鉈豆に鉈図小柄 後藤乗真
鉈豆に鉈図小柄 後藤乗真
洒落ではなかろうが、鉈豆を描きながらも、鉈を図の中に忍ばせている。鉈豆は暖かい地方で採れる豆の仲間で、古くは薬とされたようだ。薩摩の鐔工も鉈豆図を得意としていた。
ちょっとそれるが、刃物ながら相手と直接闘う武具としてのものではない刃物がある。「逆刃刀」と呼ばれてマンガに出てきたもので、相手を傷つけないために棟側に刃がある刀が考えられている。傷つけたくないなら、刃などつけなければよかろうがと思うが、それでは話が成り立たないらしい。マンガはどうでもいい。短刀ほどの寸法で、棟側、即ち反りの内側に刃の付いている刃物が、鐔の付いた拵に収められた状態で出てきた。これが逆刃刀の本物かと一部で騒がれたそうであったが、その刃物は、馬の爪を削るための道具であったようだ。だが、面白いのは、武士が腰に備えるうえで様式として正しい短刀拵に収められていたという点。即ち、単なる馬の世話をする下級労働者の道具ではなく、馬の管理に携わっていた位の高い武士の持ち物であったことが浮かび上がってくる。短刀とは形が異なるため鑑定書は発行されなかったそうだが、むろん刀や短刀と同じ鍛錬方法で製作されたものであり、武士の持ち物である。逆刃刀ではないが、広く戦場での武士の仕事を考えるのであれば、短刀とは形が異なっていようとも、短刀と同じ思考をして良いのではなかろうか。