです。
それも久しぶりに行ったその時刻にですよ。
まるでその事故を目撃するために行ったようなものじゃないですか。
偶然とはいえびっくりしました。
その頃私は
松葉杖をつきながら川へ出かけたまま暗くなっても帰ってこないので
少し心配になっていました。
それに三時過ぎから消防やら警察の警報が山の向こうのほうに忙しく鳴り響くのも聞きました。
まさか、家人がその大騒ぎに関わっていようとは想像もできませんよね。
すっかり夜になって帰って来た家人からことの次第を聞いてびっくりです。
その事故の調書を作成したいので警察署に出向いてください、と言う依頼の電話を受け、
今日行って来ました。
すでに調書は取られているんですけどね。
警察ってなんども同じことを聞くんです。
それで再びあの事故のことが詳しく思い出されました。
面白いのはその事後段ですの。
この事故をも目撃したその一週間後くらいだったかしら?
その頃手伝いに来てくれていたイギリス在住の友人と一緒に
またその川辺に遊びに行ったのですが、
なんとちょうどその日の午後、警察の事故車処理係がキャタピラ付きのクレーン車を操って
川向こうでクチャグちゃになっている車を片付けに来ていたそうです。
増水した川が落ち着くまで待っていたのでしょう。
彼らの目の前でクレーンに吊るされたスクラップが川を渡って行ったそうです。
約束したわけでもないのに
事故を目の当たりにした上にその事後処理にまで立ち会うとは
どういった因縁なのでしょうか。
今日警察官から聞いた話では
車は落下しながら辺りの大木の間を転げ落ち
屋根もドアもシートも無くなって
ガラスは一つも残ってなかったそうです。
落ちて来たのは本体の金属部分だけでした。
百三十メートルの高さから落ちるとそうなるのです。
だから家人も最初はなんだかわからなくて
あれ何?
と一瞬思ったと言います。
もしかして車?
と言うことは事故?と言う結論を導き出すまで
二分くらいかかったようです。
今日の調書作成の際そう言ってました。
それにしても細かいのです。
その調書作成というのがね。
細かい上に何度でも確認されるんです。
ここからここまでの間は二分ですね?
ハイ。
二分ですね、五分はかかっていませんね?
ハイ、
五分じゃないですね。?
そう、思いますが、
あれ?
五分くらいかかってたかな?
五分ですか?
さっき二分と言いましたよね。
なんとなく延々と続いてしまいそうな会話が幾度もありました。
どうしてそんな細かいことを聞くの?
一時間くらいと言われたのに
二時間四十五分もかかりました。
容疑者とかになったら
もっともっと同じことを聞かれて
いやになっちゃうんでしょうね。
なんとなく気配を感じました。
とにかくしつこく確認されるんです。
目撃者とはいえ、二度と警察には関わりたくないですね。
それにしてもこれは不思議な出来事でした。
あまり不思議すぎて当時ブログの記事にはせずに置いたのです。
でもいきなり昨日警察から電話があって、
久しぶりに忘れていた出来事を一部始終思い出させてもらいましたので、
思い出として残すことにしましたの。
曇り空から今にも何か降り出しそう。
今日は警察署に出かけて来ました。
なんで?
実はね。
去年の秋に家人がとても奇妙な体験をしました。
交通事故の目撃者になったのです。
目撃者といっても
事故現場を直接見たわけではありません。
それは去年の秋の初めの頃でした。
台風の後久しぶりに快晴となった日、
急に家人が川へ行くと言い出しました。
悪性リンパ腫で大腿骨を骨折して以来大好きな川へも
なかなか行けなかったので
それはとても久しぶりのことでした。
ところが、家人はそう言いながらお昼を過ぎても出かけようとしません。
どうしたのかと思っていると二時をすぎてやっと出かける支度ができました。
聞けば急峻な谷川では日の当たる場所も時間も限られているので
今日行く場所は今からがちょうどいい日照時間なのだと言うのです。
そですか、
じゃ、気をつけていってらっしゃい。
そう言って送り出しました。
その頃家人は、
夏に骨をつなぐ再手術をした後で
まだ松葉杖を使っている状態でした。
松葉杖で不自由な状態でも川へ行きたいのです。
よほど川が好きなんですね。
私は少し呆れておりました。
ところがその日は特別の日でした。
台風が去ったばかりの川はいつもより増水していて
向こう岸に渡ることはできません。
それでこっち岸の大きな岩に座って
日向ぼっこをしながらボーッと川を眺めていたのだそうです。
すると突然大きな音と共に
左前方五十メートルほど離れた向こう岸に
白い物体が落ちて来たと言います。
それが何なのか、
初めは何かわかりませんでした。
また誰かがゴミを捨てたのか、と思ったそうです。
だいぶ高い山の中腹に国道が走っています。
川はその谷底を流れているのです。
そこからゴミを投げ捨てる人がたまにあるので
そう思ったのでしょう。
でも、ゴミにしては物が大きいので目を凝らしてよく見ると
どうやらそれは自動車のようでした。
初めは何が起きたのかよくわからなかったものの、
あれが自動車ならどこから来たのか?
もしかして国道から落ちたのかもしれない。
そう思いつくまで二分ほどかかったようです。
それから警察に連絡したほうがいいだろうと、
判断しました。
けれども家人は携帯電話を持っていません。
そこで少し離れた場所にある温泉施設に行けば誰かに連絡してもらえるかもしれないと、思いついて
すぐに行動しました。
その時温泉は閉まっていましたが、その前で顔見知りのおじさんが山から出て来たのです。
おじさんに事情を話しましたが、
すぐには信じてもらえず、しかもおじさんは携帯を持っていない人でした。
どうしようかと困っていると一台の軽トラがやって来ました。
その人はおじさんの知り合いだったので
携帯を持っているかと尋ねると初め家に忘れて来たと答えたのだそうです。
ところがそう言う舌の根も乾かぬまに
誰かからの呼び出しでお尻のポケットから携帯の鳴る音が聞こえました。
おじさんは、「ああ、持って来てたんだ、知らなかった」とかしらばっくれていたそうですが、
仕方がなく、警察に電話をしてくれました。
警察に電話する前に本当に落ちたのが車なのか三人で確認し、
電話したようです。
それから警察がやって来て、見聞が始まりました。
何人もの警察官が入れ替わり立ち替わりやって来て、
なんども同じ話を繰り返したそうです。
その車はやはり国道から落ちて来たものでした。
谷底までの高さは百三十メートルあったそうです。
運転していた方は途中で投げ出され即死でした。
後で家人が言うには
自分が岩に座っていたその時に眼の前で人の命が無くなっていたと言う偶然に
とても不思議な気持ちになったそうです。
事故現場に行ってみると
不思議なことがいっぱいでした。
その自動車が落ちた場所を特定するのが難しいほど
痕跡がほとんど残っていなかったのです。
ましてや車が落ちることのできる場所は本当に軽自動車一台がやっと通れる幅だけです。
もしもその人が普通車に乗っていたら下まで落ちることはなかったかもしれないのです。
どうしたらここから落ちることができるのか?
誰もが訝る場所でした。
自殺かもしれない、と警察も当初は考えたようですが、
本当に自殺したい人なら絶対にそんな場所は選ばないでしょう。
身元が判明してもそこに自殺するこれっぽっちの理由も見つけられなかったそうです。
目撃者もついにありませんでした。
谷底の川で日向ぼっこをしていた家人がいなければ
誰も事故に気がつかず
春か夏になるまで誰にも見つけられずにいた可能性が高いのです。
よくもまあ家人の目の前に落ちたものです。
それも久しぶりに行ったその時刻にですよ。
まるでその事故を目撃するために行ったようなものじゃないですか。
偶然とはいえびっくりしました。
その頃私は
松葉杖をつきながら川へ出かけたまま暗くなっても帰ってこないので
少し心配になっていました。
それに三時過ぎから消防やら警察の警報が山の向こうのほうに忙しく鳴り響くのも聞きました。
まさか、家人がその大騒ぎに関わっていようとは想像もできませんよね。
すっかり夜になって帰って来た家人からことの次第を聞いてびっくりです。
その事故の調書を作成したいので警察署に出向いてください、と言う依頼の電話を受け、
今日行って来ました。
すでに調書は取られているんですけどね。
警察ってなんども同じことを聞くんです。
それで再びあの事故のことが詳しく思い出されました。
面白いのはその事後段ですの。
この事故をも目撃したその一週間後くらいだったかしら?
その頃手伝いに来てくれていたイギリス在住の友人と一緒に
またその川辺に遊びに行ったのですが、
なんとちょうどその日の午後、警察の事故車処理係がキャタピラ付きのクレーン車を操って
川向こうでクチャグちゃになっている車を片付けに来ていたそうです。
増水した川が落ち着くまで待っていたのでしょう。
彼らの目の前でクレーンに吊るされたスクラップが川を渡って行ったそうです。
約束したわけでもないのに
事故を目の当たりにした上にその事後処理にまで立ち会うとは
どういった因縁なのでしょうか。
今日警察官から聞いた話では
車は落下しながら辺りの大木の間を転げ落ち
屋根もドアもシートも無くなって
ガラスは一つも残ってなかったそうです。
落ちて来たのは本体の金属部分だけでした。
百三十メートルの高さから落ちるとそうなるのです。
だから家人も最初はなんだかわからなくて
あれ何?
と一瞬思ったと言います。
もしかして車?
と言うことは事故?と言う結論を導き出すまで
二分くらいかかったようです。
今日の調書作成の際そう言ってました。
それにしても細かいのです。
その調書作成というのがね。
細かい上に何度でも確認されるんです。
ここからここまでの間は二分ですね?
ハイ。
二分ですね、五分はかかっていませんね?
ハイ、
五分じゃないですね。?
そう、思いますが、
あれ?
五分くらいかかってたかな?
五分ですか?
さっき二分と言いましたよね。
なんとなく延々と続いてしまいそうな会話が幾度もありました。
どうしてそんな細かいことを聞くの?
一時間くらいと言われたのに
二時間四十五分もかかりました。
容疑者とかになったら
もっともっと同じことを聞かれて
いやになっちゃうんでしょうね。
なんとなく気配を感じました。
とにかくしつこく確認されるんです。
目撃者とはいえ、二度と警察には関わりたくないですね。
それにしてもこれは不思議な出来事でした。
あまり不思議すぎて当時ブログの記事にはせずに置いたのです。
でもいきなり昨日警察から電話があって、
久しぶりに忘れていた出来事を一部始終思い出させてもらいましたので、
思い出として残すことにしましたの。