ジュリー38歳。
蜷川幸雄51歳の作品である。
ジュリーはこの舞台で二度目の蜷川演出だった。
惜しくも「唐版 滝の白糸」は観る事ができないが、
この「貧民倶楽部」はかろうじてTV放映が一度あったそうだ。
なので、映像は残っていることになる。
蜷川さんは、ジュリーに「大声を出せ、声を張れ」と言い続ける演出だったようだ。
大劇場では、マイクを通さない声も客席の隅々まで響き、滑舌のよさも必要だ。
舞台の基礎はここで徹底的に叩き込まれたに違いない。
ジュリーの声はとてもよく通る。
どんな舞台俳優にも劣らない。
そして他を圧倒する存在感。
これは浅丘ルリ子主演、出演シーンの少ないジュリーではあるが、強烈な印象を残している。
ちょうど「女神」でおなじみの
ソバージュヘアのときだ。
ワンレグにたらしたカールした髪から覗く
はっとするほど美しい瞳。
この作品の音楽は宇崎竜童だ。
作品の最後に歌われる「シャングリラ」は名曲だが、音源は残っていないのかもしれない。とても残念である。
お話は泉鏡花の「貧民倶楽部」と「黒百合」が原作だ。
「お丹」は、幼い「瀧太郎」を自分の弟のように面倒をみながら、秘かに愛してしまう。
やがて、「お雪」という女性を救いたい一心から、「お丹」に頼んではいけない頼みごとをしてしまった「瀧太郎」は、
いたたまれず「お丹」の前から姿を消してしまう。
7年後に再会した「お丹」と「瀧太郎」
どれほどお互いに愛していたかを痛切に想い出す。
しかし、貴族の落とし胤である「瀧太郎」を、「お丹」はお金に身を売った不甲斐ない若者となじる。
「お丹」はそんな「瀧太郎」に、
命をかけて夢を追おう、と持ちかける。
「瀧太郎」は「お丹」への愛の証と男の意地をかけて、夢の黒百合を求めて旅立つ、
ざっとこういう内容だが、
とても暗い舞台だ。
アングラ的な匂いがする。
そこにぱっと色彩が放たれる、それが浅丘ルリ子だ。
あでやかな風貌に、美しい衣装を身にまとった浅丘ルリ子は
本物の女優だ。
そしてその華を照らす、静かな月の光がジュリーだ。
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