鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

波文図目貫 Menuki

2013-10-31 | 目貫
波文図目貫


1 波文図目貫

 目貫に波のみを描くのは難しいのではないだろうか。1のように円形に波の一部を切り取るという方法は安易ではあるが、窓から覗きみているように面白味もある。銀地高彫。2は波頭の崩れ落ちる部分を左右にして、波の流れを下に構成している。彫刻技法は1に比して巧みで丁寧だが、波の構成としてはもう一つと言ったところか。円形に構成しなくても目貫としては機能するし、安定感もあろうかと思う。朧銀地高彫。


2 波文図目貫

波文図揃金具 Tsuba Soroikanagu

2013-10-30 | 
波文図揃金具



波文図揃金具

 江戸時代後期に流行した半太刀拵風の装剣金具の一つ。兜金式の頭と鐺、縁、栗形、口金、責金物など総てを同じ意匠とする。しかも波や雲、唐草といった比較的簡素な文様とし、多くは素銅地、朧銀地、赤銅地の片切彫。この金具は波文の高彫仕上げとされていることから、素材は素銅ながら上等。打ち寄せ崩れ落ちる波濤が全面に構成されている。頭と鐺の透かし部分の波頭が巧みである。


荒波図縁頭 泰山元章 Motoaki Fuchigashira

2013-10-29 | 縁頭
荒波図縁頭 泰山元章


荒波図縁頭 銘泰山元章(花押)

 縁の写真を見て分るように、頗る立体的に彫り表わした作。元章は水戸金工。このような波の図が江戸金工の大森派に見られ、大森波と呼ばれることがあるのは、大森家二代英秀がこの立体的表現を創始して得意としたことから。本作は大森波には及ばないまでも、波頭高く崩れ落ちる様子を、波の下から見ているような激しい動きが感じられ、しかも美しい。


荒波図大小鐔 安藤元勝 Motokatsu  Tsuba

2013-10-28 | 
荒波図大小鐔 安藤元勝


荒波図大小鐔 銘延寿軒安藤元勝(花押)

 朧銀地に高彫で荒波のみを描いた作。波飛沫にのみ銀の点象嵌を加えている。繰り返し襲ってくる波の恐怖。波の力強さが全面に漲っている。波の他に事象を描かないところが説明的でなくていい。古金工にも波のみの作があった。大きくゆったりとした波に崩れ落ちる波頭などは古金工のそれと取材している点は同じだが、趣は全く異なる。波頭は立体感があってくっきりとしており、散らされた波飛沫は大小に違えてあり、しかも散らされかたが巧みである。

青海波文図鐔揃金具 加納秀利 Hidetoshi Soroikanagu

2013-10-26 | 
青海波文図鐔揃金具 加納秀利


青海波文図鐔揃金具 銘加納秀利(花押)

 加納秀利については詳らかではない。美しい青海波文を主題とした太刀様式の鐔、縁、兜金式頭、口金、栗形、責金物、鐺すべてが同作。美しい構成線が魅力。拵とされており、目貫は龍図。鐔に宝珠が意匠されていることから、即ち波に珠追龍図として構成したもの。龍を描かなくても、波に宝珠のみで龍を暗示させているのである。鐔77ミリ。

波に錨図鐔 Tsuba

2013-10-25 | 
波に錨図鐔


波に錨図鐔 無銘

 江戸時代の巧みな構成力が示された鐔。程乗の小柄でも紹介したように、波に錨は源平合戦、中でも碇知盛を思い浮かべる。壇ノ浦において、自らの身体に碇を巻きつけて海中へと沈んだ平家の武者である。後に義経が頼朝に追われて九州へ逃れようと試みたものの、瀬戸内の海は知盛の怨霊によって荒れ狂い、逆に押し流されてしまったという、「碇知盛」の他に同じ説話を題材にした「大物浦」、「舟弁慶」などの歌舞伎の演目もある。この鐔も、そのような風情を湛えている。上部の渦巻は印象的である。75.5ミリ。

月影に雁図小柄 園部 Sonobe Kozuka

2013-10-24 | 小柄
月影に雁図小柄 園部



月影に雁図小柄 無銘園部

 波に映った三日月、これを背景に飛翔する帰雁。肉眼で見ることのない、あり得ない風景の、まさに心象表現。背後の波は繊細な毛彫で単調ながら動きがあり美しく、構成は全く異なるも青海波を思わせるものがある。朧銀地に金色絵、月は銀平象嵌であろう、色合いも美しい。

波千鳥図鐔 忠重 Tadashige Tsuba

2013-10-23 | 
波千鳥図鐔 忠重


波千鳥図鐔 銘忠重作行年八十一才

 簡潔な透かしで千鳥の飛翔する様子を表現した作。忠重は赤坂派の鐔工で、赤坂派に伝統的な洒落た透かしを得意としており、多くは本作のような文様風表現ではない。ところがこのような特異な文様表現などにも挑んで成功している。まさに切り絵のような構成であり、立波の崩れ落ちる様子も面白い。八十一才にして、他の工の真似をすることなく新たな意匠を生み出している、その感性こそ忠重の魅力でもある。

白鳥図小柄 吉岡因幡介 Inabanosuke Kozuka

2013-10-22 | 小柄
白鳥図小柄 吉岡因幡介


白鳥図小柄 銘吉岡因幡介

 吉岡因幡介はいくつかの白鳥図小柄を遺している。中央に大きく主題を捉え、背後は省略して主題の美しさを際立たせている。この作品おける波は簡潔。荒れることなくゆったりとしており、世の安定を意味しているのであろう。幕府に仕えた金工らしい作品とも言えよう。赤銅魚子地高彫金銀色絵。


巴透家紋散し図鐔 加賀後藤 Kaga‐Goto Tsuba

2013-10-21 | 
巴透家紋散し図鐔 加賀後藤


巴透家紋散し図鐔 無銘加賀後藤

 程乗など、後藤家の金工で加賀前田家に出仕し、その技術を加賀金工に伝え、しかも加賀独特の風合いを漂わせた作品を遺している工を加賀後藤、またその作品を加賀後藤と呼んでいる。この素敵な構成こそ、後藤風を土台としながらも華麗にして繊細さが窺える作。加賀の風情を感じとることができよう。赤銅地の耳に波文を彫り描いて家紋の背景としている点は、室町初期の波に菊紋図鐔と同じ。平地部分に毛彫で松葉に梅を描いており、これも洒落ている。堂々として存在感に満ち満ちている。83.3ミリ。

波に龍図鐔 國重 Kunishige Tsuba

2013-10-19 | 
波に龍図鐔 國重


1 波に龍図鐔 銘平戸住國重

 表現手法も波の様子も異なるが、平戸金工國重の作例を紹介する。1は古金工や太刀師鐔にもあるような古典的な造り込みとし、切羽台厚を大きく荒波に意匠したもの。裏面はがらりと変えて龍神を描いている。2は切羽台と耳際を雲に意匠し、平地部分の青海波を背景に龍神を彫り描いている。いずれも龍神は南蠻鐔の影響を多分に受けている。波は頗る洗練味があり、この異質な組み合わせが面白い。殊に1の波を良く観察してほしい。まさに生き物のように動く様子が、動いているわけではないにもかかわらず巧みに表現されている。1縦72ミリ。


2 波に龍図鐔 銘平戸住國重


水月図鐔 政随 Masayuki Tsuba

2013-10-18 | 
水月図鐔 政随


水月図鐔 銘政随

 過去に紹介したことのある鐔だが、深い意味が秘められており、しかも波の意匠としても優れている作品であることから、再度眺めてみたい。採られている主題は、表が三日月に波、裏が烏に波。いずれも波が意味を持っている。波に三日月は、柳生流剣術にも採られている「水月」に他ならない。波に烏は、「鵜の真似をする烏」のように己の力量を知らねばならない武士の教訓でもある。二つの意味合いを、巧みに表現している。ここでは真鍮地金が作品として活きている。

波に錨と櫂図小柄 後藤光昌 Teijo-Goto Kozuka

2013-10-16 | 小柄
波に錨と櫂図小柄 後藤光昌



波に錨と櫂図小柄 銘 後藤光昌(花押)

 後藤宗家九代程乗の在銘作。程乗は宗家の職を離れて以降は、覚乗と共に加賀の前田家に出仕して加賀金工の育成と藩の財政携わった。加賀金工の育成という意味では、後藤家の作風を採り入れることにより厳格な趣に華麗な風合いを採り入れたような、後藤宗家には見られない表現域を拡大したところに大きな特徴がある。この小柄も、横長の画面を活かして大胆な構成を試みた作。絵画的であり、すっと視覚を突いて来るような、素敵な構成とされている。後藤家には『平家物語』に取材した合戦図がある。この小柄では人物は描かれてはいないのだが、戦のあとの景色にも見え、創作意識の高い程乗らしい作品となっている。


波文図縁頭 肥後 Higo Fuchigashira

2013-10-15 | 縁頭
波文図縁頭 無銘肥後


波文図縁頭 無銘肥後

 山銅地に波文を薄肉彫しただけの縁頭。先の真鍮地とは質感が異なり、波文の処理も異なるが、趣は似ている。大きく異なるのが頭を突出させてその内側に柄糸を通す穴を大きく設けていること。これによってしっかりと頭を固定させているのだが、それは同時に頭部分で相手を突き放つことを想定している証し。頭は武器にもなるのだ。その造形が独特の風合いを生み出すこととなっているのだ。


波文図縁頭 西垣勘四郎 Nishigaki Fuchigashira

2013-10-12 | 縁頭
波文図縁頭 西垣勘四郎


波文図縁頭 無銘西垣勘四郎

 真鍮地を鋤き込んで波文を浮かび上がらせただけの図柄。波頭に特徴があるも、それだけの図柄である。にもかかわらず、不思議な風合いがある。それが肥後金工の美観。それは図柄だけの問題ではなく、造り込みからの影響もあると思う。この縁頭では縁の腰が低く、頭がやや縦長。頭の突出部はやや抑えめとされている。微妙な量感だが、常に見られる縁頭とは異なっている。