鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

牡丹図目貫 古金工 Kokinko Menuki

2012-10-31 | 鍔の歴史
鍔の歴史 牡丹図目貫 古金工



牡丹図目貫 古金工

 絵に描いたような意匠の牡丹。もちろん絵に描いているのだが、主たる要素である花の部分が写実ではなく文様風。ところが葉は丁子図目貫でも紹介したようにけっこう写実味を帯びているのである。この妙なる表現には創造性が窺え、古金工の時代背景から面白く魅力的だ。もうひとつ気になる点は、葉の陰に衣装されている丁子状のつぼみだが、これをどのように捉えたらよいのだろうか。未だ古典的な丁子唐草を背後に新趣の牡丹を描いたと言うべきか、これも面白い要素だ。赤銅地容彫金色絵。

秋草図鐔 古金工 Kokinko Tsuba

2012-10-30 | 鍔の歴史
鍔の歴史 秋草図鐔 古金工


秋草図鐔 古金工

 古風な木瓜形の造り込みで、耳を土手耳に仕立てている点は太刀鐔からの流れであろうか、耳際が斜に工作されており、木瓜の四方が鋭く起って感じが良い。背後は粗い石目地として個性的な秋草を彫り描いている。植物は良くみられる七草ではなく、菊に葡萄までは分かるのだが、あとは何だろう。紅葉した様子を金の色絵で表わし、金銀の露象嵌を施して華やかな鐔に仕立てている。切羽台に、以前に紹介した藻貝図鐔のような点刻と線刻による装飾らしきものがあるのも興味深い。

唐草に車図鐔 古金工 Kokinko Tsuba

2012-10-29 | 鍔の歴史
鍔の歴史 唐草に車図鐔 古金工


唐草に車図鐔 古金工

 山銅地を平坦に仕立て、金銀の平象嵌によって線描写した手法。画面全体に文様のように唐草を廻らし、牛車をこれに添えている。これも夕顔図と考えたいが、どうだろうか。手法としては古拙であり、けっして洗練味があるとは言えないし、平安王朝美が再現されているとは言えないが、面白味は存分にある。色合いの黒い部分は銀の平象嵌。瓢箪に見えるのは夕顔の実であろう。銘と年紀があるも、後のもの。

夕顔図笄 古金工 Kokinko Kogai

2012-10-27 | 鍔の歴史
鍔の歴史 夕顔図笄 古金工



夕顔図笄 古金工

 車とこれに伝う夕顔だけで『源氏物語』の夕顔に取材した図であることが、他に登場人物を描かなくても理解できるのは、我が国伝統の『留守模様』の美意識があることによる。描かれている幾つかの事物からその背景を想像する意識は、我が国のみのものとは言わないが、特に留守模様として受け継がれていることは確かである。赤銅魚子地高彫に金うっとり色絵で、それが処々剥がれているも時代観を楽しみ大きな要素であり、うっとりの下に施されている彫刻も鑑賞の大きな要素。

菱図笄 古金工 Kokinko Kogai

2012-10-26 | 鍔の歴史
鍔の歴史 菱図笄 古金工



菱図笄 古金工

 唐草文の意匠を借りて水草の菱を表現した作。画面をはみ出さんばかりに大きく描いており、後藤乗真の迫力がある。描法も鏨が強く彫口深く立体感に溢れて図柄が鮮明であり、部分的に剥がれてはいるが、うっとり色絵の魅力が全面に溢れている。丁子の枝先が巻き蔓状に表現されるのは伝統的なことだが、この作も確かに唐草の巻き蔓を配している。そろそろ新しい文様の下地が開発されても良さそうだと思うのだが、唐草の美意識は廃れることなく連綿と続くのであり、その点は頗る面白い。西洋で展開された唐草文も後に我が国に伝わり、現在でもその魅力を捨て去ることはできないようだ。

勝虫図小柄 古金工 Kokinko Kozuka

2012-10-25 | 鍔の歴史
鍔の歴史 勝虫図小柄 古金工



勝虫図小柄 古金工

 良く知られているように、蜻蛉は後ろに飛行せず前へ前へと進むことから戦国武将に好まれ、勝虫とよばれていた。蜻蛉が水辺で羽根を休めるのが沢瀉であり、沢瀉を勝軍草と呼ぶのもこれに関連している。
 小柄の地板全面をつかって大胆に勝虫を描いた作。魚子地は使用も経ているために古色溢れ、高彫された蜻蛉の表現も、江戸時代の作例のような繊細緻密な彫口ではなく味わい格別。写実表現を試みたもので迫力がある。

水辺に鳥図小柄 古金工 Kokinko Kozuka

2012-10-24 | 鍔の歴史
鍔の歴史 水辺に鳥図小柄 古金工



水辺に鳥図小柄 古金工

 烏と水の取り合わせになる図は、水浴び烏などと呼ばれるも、大きく二つの意味がある。烏が水浴びをすることが良く知られているように、賢い鳥の表現。同時に、「鵜の真似をする烏」の諺があるように、己の能力を知らねばならない戒めも背景にある。後者は後藤家の作に間々みられるもので、武家としての後藤家の意識が明確に窺えよう。
 この小柄は、烏と断定するより水辺に鳥として捉えたほうが良かろう。波立つ背景の面白さは、やはり主題である鳥の存在によって一際強い印象を受ける。荒波に向かう力強い図であり、武家好みの作となっている。赤銅地高彫、水飛沫は高彫に金の色絵。

丁子図目貫 古金工 Kokinko Menuki

2012-10-23 | 鍔の歴史
鍔の歴史 丁子図目貫 古金工



丁子図目貫 古金工

 丁子の図柄は古くからある。唐草文に添えられることが多く、丁子そのものが古くから薬として貴重なものであったことが理由であろう、古美濃など分類を別にすることなく多くみられる図である。この目貫の丁子は写実的だが、唐草文が背後の具体的図柄として、さらに葉にも曲線的な唐草の持つ動きが加えられており、古典的な文様から脱していないことが分かる。それでも、葉や花に精巧な鏨を加えて実体感のある図柄に仕立て、金色絵の処方も微妙に布置を変えており、味わい格別のものがある。赤銅地容彫金うっとり色絵点象嵌。

竹割虎図目貫 古金工 Kokino Menuki

2012-10-22 | 鍔の歴史
鍔の歴史 竹割虎図目貫 古金工



竹割虎図目貫 古金工

 竹林に虎の図は、中国の古画などに影響されたものと考えて良いだろう。古く四神の一つとして白虎があるものの、虎が我が国に連れてこられたのは随分時代が下がって、江戸初期ではなかったか(この点は記憶が定かでない)。加藤清正による虎退治の伝説は朝鮮半島での出来事で、その頭骨が伝えられたとかの伝説もあるようだ。我が国の金工は、伝来した絵画と伝聞から虎の実像をイメージして彫り描いたのである。獅子がライオンをイメージしたものであろうことと同様。
 赤銅地を打ち出し強く肉高く彫り出し、処々打ち込み強く抜き穴を設け、さらに際端を強く絞って虎の身体を立体的に浮かび上がらせている。古金工の手法である。縞模様と豹柄の斑点模様を施しているのも絵画からの影響であろう。足根は陰陽に仕立てられている。後藤乗真と極められた目貫にもこの手の作がある。赤銅地容彫金色絵。


独楽図目貫 古金工 Kokinko Menuki

2012-10-20 | 鍔の歴史
鍔の歴史 独楽図目貫 古金工



独楽図目貫 古金工

 玩具もまた道具類と同様に図柄に採られることがある。先の自在金具のように薄手の造り込みながら、わずかに肉感があり少し時代が下がるように感じられる。際端を絞って図柄くっきりと立体的に表現する手法で、大きく室町後期から桃山頃と鑑られる。題材がいい。今では玩具の博物館でしか見られないような古風な独楽があり、この図をみると、どうやら独楽を回す器具もあったようだ。小さくむっくりとした独楽などは、子供のころに山で拾ってきたドングリに心棒をつけて回した記憶も甦り、楽しい。打ち出しを強くし立てた裏行きも鑑賞されたい。赤銅地容彫。

自在鉤図目貫 古金工 Kokinko Menuki

2012-10-19 | 鍔の歴史
鐔の歴史 自在鉤図目貫 古金工



自在鉤図目貫 古金工

 古金工などに多い実用の道具を立体的に彫り描いた目貫。薄手の仕立てで、際端を引き締め、図柄をくっきりと際立たせた造り込みの、時代の上がる目貫。裏の観察からその様子が判ると思う。打ち抜いた透かし(抜け穴)の処理の様子も鑑賞されたい。古美濃の目貫も同様だが、この作例のように、打ち出しを強く極めて薄く仕立てるのが古い技法。この場合には金色絵などはないが、金色絵が施される場合もある。

藻貝図鐔 古金工 Kokinko Tsuba

2012-10-18 | 鍔の歴史
鍔の歴史 藻貝図鐔 古金工


藻貝図鐔 古金工

 これも同じ高彫手法を採っているが、さらに金色絵を加えたもの。昨日紹介した鐔と同じ作者ではなかろうか。木瓜形の魚子地とし、図柄の周囲を一段鋤き下げている。表面に点刻を加えた藻貝の高彫手法が似ているのはもちろん、魚子地を浜辺の砂に見立て、寄せる波と波の痕跡を鐔の耳際に意称している、その微妙な肉取りと表面の描法も同じ。切羽台に加えた点刻は、前者が格子模様で、これは唐草文様。色絵の有無と切羽台の装飾文の違いだけだが、そもそも切羽台を装飾する例は少ない。

藻貝図鐔 古金工 Kokinko Tsuba

2012-10-17 | 鍔の歴史
鍔の歴史 藻貝図鐔 古金工


藻貝図鐔 古金工

 これも同じ趣を狙った手であると考えられる。造り込みが奇抜で面白く、この辺りに異風を好んだ桃山時代の風が窺える。山銅地を古拙なる魚子地に仕上げ、図案は古金工に多く見られる藻貝で、それぞれの周囲を一端深く鋤き下げ、文様は量感のある高彫。高彫の表面には抑揚変化を付けている。波にも毛彫と点刻を加えて泡立ち流れる様子を表現している。切羽台の周囲にある縄状の文様は、最初はその通りに縄と考えたが、背景の魚子地が砂であれば、砂浜表面に微かに残り、新たな波によって消され、また現れる波の痕跡。この辺りも巧みであり、頗る面白い作品である。□

蟹図鐔 古金工 Kokinko Tsuba

2012-10-16 | 鍔の歴史
鐔の歴史 蟹図鐔 古金工


蟹図鐔 古金工

 桃山時代から江戸時代初期の金工が、時代の上がる作を倣ったものであろう。古拙な風合いが漂うも、仔細に鑑賞すると、彫刻の技法というより描法に工夫が見られる。赤銅地木瓜形。図柄の周囲の魚子地を一段隙下げ、図柄は高彫。各々の要所に抑揚を付け、量感のあるその様子にさらに立体感を与えている。一見して拙い文様のようにも見えるが、意外にもお古作を狙ってのものではないかと推測する。とにかく面白い。水辺の生き物である蟹に虫、芹も添景にしており、古典の意識は健在である。□

波に貝図小柄 古金工 Kokinko Kozuka

2012-10-15 | 鍔の歴史
鍔の歴史 波に貝図小柄 古金工



波に貝図小柄 古金工

 笄直しの小柄。押し合うように構成した貝はすべてに金の色絵。その処々が磨り減って下地が露出しており、これも景色となっている。時代の上がる金工作品の特徴とも言いうる文様表現の典型。貝がくっきりと浮かび上がるよおうに、背景は魚子地に波を赤銅一色で薄肉彫とし、処々に銀の露象嵌を配している。高彫に鋤彫毛彫を加えて貝らしさを演出しているが、写真ではわからないほどに微細な鏨を加え、さらに細部まで手を加えている。その点刻は微細ながら大小の円形の連続。


藻貝図小柄 古金工

 この小柄も貝尽の文様表現になる作。古作ながら常に比して微細な魚子地で仕上げ、高彫部分は先に紹介した作と同様にふっくらと量感のある仕立て。貝の表面には点刻、魚子、毛彫を駆使して写実味を高めようと工夫した様子が窺える。これも背後は漆黒の赤銅地で、ここでは波は描かず、藻草を添えて文様に変化を加えている。