鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

富岳図小柄 東龍斎清壽 Kiyotoshi Kozuka

2011-01-31 | 小柄
富岳図小柄 東龍斎清壽



富岳図小柄 銘 (東龍斎清壽花押)

 東龍斎派の作品群で紹介したことのある小柄。この富岳図の雪の描写について、前回では良く判らなかったので、改めてその部分を拡大して紹介する。
 雪を冠った裾野辺りの片切彫で表現されたその彫りの中に、微細な銀の粒を散りばめているのが分かるであろうか、前面の銀色絵による雪とは趣が異なり、金の真砂象嵌の端部に朧な空気感を漂わせている。

雪月花図鐔 壽矩 Toshinori Tsuba

2011-01-30 | 
雪月花図鐔 銘 壽矩


雪月花図鐔 銘 壽矩(花押)

 東龍斎派の、同趣の作品を紹介したことがある。この鐔は殊に雪月花の美観を鮮明にしたもので、造り込みから地の表情はもちろん美の極致。雪に似せた桜の花をひとつだけを雲間に配することによって、この心象的空間の魅力を鮮明にしている。宮下壽矩(としのり)も清壽の美観を高めた名工。

雪洞図鐔 壽光 Toshimitsu Tsuba

2011-01-29 | 
雪洞図鐔 壽光


雪洞図鐔 銘 壽光(花押)

 雪洞から眺めた雪景色。鐔と櫃穴の造形、二重耳の意匠、つららなどなど、すべてが雪を意味している。東龍斎派の優れた構成になる雪そのものを表現した作品と言えよう。薄肉彫の手法になるそれぞれの表情、つららの下に顔を覗かせる雪の結晶、銀象嵌と金の点象嵌嵌の微妙な色調と光沢。渡辺壽光(としみつ)もまた清壽の高弟であり、文様美を極めた名人。

沢瀉紋図揃金具 Kozuka Kogai

2011-01-28 | 小柄
沢瀉紋図揃金具


沢瀉紋図揃金具 無銘

 赤銅魚子地高彫金色絵になる沢瀉紋の大小揃金具で、この他に同に造り込みの縁頭と金無垢地の目貫がある。沢瀉も三つ組み合わせて雪華状に構成しているところは頗る洒落ている。沢瀉車紋というそうだ。果たして雪の結晶を想定してのものであろうか疑問だが、美しいので参考に紹介した。

雪華文図鐔 岩井吉道 Yoshimichi

2011-01-27 | 
雪華文図鐔 正流斎吉道


雪華文図鐔 銘 正流斎吉道

江戸時代の具足(甲冑)師である岩井吉道(よしみち)の鐔。江戸時代の甲冑師鐔の手である。桃山頃の信家などを手本とした同趣の鐔は、江戸時代の甲冑師のみならず刀匠も製作している。いずれも鉄味優れて色艶良く、大きな見どころとなっている。この鐔では信家写しに終始しているわけではなく、江戸時代の好みに応じた独創的な表現で、桜に雪の結晶を薄肉彫と陰の透かしで描いている。小透かしの雪華などは鎚車に見立てたものであろう、これも独創的である。

雪華文図目貫 夏雄 Natsuo Menuki

2011-01-26 | 目貫
雪華文図目貫 夏雄


雪華文図目貫 銘 夏雄

 金無垢時の鮮やかな色調を作品に生かした目貫。雪の結晶のみを組み合わせて空間構成しており、透かし抜いた線も鮮明で美しさが際立っている。説明を要しないだろう、ただその異質な極小世界を覗き込んでいるような、それでいて暖か味のある空気を感じるような、異空間に陥ったような感覚を楽しみたい。

雪華文散図鐔 後藤一乗 Ichijo Tsuba

2011-01-25 | 
雪華文散図鐔 後藤一乗


雪華文散図鐔 無銘 後藤一乗

 表裏を赤銅と素銅で昼夜に仕立てた作。表面を微妙に抑揚変化のある石目地に仕上げ、雪の積もった様子を意図したものであろうか地叢状に変化を付け、ここに打ち込みの手法で雪華文を散らしている。一乗の得意とした作で、これが広く人気を得たものであろう、多数遺されている。真鍮地の作例も参考にされたい。


文透図鐔 古金工 Kokinko Tsuba

2011-01-24 | 
文透図鐔 古金工


文透図鐔 無銘 古金工

 時代が上がって古金工の鐔である。桃山時代であろうか、古風な意匠の六つ木瓜形に造り込まれた山銅地鐔。表面には古拙な魚子地と毛彫による唐草文が刻されており、木瓜を構成している六方に猪目と、丸に五方と六方の文が透かし施されている。この丸の中の樹枝状の文様をみると、雪の結晶を想定しているのではなかろうかと思える。桃山時代以前、視覚的には雪が六角形を基本としていることは判断できても、確たる法則をそこに見出しているわけではない。結晶学が盛んになるのは随分後のことだ。とすれば五角形の雪を表現しても、もちろんおかしくはない。雪の結晶を表現した時代の上がる作例として興味深い鐔である。□

雪華文図揃金具 Soroikanagu

2011-01-23 | 
雪華文図揃金具 無銘






雪華文図揃金具 無銘

雪の結晶を文様化した図柄。赤銅を石目地に仕上げ、薄肉彫に金色絵を施している。作者は不明。
 雪は六角形の結晶という意識が鮮明ではあるが、もちろん古河藩主土井利位が記録した科学的視点になる雪華図とは風合いが異なり、花のように、あるいは巴のように意匠したものもあり、遊び心もあって楽しい。一乗一門の雪華文よりも文様化が進んでいるのが良くわかる。彫刻技法は、一乗のような刻印式ではなく、高彫に色絵表現。武家の装具とされたものであろうか、遊びごころの中にも格式の高さが窺いとれる。

巌上猛禽図小柄 蟠龍軒岩本貞仲

2011-01-22 | 
巌上猛禽図小柄 蟠龍軒岩本貞仲



巌上猛禽図小柄 銘 蟠龍軒岩本貞仲(花押)

 岩本貞仲(さだなか)は一宮長常の門人。正確で精巧な彫刻手法を駆使し、人物図やこのような自然の一場面を題に写実表現している。激しく打ち付ける荒波。巌上に爪を突き立てて辺りを見回す鋭い視線の先には何があるのだろうか。巌にはうっすらと雪が積もっている。鏨を強く切り込んだ高彫表現に力が感じられる。雪の描写は古風である。鉄地高彫金銀象嵌。□

雪中蘇東坡図鐔 玄松齋政春 Masaharu Tsuba

2011-01-21 | 
雪中蘇東坡図鐔 玄松齋政春


雪中蘇東坡図鐔 銘 玄松齋政春

北宋時代の政治家で詩人の蘇東坡を写実表現した作。作者は江戸時代後期の水戸の玉川政春(まさはる)。水戸金工はこの鐔のように和漢の歴史人物や伝説上の人物図を題材に採り、正確な構図になる精巧な彫刻手法で写実的に表現するを得意とした。ここでも竹に降り積もった雪を添景として、寒々とした季節感を表現している。蘇東坡は権力闘争に巻き込まれて不遇の時を繰らねばならなかった詩人として有名。それ故に冬のさびしい風景が似合う。鉄地高彫金銀素銅象嵌。□

雪景色図鐔 Mumei Tsuba

2011-01-20 | 
雪景色図鐔


雪景色図鐔 無銘

 これも東龍斎派であろうか、あるいは東龍斎風を想定したものであろうか。鉄地に抑揚をつけ、布目象嵌に点象嵌嵌を散らして景色に色合いを求めている。雪雲の隙間に三日月が顔を出しているところは夕景色か。帰巣の鳥の下には雪の積もった枯葦。
 微細な切り込みを鉄地に施し、これに磨り付け式の銀象嵌で雪を表現している。□


唐墨図鐔 寶殊齋政景 Masakage Tsuba

2011-01-19 | 
唐墨図鐔 寶殊齋政景


唐墨図鐔 銘 寶殊齋政景(花押)

 東龍斎清壽の高弟政景(まさかげ)の、同派らしい作風の鐔で、画題は古墨に雪を組み合わせて風雅な景色を創出したもの。あるいはこの図に、現代の我々には思いもつかない意味が隠されているのかもしれない。
 この鐔での雪は、切羽台周囲の銀布目象嵌によるフワフワとした描写で、これが六角形を呈しているところに結晶を想定していることが窺いとれる。櫃穴の形状の雪輪を変形させたもので、抑揚のある地面に金の点象嵌を散らして雪の輝きをも表現している。
 何だろうという視点の先に雪がある。面白い作品である。

雪輪紋図鐔 國永 Kuninaga Tsuba

2011-01-18 | 
雪輪紋図鐔 國永


雪輪紋図鐔 銘 國永

 流文状の鉄地に、さらに焼手の手法で鍛え肌を表わし、これに赤銅で雪輪紋を象嵌した作。この流文が何を意味するのか、雪との関連を想像すれば吹雪か。頑強な印象のある鉄地に雪の取り合わせは妙であるも、不思議な味わいがある。

地紙散図大小鐔 伊藤正乗 Seijo Tsuba

2011-01-17 | 
地紙散図大小鐔 伊藤正乗


地紙散図大小鐔 銘 武州住伊藤正乗

金の布目象の技法で小さな文様がキラキラと輝くような図柄とし、高彫で描き出されているその下地は扇に用いられる地紙である。稲妻状の小透によってこれが屏風を意味していることは理解できよう。清楚で美しいこの空間表現には、隠すように雪輪が描き添えられており、キラキラの布目象嵌は雪を印象付けているものであることも理解できる。
 伊藤正乗(せいじょう)は幕府の御用を勤めた武州伊藤派の八代目。江戸時代後期。