蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

親族の基本構造4 不等価交換、独身論、女狩人 

2021年01月14日 | 小説
(2021年1月14日)3回続けた前文、その補遺として

1 等価交換VS不等価交換
もし、
先住民が市場に出て、年頃の娘、姉妹をお立ち台に登らせて「クネクネ踊らせ」競りにかけ、落札された値段に見合った価額で息子に嫁を買い取る。こうした制度があるとすればそれは、売って買ってそれで終わり。等価のやりとりで後を引かない。これをして世間はtransaction市場取引と呼ぶ。人身売買とも伝えるであろう。こうした市場を先住民が形成しているとは聞かない。女を交換財として扱うは家畜、穀物の売り買いと大きく異なる。その交換は相手先が限定される、共時的不均衡を鉄則とする(この形態を尊師レヴィストロースは「限定交換échange restraint」と教える)。
女のやりとりが社会構成の基盤を形成する、これが部族民の世界である。

2 不均衡の棄却
女交換ではないがもう一例;
アラスカ、カナダ北西部先住民の習俗「ポトラッチ」について。
ある部族が近接部族に贈り物を届ける。受け取った部族はその財になにがしかを付加し財価を引き上げ、別の隣部族に贈る(おおよそ倍贈りとなるらしい)。贈り行為を繰り返すうちに財貨に託された不均衡がふくれあがる。そして贈り物一式は破棄される。これ以上は無理(無駄?)と判断した部族が、海に捨てるという果敢を決行する。

この課程を不均衡、均衡の交換原理で解釈すると;
贈る行為には不均等が顕在する。贈る側の優位、受ける側が劣勢に設定される。受け側は価額を倍加して第3の部族に贈り、優位を取り戻す。ポトラッチ一式には優位と劣勢の部族社会循環が念じ込められているのだ。それが海に放擲されることで、参加した部族の優位劣勢の不均衡が財と共に消え去る(この解釈は部族民通信)。
部族間の緊張が解け、つかの間の平安が訪れる。

(ポトラッチ、そしてクラ=ポリネシア諸島での贈与制度=の報告では、財貨と女を絡めた交換の記録は聞かない。レヴィストロースは交換とは「女も財貨も」包括するとしているのだから、その可能性は高い。当時の民族学の傾向は機能主義=マリノフスキーなど。事象を他から分離し、機能抽出。こうした手法を踏襲していたからか)

そもそもその交換は不均衡
交換される物品のなかで筆頭として貴重な財が「女」である。荷台満載の食物よりも家畜の幾10頭よりも、女一人がなぜ重要なのか。族民も現代人にも差異なくて、
3 人が生きる課題は畢竟;

1 世代の維持
2 世代の再生産

女を得るとはこの1と2を解決する唯一の手段です。再生産について、当たり前だから説明時間を煩わす要はない。現世代の維持を取り上げる。南米先住民を実地調査したレヴィストロースが見つけた異形は;

一人の痩せた男。みすぼらしさの窮状ぶりの理由を問うと村民らは「独身だからさ」と笑った。
狩猟採取の経済では狩猟は男、採取と小規模農耕は女が担うと決まっている。男が何らかの事情で狩り技術を体得出来なければ、肉を取れない、女を養う能力を持たない。魅力的と映らない。
狩りに出て村に戻る手順。
獲物なしのボウズでは無音で、すごすごともどる。獲物ありでは帰り路の遠方から太鼓をドンコドンコ鳴らす。女は驚喜して火を熾し、入り口越して迎え入れる。女の喜び、意気揚々とした男の様が見て取れる(悲しき熱帯の記述から)。
このカッコ良を誇示できる男でないと嫁を取れない。男困窮の大原因である。
狩りができなければ採取に力を入れ、肉断ち辛抱でタロイモなんかを食いつなげば、糧は凌げると勘違いするのが近代人の狭量である。男は採取、小規模農耕ができないのだ(前回述)。狩りで得るタンパク質から見放され、嫁が持ち込むはずの日常食すら食むを得ず、痩せてもなおさら蔑まされる。嫁もてないは半人前、それ以下かもしれない。

4 女狩人は存在しない

月の女神ディアナは狩猟の女神アルテミスと同体である。この女狩人姿は神話の世界です(ルーブル所蔵の像)


そもそも男子は兵、狩人として育てられる。採取耕作にあたろうにも技量、道具、土地利用の権利も持たない。それらを知識として蓄え、諸々に権利を所有する母から譲り受けられない。母がそれらを直伝するは娘なのだ。この反対給付として女は狩りに従事できない、してはならない。
(小筆は女狩人が存在しない訳を「アラカルト」にて部族民通信ホームサイトに投稿した=2019年5月18日。関心ある方はtribesman.netに入ってサイト内検索で「チャリア」を探してください。グーグルで「女狩人 なぜいない」でも筆頭に出てくる)

親族の基本構造、前文の補遺 の 了(2021年1月14日)

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