蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

ムルンギン族体系の続き 一般化交換 4

2021年06月29日 | 小説
(2021年6月29日)前回は<交換流れの向きで階層の構成が変化する。これは何を意味するのか?部族民にはまだ答えが見つかっていない。本書にもその理由説明は書かれていない。
次回投稿を29日と予定するが、答えが見つかるかな。皆様からもお知恵を拝借したい>で終わった。8あるサブセクションを4に結集して、アボリジニに一般的な4クラス巡回型の一般化交換社会にムルンギンを再構築する試みです。2日間かけてクラス階層の構成の変化の訳を考えてみた。では構成変化とは;






P,Q,R,Sの組み合わせとPR,,RP,QS,SQの組み合わせを提示する。PはサブセクションのD1+A1で構成される。PRはD1+A2。この謎を解決せむと。小筆部族民は女と子交換の巡り方のパターン化を試みた。

手書き図1(上)を御覧ください。項目1,2,3はこれまで説明している。4で交換サイクルをパターン化した。水平交換とはA1からB1へ、A2からB2へ。しかしDに降りると交換の向きが変わる。C1からD1へとなる。AとD、BとCに間には子交換の境がある。子を交換するとはこの境を越さないとならない。A1からA2へ子の交換などはない。たすき掛け交換においてもAからBの方向とAとDでの方向逆転の仕組みは同じ。水平とたすき合わせて4の交換類形、そしてこの4通りしか無い。


手書き2はこれまで説明してきた内容です。3がムルンギンの交換サイクルの特質を表している。交換一巡りで8のサブセクション全てが(女ないし子を用いて)参加する。5~6は読んでの通り、交換の原則です。貰いっぱなし、贈りっぱなし、貰うだけで贈らないは成り立たない。8の4の交換形式で...の意味は;
交換には4の行動が規定される。1女を贈る、2女を貰う、3子を贈る、4は子を貰う。サブセクションはどこに女を贈るか、どこから貰うか...など4行動の相手方がすべて4の類形での規定で決まっている。詳しく見よう:


手書き図3:水平交換の第一サイクル。
簡便化するために8サブセクションをa,b,c...hとした。図の右はそれらを円陣に展開させた(手書きなので円が歪む、乱筆と合わせてのお目汚し、許せ)。交換の起点はaが隣接bに女を贈る。bは子を2の先dに贈る。dはeに贈らない。なぜなら左図を見ての通り、交換矢印が逆になっている。故に後ろ隣接cに女を贈る。女と子の贈り先の規定は、アボリジニで一般的とされるAranda族体系に則った。
この図の伝えかけは1 ①から⑧の交換には8サブセクションが参加する 2サブセクションは4行動の中で2の行動を取る。女を貰えば子を贈る、子を貰えば女を贈る....など 3贈られる元、贈る先は決定している。交換類形に固有の手順となる


手書き図4.たすき交換第一サイクル。
図3との違いは水平をたすき掛けにしたのみ。起点はFがAに女を贈る、それを円陣の図上ではFは3の後ろ向きAの①矢印。Aは子を2の先Gに贈る。以下、女の贈る矢印に逆転があるなど、水平1と同じ流れ。


手書き図5は前出2の交換をまとめました。子の交換を鍵にしてサブセクションを4にまとめると。レヴィストロースが想定したPR.QS,SQ,RPの階層が出来上がる。
説明を読めばそれ以上はでないけれど、詳細解説は次回(7月1日)に。

なお円陣のabcd..配列を水平対峙にした順番(aの下にeとか)は前述の体系を、下写真(既出)

ムルンギンの交換体系に重ね合わせた。


ムルンギン族体系の続き 一般化交換 4 了(6月29日)続く
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ムルンギン族体系の続き 一般化交換 3

2021年06月27日 | 小説
(2021年6月27日)前回は一般化交換の流れ、たすき掛け交換の第一サイクルを解説した。(第1と第2サイクルを併せたパワーポイント図を載せたので見にくかったかと、図を交換したので前回24日の投稿を御覧ください)

前回で女の「たすき掛け交換」での第一サイクルを解析した。8サブセクションを4の階層に集合化するレヴィストロースの案が下の写真(本書から)。



女の交換を逆向きにする第2サイクルを想定すると、別の組み合わせとなる。


第一サイクルでPRの組はD1A2、第2サイクルでのPはD1A1。以下組み合わせの替り方は写真で参照できます。このサイクルでの女(直線矢印)と子(破線弧)のやり取りを図式化した。


起点をD1に取ります。D1が女をC2に贈る(第一サイクルではD1がC2から貰うを起点としたから、逆向きです)。D2男は生まれる子をB1に贈る。B1は男子を残し成長した娘をA2に贈る。以下、矢印の通り。

下のパワーポイント図は4の階層を向き合わせて、その位置から女と子の流れを見せている(右側)。


P(D1)はQ(C2)に女を贈る。C2は同階層のB1に子を贈る。B1はR階層のA2に女を...。
レヴィストロースが8サブセクションを4に集合した着目点は子の移動でした。女は別の階層にうつしても、男子は同じ階層に留めるとの意思がムルンギンにある筈だと。女の移動を逆にした第一サイクルにおいてもこの原則は変わりません。


しかしながらここで疑問が。
交換流れの向きで階層の構成が変化する。これは何を意味するのか?部族民にはまだ答えが見つかっていない。本書にもその理由説明は書かれていない。
次回投稿を29日と予定するが、答えが見つかるかな。みなさんにもお知恵を拝借したい。

ムルンギン族体系の続き 一般化交換 3了(2021年6月27日)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ムルンギン族体系の続き 一般化交換 2

2021年06月24日 | 小説
(2021年6月24日)Aranda族親族体系を本書の記述をもとに構築してみよう。下図は本書掲載の親族系統図。最上列にPQRSの兄妹(弟姉)が並ぶ。大文字が兄、小文字が妹。P兄はQ妹を嫁に取る。その子はPに属さずRに移動する。




ここで部族民は思考停止に陥る。「他のセクションに移るとは」どのような様態なのか。
生まれたばかりの乳児を引き渡す。ある程度の年齢になって移動する。移動、養子などは名目だけ、実際は生家に居残る。3通りを想定していずれかだが、はて正解は。生まればかりの子を他人にアゲる、こんな仕打ちは母親に辛い。この母心理はアボリジニにも日本人にも同じであろう。
小筆はこうした2の例を知る。
岸防衛大臣は安倍前首相の実弟、岸家の跡取りと育てられたから、大学入学まで養子だったとは知らなかったと(報道に)聞いた。生後まもなく安倍家から岸家に預けられたと察します。
染織家志村ふくみ氏(文化勲章受賞者、人間国宝)は生まれてまもなく志村家の養女となった。染織の手習いで、そうとは知らず実家に通ううちにふと「この家に来ると何故か私、安心する」と独白をもらした。脇で聞きとめた実母(小野豊、染織家)がふくみを抱きしめ「お前は私の子なのだ」と泣いた(読売新聞「時代の証言」から。彼女の私事に入ったが、新聞に書き記した記事ならば引用も可であろうと判断した)。
もし乳児期に移籍となると母子の惜情の息、止むところ得ず。制度とするには人の心に無理があろうか。また名目だけの移籍を探ると、そうした立場は系統の維持と相容れない。やはり系統とは同居、居所を近くに構えるが人情だとおもう。
例えばA家の息子はA家に居るのだけど、実はB家に養子に入っているし、子ができたらその子はCになると決まっている。そのうえAの家作はD家の息子が執りしきる….こうした制度は考えられない。
ある年齢に達したらAからBに移籍する、こんな段取りをここでは選ぶ。すると男子は通過儀礼の後、女子は初潮を迎えて、嫁入り前の準備として。これがアボリジニの体系、こう理解したら足元がぶらつかない。何らかの疑念が湧いても安心だ。

勝手に推論を巡らせたが本書にはこうした民族誌的記述がないためである。それに御大レヴィストロースは「心理的因子」を絶対に語らない。「赤ちゃんをアゲなければ、赤ちゃんは貰えない」こうした制度だってあり得る。あのヒトのこったからこんな事を言い出すよ。
脇道に入ったな、筆の滑りを許せ。

図1Aranda族に戻る(大文字は男、小文字は女)。第2列、
R兄がs妹を娶る。S兄はp妹...と続く。夫婦の組み合わせはPq、Rsが交代して続く。これはPがq女を貰うことで、世代を隔ててもPが常にqを貰う。さらにPは常にSに女pを贈る。何やら一般交換らしき匂いがしてきたぞ。この女交換に子の交換を加味して図を描こうか。

下の図2の左。p女はS に嫁に行く。P女は実は、兄とともにRから移籍した子である。彼女の夫になるS男はQから移籍した。これを系統図が語っている。


Aranda族の体系は4のクラス、女と子を一般化交換(巡回型)で回す。女は隣接クラスに、子はその一つ先のクラスに贈る。この巡回点の差によって交差いとこ婚を実践している(交差いとこの仕組みは前回、前々回の付け足しで解説)

レヴィストロースはムルンギンの8サブセクションを4階層への集合を試みる。
下写真が集合の仕掛け。

PRはD1+A2
QSはC2+B2
RPはD2+A1
SQはC1+B1

根拠が女の交換(たすき掛け)第一サイクルと子の交換経路の分析である。これと上の4クラスに当てはめる。起点をC2としよう。
下図をご覧ください。


1 C2が女をD1に贈る
2 D1は生まれた子を同じ(PR)クラスのA2に渡す
3 A2 は男子を己に残し女子をB1に贈る
4 B1は生まれた子を同じ(SQ)クラスのC1に渡す
5 C1 は男子を己に残し女子をD2に贈る
6 D2は生まれた子を同じ(RP)クラスのA1に渡す
7 A1 は男子を己に残し女子をB2に贈る
8 B2は生まれた子を同じ(QS)クラスのC2に渡す
1~8のサイクル、すべてのサブセクションを通過して1の「C2は男子を己に残し女子をD1に贈る」に戻る。
子と女を絡める見事な「巡回式一般化交換」に変わった

第2サイクルで4階層化をあてはめよう。解説は次回(27日)になります。

ムルンギン族体系の続き 一般化交換 2 了(2021年6月24日)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ムルンギン族体系の続き 一般化交換 1

2021年06月22日 | 小説
(2021年6月22日)写真1はムルンギンのノーマル婚姻の流れです。サブセクションの名と略称(Ngaritがa1、Balangはb1などが読める)Hommeは男Femmeは女、Enfantは子。第一行の意味はa1のNgarit男はb1Balang女を嫁にとり成した子はd2Bangardiに貰われるを表します。




写真の仕組みをパワーポイントで図式化した。

a1b1子がd2に移動するを赤の弧の破線で表す(パワーポイント図)。以下同様で限定交換の婚姻と子のやりとりの図にて、同族サブセクションの動きと親族のあり方を見せています。

たすき掛け交換(下図)がMurngin体系の本質、じつは一般化交換である、その事実を暴く切り口となります。


下の図、右に目を移してください。


標準と選択的が交互に現れる場合を図式化した、オレンジ線が選択的の流れ、対して青線は標準の系統を表す。これはレヴィストロースの想定です。何を根拠にこの交互性をこの様でモデル化したかに彼の説明がない。類推するに元の民族誌資料(Warner等)から探り出したと思う。
またこの図には破綻がない、両の手順が阻害なく並立している。この仕組みをしてすき掛けは「間に合わせ」ではない、交互(altere)交換は確立した規則として実践されていると受け止めよう。
ムルンギン族の親族関係の骨格と言える8サブセクション、4セクション、男系半族、女系半族を下図3(既出)にて表示しています(既出、過去ブログにて詳細説明を入れています)。これは標準交換でも選択的交換でも、そして交互入れ替えの仕組みでもこの骨格を形成します。(女の交換でたすき掛けにしても中央分離帯線を越さない、子の交換では必ず中央線を越すに その由来が求められる)



簡潔にしてなお複雑、多次元での対称性を抱える親族体系です。しかしながら美学的見地を取ることを避けるレヴィストロースは、構造主義の視点から以下に厳しく、乾燥気味の評価をくだす。

<Ces particularites s’expliquent si on accepte de voir dans le system Murngin une structure primitivement asymetrique , et ulterieurement reproduite(218頁)
訳:この特殊性は、ムルンギンの親族体系はかつての非対称的仕組みを後に再構築したと理解してこそ明確になる。
彼の推察回路を探ると;
<derriere le systeme explicite (double systeme d’echange restreint a huit classe). ce que nous appelons plus haut le systeme implicite ( le systeme d’echage generalise a quatre classe), qui constitue pour nous la lois du systme Murngin(215頁)
訳:覚知出来る(explicite)体系(8の階層=サブセクション=と2重限定交換)の背後に、すでに述べているが覚知出来ない(implicite)体系が潜む、それは4の階層(classes)による一般化交換の体系であり、そちらがMurngin体系の法則を形作っている。
アボリジニに普及している巡回型一般化交換がMurngin体系の原理でもあると主張する根拠ともなります。続く、

投稿の番外:クイズの回答。
昨日投稿は頭の体操でした



この仕組がいかにして交差いとこ婚を保証するのか、皆様に考えていただきたいとの提言でした。。回答コメのツブテ嵐と心配したが1件の返信もなかった。易しすぎたか。下のパワーポイント図を見てくれ。夜に床を求めず卓に座し箸を取らず2日で考えた部族民の答え~がこれだ!



右説明のとおりだが、解説を次回投稿(24日予定)の末尾に。よろしく皆様の再来を待つ。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

親族構造の番外編、いとこ婚と頭の体操

2021年06月21日 | 小説
(2021年6月21日)昨日(20日)にムルンギン族の続き(その序文)を投稿した。明日にその継続の本稿を投稿するが、その前に。
今回の投稿では度々Aranda族の親族体系を引用する。


写真はarandaの壮丁(再掲載)、ネットから採取。大陸中央部に住み、今でもネット検索できる。アボリジニ有力部族と見た。

彼らの女と子の交換規則をスライドにした。




PRQSの4のクラス。クラスを男系とした、兄(父)が姉妹(娘)を隣接するクラスに嫁として贈る(アボリジニは女系なので実際は息子が婿として家系を離れる。列島弧の土着思考を惑わせないため、贈るのは女と簡易化した)。
男は後ろ隣接のクラスの女を嫁にもらう。そして男が成す子を隣接の一つ先クラスに贈る。この移動形式は限定交換、貰ったら返す、の様を帯びるが、ここでは巡回交換を取るから一般化交換に分類される

この体系はアボリジニに広まる一般化交換の規則で、それ故に婚姻は「交差いとこ婚」となる...ワーォオ、どうして交差いとこ婚になるの?おせーて!
部族民蕃神は「飯を食わず寝もせずに」、オーバー表現に走ったな「飯は食っても昼寝を省き」、これも実態と違うな。「飯を食っては昼寝も享受し」考えた。およそ2日、部族民なりの交差いとこ婚メカニズムにたどり着いた。明日の本投稿にパワーポイント図を開陳する。

質問:上掲載の女と子の交換流れが交差いとこ婚を保証する仕組みとは?

皆様には聡明かつ鋭利な頭脳を駆使してをこの仕組みをひねり出してくれ。コメント欄に書き入れてくれればなおハッピー!
それでは明日を楽しみに。(本日は2021年6月21日、夏至、ミッドサマー、夜っぴて大騒ぎする土民らは到るところに、特にヨーロッパ。コロナも終息しているからすごいだろうな)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ムルンギン族の親族体系・続き 限定交換一般化交換(その序文)

2021年06月20日 | 小説
(2021年6月20日)表題を始めるにあたり前文として。
クロード・レヴィストロース著作の「親族の基本構造Les structures de la parente 初版1947年改訂版1963年」の紹介を続けます。本年初頭(1月5日)に本題を取り上げ、39回の投稿を重ねた。この主題との寝起きに半年を共に過ごした。いまだ飽きが湧いてこない。6月7日(2021年)には本書「限定交換」部の最終章「ムルンギン族の親族体系」を投了した(全8回、ブログ39回投稿の内訳は本稿末尾に)
それでもなお、改めてのムルンギン族再登場を企てた理由:

同族の女交換は限定交換であると。では、限定交換なる意味から始める。その形態は:
「ウチのサブセクションから娘を出すから、お前の方からも出せ」の形式を取る。交換相手を相互に「限定する」を意味する。族内ではサブセクションa1がb1と対峙、以下a2b2、c1d1、c2d2に対峙が認められ、この組み合わせでのみ嫁を交換している。これをして同族での標準(normal)の婚姻結び方とする(下写真)。
同族はA1~d2までサブセクション8に分かれるが、8が4の階層クラス(セクションに当たる)を形成し通婚し、結果、2通りの族外婚集団(男系と女系)に分割される。レヴィストロースが説くところの「限定交換echange restraint」対峙相手との嫁の交換、これを教科書通りに見せている。
しかしa1とb2の交換も発生する。a1b1は図表で水平なのでこちらはたすき掛けの交換。たすきの角度には限定があって、a対c、b対dの交換は発生しない。前述の4の階層クラス(セクション)間の交換に限られる。これはそれぞれaなりbなりでのサブ記号(1,2)が消えたかの交換となる。これをしてoptionel(選択的)婚姻としている。この語「選択」はa1のb1との水平的通婚をpreferentiel(優先的)、ないしprescrit(前もっての取り決め)とする規則を見比べた用語である。


ムルンギン8のサブセクションの女交換の図、左が標準、右が選択的。本書から。



実は当初、部族民蕃神(ハカミ)は「選択」の意味合いを軽んじていた。というのも;

サブセクシションはhorde(小規模移動集団、本書から)の形態をとる。規模としてバンドbandeの10~20人よりは大きいけれど、生活に「移動」が入るから構成人口100人はありえない。移動生活で100人を抱えるは難しい。30~40人の集団と勝手に割り出した(こうした民族誌的記述が本文に無い)。であれば嫁を貰いたいが差し出す年頃娘が集団内に売り切れてしまった。こんな危機は当然あり得る。a1b1の婚姻を優先、取り決めておいても実行できない。
そこで、
a1は若者に嫁を取りたいが交換財(女)が欠如した、そこで近隣のa2に掛け合って「a2娘をあたかもa1娘として」差し出す絡繰りを仕組む。身分差を解決するため嫁入りの前に「上級の家系に養女に入って、その家系を名乗って嫁に出る」かつて日本での慣習であったから、こうしたやっつけ間に合わせ状況を想定した。a1とb2の婚姻はやっつけ….ならばこちらには重点を置かず、標準の水平交換だけ焦点を絞ればよろしい。過去投稿(1~8回)をその流れでまとめた。
これが部族民の至らなさだった。読み進めるにつけレヴィストロースの論点は:

1 そもそも、ムルンギンは他のアボリジニと同様に、4の階層で「echange generalise一般化交換」の規則で婚姻制度を実行していた。
2 8のサブセクションで限定交換による嫁のやり取りは観察できる(explicite、目に見える)制度であるが、4のセクションを囲い込む一般化交換がその背後に隠れている。こちらはimplicite、見えないけれど(2の語は本書から)基盤構造として規則となっている。
3 これを裏付ける例が「水平に対峙するサブセクションを外す、たすき掛け交換」である。文を進めるなかでoptionelなる語(報告者のWarnerらの用語)をaltere「交替する」制度と替えている。altereの意味合いは2の事象が交互に入れ替わるとなる。option「選択」には人意が含まれるが、その恣意を排除し規則での運用、それをこの仕組に発見したのだ。すると意味するところは「交替、相互」が正しい。レヴィストロースが用語を替えた背景である。

ムルンギン族は一見「複雑な」親族体系をもつ。サブセクションの顕在、父系と母系族外婚集団、用語の多様化など。それらをして他アボリジニ部族との特異を強調した観察者は多い。本書における元報告はWarnerらであるが、彼にしても親族呼称の広がりなどを挙げ、ムルンギンの位置を特別枠に置いた。しかしレヴィストロースは8サブセクションの立ち位置は重要ではないと解析し、4セクション(階層)の効能を明らかにした。
彼の思弁の行程は外観から組織を捉えるのではなく、内部の繋がり、隠された有機性を暴く演繹となる。
この進め方をして「構造主義による解析」と評価しても正しいと思う。


しかしながら構造主義とは何たるか、その理解にして未達は蒙昧、部族民蕃神は、
ムルンギン親族投稿の8回において、一般化交換をすっかり無視してしまった。ここで一言の弁を許せ。
それであっても8回投稿、更には本投稿への接近者の関心あふれる読みかえしは決して無駄でない。ムルンギン体系、まずはこの、族民精緻を結実させた限定交換にあり。そう断定しても誤りではない。限定交換の背後、見えない(implicite)一般化交換の構造を突き止めるにはそこに見える(explicite)構造を存分に観察しないとならない(冷や汗が出る)。

レヴィストロースの主張を説明する;
1 見えている限定交換による婚姻を支配する見えない背後、一般化交換 2 隠れ有機体暴くは構造主義の手口 3 ムルンギンはけっして特異部族ではない。族民理性を働かせ、限定交換をして一般化交換の隠れ蓑とした。
次回から族民における一般化対限定交換の葛藤、レヴィストロースの分析を語ります。


アボリジニの有力部族Aranda.親族体系は女の一般化交換を運用する4の階層を特徴とする。これがアボリジニに共通の体系、「特異」のムルンギンもその系統であると力説するのが本章である。

若干の説明:ムルンギン族はアボリジニと総称されるオーストラリア先住の一族民、大陸北部アーネムランド、カーペンタリア湾を臨む地に居住していた)。本書にて「他部族」とするのはAranda、Carieri族など。Warnerらの元資料の発表は1930年代。
(小筆はWanerなど原典には接近していない。他部族の婚姻制度の知識も本書をとおしてのみ、紹介するには知識不足は否めない)

「親族の基本構造」これまで当ブログ投稿39回の軌跡
1近親婚の禁止(1月5日~2月12日 全10回)
2本朝たはけ(1月25日~2月3日 5回)
3抱き合い心中クロワッサン(2月17日~24日 4回)
4禁止の社会学的説明(3月1日~8日 4回)
5限定交換(4月23日~20日 4回)
6族外婚族内婚(5月12日~20日 4回)
7ムルンギン族の親族体系(5月21日~6月7日 8回)

ムルンギン族体系の続き 一般化交換の前文 了
(2021年6月20日)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

親族の基本構造ムルンギンの親族体系 8最終

2021年06月07日 | 小説
(2021年6月7日)ムルンギンの最終回、まとめとなります。



スライド1は交換の体系です。赤と青の水平実線は男系半族を越えての女(嫁)の交換です。Ngarit、a1はBalang、]b1とのみ女を交換する。特定サブセクション間での交換なので、限定交換。弧の破線は子の交換です。Ngarit,a1は子をBangardi,d2に渡す、こうした流れが破線で表されている。交換には方向性があり一般化となります。さらに子の流れは半族の境界を越さないから、子(男子)を半族に引き残す目的があります。

スライド2は親族形態を基盤にした族民社会の構成です。


3は個がどこに帰属するか。サブセクション、階層(クラス)、半族に帰属し(おそらく)その帰属心を持つ(と推測する)。これは男も女も同じ。


4はこの複雑系交換が部族社会に与える影響を類推した。交換の起点であるサブセクションは常に不等価交換を実行するが、階層内でかつ半族内にも不均衡状況を内包する緊張を強いられている。レヴィストロースはそれをexigences強制とする。緊張、強制とは娘を贈らなければ子(次世代)は得られない。子を手渡さなければ嫁は貰えない。


最後のスライドは本書「親族の基本構造」の原点となる親族+交換をまとめた図です(既出)。ご参考に。


親族の基本構造ムルンギンの親族体系 8の了(最終回)(2021年6月7日)

追記:今回の投稿1~8で解説した親族構造ムルンギンの基本は女交換を「限定」に、子のそれを「一般化」としています。レヴィストロースは女交換に一般化の原理をも導入しています。それはa1とb1の嫁の交換のみならず、a1がb2と交換する「規格外」交換に注目しました。報告者WarnerらはこれをOptionとして、重要視しなかった。レヴィストロースは用語をそのままに用いるも、制度に取り入れて嫁交換での限定+一般化、いわばハイブリッド型を(理念上)構築しました。時間を置いてレヴィストロースが真に目論むムルンギン族の親族構造を紹介します。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

親族の基本構造ムルンギンの親族体系 7

2021年06月04日 | 小説
(2021年6月4日)前回(6月2日)まで表題を主題にして6回を投稿している。すべての回でパワーポイント図(Jpeg化)で解説するが、今回、一歩に踏み出しを変えて文章と図をまじえる形にします。主題は限定交換(echange restreint)と一般化交換(echange generalise)の意味と両者の差異。
<le mariage s’y conforme toujours a la regle : si un homme de A peut epouser une femme de B, un homme de B peut epouser une femme de A. Il y a donc reciprocite entre les sexes au sein des classes. (本書205頁)
訳:そこ(2の集団が小規模サブセクションであろうとより大きな半族集団であろうと)において、婚姻形体は規則に定められている。もしA集団の男がB集団の女と婚姻出来るのであれば、Bの男はAの女と婚姻できる。A.B両集団には性の分布で相互性を取れる。

<Nous appellons les systemes presentant ce caractere , quel que soit le nonbre de classes, des systemes restreints, indiquant par la que ces systemes ne peuvent faire fonctionner des mechanismes de reciprocite qu’entre des partenaires dont le nombre est deux, ou un ,ultiple de deux>(同)
訳:こうした機能を有する交換体系を「限定交換」と呼ぶ事としたい。階層の数の多寡はあろうが、この体系は2あるいはその乗数の集団間で働くを意味する。
<Il resulte immediatement qu’un systeme a deux moities exogamiques doit etre toujours un systeme d’echange restreint>外婚半族を2抱える集団はおのずと限定交換の婚姻体系を持つ。
この体系をこれまでの作図から振り返ってみよう。

図1:2の外婚集団間の女交換。

コレがまさに限定交換。下は拡大。


図2:Murngin族の婚姻体系を示した。外婚の2集団(半族、YiritchaとDua)はそれぞれ4の(Ngarit,Bulainなど)持ち、計8 サブセクションが同族を形成する。


NgaritはBuralang続くBulainはBalangなども同じく同列で階層(classe)をなし、婚姻はこの階層内で仕切られる。Nagritの男は必ずBuralangの女と、その逆方向と合わさり内婚の階層セクションを形成する。ここには限定交換の原理が働く。嫁入り前の娘をはずして、Nagritの性分布ははNagrit系統の男とBuralang系の女で構成されるの意味で、相互性とはBuralangはその逆である事を言う。

<Mais il existe une seconde possibilite : si un homme A epouse une femme B, un homme B epouse une femme C.Dans ce cas, le lien entre les classe s’exprime , a la fois, par le mariage et la descendance. (206頁)もう一つの可能性が指摘される。Aの男がB女と結婚する、B男はC女と結婚する。この場合は階層のつながりは婚姻と子孫を通じてとなる。
共時的婚姻のみならず、経時のつながり、すなわちAの子孫はBになりBの子孫はCとなる(女系である場合)と言っている。
<Nous proposons d’appeler les systemes qui realisent cette formule systemes d’echange generalise,この公式を具現している交換体系を「一般化交換」と呼ぶを提案する。

 
写真は4の支族を想定して女の交換を一般化した図です。左右の矢印が逆方向なのはAがBに女を贈るか、BがAに贈るかの違いです(206頁)。


図はMurngin族の子の交換を表しています。A1の子はd2に贈られ、d2は子をa2にa2はd1にd1はa1に、これで1の周回が閉じる。この交換が一般化交換となります。またa1に限らずどのサブセクションも子を贈らなければ子を貰えない、上の写真の周回交換(oriente)と同じ原理です。

まとめ:限定交換対一般化交換。
とある部族、移動中に知らない部族と出逢った。下調べに立ち入るとなんと年頃の娘が。族長「ウチの息子の嫁にあの娘を貰いたい」別族長「ホイキタ、しかしウチにも息子がいる、オマエンとこ娘をくれるか」「別嬪が一人いるぜ」まとまって、これが限定交換。制度化して2の半族の部族となる。
聡明さが名高い族長、嫁を貰って娘で返す、コレ何となく閉鎖的だな。そうだコウしようで族長達を集め「オレんとこが嫁を貰ったら、別の支族に娘をあげる。コレを順繰りに繰り返して娘をあげるといずれ嫁が貰える制度にしたい」全員の賛成を取った。一般化交換の嚆矢となる世界史的快事でした。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

親族の基本構造ムルンギンの親族体系 6

2021年06月02日 | 小説
(2021年6月2日)
交差いとこ婚の仕組みです。


1 出発をb1の兄妹とする。b1妹はa1に嫁に出る。
2 a1で生まれた子はd2に移動
3 d2娘(実はb1妹の娘)はc2に嫁に
4 c2の男はb1から移動、b1兄の息子
5 d2を介してc2に嫁に来た娘はb1女の娘
5 b1兄の息子とb1妹の娘が結婚、交差いとこ婚 
反対回りをシミレートすると



1 出発をa1の兄妹とする。a1妹はb1に嫁に出る。
2 b1で生まれた子はc2に移動
3 c2娘(実はb1妹の娘)はd2に嫁に
4 d2の男はa1から移動、a1兄の息子
5 c2を介してd2に嫁に来た娘はb1女の娘
5 a1兄の息子とa1妹の娘が結婚、交差いとこ婚 
族内婚の集団は4の階層に分かれる。それらいずれも婚姻相手は交差いとことなる。

Murngin族の親族構造をまとめた図です。

1 2の男系半族(moities) 2 2の女系半族(M,L)  3 3の外婚集団 3-1 男系半族 3-2 女系半族 3-3 8の系統(サブセクション)
4 内婚集団 4の階層クラス (図の中の写真は本書216頁に掲載されている構成図です。レヴィストロース作成になるが、半族同士で男子
を交換するシミレーションになっている。故にたすき掛けの半族は男系。期せずして小筆作成と一致した)


上の図は親族構成の流れを交換の原理と併せて説明している。解説は次回に。

親族の基本構造ムルンギンの親族体系 6の了(2021年6月2日)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする