アルハンブラ宮殿の王宮から外に出ると、別世界が広がっていました。
北側には、こんな素敵な景観がありました。
このイメージは・・・砂塵が舞うアラブ、モロッコ、あるいは灼熱の異国ソンブレロのメキシコ・・・の雰囲気でしょうか。
左側に14世紀建造の建物が続き、小さなモスクもあるようです。
・・・別段、別世界でも無い?・・・確かにそうです。
幾何学文様、精緻な図案の集合体だけに囲まれ続けると、・・・精神のバランスが崩れるシグナルがでません?・・・何かを欲します。
幾何学文様の型を多数製作し、そこに石膏などを流し込んで作った部品を各種組み合わせて、見事な空間を創りあげたイスラムの芸術ですが・・・そこは、人工的なシャープな空間です。
幾何学文様だけで広大な面積を埋め尽くされると、定型パターンの規則性で囲い込まれ、堅苦しくなるのです。
遊び(余分なスペース、余白、フリーハンド)が無いのです。
・・・そこに、この異国情緒あふれる・・・多少風化した景観に接し、皮膚に触れる自然の風を感じるとゆったりとした感情が沸いてきます。
緊張、そして緩和が大事です、・・・この右の生け垣の先には、ムハンマド(マホメット)生誕のアラビア半島の砂漠にはありえない広大な・・・水鏡がありました。
人工的なシャープなデザインのインテリア、屋外には、自然な物を利用して・・・時の流れを感じさせる、庭園は心の和む空間です。
先程の砂塵が舞いそうな古い宮殿も、少し離れ視点を変えると、このような光景になります。
手前に左右二つの池、中央に水路が走り一段下がった生垣の向こうに・・・、建物との間に、・・・ここからは見難いですが大きな池があります。
このように整然と配置された上下二段の池が緑に囲まれて・・・西洋の近代庭園の元祖かと思えるレイアウトです。
・・・ワシントン・アーヴィングが「アルハンブラ物語」を発表した、1830年頃の「王宮見取り図」を作品から借用しましょう。
「アルハンブラ物語」 平
右端のパルタル宮から、最も古いと言われるダマス(貴婦人)の塔の光景でした。
アルハンブラ宮殿は、豊かな水を地下の貯水槽に引込み、渇水とは縁の無い水の都でした。
・・・この廃墟跡は、
凝った噴水の跡が見えます。かつては宮殿が7棟あったようで、ユースフ3世の宮殿跡でしょうか。
・・・少し歩くと・・・城壁には、いくつもの塔が築かれています。
「アルハンブラ物語」から全体の見取り図も参考に借用しましょう。
右端(東)の塔の先まで進み、城壁の門から出て、橋を渡って向かいの丘陵地の右上18ヘネラリーヘ離宮に向かいます。
では、ここから北側の城壁の内側にある散策路を東側に向かって進んでいきます。
囚われの貴婦人(王女たち)の塔、こんな名前の塔には、もちろん3人姉妹の王女の伝承があります。
父親(王)があまりの美貌の3姉妹を心配し・・・閉じ込めていた話も「アルハンブラ物語」に書かれていますが・・・省略。
守衛塔と水の塔(水の管理)の間の城門を通り、橋を渡って対岸へ進みます。
アーチ橋を渡ると、ここから丘陵地になります。
宮殿の城壁は結構高いですね、レンガの品質があまり良くないようですが、立派な城壁です。
・・・斜面に平行に、遊歩道を西に進みます。
渓谷側の遊歩道から・・・先程のアルハンブラ宮殿の城壁が見えます。内側からは気が付かないが、ほぼ垂直な大きい城壁です。
ヘネラリーヘ離宮の長い庭園は、植栽の生垣が綺麗に刈り込まれて迷路のようです。
ベンチも置かれ、ここで1時間くらい・・・読書・・・。しかし、筆者は自然科学や工学系が多く、文学作品は縁がなかった。
・・・ベンチで読むのにふさわしい読み物が無い・・・。そうだ!この話は
その昔グラナダを統治するモーロ人(イスラム)の王に、アフメッドという一人息子がいた。
占星術師らは名君主になると予言したが、1点だけ、恋に溺れやすい、その結果大きな苦難に逢われます。
分別が付くまで恋に陥ることなくお過ごしになれば、至福の王道となりますと王様に伝えたのでした。
そこで王は、女性の顔や恋の言葉も聞こえない所で育てると決め・・・アルハンブラ宮殿より一段高い急傾斜地に美しい宮殿を築いた。
目を楽しませる庭園をいくつも配置して、周りを高い城壁で囲った。
・・・これが今日の ヘネラリーヘ宮殿です。
(アーヴィング著 アルハンブラ物語 の中で、作者が古いモーロ人の宮殿にまつわる伝承のいくつかをまとめて
アフメッド・アル・カミール王子の伝説 の最初の部分です)
・・・
展望台からアルハンブラ宮殿を眺めてみましょう。
中央やや右にカトリックの教会、その右斜面に建つのが貴婦人の塔、宮殿、要塞です。
庭園の東の端に宮殿がありました。
丘陵地ですから、斜面に平行に谷側が見えるように回廊が続き・・・文才が無いのでグーグルの画像を借用しましょう。
方位は北が上、東(右)の庭園を・・・下側遊歩道を散策しながら宮殿までやってきました。
中央の建物の内部に入り中庭に進みます。
この画像は、ヘネラリーフェ離宮の噴水のある中庭 有名な場所です。
左(南側)が谷になり、回廊が奥(西側)に向かって建てられ、反対側にも建物と高い塔があります。
手入れされた花壇に花々が咲き、中央に水路、噴水のある涼しげな中庭です。
反対側の宮殿東端に回ってみましょう。
右(谷側)の回廊からは見晴らしも良く、花壇やプチ農園が続いています。
左(山側)の建物は・・・、こちら側の塔のある建物の内部にある階段を上階に上がると、左の建物の2階に出ることができます。
屋根は平らで散策路、さらに山側には中庭が造られていて、
段差を利用した見事な構造です。
一段高い所から回廊越しに、アルハンブラ宮殿とグラナダ市内が見えます。
右側の一段と高い塔・・・気になりました。
・・・物語の続き こんな内容です。
アラブ最高の賢者が、王子の教育と保護を王からゆだねられた・・・やがて、王子は無事二十歳になった。
しかし学問に関心が薄れ、心に訴えてくるものを学びたいと物思いにふける悪い兆候がみられ始めた。
そこでフェネラリーヘの一番高い塔の最上階に隔離し、シバの女王から賢者ソロモンが学んで以来の術「鳥語」を教えた。
高い塔とは、この東の角の塔?それとも、この斜面のもっと上に登った場所にあったのでしょうか?
・・・王子は、タカ、フクロウ、コウモリ、時々ツバメと話したが話も飽きて、・・・春になり森や庭園で小鳥たちが恋の歌をさえずり始めた。
「恋って何?」鳥は相手にしてくれず、老師(賢者)も「耳を塞ぎ下さい!恋は悲惨と争いの原因です」と教えてくれない。
ある朝、鳩が飛び込んできた、話を聞くと「恋の季節なのに、タカに追われて・・・離れ離れになってしまった」
王子は、「恋の季節?・・・恋って何?」と鳩に聞くと
「恋は、独りでいれば悩ましく、二人でいれば最高の幸せで、三人になれば争いと憎しみの絶えないものです。
恋は他人同士を慕い寄らせ、心地よい共感によって二人を結び、二人で暮らすことができれば幸せの元となり、離れ離れになれば嘆きの元となる。
不思議な魔法のようなものです。
王子様にだって、このような優しい愛情の絆で結ばれた方がおいでになるのではないですか?」
と語り始めた。・・・恋・恋・恋
「二度と巡ってはこない青春の日々、恋も知らずに、一人の女性もいない、想えば想うほどせつなくて、いとおしくて、胸が張り裂けるかと思う、そんな女王様か お嬢様は?」
と聞かれ・・・
王子は「こんな塔に閉じ込められて・・・少しわかってきたぞ」 ・・・鳩から恋のレッスンを受けた。
王子は老師に詰め寄り、王が隔離した理由を聞き出しますが、老師を尊敬しているので、恋の概略を知った知を自分の胸に秘め口外しないと心に決めた。
・・・さてどうなるでしょう。第2幕?
鳩が遠い国の王女様の情報を持ってきます。王子は、見知らぬ王女に情熱の手紙をしたため鳩に託します。
役立たずの鳩と、待ち続けたある日没近く、鳩が足元に・・・、矢で射ぬかれていて息絶えてしまう。
首には真珠の首飾りと肖像の入ったペンダントが・・・。求愛を受けてくれた印なのか、愛の使者が息絶えて答えは謎のまま。
王子は宮殿から抜け出し、恋の巡礼になり王女を求めて世界中を探す決心をした。
・・・ユダヤ教の旧約聖書の中に納められた物語も、このアラブ人の伝承も良くできた話です。
脱出は夜、スカーフを繋ぎ合わせ塔から滑り下り、道案内にフクロウを同行させ、ヘネラリーフェ離宮の外壁を乗り越え山中に逃げ込んだ。
・・・どこに向かうか?フクロウの助言でセビーリャの師匠ワタリガラスにお伺いをたてようとなった。
やっとたどり着いたセビーリャ、魔術師の塔(今日の「風見の塔」)の最上階へ
・・・しかしワタリガラスは、王女に関して何一つ情報が無い、・・・コルドバの中庭の木の下に大旅行家がおるはず、そこへ行きなさいと教示されコルドバへ向かうことに。
ここはコルドバ・・・木の下の人混みの中、大旅行家はオウムだった。
オウムからやっと聞き出す・・・王女は「アルデコンダ姫」、トレドに君臨するキリスト教徒の王のひとり娘。
17度目の誕生日までは王女は幽閉の身、拙者オウム以外はお目通りできません。
そこで王子はオウムを優遇する約束で、トレドに同行させた。
・・・タホ川に囲まれ、城壁にさらに囲まれたトレドの都
オウムが城壁の中の王女を探し出し「グラナダの王子がタホ川の堤に到着しました」と伝えると、王女は変わらぬ心で慕っていてくれた。
王女は、明日が17歳の誕生日、「王が大馬上試合を開催します」と伝えられ
お触れが出ていた・・・特定の王子に肩入れして他国を敵に回さないように、この試合の勝者に王女を嫁がせると・・・。
何ということだ!
・・・老師は何故、武道を教えてくれなかったのか・・・代数学や哲学が何の役に立つ・・・、王子は引きこもりの身を嘆いた。
フクロウ
“・・・神は偉大なり!” 押し黙っていたイスラム教徒のフクロウが声を上げた。
”神秘をおわすれになりませんように!”
昔、トレドがキリスト教徒に征服されたとき、魔術師は山中の洞窟に逃げ込み、武具(鎧兜一式)と愛馬に神秘の呪文をかけた。
イスラム教徒が・・・後に使う時が到来したら・・・日の出から正午までは無敵になる。
フクロウの力で洞窟を見つけ、武具と馬を手に入れた。
・・・運命の朝、試合開始寸前、伝令官が未知の騎士の到来を告げた。
宝石のはめ込まれた兜、胴鎧には金の浮き彫り、腰に宝石が輝く新月刀と短剣、肩に円盾、もう一方の手に長槍、騎乗するアラブ馬は豪華な刺繍入り衣装が足元まで垂れていた。
この優雅な騎士は、「恋の巡礼」と告げられ・・・会場はどよめいた。
しかし、王子以外は参加できないと告げられ、・・・やむなくアフメッド王子は名前と身分を明かした。
登場人物のイメージと違う? なんとなく、武道が苦手な感じでしょう。
兜が違う、円卓、長槍を持っていない、馬の衣装も違う・・・プラド美術館 フェリペ4世騎馬像 ベラスケス作でした。
・・・この檜舞台に宿敵の異教徒を参加はさせぬ!制止され、強引に突破して入城した。
恋敵のキリスト教徒の王子らは、血相を変えて取り囲み、中でも筋骨隆々の王子が、あどけない少年のようなアフメッドを嘲笑し挑発した。
顎がでているこの人は、ハプスブルグ家の血筋です。キリスト教徒、戦いに明け暮れた生涯です。
この作品はカール5世(神聖ローマ皇帝) プラド美術館 ティツィアーノ作、・・・ここの宮殿にもちろん関係があります。
アフメッドは、かっと頭に血がのぼり、両者は馬を駆って二方向へと離れ、向き直ると突進した。
このような感じの(見た目の年齢は置いといて)両者が戦ったのでしょう。
・・・魔法の長槍が一撃、屈強の相手は馬上から転落した。
ここから魔性のアラブ馬と武具は、アフメッドの制止を無視して突っ走る。
会場を所狭しと駆け巡り、長槍は立ち塞がるものを突き倒し続けた。
トレドの王は、臣下と招待客がなぎ倒される乱暴狼狽に怒り狂い、礼服をかなぐり捨て、
盾と長槍をつかむと自ら馬に飛び乗り、王の威光で屈服せしめようと立ち向かった。
恐るべき事態だった!
アフメッドの当惑をよそに、長槍は真っ直ぐに王に狙いを定め、次の瞬間、
王は真っ逆さまに宙に舞い、王冠は、土埃の中を転がっていった。
まさにこの時、太陽が、最高点に達したのだ。
・・・
アラブ馬は肝をつぶしている王子を乗せたままタホ川を泳ぎ渡り、元の洞窟に一気に駆け戻り、王子はやっと解放された。
思いもよらない運命的出来事は、自分を絶望的状態に導いたと知った。
騎士道を汚し、王を侮辱し、王女はどれだけ胸を痛めたことだろう?
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