鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

帰雁図小柄 法眼安親 Yasuchika Kozuka

2019-08-31 | 鍔の歴史
帰雁図小柄 法眼安親


帰雁図小柄 法眼安親

 後代の安親。先に紹介した安親の鐔の意匠を手本としているようだ。水辺など他の要素を捨て去り、大空から舞い降りる、落雁と呼ばれるその姿のみ描いている。これも簡潔で美しい。

帰雁図小柄 後藤廉乗 Renjo Kozuka

2019-08-28 | 鍔の歴史
帰雁図小柄 後藤廉乗


帰雁図小柄 後藤廉乗

 後藤宗家十代廉乗の自身作。江戸時代中期の後藤家は、古作に倣った伝統的作風の他、このような新趣の作品も製作している。赤銅魚子地に高彫色絵という技法は踏襲しているが、図柄構成刃後藤家にはないもの。魚子地を背景にふうっと浮かび上がるような山並みが美しく、後藤らしさと、新たな世界観の創出という大きな問題を、どちらも失うことなく表出している。後藤家というと龍や獅子のように伝統的図柄を尊重する数奇者が多いのだが、伝統と創造の狭間で作者が苦しみぬいて生み出したであろう、新趣の作品にも目を向けてほしい。□

富岳帰雁図鐔 則亮  Norisuke Tsuba

2019-08-27 | 鍔の歴史
富岳帰雁図鐔 則亮


富岳帰雁図鐔 則亮

 明らかな絵画表現からなる作。則亮は江戸時代後期の尾張の鐔工。尾張鐔風の作や、文様の図、このような金家風の風景図などを鉄地高彫表現するを得意とした。この鐔では富岳に三保の松原を描いている。重なるように続く山並みを越えて舞い降りる雁の群れが美しい図案を生み出している。要素を省略して単調な画面とするのではなく、多彩に描くことで独創を追求したようだ。

帰雁苫舟図鐔 安親 Yasuchika Tsuba

2019-08-26 | 鍔の歴史
帰雁苫舟図鐔 安親


帰雁苫舟図鐔 安親

 安親は、また、禅とは全く無関係な、このような頗る絵画調の帰雁図鐔をも遺している。洒落た構成であり、雁の描写に簡略化された古典の要素はあるものの、芦の繁る水辺に舫った小舟があり、川の流れも琳派のそれとは異なる風情がある。雨が降り出したところであろうか、茣蓙のようなものが被せられた舟もこの空間を演出する要素となっている。軽みのある簡素な彫口ながら描かれている内容は濃密である。安親の名作の一つに数えられよう。

芦雁図鐔 安親 Yasuchika Tsuba

2019-08-24 | 鍔の歴史
芦雁図鐔 安親


芦雁図鐔 安親

 安親は奈良派の名工。先の無銘奈良極めの鐔から、さらに主要場面を切り出したような、頗る簡潔な景色としている。写真でいうなら、無駄をすべて取り去り、主題のみに視点を置いた構成。落ちるように舞い降りる雁の姿がいい。宗継の襖絵と比較して眺めてもいいだろう。安親は、この画題の背景に何らかの意味を感じ取っていたのではなかろうか。即ち頗る禅的な香りを感じるのである。それはまた、裏の簡潔な描写になる竹の片切彫にも表れている。芦雁はよく見かける図柄ながら、他の金工にはない何かを感じさせる、第一級の資料的作品である。金家の紹介で説明したように、この図には何らかの古くからのメッセージがあり、安親がそれを感じ取り、応じて製作したものではないだろうか。

釣人に雁図鐔 奈良 Nara Tsuba

2019-08-23 | 鍔の歴史
釣人に雁図鐔 奈良


釣人に雁図鐔 奈良

 江戸に栄えた奈良派の作と鑑られる。落雁とも呼ばれる帰巣の雁の様子を描いた、これも金家にみられる風景だ。山水風景から一場面を切り出し、近景に視点を置いたような作。釣人が主題であるのか、雁が題材なのか、正阿弥一光より時代に上がる奈良派の作であり、図柄構成が古様式である。

帰雁図鐔 正阿弥一光 Ikko Tsuba

2019-08-21 | 鍔の歴史
帰雁図鐔 正阿弥一光


帰雁図鐔 正阿弥一光

 先に紹介した一光の、独創を加味して進化させた雁の図。先の金家写しは古典的描法で、遠見の雁。この鐔では正確で精密な彫刻としている。背景の雲の動きも鎚の痕跡を利用するのではなく鋤彫を巧みにし、鮮やかな景色としている。

山水図鍔 正阿弥一光 Ikko Tsuba

2019-08-20 | 鍔の歴史
山水図鍔 正阿弥一光


山水図鍔 正阿弥一光

 一光は会津正阿弥派の名工。古風な山水風景図を下地としながらも、繊細な描法と、鉄地の質感を生かした描写で、独特の空気感を生み出している。夕暮れ時であろう、雁はねぐらを目指して舞い降りるところ、「帰雁」である。地鉄の処理や構成、山並みの高彫、近景の描写など金家を手本にしていることは間違いない。金家の偽物が頗る多いことは良く知られている。あの世界観をだれもが再現してみたいと考えるだろう。遠く存在したであろう禅の公案を知らなくても、風景そのものの再現を考える。風景が元来の意味を超えて独り歩きしてゆくのは、御家画家の狩野家においても同様だ。

芦雁図目貫 古金工 Kokinko Menuki

2019-08-19 | 鍔の歴史
芦雁図目貫 古金工


芦雁図目貫 古金工

室町時代の目貫。裏からの打ちだしが強く、薄手の地造りながら量感のある彫口。図柄がいい。目貫として構成するために縦長に意匠したものだろうが、それが美しい曲線を生み出している。この作者も宗継などの襖絵を見ているのではないだろうか。

山水図鍔 古正阿弥 Ko-Shoami Tsuba

2019-08-17 | 鍔の歴史
山水図鍔 古正阿弥


山水図鍔 古正阿弥

 鷺図鍔でも紹介した。金家を遡る作と考えて良いだろう。鍔の表裏異なる題としている点から、鍔の造り込みとしても古様式である。山水風景という点で表裏に共通性を持たせているようだが、表現が古金工に重なる。一方の面に風景の一部として雁の飛来する様子が採られている。なんて味わい深いのだろう、禅味など感じられない、金家とは全く別の世界観があると思う。

芦雁図鍔 金家 Kaneie Tsuba

2019-08-16 | 鍔の歴史
芦雁図鍔 金家


芦雁図鍔 金家

雁もまた風情ある景色を造り出す。雁が画題として採られるようになったのは理由があるのだろうか。想像の域を出ないが、室町時代に隆盛した禅に通じる絵画が、その背景にあるのではなかろうかと考えている。瓢箪鯰の図が好んで描かれたように。
禅機画の意味するところは、江戸時代には茶席などに飾られる絵画類に対する知識…のような位置づけで捉えられていたように思う。だが古く室町時代にはどうなんだろう。戦国時代末期あるいは江戸初期から瓢箪鯰が鐔や目貫に描かれるようになる。室町将軍が提示した公案(御題)に如拙が応じて描き、同時代の僧が讃を記した超有名なあの水墨画に擬え、あるいは自らも公案に応じたものであろうか剣豪宮本武蔵も鐔を製作している。以降も、多くの金工が作品化しているのも、同じ意識が背後にあると思う。禅の題を示したのが禅機画で、またそれに応じたものも禅機画である。なぞなぞと答えとすれば余りにも簡単すぎるか。多々みられる瓢箪鯰図などは、答えを彫り描くことが目的であったのだろうか。違うだろう。思索する(題に対してだけではない)ことの大切さを意味しているのだと考えている。鯰をどうしたら瓢箪で捕らえることができるか、などはどうでもいいのだ。物事を考えることの重要性を意味しているのである。
 絵画類の多くは戦乱のさなかに灰塵と化してしまった。如拙の瓢箪鯰図が遺されていたのはとても幸運であった。ほかの禅機画も、あるいは本歌があったものながら後に失われ、写しものや公案に応えた図のみが遺されて伝わっている例が多いのではなかろうか。だから元の公案が判らない。この雁を題に得た図も、そのような一つではないだろうかと想像している。本来は何らかの意味があったのだと思う。芦雁図で最もよく知られているのは、延徳二年に小栗宗継が描いた大徳寺養徳院の襖絵だろう。これも火災に遭わず良く遺された。そしてそれ以前に、宗継が手本とした図があったのではなかろうか。
 さて、鐔工あるいは金工作品で比較的古い芦雁図というと、金家の作品になろうか。改めて語る必要はないだろう。鉄の素材が生み出す景色が鑑賞のポイントである。

水辺に鷺図鐔 後藤一乗 Ichijo Tsuba

2019-08-13 | 鍔の歴史
水辺に鷺図鐔 後藤一乗


水辺に鷺図鐔 後藤一乗

 後藤一乗の晩年の傑作。魚子地が微細でしかも奇麗に揃っているためモアレが生じている。見苦しい点はご容赦願いたい。ただ眺めているだけでいい。後藤家の長い歴史のほぼ最後の頃、後藤家という格式を保ちつつ、新たな作風へと視野を広げた、精密な高彫に繊細緻密な彫刻を加味した、超絶空間である。鷺の姿がいい。生き生きとしている。一乗の得意とした蝶の高彫もいい。アメンボの精密な描写がさらにいい。



鷺図小柄 長美 Nagayoshi Kozuka

2019-08-07 | 鍔の歴史
鷺図小柄 長美


鷺図小柄 長美

 これも時代の上がる作には見られない構図。背景描写は水の流れにわずかに水草のみで頗る簡潔。「風景の文様化」とは度々説明に用いている言葉だが、本作はそれでいて鷺の描写は細やか。長美は一宮長常の門人で、後にその家督を継いだ名工。