2020年5月18日付け「日本経済新聞」(12面)に、玉井克哉 東大教授が、「国際経済における安全保障」について、以下のように書いていた。
『安倍晋三首相はコロナ禍を第三次世界大戦に例えたという。これは2つの意味で適切である。一つはこれが何年にも及ぶ闘いになり、いま一つは世界全体に大きな持続的な影響を与えるだろう、ということである。
過去2度の大戦の結果として各国は総力戦体制を構築したが、今回はそれに匹敵する影響を社会や経済に及ぼすだろう。歴史の節目であるいま、「経済安全保障」という切り口から、わが国がなすべき施策をまとめてみたい。
コロナ禍がもたらす最大の変化の一つは、主要国家という19世紀以来の枠組みが再び活性化するということである。冷戦時代後の約30年間、経済は「グローバル化」を続け、「物資のサプライチェーン(供給網)が全世界にいきわたった。
日本のパスポートさえ持っていれば、世界のどこにでも観光旅行ができた。しかし、ウイルスのまん延を防ぐために、人の移動の自由が大きく制限されている。 (中略)
コロナ禍は、経済安全保障をすべての政策の基軸に置くことを、改めて要求している。医療用物資の増産と確保、ワクチンや治療薬の研究開発、技術輸出のリスク評価などは、より一般的な課題が新型感染症で表れたものである。今回の事態に鑑みれば、医療用物資の備蓄が必要なのは明らかだが、新興技術の研究体制の見直しや技術安全保障への取組みが政府全体としての課題としてあぶり出されたといえる。
最も重要なのは、政治的決断を支えるための平時からの準備である。政府の新型コロナウイルス感染症対策本部は、当初は単なる閣議決定を根拠に設置され、その後、特措法に基づく政府対策本部と位置づけが変わった。その下にある専門家会議は、単に「医学的な見地から助言を行う」だけの組織である。今回は状況追随的な措置がやむを得なかったとしても、将来に向けた改善は必須である。
わが国は、戦時中の強権的な総動員体制の反省から、国に強力な権限を与えることを避けてきた。特措法による感染症対策も知事による要請と指示が限度であり、強制力のある措置は、法律上予定されていない。
現時点で、わが国のコロナ禍での人口あたり死亡率は際立って低く、マイルド手法で際立った実績を上げているのは慶賀すべきことである。
しかし、将来にわたって同様の幸運に恵まれる保障はない。
都市封鎖や外出禁止、必要物資の増産、確保と配給、その反面での特別な損失の補償といった措置を可能にする法改正についても先進国を参考にあらかじめ検討しておくべきだ。諸外国よりも少ない重傷者・死者によってすら医療崩壊一歩手前まで行ったことについては、反省と改善が必要だろう。
またわが国は、国民一人を国が把握するような仕組みを構築してこなかった。戸籍も住民登録も市町村単位であり、マイナンバーカードもいまだ普及していない。マスクを配給するのも、郵便の配達口に一律に支給するという原始的な方法を採らざるをえなかった。こうしたことは、クラスター封じ込めや特別給付金をはじめとする各種の措置が迅速に効果を表わす上で、妨げになっている。
第一次大戦終結から約1世紀、世界は3度目の転換期にさしかかっている。これまでのところ、わが国は、幸いにも巨大な人的被害を免れている。この禍機を生かせるかどうかが、今後の日本経済全体を左右するだろう。』
新聞の記事は以上であるが、新型コロナ禍後における北海道のある会社の標語は、次のとおりである。
「変わる時代 変えるスタイル 未来志向」
「十勝の活性化を考える会」会長