鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

間 Hazama Tsuba

2018-07-31 | 
州浜図鍔 間

この図柄の鐔を紹介して商標権や著作権などの問題はないだろう。あのミッキーマウスという、千葉県にある夢の国のキャラクターシンボルに似た図柄。似ていると言えば似てるが、良く見れば違う。家紋などにもあることから、度々話題にはなっているようだ。

江戸時代中頃の作。鉄地に文様を鋤彫にし、鋤き込んだ部分に砂張と呼ばれる錫や鉛の合金を溶かして流し込み、鉄錆色の上に渋い色調の鉛色の文様を展開するを特徴としている。この鐔では、金線象嵌を加えて色調に華やかさを求めている。
文様美は様々な素材と技術によって意外な方向へと進む。砂張を用いた表現もその一つと言える。溶けた金属が鐔の上で冷却固着する際、容積が減少してスができる。この鐔でも、砂張の所々に小穴が生じており、自然な美観となっている。縦74ミリ。□40




吉野桜図鍔にコメントを頂きましたが・・・

2014-08-18 | 
すいません。
加賀金工の吉野桜図鍔にコメントを頂きました方。
申し訳ありません。
思い出のお話を書いていただいたにもかかわらず、
返事を載せる手順を間違えて、削除してしまいました。

同様の図は、鍔だけではなく目貫、縁頭、小柄などにもあり、幾つかの作例を実見していますので、豪壮華麗な風合いが好まれて流行したのかもしれません。
黒漆塗りの鞘に黒糸巻の柄に同図の金具で纏めた拵。
華やかではありますが、お洒落で格好いいだろうなと想像します。

善財 一

千鳥図鐔 後藤清乗 Seijo Tsuba

2014-06-16 | 
千鳥図鐔 後藤清乗


千鳥図鐔 銘後藤清乗(花押)

 我が国の風景感を鮮明にしている作。白砂青松。海辺に千鳥。背景には沈みゆく太陽。繰り返す波。穏やかな空気。この図が頗る好まれた理由が良く分る。鉄地高彫、微妙な鋤彫で雲の動きを表現し、金の布目象嵌を適所に施している。後藤清乗家は、京都に栄えた後藤の流れながら、逸早く江戸に進出して活躍した家流で、後藤家らしさが薄く江戸金工の特色を良く示して優れている。

猛禽図鐔 石黒政美 Masayoshi Tsuba

2014-06-07 | 
猛禽図鐔 石黒政美


猛禽図鐔 銘石黒政美(花押)

 松上の鷹が狙っているのは雀ではなく、兎か鼠か、もっと大物ではないだろうか。それでも雀は鷹を恐れ、逃れようとしている。そんな自然の中の王者の目線を精巧な彫刻で表現している。石黒派の得意とする松上の猛禽を主題にしているのだが、雀を描くことによって、強さの印象は際立つ。朧銀地高彫に金銀素銅赤銅の色絵象嵌。

軍鶏図鐔 岩本昆寛 Konkan Tsuba

2014-06-06 | 
軍鶏図鐔 岩本昆寛


軍鶏図鐔 銘岩本昆寛(花押)

 鉄地高彫象嵌。雌雄の軍鶏が野に放たれている、その自然な姿を捉えている作。朧銀地で翼の色を出し、肉襞は素銅、足元を金で表し、背景は簡潔な描写。目から嘴にかけての表現が素晴らしいとはいうものの、喉の動き、翼の力強さ、体毛の描写、尾の柔らかさ、大地を掴んでいるかのような爪、それを支える脚、総てがいい。まさに生きているその生命感を巧みな肉取りで再現している。

雀図鐔 奈良正吉 Masayoshi Tsuba

2014-05-26 | 
雀図鐔 奈良正吉


雀図鐔 銘 奈良正吉(花押)

 如何なる場面を描いているのであろうか、カメラでスナップしたような、街角のとある瞬間を捉えているような図。暖簾をくぐる人物、それを横目で見ている犬。表にはすり鉢に雀。これは障子の貼り替えのための糊を作っているところであろうか。雀は頗る写実的表現。この表裏の組み合わせはいかなる意味があるのだろうか。意味は別として、確かに面白い瞬間を捉えていると思う。

籬秋草に雀図鐔 江戸金工 Tsuba

2014-05-22 | 
秋草に雀図鐔 江戸金工


秋草に雀図鐔 無銘江戸金工

 自然の野山を背景に採り入れた庭園がある。借景である。昨今では借景も可能な場がなくなりつつあるが、江戸時代には、ごく当たり前に借景も可能であったと思われる。そうした景色を借りるというわけではないが、庭園は外部の野山と連続しているのが当たり前で、わずかに垣根が内外の境界、しかもその境界と見なす垣根も景色となる。そのような空間を描いている。秋草が咲き、川がながれ、おそらく庭に引き込まれているのであろう。老松も落ち着いた空間を生み出している。雀や野鳥も、ごく当たり前に飛来して景色となる。赤銅魚子地高彫金銀素銅色絵。

一路平安図鐔 後藤清明 Seimei Tsuba

2014-04-26 | 
一路平安図鐔 後藤清明


一路平安図鐔 銘政随図後藤清明(花押)

 清明は後藤清乗一門の工。小舟の舳に一羽の鷺。舟旅の安全を願った図。一羽の鷺のみで意味する場合もあるが、小舟にと組み合わせる図が、印象的である。これによって旅の日々の過ぎゆく様を暗示させている。この図柄構成は政随の作品で良く知られているが、本歌と異なるのは、素材と造り込み。この鐔は鉄地高彫に金銀象嵌。

鷺図鐔 時照 Tokiteru Tsuba

2014-04-25 | 
鷺図鐔 時照


鷺図鐔 銘時照

 これも奇異なる表現であるが、鋭さが感じられ、しかも美しい。飛翔していた鷺が川面に魚を発見したのであろう、真っ逆さまに獲物目がけて突き進んでゆくといった姿。芦の葉を鐔の下方に配しており、力強い画面構成の要素となっている。

鷺図鐔 甚吾 Jingo Tsuba

2014-04-24 | 
鷺図鐔 甚吾


鷺図鐔 無銘甚吾

 奇異と言い得る心象的表現を試みて成功したのが肥後金工志水甚吾であろう。鉄地を自由な表情に打ち鍛え、真鍮と素銅の象嵌によって水辺の鷺を表わしている。四半世紀ほど前に流行した表現でいうところの「へたうま」であろう。頗る特徴的であり、美しくもないのだが味わい深い。鉄地に真鍮の組合せが素敵だ。どちらも渋い色調であり、決して華やかではないのだが、どことなく華が感じられるのが庇護の大きな魅力。

鷺図小柄 Kozuka

2014-04-23 | 
鷺図小柄


鷺図小柄

 先に紹介した一至の鐔よりも、さらに使用されている金の量が少ない小柄だ。赤銅地を高彫にし、色金は金銀の露象嵌を散らした部分のみ。光の反射で鷺の身体は白く輝いて見えるが、そこは赤銅のみ。大空の鷺と川の浅瀬を探る鷺を対比させた構成。


鷺図鐔 竹露舎一拳 Iken Tsuba

2014-04-22 | 
鷺図鐔 竹露舎一拳

鷺図鐔 銘竹露舎一拳

 同じ一乗門流の一拳の鐔。この図は一乗が得意としており、同門の工の多くが似た構成の作品を製作している。特徴は切羽台を身体とし、即ち拵に装着した際には柄に鷺が隠れるような構成である点が面白い。鉄地高彫、水の流れは銀、水面の輝きを金の平象嵌による梨子地象嵌で表している。水草は金、芦を高彫金象嵌としている。

鷺図鐔 橋本一至 Ishi Tsuba

2014-04-21 | 
鷺図鐔 橋本一至


鷺図鐔 銘橋本一至(花押)

 ハスの葉陰に身を隠す鷺。裏面には杜若に河骨、芦の細葉であろうか、水の流れに菱の葉を添えて初夏の空気感を漂わせている。これも美しい風景を切り取った作品。微細な魚子地に仕上げた木瓜形の赤銅地を高彫にし、正確で精密な彫刻でそれぞれの素材を写実表現している。このような作品を鑑賞するにつけ、極めて少ない金属材料を巧みに用いて色彩表現に深みを与えている金工の感性はすごいと思う。使用しているのはわずか三種類の金属だが、澄明な空、漂う空気、水面の輝き、総てを感じさせるのである。

鷺図鐔 幸次 Yukitugu Tsuba

2014-04-16 | 
鷺図鐔 幸次


鷺図鐔 銘幸次六十七才丙午年孟春

 柳の下に佇む鷺。静かな時間の過ぎゆく様子が表現されている。このように、一羽だけ鷺を描いたものを、「一路平安」と呼ぶことがある。特に舟の舳に描いた作などは旅路の安全を願ったものとして好まれたようだ。穏やかな風に包まれたこの鷺のいる風景も、同様の意味を秘めているとみて良かろう。柳の下には草花が咲き、裏面には遠く広がる海原を描いている。素敵な作品である。鉄地高彫象嵌。この幸次に関しては詳しくはない。金印がある。江戸時代後期として銘鑑にあることから、弘化三年の製作か。